第3072回 長き者の毒



 世界最大の生き物といわれるとシロナガスクジラの巨大な姿が思い浮かんできて、陸上でといわれるとアフリカゾウの巨体を思ってしまいます。しかし、地球上には彼らを遥かに超えるスケールの生き物が存在していて、世界最大の生き物は東京ドーム684個分にもなるキノコだと聞かされた事があります。

 そのキノコの名は「オニナラタケ」で、その大きさは8.9平方キロメートルに及ぶとされます。そうはいっても大空を覆い尽くすほど巨大なキノコの傘が開いていた訳ではなく、菌糸の状態で広範囲に張り巡らされ、すべて同じDNAを持っていた事から単体の生物とみなされて世界最大の称号を得ています。

 同じような存在としては、カナダの湿地帯に棲む粘菌があり、森や枯葉の下に棲息する微生物を吸収しながら形や大きさを変えながら成長し、その大きさは数キロに及んでいるとされますが、残念な事に具体的な大きさは計測できない事から世界最大をキノコと争うには至っていません。

 目に見える動物で最大となると、やはりシロナガスクジラが思い浮かんでくるのですが、全長だけならシロナガスクジラの33.58メートルを遥かに凌ぐ55メートル超とされるヒモムシがいます。しかも幅は5~10ミリ程度なので、かなり長い印象を持ってしまいます。

 それだけ細長いと外敵に狙われる可能性が非常に高まってしまうのではとも思えてくるのですが、ヒモムシは天敵から逃れるために体に毒を持つ事で攻撃を回避しています。その際に使用される毒は、フグの毒として知られたテトロドトキシンとされ、青酸カリの850倍という強力な毒性は、かなりの破壊力とも思えてしまいます。

 ヒモムシが持つテトロドトキシンはフグと同じく自ら作り出したものではなく、捕食によって蓄積、濃縮されるという生体濃縮によるもので、ヒモムシ自体はテトロドトキシンに耐性を持つ事から、危険な毒を使いながら安全に自らを守っているという事ができます。

 最近になってヒモムシの毒はテトロドトキシンだけではない事が解明され、研究が進められています。ヒモムシの一種であるブルーレースワームから発見された新たな毒は、構造的に安定したシスチン構造を持つペプチドとされ、神経伝達の機能を掌るナトリウムイオンチャンネルを破壊し、運動機能を麻痺させる作用を持つ事が判っています。

 新たな毒は神経伝達のためのナトリウムイオンチャンネルのブレーキの部分を破壊し、連続的な電気信号を全身に送らせ続ける事で麻痺させ、やがては死に至るとされます。興味深い事にこの毒はヒモムシの外敵となるカニなどの甲殻類や昆虫といった節足動物にしか利かず、哺乳類にはほとんど作用しないとされます。

 研究が進み、量産化されると効果と安全性が高い殺虫剤の登場となりそうな気がするのですが、夏場に我家を悩ませる牛小屋からのハエは、殺虫剤を噴射すると薬剤が到達する前の空気の動きでその場を逃れてしまう事から、殺虫剤の構造そのものが変わらない限り我家の問題解決には結び付かないとも思えてしまいます。


 
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第3071回 街の癒し



 子供の頃、どのくらいの頻度だったのかは憶えていないのですが、御用聞きの方が定期的に来られていて、一軒は家からそう遠くない所にある酒屋さん、もう一軒は店がどこにあるのか知らないしょうゆ屋さんで、今でもお二方の顔は懐かしく憶えています。

 今から思うと酒屋さんはともかく、しょうゆ屋さんはしょうゆだけに特化して各家庭を回り、販売されていたのですが、よくそれで商売が成り立っていたと、昔は良かった的な気分になってしまいます。最近ではしょうゆ専門店など見掛ける事はなく、酒屋さんでさえも激減してきていると聞かされます。

 街の情報に詳しかった印刷会社の営業の方に聞かされた話によると、「酒を扱うようになったコンビには栄えるが、コンビニになった酒屋は潰れる」との事で、同じ品揃えのコンビニエンスストアであっても、それまでの商品に加えて酒類を扱うようになった事で顧客層や利便性が広がり、売り上げが向上するコンビニエンスストアと売り上げの不振が続き、コンビニエンスストアのチェーンに加盟して打開策を模索する酒屋とでは雲泥の差があるとされます。

 立地的な事を考えても、集客に有利な場所に開設されたコンビニエンスストアと、たくさんのお客さんが車で買いに来るといった前提がなかった街の酒屋とでは、同じチェーン店ではあっても利便性という点では別物といえると思えてきます。

 大手スーパーやホームセンターでも酒類が安売りされるといった競合の存在や、重い商品を扱えなくなるといった高齢化もあり、街の酒屋が激減する中、新たな活路を求めて購入した酒をその場で飲む事ができる「角打ち」スタイルの酒屋も見られるようになってきているといわれます。中には肴として缶詰の販売もされている店もあるらしく、安価に本格的な酒を愉しめる場所ともなっていると伝えられています。

 以前、某駅の入り口に面した商店街の入り口で昔懐かしい雰囲気の「角打ち」の看板を見掛けた事があり、夕方には数名のお客さんが立ち飲みをしておられるのを見た事があります。角打ちというと、どこかレトロで昭和の香りが漂ってしまうのですが、昭和に栄えた町の酒屋の新たなスタイルとして、癒しが求められる昨今、町の酒屋さんが角打ちとなって癒しを与える場所となるというのも一つの良い流れのように思えてしまいます。


 

第3070回 美味しい作法



 最近では、納豆に関する東西の評価の違いはかなり差がなくなってきたように思えるのですが、かつては東日本では評価が高く、西日本では評価が低いとされていました。そんな中、熊本だけは西日本でも例外的に納豆好きな県民性とされ、子供の頃から普通に接していただけに、初めて納豆が嫌いという関西の方に出会った際はそれなりの衝撃を受けた事が思い出されます。

 馴染みのある食材というだけでなく、何かと納豆とは縁があり、納豆に含まれる酵素のナットウキナーゼの粉末や粘りの素となる成分、ポリグルタミン酸などに接する機会もあり、食べる以外の部分でも納豆に親近感を覚えてしまいます。中でも強力な生命力と繁殖力を持つ納豆菌を使い、生活排水によって汚染された池の水を浄化するというプロジェクトには驚かされながら、納豆菌に対し大きな興味を抱いてしまいました。

 食事で納豆が出されると最初に食べてしまうのですが、納豆菌は酸には弱い事から最初に食べてしまうと胃酸に直接触れてしまう事となり、活きたまま腸に届かないので良くないとされます。温かいご飯の上にのせるのもご飯の熱によって酵素のナットウキナーゼが失活してしまう事から、良くない事といわれます。

 納豆菌の強力な生命力と繁殖力を思うと、胃酸は強力な酸ではありますがポリグルタミン酸の粘りに守られている事もあり、食事の最初に食べたからといってすべての納豆菌が死滅してしまうとは思えず、わずかでも残った納豆菌は腸内に入って環境が整うと、増殖活動を再開して増えてくれる事と思えてきます。

 ナットウキナーゼはタンパク質である事から高温にさらされると変性して機能しなくなるのですが、50~60度で働きが弱まりはじめ、60度以上の温度で変性してしまうとされます。ご飯が炊きたてであればその温度に達している可能性はあるのですが、炊き上がってしばらく経ったものを茶碗によそう段階でかなり温度は下がってしまう事から、直接ご飯にのせたくらいではナットウキナーゼは失活しないという事ができ、あまり食べ方を意識する必要はないと思えてきます。

 混ぜ方に関しては、粘りが敬遠される事がある事から、あまり混ぜないという意見もあるのですが、混ぜる事によってポリグルタミン酸が発生したり、空気に触れたナットウキナーゼが活性化したりという事があるため、しっかりと混ぜた方が良いとされます。

 時計方向、反時計方向などの混ぜる方向や途中で逆回転させるといった事には意味がないとされ、一定の方向にしっかりと混ぜる事が大切となります。混ぜた方が良いからといって乱暴に混ぜたり、混ぜ過ぎてしまうと旨味成分のアミノ酸が崩れてしまうという意見もある事から、優しくしっかりというのが基本になるのかもしれません。あまり細かい事は気にせず、美味しくいただくというのが上手に付き合うコツとも思えてしまいます。


 

第3069回 表面カラフル

 

 以前、紫外線対策をしたいなら黄色い服を着るべきと教えられ、意外に思えた事があります。光を反射しやすい白か、吸収する黒ならともかく、黄色というのがとても納得いかないように思えて、少し考えてしまったのですが、光の三原色の事を思うと納得できる事と思えてきました。

 可視光線はいくつもの波長に分けられ、プリズムによって分光された虹の七色はそれぞれ固有の波長を持っていて、すべての波長を合わせた光の色が白となります。身の回りにあるすべての物質は光を受けて反射する際、一定の波長の光を吸収する性質を持っており、吸収されなかった波長の反射光を、私たちはその物の色として見ています。

 そのため青い光の波長を吸収する性質を持つ物質に光が当たった場合、白から青を除いた光が反射されて色として見える事から、私たちの目には黄色がその物質の色として映ります。紫外線は可視光線ではないのですが、青系の色を吸収する物質という事で、黄色い服が紫外線対策になるという理屈になります。

 最近、そうした物質の性質を応用したテクノロジーが公表されていて、金属の表面を塗装する事なく鮮やかな色で彩る事ができるというだけでなく、意外な分野への応用も期待されています。

 今回の技術を開発したのは理化学研究所でメタマテリアルの研究をしている田中拓男主任研究員で、アルミニウムの表面の微細な構造を変化させる事でさまざまな色を発色させる事ができるメタマテリアルシートの開発に成功しています。

 開発された構造体は、アルミニウムの基盤の上に一辺が数百ナノメートルという微細な無数の薄い四角形を並べたもので、四角形の一辺の長さや隣との間隔を変化させる事で吸収する光の波長を変え、反射光の色を変化させる事ができます。

 アルミニウムは表面がすぐに酸化されて腐食を防ぐ事から、塗料などのように色褪せたりする事もなく、半永久的に同じ色を発色し続ける事が可能とされ、塗装するよりも遥かに軽量に仕上げる事が可能ともいわれます。

 メタマテリアルシートの応用はカラフルで軽量、耐久性に優れた金属の表面加工に留まらず、ガンの検診という分野でも期待されています。最近の研究でガンは特有のにおいを持つ事が判ってきています。においの素は分子であり、分子は固有の赤外線を発している事から、得たマテリアルシートを使って人の呼気や汗からガンが発したにおいの素となる分子の赤外線を発見できれば、簡単な検査でガンを発見できる事になります。

 可視光線よりも波長が長い赤外線となると、アルミニウムよりも金の方が相性が良いため、金を使ってメタマテリアルシートを作る必要があるそうですが、金のシートは小さく、薄くても大丈夫で、繰り返し使える事から、実現すれば現在行われているどのガン検診よりも安価な検査となる事も予想されます。

 現在、田中研究員は2cm四方程度の大きさのシートを作成し、今後、5年間を掛けて検出できる分子の種類や分子の量などを見極めるとの事で、やがて医師が差し出したシートに息を吹き掛けるというのがガン検診の第一歩となるのかもしれません。

 「はい、息を吹き掛けてください」といわれると、飲酒運転の検問を思い出してしまいますが、飲酒の有無に併せてガン検診も行えるとしたらどこか不気味なものを感じてしまいます。


 

第3068回 クモへの恐怖(2)



 家の中は広い空間という事もあり、クモが入り込んできている事を見掛けても、それほど大きな反応をする事はないのですが、閉鎖空間の車の中となると、それなりの恐怖心を持ってしまい、同じような経験を持つ人も少なくはないと思っています。

 偶然、入り込んでしまったクモと人との悲劇という感じがしてしまうのですが、実はクモの側は偶然ではないかもしれないという怖ろしげな研究結果が発表されています。

 オーストラリアのクイーンズランドにある博物館でクモの研究をしているロバート・レイブン博士によると、クモはある種の振動によって理性を失い、振動の発生源へ向かって導かれていくという新たな生態がある事が発見されたという事で、振動はクモを扇動して普段備えている本能を見失わせ、あらゆる危険を物怖じともせずに突撃させてしまうといいます。

 事の起こりはレイブン博士が日常的に使っている年代物のディーゼルエンジンの4輪駆動車で、周囲の人たちからは何かに付け買い換えを薦められる事も多い長年の相棒が発端となっています。

 博士にいわせると最近のオフロード車は排ガス規制の影響もあって非力で、車全体が静かな事から車に乗っている気にならないため、好きになれないという事が相棒の現役期間を延長してきたのですが、ある日のフィールドワークの際、砂漠地帯で相棒のエンジンをかけると、普段であれば昼間には活動しない種類のクモが現れて、車に駆け込んできたそうで、しかも非常に混乱した様子だったといいます。

 レイブン博士によると、学校から帰った息子のリュックからクモが出てきて、大いに驚かされた母親が学校を相手取って訴訟を起こそうとしたケースが紹介されていて、4WDの車で息子を迎えに行き、授業が終わるまで駐車場で待っている間、アイドリング中の振動にクモが引き寄せられて車内へ入り込み、後にリュックに入ってしまった可能性が指摘されています。

 振動がどのようなメカニズムでクモを異常な行動に駆り立ててしまうのかについては、今後の研究を待つ事となりますが、かつて長年、ディーゼルエンジンの古い車に乗っていた身としては、とりあえず危険な種類のクモが棲息する地域でなくて良かったと胸を撫で下ろしてしまいます。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
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