第2884回 ご心配お掛けしました。



 4月14日から熊本、大分で相次いだ地震、特にマグニチュード7.3を記録しました16日未明の本震によって被災する事となってしまいました。

 活発な火山活動を続ける阿蘇山に隣接した土地柄、いつかは何らかの災害を被る事になるのではという漠然とした不安は持っていて、最近の日本各地の火山情報には神経質になっていたのですが、火山ではなく活断層による震災に遭遇するという事はほとんど考えていなかったというのが実情となっていました。

 阪神淡路の大震災の折、日本中の活断層の存在が話題となり、熊本にも大地震を起こしそうな活断層がある事は聞かされていましたが、時の経過と共にその存在自体も忘れかけていた中での地震発生となりました。

 14日の前震の際は震源地となった益城町と南阿蘇村は間に俵山を挟むという位置関係にある事もあり、いつにない激しい揺れを感じながらそれほど大変な事態が起こったとも思えず、火山性の地震でない事を願うに留まっていました。

 臨時ニュースが地震の発生や各地の震度を伝えてくれ、益城町では震度7という強烈な揺れが発生した事や、熊本城の瓦や石垣の一部が崩れた事が伝えられましたが、その時までは大きな本震とその後も続く余震が徐々に収まっていき、突然に訪れた震災も収束へと向かうと思えました。

 しかし、16日の1時25分、14日と同じような感じで揺れが始まったと思うと急激に激しくなり、今回は前回のように中の食器が割れないように祈りながら食器棚を押さえる間もなく、食器棚の中からは激しくガラスが割れる音が聞こえ、一瞬のうちに停電して家の中が真っ暗になってしまいました。

 それだけの揺れにも関わらず、仏壇に常備していたロウソクを使った灯りで見える家の中は壁の数カ所にひびが入った程度で、何とか持ちこたえてくれた事が判りました。

 割れた食器の破片が散乱している事や、倒れた家具などで家の中でも自由には動けない事を考え、とりあえず近い窓から外に出てガスボンベの元栓を締め、二次被害が起こらないようにして家の中へと戻り、一夜を明かしました。

 翌朝、電池式のラジオが無事であった事から何とか置かれている状況を知る事ができたのですが、日常的に熊本市内へと移動するための2つのルート、阿蘇大橋と俵山トンネルが崩落して通行できない事を知り、とりあえず無事である事を身近な人に伝えなければと携帯電話が使えそうな場所へと車を走らせました。

 東海大学の阿蘇キャンパスがある地域は以前から他地域よりもインフラが整備されている事から、阿蘇大橋へと通じている県道を進んだのですが、途中から道路が割れて大きな段差ができていてそれ以上先に進む事ができなくなり、坂道を登り切って右に大きく曲がりながら下りはじめる地点で車を止め、見晴らしの良いその場所から辺りの景色を見ると、見慣れた阿蘇大橋は無くなり、近くの山からは斜面が大きく崩れて大量の土砂が国道を埋めていました。

 結局、携帯電話は使えず、電気も途絶えたまま数日を過ごす事となったのですが、幸いにも家が無事であった事から避難所での生活や多くの人に健康被害を及ぼす事となった車中泊を余儀なくされる事もなく今日を迎える事ができています。

 南阿蘇村の被害の大きさや一時的とはいえ完全に音信不通となってしまった事から、たくさんの方に心配をお掛けしてしまう事となり、何とお詫びしたものやらと思えてきます。復興へと向けては、これから多くの努力や忍耐を強いられる事とはなってしまいますが、ご心配や励ましの温かいお言葉をいただきました皆様にこの場を借りて御礼申し上げますと共に、無事でおります事をご報告申し上げます。



 
スポンサーサイト

第2448回 皮肉屋さんのQOL



 海外の人が作成したプロフィールを見ていると、嫌いな人のタイプの中に「皮肉をいう人」という記載があり、日本ではあまりそうした記載は見られませんが、嫌われるタイプは世界共通なのだと思えてきます。

 客観的に観察していると、皮肉をいう人は会話の中から皮肉として使える部分を探り、的確にその部分に言及してくるので、普通に会話をしていても頭を使っているように思えます。しかし、先日、皮肉屋は認知症になるリスクが高いという研究結果が発表されて、普段から頭を使っていそうなのにと疑問が湧いてきます。

 東フィンランド大学の医学部で行われた研究では、高齢者の皮肉屋では認知症に罹るリスクが3倍以上も高いという結果が得られていました。ただし、研究で皮肉屋と定義されたのは、普段から皮肉をいっていると回りに判断されている人ではなく、「自分以外は利己的で信頼できない敵と考えている人」とされ、皮肉屋像が少し違うように思えてきます。

 研究では65歳から78歳までの高齢者、約2300人を対象に10年ほどの追跡調査を行って、皮肉屋としての度合いの高さと認知症の罹患度を調査し、今回の結果が得られたといいます。初期のアルツハイマー病では、社会は敵や嘘で満ちているという発想に繋がる傾向がある事が確認されていますが、そうした発想が認知症に繋がるというのは、原因と結果がどちらなのか判らなくなってきたようにも思えます。

 今回の皮肉屋と定義された高齢者は、社会に敵対的なものを感じ、自己を閉ざしがちである事が認知症のリスクを高めた事が考えられ、楽天的な性格が認知症を遠ざけるとした別な研究結果と対を成しているようにも感じられ、性格のあり方で人生が変わる事を意味しているともいえます。

 本来の皮肉屋も、皮肉のために回りの人を遠ざけてしまい、孤立化する事で認知症を発症するリスクを高めてしまう事が考えられます。明るく、好まれる高齢者を目指さなければと思えてきます。


 

第2329回 旨味の出処



 いろんな加工食品の原材料表記の中に見られていて、どことなく化学薬品のようなものを感じながらそうではない物、その一つが「酵母エキス」ではないかと思えます。酵母エキスは旨味とコクを加えてくれる調味料として、広くさまざまな加工食品に使われています。

 エキスという事でコトコトと長時間に渡って煮出したり、アルコールに漬け込んで作ったような感じがしますが、酵母を鍋で煮た訳でもなく、酵母が持つ力そのものを利用して酵母エキスは作られています。

 酵母を最初に発見したとされるのは、顕微鏡の発明者でもあるレーヴェンフックで、手製の顕微鏡でさまざまな微生物を観察しているうちに発酵中のビールの中から楕円形の微生物を発見し、同じ微生物がパンの発酵においても見られる事を発見しています。

 その後、発酵中の食品の中から発見される楕円形の微生物が食品の発酵に関わっている事が論じられるようになり、パスツールによって発酵が酵母の生理作用によって起こっている事や、無酸素条件下での呼吸である事が明らかにされ、最初の純粋培養も行われています。

 しかし、酵母の利用はそれよりも遥かに古い時代からという事ができ、素材に含まれる糖分を発酵させてアルコールを生成し、酒を作るようになってからは、人にとって酵母は身近な存在となっていたという事もできます。

 酵母が食品を加工するためでなく、本格的に食料として使われるようになった例としては、第一次世界大戦時のドイツにおいて食糧政策の一環として培養されたトルラ酵母がよく知られています。

 トルラ酵母に限らず酵母はビタミン類やミネラル類を多く含んでいるだけでなく、良質のタンパク源という事ができ、ドイツにおいても食飼料用として培養されていました。そんな豊富なタンパク質に着目し、分解する事で旨味成分となるアミノ酸を取り出したものが酵母エキスとなっています。

 基本的な作り方は、酵母を粉砕すると酵母自体が持っていた酵素の働きで酵母のタンパク質の分解が始まり、アミノ酸が生成されます。それを抽出した物が酵母エキスで、主成分としてアミノ酸や核酸由来の物質、ミネラル類やビタミン類が豊富とされ、調味料や微生物の培地に用いられています。

 分類上、酵母エキスは食品添加物ではなく、しょうゆや昆布エキスのように食品に位置付けられています。アミノ酸系の調味料である事や原料にビールやワインを発酵させた後の酵母が使われる事から、ネガティブなイメージをいわれる事もあるのですが、酵母を自身の酵素で分解したという天然由来の物でもあるので、上手に付き合う事ができたらと思ってしまいます。


 

第2103回 嗅覚に思う(3)



 食材に含まれる主要なアロマから相性を判断し、これまでにない組み合わせを見付け出す事を可能にするフードペアリング。食の世界に新たな可能性をもたらす事が期待される概念に早くも「破綻」という言葉が先日出されており、気になって詳しく調べた事があります。

 フードペアリング破綻のニュースは、世界的な学術雑誌であるネイチャーに掲載された洋の東西における料理の味の違いに関する研究結果の記事が元になっていて、食材の選択に関する傾向についてフードペアリングの理論に当てはまらない部分の存在が言及されていました。

 アジアと欧米の料理の味の違いについて56498件のレシピを分析した結果として、381種の食材の組み合わせが存在する事が明らかにされていますが、欧米の料理には風味が共通する食材を好んで選択するというフードペアリングの理論に適った傾向がある事に対し、アジアの料理では同じような風味を持つ食材を組み合わせる事を、系統的に避けるという欧米とは正反対の傾向があり、フードペアリングにおいて組み合わせが肯定される主要なアロマに共通するものが多い食材ほど組み合わせる事を避けるという事が解明されていました。

 研究結果については食材の選択傾向の違いと、選択した食材の組み合わせを最大限に活かすような調理手法と味付けの違いが料理の味の違いとして生じてきたと受け止める事ができるのですが、見方によってはアジアではフードペアリングの理論を真っ向から否定しているようにも受け取る事ができます。

 しかし、そうした食材の組み合わせの選択に関する傾向の違いは、出汁に関する考え方の違いにあるように思えてきます。基本的に料理に使われる水が硬水で、出汁自体が出にくい欧米では同じ風味を持つ物を組み合わせる事で風味を強化し、軟水が用いられる事で素材から出汁が出やすいアジアでは同じ風味を出す食材の組み合わせを避けて、別な系統の風味を持つ食材を合わせる事で出汁の成分の味覚強度を向上させるという手法が採られていたように思えます。

 主要なアロマを分析して組み合わせの相性を探るという手法がアジアの料理には通用しないという事は、フードペアリング理論という一つの方程式では充分な解が得られないという物事の難しさを感じさせてくれるのですが、素材のアロマではなく出汁の素となる旨味成分の組み合わせを元に探っていけば、アジアの料理におけるフードペアリング理論が確立されるように思えてくるのは主婦の浅知恵とも考えてしまいます。


 

第2102回 嗅覚に思う(2)



 嗅覚は視覚や聴覚よりも遥かに強く記憶と連動し、呼び起こす作用を持っている事が知られています。香りの中に懐かしさを感じたり、特定の場面が浮かんできたりという経験を持つ人も多い事と思います。

 嗅覚は物を口にして味覚の情報を得る前に物の状態を判断し、安全を確保するために過去に経験した事を元に香りをデータベース化し、照合を行う機能が記憶との関連の深さに繋がっているという事ができます。

 空気中の化学物質を鼻腔の粘膜内にある受容体と結合させる事で嗅覚は感知されているのですが、人間の場合、正常に機能している受容体の数は347種とされ、受容体は一種類のみの化学物質を感知するのではなく、複数の物質を感知できる事から嗅覚が高性能の感覚器官によって感知されている事が判ります。

 無意識のうちにたくさんの情報を得ている嗅覚ですが、単に香りを感知し、記憶のデータベースを元にさまざまな物事に関する情報との連動を取るだけでなく、味覚などにも深く関わっている事も判ってきています。

 嗅覚と味覚の連動性については、子供の頃に飼っていた猫が鼻風邪を患い、全く水や食べ物を検知できなくなってしまったという経験があり、その強い結び付きを伺う事ができます。日に日に衰弱していく猫の姿を見ながらこのままではいけないと、食べ物を口に運んでやれば味覚から食べ物に気付いてくれるのではないかと思い、何度も口へ食べ物を運んであげたのですが、迷惑そうな顔をするだけでまったく食べてくれなかった事が思い出されます。

 後に自分でも嗅覚が麻痺すると食べ物の味を感じる事ができなくなる事を実感し、人間よりも嗅覚が発達した猫の場合、そうした傾向はさらに強いのではと思えた事があります。嗅覚と味覚のそうした関係は、最近では「分子調理法」という形で一つの分野を確立しつつあり、「フードペアリング」「フレーバーペアリング」という言葉で耳にする機会も増えてきています。

 フードペアリングはベルギーのブルメンソール・シェフのアイディアが元になっていて、キャビアとホワイトチョコレートという明らかにかけ離れた食材の相性の良さを研究中に主要な香りの成分に共通点が多い事が見出され、相性が良いとされる食材同士には同じ傾向がある事が判り、それを体系化する事で確立されています。

 フードペアリングによって客観的に食材の香り成分を分析し、近い成分を多く含む物を図案化した事でこれまでは考えもしなかった食材の組み合わせが発見されるようになってきており、今後の料理の発展性を握る一つの概念ともなってきています。

 まったく新しい食材同士の組み合わせはこれまでにない料理を生み出し、新たな調理技法を確立する事にも繋がる可能性を持っています。伝統を継承しながら発展させていく方法論とは全く異なる概念が味覚ではなく嗅覚から始まろうとしている事にも、興味深いものを大いに感じてしまいます。


 
プロフィール

kcolumnist

Author:kcolumnist
にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR