FC2ブログ

第3079回 炒パン?



 かつてヨーロッパでは村の共同の窯を使って、まとめてパンを焼くという事が行われていました。数日分を焼いておく事から初日は良いのですが、日、一日とパンは乾燥して硬くなってしまい、そのままでは食べられない食感へと変化してしまいます。

 湿度が高い日本と違い乾燥したヨーロッパでは、パンはカビる事なく乾燥する事で保存する事ができていました。そのため、乾燥して硬くなったパンを少しでも美味しく食べるための工夫が根付いていて、多くのレシピが伝えられています。そんな中にあって、さすがに存在しないだろうと思っていたパンの炒め物が「ミガス」で、時間が経って硬くなったパンを炒めるという炒飯ならぬ炒パンともいえる料理となっています。

 ミガスとはスペイン語で「パン屑」を意味する言葉で、硬くなってしまったパンを削り、にんにくやオリーブ油などの家庭に常備している素材で作る事ができる伝統的な家庭料理とされます。スペインでは国民的な人気料理となっていても観光客の目に触れる機会が少なく、世界的にはあまり知られていない存在ともいわれます。

 ミガスは別名、「羊飼いのパン屑」と呼ばれる事もあり、羊飼いとの深い関りを感じさせてくれます。スペインではメリノ種の羊が多く飼育されていて、羊毛の輸出は重要な産業ともなっていました。羊を育てる羊飼いは羊たちを北から南へと季節に合わせ、荒涼とした土地を相棒の犬と一緒に移動させていました。

 そんな羊飼いがいつも持ち歩いていたのが小さなフライパンと豚の腸詰め、にんにく、そして村のパンと呼ばれるずっしりとした重量のある素朴なパンでした。それらの素材を使い、好んで調理していたのがミガスであったとされます。

 硬くなったパンをナイフで削り、水でふやかして腸詰めや野菜と炒めて調理するのですが、炒飯と同じくパラっと仕上げるのが大切とされ、そのためにミガスの調理には何より忍耐が重要とされます。何度も根気強くかき混ぜてパラパラになるまで炒め続けるのですが、中途半端な炒め加減で止めてしまうと不味くなるといわれるため、生半可な気持ちでは作るべきではないともいわれます。

 そのために最近では、家庭で作られる機会が減ってきたとされます。それでも食べたい人はレストランへ行くそうで、地方によっては毎週木曜日はミガスの日と決められている土地もあるとされ、ミガスが伝統に根付いた料理である事が窺えます。

 現地ではスペインを代表する料理といえばパエリアよりもミガスという意見もあるとされ、隠れた国民食といわれると大いに興味をそそられてしまいます。年配の方では子供の頃、母親の手伝いでひたすら硬くなったパンを削っていたという思い出を持つという人も多いとされ、古くなったパンの再利用レシピを超えた温かなものを感じられるそんな料理という事が感じられます。


 
スポンサーサイト

第3060回 グルテンの市場



 随分と前の事なのですが、アメリカの知人から日本の煎餅がヘルシーなスナックとして人気が高まってきていると聞かされた事があります。その後、しっかりと根付いたのか独自の発展を見せ、日本ではあまり見掛けない類の製品も作られているようで、その一つにグルテンフリーの柿の種があります。

 日本でも最大手となる米菓のメーカーが2013年から現地で製造、販売しているとの事なのですが、最初に存在を知った時は米が原料の柿の種であればグルテンとは無縁なのではと、少々違和感を覚えてしまった事が思い出されます。

 しかし、柿の種は味付けにしょうゆが使われており、しょうゆは原材料として小麦を使っている事からグルテンとは無縁ではなく、小麦を原料としないしょうゆを使って初めてグルテンフリーの柿の種が実現したといわれます。

 グルテンは、小麦やライ麦などの胚乳に含まれるタンパク質の一種であるグルテニンとグリアジンが水分を吸収しながら結合してできたもので、グルテンの素となるグルテニンとグリアジンの含有量によって小麦粉の強力粉、中力粉、薄力粉といった性質を決めています。

 日本では古くから小麦粉を練ってグルテンを生成し、水洗いする事で余分な成分を洗い流したものを焼き、「麩」として利用してきました。世界的には生地を発酵させる事でふっくらと柔らかいパンが焼けるようになっていますが、発酵によって生じた炭酸ガスを閉じ込めて生地を膨らませてくれる役割を担っているのがグルテンとなっていて、食文化に深く関わっている事が窺えます。

 世界中の食に根差しているグルテンですが、食物アレルギーの原因となってしまうタンパク質の一種という一面も持っています。特に近年は「グルテン関連障害」として研究が進んだ事もあり、予想よりも広範囲で体調不良を引き起こしていた事がいわれるようになってきています。

 世界各地でグルテン関連障害が増えている原因として、食の欧米化が進み、主食としてのパン食が増えた事や近年、品種改良された新たな品種に細胞毒性の高いグルテンペプチドが多く含まれている事、パンを製造する際、発酵時間を短くするためにグルテンの量を多く含ませるようになっている事などが考えられています。

 グルテンフリーに関する市場は、先駆けとなったアメリカ一国だけでもすでに一兆円を超える規模にまで成長しているとされます。もともとは食療法の一つであったものが付加価値として誕生し、大きな市場を形成する過程で情報が過度に誇張されてしまい、必要以上に恐怖が語られているという印象は否めませんが、日常的な食、健康に関わる事でもあり、正確な情報を求めてしまいます。


 

第3041回 洋食の真実



 食と健康を語る上で必ずといっても良いほど出てくるキーワードに、第二次世界大戦後の高度成長期以降に顕著となった「食の欧米化」があります。従来の魚食を中心とした食生活から肉を多く摂る食生活へと変化した事が、生活習慣病をはじめとする健康不安を助長したと考えられています。

 欧米化した食というと主食のパン、肉類の主菜と付け合わせのサラダ、汁物としてのスープというメニューが思い浮かび、カロリーや脂質の摂取量が多くなってしまう事が健康に悪影響を及ぼすと思えてきます。しかし、意外にもそうした洋食を中心にした食生活でも、健康にはそれほど悪影響しないという研究結果が存在しています。

 和食というと世界遺産にも登録されているほど健康的な食として捉えられていて、その反対の存在として洋食があります。根菜類の煮物をおかずに主食のご飯、味噌汁といった取り合わせの和食に対し、肉類のおかずにパンの主食、スープといった洋食があるのですが、長期にわたる大規模な調査を行うと和食、洋食どちらも食べ続けていてもそれほど健康には有意な差はみられないといいます。

 和食は脂質の摂取量が少なく、カロリーが低めで食物繊維を多く摂る事ができるのですが、タンパク質の摂取量が少なめになっています。それに対し洋食は脂質が多めでカロリーも高くなってしまうといわれすが、タンパク質を充分に摂る事ができ、意識して肉類を脂質の少ないものにする事でカロリーも抑える事ができ、サラダなどで食物繊維やビタミン類を摂る事もできます。

 また、一緒にコーヒーを飲む事も健康に寄与しているともいわれ、最近、多くの健康効果が確認されてきているコーヒーも味方している事が、洋食を食べ続けても健康に悪影響しないという結果を支えています。

 最近では脂肪酸の働きも知られるようになり、脂肪を摂る事自体も悪い事ではない事が判ってきていて、洋食の最大の欠点のようにいわれてきた脂肪分が多いという事もそれほど悪いとはいえないように思えます。

 諸悪の根源のようにいわれてきた食の欧米化がそれほど悪いものではないという事が判ると、食への安心感が増すと同時に現在の生活習慣病の蔓延という状況の原因という新たな犯人捜しをしてしまいます。


 

第3040回 絶滅危惧店



 人気のアニメで主人公が乗る車のドアに家業の豆腐店の名前と、「(自家用)」と書かれたものが登場します。そういえば以前は(自家用)と書かれた車を見掛ける事があったのに、最近ではあまり見掛けなくなったと思えてきます。

 車両には対価を受け取って荷物を運ぶ「業務用」の車両と、自社の荷物のみを運ぶ「自家用」といった区別が存在し、豆腐店の車両で店で作った豆腐のみを運んでいる場合、(自家用)と記載していたようなのですが、制度が変化したのか見掛けなくなっています。同じく見掛けなくなったものに、(自家用)の前の部分、豆腐店があるのではと思ってしまいます。

 豆腐は日本の食文化にしっかりと根付いていて、豆腐自体の需要は今も昔も変わらないといいます。しかし、豆腐を買う場面を考えると、近所の豆腐店へ行って買ってくるというよりスーパーの売り場で名の知れたメーカーのものを選んでしまいます。

 そうした消費者の変化が町の豆腐店を減少させたと考える事ができるのですが、それだけではない深刻な問題が豆腐店の減少には関わっています。多くの食品に影を落とす問題、過剰な安売りが豆腐店の存続にも影響しています。

 街の豆腐店が減少しているといっても、物心付いた頃には豆腐店自体をそれほど見掛けた記憶がなく、あまり実感が沸いてこないのですが、最盛期とされている1960年代には全国で5万軒を超える豆腐店が存在していたとされ、その数は今日のコンビニエンスストアとほぼ同じであったといわれると、驚くほど多くの豆腐店が営まれていたと思えてきます。

 大規模な機械生産の手法の確立や薄い豆乳からでも豆腐を作る事のできる凝固剤の採用、流通の発達などが豆腐の価格を引き下げ、最盛期の豆腐一丁の価格が平均で100円以上であった事に対し、今日では60円を下回るともいわれ、変化しない需要、上昇する物価の中でも豆腐価格が下落していった事が窺えます。

 価格の低迷によって充分な利益の確保が難しくなる中、手作業による豆腐の製造には体力が要求され、製造者が高齢化していった事、後継者を確保できない事が豆腐店の廃業に繋がったとされ、豆腐とは大手メーカーの工場で生産されるものという消費者の意識の変化に拍車を掛けたとも考える事ができます。

 今後、更に生産者の高齢化、後継者不足に合わせ、多くの豆腐店が製造機械の耐用年数の限界を迎える事が考えられ、古い製造機械は修理用の部品の確保が難しく、新たな機械を導入しても設備投資を賄うだけの利益が確保できないという問題から廃業へと向かう流れが本格化するとも考えられます。

 一部の豆腐店では売り方を変えて差別化を図り、新たな販路を確保するという動きも見られ、実際、実家の近くにあった豆腐店では二代目が後を継いだ事を契機に、名前も「豆腐店」から「豆腐工房」と改められ、店構えもモダンにした事で繁盛していました。

 価格破壊、後継者、設備投資といった大きな流れの中、座して廃業を待つのか、新たな世界へと舵を切るのか、豆腐という身近な存在も激流にさらされているのだと思えてきます。


 

第3039回 一と三(2)



 最近、一汁一菜が話題となっていました。一汁一菜は和食の基本でもあり、一汁一菜が話題となるという事は世界遺産に認定された和食の普及や食べ過ぎを抑えたダイエットの薦め、粗食の推奨といった事が頭に浮かんできます。

 一汁一菜が話題となったきっかけは料理研究家の土井善晴氏の著書、「一汁一菜でよいという提案」が元になっているといわれ、土井喜晴氏というと先代の土井勝氏から続く二代目の料理研究家で、家庭料理に特化した料理番組、「きょうの料理」の人気講師としても知られています。

 父の土井勝氏は家庭料理の第一人者とも呼ばれていて、多くの料理本を記されており、子供の頃、我家にも多くの著書があって、私の料理の原点にもなった方とも思えます。

 喜晴氏の「一汁一菜でよいという提案」には、「食事はすべてのはじまり。大切なことは、一日、一日、自分の心の置き場、心地良い場所に戻ってくる暮らしのリズムをつくること。その要となるのが、食事です。一汁一菜とは、ただの和食献立のすすめではありません。一汁一菜というシステムであり、思想であり、美学であり、生き方だと思うのです」という言葉が記されていて、日常の食事に関する深い考察である事が窺えます。

 ポイントとなるのは具たくさんの味噌汁で、日常の食事はご飯と具たくさんの味噌汁で充分ともいわれています。気負う事なく基本となる食事のスタイルを持つ事で生活に秩序が生まれ、気持ちに余裕が生まれる事で新たな暮らしの楽しみが生まれると、日常の食から広がる生活のあり方にも触れられています。

 第二次世界大戦後、高度成長期を迎える中で日本人には栄養が足りないと考えられるようになり、健康志向の中から出てきた一日に30品目の食材を摂取するという事もかつてハレの日の食であった一汁三菜を日常化し、栄養過多による生活習慣病に繋がっているようにも思えます。

 ご飯と具たくさんの味噌汁、一品のおかずで充分に栄養のバランスを取る事が可能と思えるのですが、一汁一菜の話題が盛り上がると一部では栄養が不足するという指摘も見られ、一汁一菜に粗食というイメージが定着している事が判ります。

 喜晴氏によると手作りにこだわる必要はなく、時には持ち帰り総菜や冷凍食品を利用する事もよく、一汁一菜だからといって和食にこだわらず、洋食や中華料理、パン食も上手に取り入れ、毎日の食事に丁寧に向き合い、ゆっくりと楽しむ事が薦められています。

 一食で栄養のバランスを取ってしまう事や食材の効果効能などに目が行きがちとなってしまうのですが、毎日の食の基本的な部分を見直すという提案が一汁一菜の話題を盛り上げてくれていたのかもしれません。


 
プロフィール

kcolumnist

Author:kcolumnist
にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR