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第3082回 時を巡る旅(1)



 小学三年生の春、H・G・ウェルズの小説、「タイムトラベル」と出会って衝撃を受けました。時を超える旅というのが斬新で、その先にある世界観に驚かされたのですが、年を取って俗人化が進んだ今、時を超えられたら大航海時代のヨーロッパへ行ってコショウの販売を行って大儲けをしたり、本能寺の変を知らせるために織田信長の下へ向かったりという事を考えてしまいます。

 タイムトラベルに関してはとても難しいパラドックスが残されており、私が過去に戻って私の両親を殺害すると私の存在は消えてしまい、両親を殺害する私はいなくなり、殺されなかった両親は私を生み、育てる事となってしまいます。その私が成長して両親を殺害しに行くと、私が生まれないという無限ループの「親殺しのパラドックス」に陥ってしまうのですが、このパラドックスの存在によってタイムトラベルは不可能なもののように考えられています。

 パラドックスの解決にはいくつかの仮説が存在し、過去は変えられないとする「首尾一貫の原則」では、過去へとタイムトラベルした私の両親殺害計画は絶対に成功しないとされます。似たようなものとしては、過去の事象は未来の結果を盛り込み済みという考え方もあり、殺害計画を逃れるうちに両親に愛情が芽生え、乗り切った末に二人は結婚して私が生まれる事になるという考え方もあります。

 「並行宇宙」と呼ばれる仮説では、時はいくつにも分岐していて、私が両親を殺害しに行かないタイムラインに殺害に成功するタイムライン、失敗するタイムラインと、多くの可能性に合わせた分岐が起こって複数の並行した世界が存在し、タイムトラベルで行けるのはその中の一つの世界とされます。

 量子力学の理論では、確立がゼロではないすべての無作為な量子事象はそれぞれ異なる世界で実際に起きており、歴史となるタイムラインは常にさまざまな世界に分岐しているとされ、過去に遡るタイムトラベルが可能だとしたら、旅行者が遡った先は出発点とは異なる歴史の枝の一つと主張されています。

 並行宇宙という考え方はパラドックスを解決する近道のように思えますが、遡って戻った先は別の世界で、そこから戻る現代も分岐した幾つかの世界の一つとなると、時間旅行ではなく異世界旅行のように思えてきて、本当にその旅を時間旅行と呼んで良いものかと思えてきます。


 
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第3081回 寿命をめぐる謎



 生活水準の向上や医療技術の発達、良好な栄養状態など、さまざまな健康関連の状況の変化によって毎年平均寿命は伸び続け、長寿社会の到来を感じる事ができます。単に長く生きる高齢者が増えたというだけでなく、高齢にも関わらず若々しく、元気な方も多く見られていて、昔とは時間軸が違うのではと思ったりもします。

 元気な高齢者が増えた半面、長寿の上限はそれほど伸びていないとされ、オランダのティルブルフ大学が死亡時の正確な年齢の記録が残っている約7万5千人分のデータを分析したところ、ある程度の上限値が判ってきたといわれます。

 研究チームが過去30年に及ぶデータから抽出されたサンプルを調べた結果、女性の寿命の最高値は115.7歳、男性だともう少し短く、114.1歳付近が上限値であるという結論が得られていました。研究にあたったアインマール教授は、「平均すると人はより長生きになっているが、最年長のグループについては、この30年間でその年齢がさらに延びている訳ではない」と語り、95歳に達する人の数がほぼ3倍になっている事に触れながら、最高齢の上限値には変化がない事を指摘しています。

 寿命に関する話をする際、決まって登場するフランス人女性、ジャンヌ・カルマンさんは122歳と164日という公式記録としては唯一の120歳を超える時間を生きました。彼女の存在は例外的なものとしても、120歳を超えた人が彼女以外にいない事を考えると、120歳あたりに上限値があるようにも思えます。

 しかし、最近発表された論文によると人の寿命は想定よりも延びた可能性があり、今後も時間と共に延びていく事が指摘されていました。イタリアの高齢者3800人以上を対象にしたデータに基くと、高齢になるにつれて死亡リスクは上昇していきますが、105歳を過ぎると上昇率が緩まり、頭打ちになる事が確認されています。

 論文の共同著者であるカリフォルニア大学バークレー校のワクター教授によると、年を取るにつれ人の健康と死亡リスクは加速度的に悪化する。しかし、かなりの高齢となるとその悪化が止まると述べ、「良くはならないが悪化が止まり、横ばいとなる」としています。

 1896年から1910年の間に生まれた人々を対象とした研究では、誕生年ごとの死亡率を比較したところ、時間の経過と共に死亡率がわずかに下降している事が明らかにされており、時間の経過に伴う緩慢ではあっても明確な向上は、現状では寿命の固定的な限界は見られない事を示唆しているとされ、今後のさまざまな要因次第では更に寿命が延びる事が考えられます。やがてジャンヌ・カルマンさんを超える人が登場する可能性があり、その瞬間を見るためにも長生きしなければと思えてきます。


 

第3080回 廻る水の再利用



 SF小説に登場する未来像の一つとして、水が枯渇した世界というのが登場します。水は生命の維持に欠かせないので、僅かな水を争って命のやり取りが行われたり、水源を支配する者が王者のように君臨したりといった世界観が展開されています。

 小説の中という事でどこか遠く、現実味の薄い世界と思ってしまうのですが、「20世紀は石油を争い、21世紀は水を争う」という言葉や世界各地の干ばつに関するニュースを聞かされると、それほど遠くない将来、如何に水を確保するかが問われる社会情勢になってしまうのかとも思えてきます。

 普段、水を使うというと直接飲用する事や調理、入浴、洗濯、トイレなどの生活を通して接する水の事だけを思ってしまい、それだけでも多くの量を日々使っていると思えてくるのですが、身近な製品が製造される際に使っている水の事を考えると、日常生活は膨大な量の水を使っている事に気付かされてしまいます。

 暑い夏が来ると消費量が急増するビール。ビールを生産するには1リットルあたり162リットルもの水が必要になるとされ、あまり環境には優しくない飲料という感じがしてきます。そんなビールの環境負荷を減らしてサステナビリティ(持続可能性)を高めるための実験的試みとして、スウェーデンのビール製造会社ニーヤ・カーネギーブリゲリエットとスウェーデン環境研究所、カールスバーグ・スウェーデンが共同で浄化された下水で作られたビール、「PU:REST」を開発、発売しています。

 PU:RESTのコンセプトはスウェーデン環境研究所の上級プロジェクト開発員のスタファン・フィリプソンによって生み出され、約50年に渡って取り組んできた下水処理技術開発の一環として、安全で綺麗な水の価値についての意識を向上させ、下水も飲み水になりえる事を示すための創造的な方法として提案されています。

 高度に浄化された下水を食品製造に使うアイデアは思い付いたものの、アイデアを実現する企業と巡り合うのは困難が予想されていました。フィリプソンは過去にも環境に優しい素材で製品作りを行った実績のあるビールメーカー、ニーヤ・カーネギーブリゲリエットに白羽の矢を立て、連絡を取りました。

 カールスバーグ・スウェーデンがアメリカのビール醸造企業、ブルックリン・ブルワリーと共同で設立していたニーヤ社では、環境に配慮した製品作りの実績はあっても下水を使うという事には懐疑的な反応を示します。フィリプソンはスウェーデン環境研究所がどのような技術を使って下水を水道水と同じ飲用に適した綺麗な水に変えるかを説明し、衛生面での懸念がない事を理解してもらい、プロジェクトはスタートしています。

 下水の処理は、まず含まれている有機物を分解する事から始められます。バクテリアやマイクロプラスティック、寄生虫などを除去するため、従来の排水処理に使われている生物学的処理に加えて膜分離活性汚泥法という処理も行われ、その後、逆浸透膜を使って濾過される事から化学物質はほぼ100%除去されます。

 さらに活性炭の濾過機を使って医薬品の成分やパーフルオロアルキルスルホン酸などの化学物質を除き、最終的には紫外線を照射して徹底的に浄化する事でスウェーデンの飲料水基準を充分に満たしたリサイクル水は作られています。高度に浄化されているため、飲料水として美味しさを感じるにはミネラル分を加えた方が良いといわれるほどで、ビールの製造用水としても遜色のない仕上がりとなっていました。

 リサイクル水を使って作られるPU:RESTはピルスナータイプのビールで、有機栽培のピルスナーモルトとシュパルターホップ、ブルックリンハウスラガーの酵母が使われ、非常にクリーンですっきりとした味に仕上げられています。一回限りの実験的販売でしたが大きな反響を呼び、その関心の高さから追加生産も検討されているといいます。

 非常に高い関心の下に市場に受け入れられたリサイクル水のビールですが、安全で綺麗な水の価値についての人々の意識を向上させ、下水も飲み水となる事を示すという目的も達成できたという事ができ、追加生産が繰り返されるうちにやがて特別な存在ではなくなっていく事に期待してしまいます。


 

第3077回 事業展開



 昔の自動車レースの画像を見ると、レースカーの車体には大きくタバコの銘柄のロゴが記載され、それが一つのデザインとなっていて、一般の車両との大きな違いのようにも見えていました。やがてロゴは形を残しながら文字では銘柄名を表記しないものに変わり、ヨーロッパを中心にはじまったタバコの広告規制の存在を感じさせてくれます。

 今ではレースを支える企業は通信会社やIT企業、エナジードリンクのメーカーなどに替わり、タバコメーカーの潤沢な収益がレースに注ぎ込まれるという事は過去のものとなったような感じがして、喫煙者の減少や喫煙可能な場所の減少、さまざまな規制などタバコメーカーには逆風が吹き荒れる時代が続いているようにも思えてきます。

 そんなタバコメーカーに、新たな事業展開の可能性を感じさせるような研究結果が発表されていました。タバコがインフルエンザのワクチン作りに利用でき、タバコを使う事でこれまでよりも早く安価にワクチンの製造が可能になるといいます。

 これまでワクチンは鶏の有精卵を使って作られてきました。卵の胚にウィルスを感染させ、卵の中に溜まる液体の中から抽出する事でワクチンは製造されています。うまく卵の中でウィルスを増殖させたとしても、成人男性一人分のワクチンを製造するには1、2個の卵が必要とされ、インフルエンザが流行する時期に向けたワクチン製造では、膨大な量の卵が消費されている事になります。

 また、卵を使ったワクチン製造では時間が掛かってしまう事から、その間にウィルスが変異してしまい、正しく製造されていたにも関わらず有効に作用しないという事も見られていました。タバコを使ったワクチン製造では卵に比べて安価なだけでなく、製造自体も早くできる事からウィルスの変異が起こる前に製造を終えられる事も可能とされます。

 卵の中でワクチンを作る際は、不活性化されたウィルスが用いられてきましたが、新たな製造手法では「VLP(ウィルス様粒子)」と呼ばれるインフルエンザウィルスの構造を持ちながら完全な遺伝子情報を持たない粒子を使う事で、ウィルスが変異しても感染した細胞を発見、排除できるような免疫細胞を作る事も可能とされ、より効果の高いワクチンを作る事ができるようになります。

 そうしたワクチンの製造を可能にするバイオリアクターを数年に渡って探し続けた結果、「ベンサミアナタバコ」に辿り着いたそうで、タンパク質を高速で生成する能力を持ち合わせている事から、卵を使った従来の手法では半年ほどの期間を掛けて作られていたワクチン製造が6週間にまで短縮できています。

 タバコを使ったワクチン製造の特許はカナダのバイオテクノロジー企業、メディカゴ社が保有していて、すでにメディカゴ社の株の40%はタバコ界の巨人、フィリップモリス社が所有しています。一見、斜陽に直面したように感じられたタバコメーカーですが、まだまだ世界経済の中心部に君臨し続けるのかもしれません。


 

第3076回 大気油田



 地球が誕生した頃の大気は主に窒素、水蒸気、二酸化炭素と火山から噴出した硫黄酸化物によって構成されていたと考えられています。その中でも特に二酸化炭素が多く、今よりも遥かに高濃度であったとされ、動物の生存には適さない状況であったと推定されています。

 そうした高濃度の二酸化炭素の大気の中、光合成を行う事のできる植物プランクトンのような生物が海中に誕生し、盛んに光合成を行って二酸化炭素を分解して酸素を放出する事で大気の成分の中に酸素が存在するようになり、動物プランクトンの誕生素地を作り出していきます。

 植物プランクトンは光合成によって太陽光と水からエネルギーを作り出し、動物プランうトンはそれを捕食する事で生命を繋ぐという営みが続けられ、プランクトンたちは一生を終えると海中深くへと沈んでいき、堆積して地層を形成しながら長い時間を掛けて加熱・加圧を受けて変性して石油などへと変化していきました。

 今日、私たちは石油の恩恵を受けて日常生活が成り立っていますが、化石燃料とも呼ばれる石油を燃焼する事で発生する二酸化炭素は、当時の植物プランクトンが光合成によって固定化したものであり、現代に放出すると大気中の二酸化炭素量を増やしてしまう事となり、地球温暖化を進めてしまうとされています。

 木を育て、それを薪として使用して発生する二酸化炭素は、木が生長する際に光合成によって固定化したものである事から、大気中の二酸化炭素を増やさないゼロエミッションといわれる状態となります。それに対し化石燃料の使用は太古の昔の二酸化炭素を現代に放出する状態になるため、地球温暖化を促進するとして特に化石燃料の使用が顕著になった産業革命以降の気候上昇に関わっているとされます。

 時を超えた二酸化炭素の放出を止めるためにも化石燃料の使用を抑えたいと思えてくるのですが、現代社会において化石燃料の使用をただちにやめるという事は非常に難しいという事は容易に想像できてしまいます。そんな中、とても気になる技術が開発されていました。

 カナダの企業、カーボンエンジニアリングが開発したシステムでは、大気をフィルタリングする事で二酸化炭素を回収して純度の高い炭素を抽出し、水素と反応させる事で炭化水素を作り出す事が可能となっています。

 炭化水素は化石燃料の主成分となっており、システムの稼動によって大気中の二酸化炭素から燃料を作り出す事ができ、そうして得られた燃料を燃焼しても発生する二酸化炭素はゼロエミッションであり、地球温暖化を促進する事なく使用する事ができます。

 システムによる二酸化炭素の回収能力は森林よりも遥かに大きいとされ、温暖化抑制のために植林を行うよりも効果的とされます。植林は樹木が育つまでの時間や、地質や気候などによって向き不向きがあるのに対し、システムの設置は場所を選ばず、昼夜も選ばないというメリットも持っています。

 二酸化炭素の排出抑制のために電気自動車へのシフトがいわれていますが、大気という油田から採られた燃料を使用して走るエンジン車という選択も近い未来には登場するのかと思えてきます。2040年にはガソリン車の販売を禁止する事を決めた国も見られていますが、再考の余地があるのかもしれないという気がしてきます。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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