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第3086回 危険な香



 以前、坊ちゃんに一緒にドライブに行く事を好きになってもらおうと、近所のスーペーへの買出しに付き合ってもらった事がありました。車の中では少しでもストレスとならないように自由に動き回れるようにしていたのですが、普段から外出する事がなく、怖がりの坊ちゃんには車で出掛ける事自体がストレスとなってしまいました。

 その際、坊ちゃんの体からは、普段とは違った香がしていて、同じような事は、幼少期、カーテンをボロボロにしてしまって叱られた際にも見られた事から、猫はストレスを感じると特有の臭いを発するのだと思っていました。しかし、同じ事は人間にもありえる事が最近の研究で解明されています。

 1999年、大手化粧品メーカーによって年齢を重ねる事によって生じる「加齢臭」の原因を特定して以降、2013年には中年の男性に見られるという「ミドル脂臭」、2018年には10~20代の女性に特有の甘い香り「SWEET臭」などが特定されています。

 今回の発見は大手化粧品メーカーで長年行われているパフューマーや臭気判定士による体臭に関する研究の中で、緊張状態にある人からは、いつも硫黄化合物のような特徴的な臭いがすると臭気判定士が気付いた事がきっかけとなり、ストレスを与えた人から発散される皮膚ガスを採取して分析した事によって成分を特定。「STチオジメタン」と名付けられています。

 ストレス臭は硫黄化合物であるため、特有の臭いがしますが、人によっては不快に感じるものではないとされ、年齢や性別には関係なく、体のさまざまな部位から発散されます。ストレスが強いほど臭いも強くなる傾向があるとされ、緊張によって心拍数が高くなった人ほど臭いは強く出るとされます。

 ストレス臭の影響は臭いだけに留まらず、心理学で用いられる検査を行ったところ、臭いを嗅いだ後では「疲労」と「混乱」に関する指標が高くなっている事が観察され、ストレス臭を発している人だけでなく、周りにいる人たちも疲労や混乱に陥ってしまう可能性がある事が示唆されています。

 現在、ストレス臭に対応する技術の研究が進められているそうですが、高ストレス社会といわれる現代。気付かないうちに漂ってきたストレス臭を嗅いでしまい、思わぬ疲労感や混乱を感じてしまうという事は日常的に起こっている事なのかもしれません。

 
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第3085回 脳の糖尿病



 敵を知り、己を知れば百戦危うからずと昔からいわれますが、己はともかく相手の事が解らないままでは、確かに勝利へと続く道のりも見えてこないと思えます。アルツハイマー型認知症もそうした状況にあり、原因が良く解らないまま完治させるための方向性が見出せない疾病となっていました。

 かつてアルツハイマー型認知症は「アミロイドβ」と呼ばれる特殊なタンパク質が脳内に蓄積され、脳の認知機能が損なわれる病気と考えられていて、何故アミロイドβが作られ、蓄積され、どのように除去すれば良いのかが解らないとされていました。

 その後、アミロイドβの蓄積は結果であって、原因ではないのではないかという考え方も出てきて、アルツハイマー型認知症はますます解らない病気という印象が強くなり、治療も症状の進行を抑えるものに限られていました。そんなアルツハイマー型認知症の正体が明らかにされようとしています。アルツハイマー型認知症は、脳の糖尿病の可能性が高くなってきています。

 糖尿病はアルツハイマー型認知症のリスク因子の一つとして知られ、糖尿病患者のアルツハイマー型認知症発症リスクは、そうではない人の2倍以上にもなる事が知られていました。最近、判ってきたのは、糖尿病と深い関わりのあるインシュリンがアルツハイマー型認知症の発症と深く関わっているとされます。

 インシュリンは血液中のブドウ糖を細胞内に取り込ませたり、エネルギーとして消費させたり、蓄えられるのを促したりといった役割を持ち、血糖値を下げて一定に保つ働きを担っています。そんなインシュリンの作用に障害が生じて血糖値を下げられなくなるのが糖尿病で、インシュリンの量に見合った作用が発揮できない事を「インシュリン抵抗性」と呼びます。

 インシュリン抵抗性が生じてしまい、インシュリンを分泌しても効かない状態になると、大量のインシュリンが分泌されて「高インシュリン血症」になってしまいます。この高インシュリン血症がアルツハイマー型認知症の大きなリスクとなる事が判ってきています。

 健康な状態では、膵臓で作られたインシュリンは血液脳関門を通過して脳内へ入り、脳で作用します。インシュリン抵抗性の状態になるとインシュリンは血液脳関門を通過する事ができなくなり、脳内へ届かなくなってしまいます。インシュリンは記憶を掌る海馬にブドウ糖を取り込む働きも担っているため、インシュリンがない状態では、海馬は重要な栄養素を受け取る事ができなくなってしまいます。

 また、脳内の伝達物質であるアセチルコリンはブドウ糖によって作られているため、脳内のインシュリン不足は伝達物質の不足にも繋がってしまいます。さらに高インシュリン血症では、役目を終えたインシュリンを分解するためのインシュリン分解酵素が多く消費されてしまい、もう一つの重要な役割であるアミロイドβの分解に手が回らなくなってしまい、その結果として脳内にアミロイドβが蓄積する事となります。

 アルツハイマー型認知症が脳の糖尿病だとすると、脳内で効率よくインシュリンが機能するようにすれば治療法の確立に繋がる事も期待されます。すでに経鼻インシュリン吸入薬や一部のアルツハイマー治療薬が脳のインシュリンシグナルを改善させる事が確認されており、良い知らせがもたらされるのもそう遠くない、そんな気がしてしまいます。


 

第3084回 時を巡る旅(3)



 時を超えるというテーマの物語には、大きく分けると二つのタイプがあるように思えます。一つは偶然に生じた時空の裂け目に迷い込み、時を超えた世界へと行ってしまうというもの。もう一つは明らかな意図をもって時空を超える旅に出るというもので、そのための装置としてタイムマシンが登場します。

 タイムマシンは登場する物語によって形状や動作原理が異なり、これといった定番の形というのはないのですが、意外にもタイムマシンという概念が登場し、時間旅行を行うという発想が一般化するのはH・G・ウェルズの「タイムマシン」が発表された1895年以降の事となっています。

 時を超える物語自体は古くから存在していて、ヒンドゥー教の神話「マハーバーラタ」や仏教の経典「パーリ仏典」には時の流れが遅い天上界へ行ってしまったために、地上へ戻るととてつもない時間が経過しているという話が登場します。

 同様の話は日本でも浦島太郎の物語として知られ、「日本書紀」にも記載されている事から早くから存在していた事が覗えます。中国では昔話の「爛柯(らんか)」、アイルランドでは神話の「ティル・ナ・ノーグ」、イスラム教では聖典「クルアーン」の「洞窟の章」に同じような話が登場していて、世界的に古くから語られていた事が判ります。

 それに対し過去への旅となると、最も古いものでも1838年に匿名の作家によって発表された「神隠しの馬車・時代を超えた男」という短編小説が最初とされ、突然、1000年前の世界へ送り込まれた語り手が8世紀の修道院で聖職者のベーダ・ヴェネラビリスに未来の世界を皮肉交じりに説明するというものとなっていて、語り手は突然元の1837年8月に戻されるという展開となっています。

 未来への旅の物語が紀元前から存在していた事に対し、過去への旅が登場するのは19世紀と両者の間にはかなりの時間的隔たりがあると思えてきます。「神隠しの馬車」以降、幾つかの時間を超える旅が描かれる中、1887年には最初のタイムマシンと見られている「時間遡行機」が同名の小説の中にスペインの作家、エンリケ・ガスパール・イ・リンバウによって描かれています。

 「時間遡行機」から8年後の1895年、H・G・ウェルズによって「タイムマシン」が発表され、その後のさまざまな作品に影響を与える事となります。過去へも未来へも行く事ができるが、場所を移動する事はできないというタイムマシンはその後のスタンダードの一つとなるのですが、実はH・G・ウェルズがタイムマシンを描くのはそれが最初ではなく、アマチュア時代の1888年に書いた「時の冒険家たち」という作品の中でも時を超える機械を登場させています。

 そうした19世紀に相次いで時間旅行の概念が確立されていった背景には、印刷技術の発達によって過去が詳細に保存されるようになった事。産業革命によって目まぐるしく世の中が変化するようになり、未来が現在の延長ではないと感じられるようになった事。通信技術の発達によって時差という事なる時間で日常生活が行われている地域の存在が認識されるようになった事などが考えられます。

 小説にタイムマシンが登場してからすでに100年以上が経過していますが、いまだに理論的な確立もできていない状況となっています。本当に未来において可能となるのか、タイムマシンがあったら見に行ってみたいと思えるところにもタイムマシンのロマンがあるのかもしれません。


 

第3083回 時を巡る旅(2)



 タイムトラベルについて回る難しい問題、「親殺しのパラドックス」は無視したとして、時を超えるという事は技術的に可能なのだろうかと根本的な部分が疑問になってしまいます。時とは一つの方向へと向けて進み続ける流れで、決して止まる事も遡る事もない圧倒的な流れと思えるからです。

 相対性理論を記したアインシュタインは、3次元は時間と繋がり、時間が4次元として機能していると考えました。そうした考えを元にアインシュタインは時空連続体という構造を考え出し、今日の宇宙のモデルとされています。

 アインシュタインは時空連続体は折り曲げる事が可能で、遠く離れた2つの地点に近道を作る事ができると考えていました。ワームホールと呼ばれるこの現象は、時空連続体の2か所に開口部があるトンネルとして描かれていて、宇宙には実在する可能性が考えられており、電波望遠鏡を使った観測が行われています。

 どこか遠い存在のように思えるワームホールですが、最も近いものは地球から数光年先にある可能性があるとされます。将来的にはワームホールを作り出せるようになるとも考えられていますが、その方法については今のところ見当も付いていないとされます。

 いずれ近くて行く事ができる距離にあるワームホール発見される、もしくは人為的にワームホールを発生させる事が実現できる日がくる。そう思えるのですが、そうなったとして難しい問題がそこにある事に気付いてしまいます。ワームホールの入り口はブラックホールと呼ばれる超重力が存在する場所で、中に入ったものを圧し潰し、引き裂いてしまいます。

 ワームホールまで速やかに移動する速度を持ち、ブラックホールにも潰されない堅牢さを兼ね備える屈強な宇宙船の開発が不可欠となるのですが、仮に開発に成功したとしても更に大変な問題が残されています。ワームホールを抜けた時空を超える旅、その先が定かではないという問題です。

 タイムマシンを使った時間旅行は、どの時代のどの場所へと指定してから旅が始まります。自然に存在するワームホールは入り口は判っても、繋がっている先は判っておらず、行った先が希望していた世界なのか、そこから元の世界へと戻れるのかは不明となっていて、今日の旅行会社が扱うようなツアーとしては成り立たないと思えてきます。

 時を超えて謎となったままの歴史的な事件の真相を知りたいとは思いますが、その後、坊ちゃんが待つ我家へ帰る事ができないのならば、今のまま、どこへも行かなくて良いと思えてきて、それがタイムトラベルの妨げとなっているのかもとも考えてしまいます。


 

第3082回 時を巡る旅(1)



 小学三年生の春、H・G・ウェルズの小説、「タイムトラベル」と出会って衝撃を受けました。時を超える旅というのが斬新で、その先にある世界観に驚かされたのですが、年を取って俗人化が進んだ今、時を超えられたら大航海時代のヨーロッパへ行ってコショウの販売を行って大儲けをしたり、本能寺の変を知らせるために織田信長の下へ向かったりという事を考えてしまいます。

 タイムトラベルに関してはとても難しいパラドックスが残されており、私が過去に戻って私の両親を殺害すると私の存在は消えてしまい、両親を殺害する私はいなくなり、殺されなかった両親は私を生み、育てる事となってしまいます。その私が成長して両親を殺害しに行くと、私が生まれないという無限ループの「親殺しのパラドックス」に陥ってしまうのですが、このパラドックスの存在によってタイムトラベルは不可能なもののように考えられています。

 パラドックスの解決にはいくつかの仮説が存在し、過去は変えられないとする「首尾一貫の原則」では、過去へとタイムトラベルした私の両親殺害計画は絶対に成功しないとされます。似たようなものとしては、過去の事象は未来の結果を盛り込み済みという考え方もあり、殺害計画を逃れるうちに両親に愛情が芽生え、乗り切った末に二人は結婚して私が生まれる事になるという考え方もあります。

 「並行宇宙」と呼ばれる仮説では、時はいくつにも分岐していて、私が両親を殺害しに行かないタイムラインに殺害に成功するタイムライン、失敗するタイムラインと、多くの可能性に合わせた分岐が起こって複数の並行した世界が存在し、タイムトラベルで行けるのはその中の一つの世界とされます。

 量子力学の理論では、確率がゼロではないすべての無作為な量子事象はそれぞれ異なる世界で実際に起きており、歴史となるタイムラインは常にさまざまな世界に分岐しているとされ、過去に遡るタイムトラベルが可能だとしたら、旅行者が遡った先は出発点とは異なる歴史の枝の一つと主張されています。

 並行宇宙という考え方はパラドックスを解決する近道のように思えますが、遡って戻った先は別の世界で、そこから戻る現代も分岐した幾つかの世界の一つとなると、時間旅行ではなく異世界旅行のように思えてきて、本当にその旅を時間旅行と呼んで良いものかと思えてきます。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
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