第3065回 正しい除去方法



 あまり賛成したくはない事ですが、戦争はテクノロジーを進化させる起爆剤となるという意見があります。実際、戦争によって誕生したり、高度に進化を遂げた事例は多く存在し、日常を支える存在となっているものもあります。

 そうした戦争の中で生まれ、進化してきたものの中で、日常の生活に何の役にも立っていないものの一つに「地雷」というものがあると思います。安価で殺傷力の強い地雷は、世界中の紛争地帯で利用され、紛争終了後も現地に大きな災いを残し続けています。

 地雷がもたらす被害としては、人や車両、家畜などが除去されずに残っていた地雷に触れて被害に遭うという直接的被害に併せ、その地に地雷が敷設されている事でその土地の経済的価値が下がってしまうといった間接的な被害も存在するとされます。

 地雷と縁のない日本ではあまり知られていない事ですが、地雷はそんな二つの被害とは別に、埋設され続ける事でその土地を汚染してしまう土壌汚染という被害ももたらしてしまうとされます。爆薬として使われているTNT火薬から化学物質が漏れ出してしまい、土壌に浸透してしまうためですが、最近の研究によって「地雷は除去するよりも爆発させた方が環境に優しい」という意外な結果が報告されていました。

 スコットランドのダンディー大学とジェームズハットン大学、オーストラリアのチェムセンターとカーティン大学の研究者からなるチームが地雷を爆発させずに除去した場合と、爆発させた場合の土壌に残されているTNT量の違いを分析したところ、予想に反して爆発させた方が少ないという結果が得られています。

 理由としては、爆発によって周囲の土壌が動かされてしまい、土の中に隙間が作られる事で土壌の多孔性が向上し、微生物や菌類による有害物質の自然な分解が促進されるためとされ、研究者の一人、ニック・デイド博士によると「爆発のお陰で汚染を除去してくれるバクテリアが土壌に浸透しやすくなる事が原因」と説明されています。

 TNT火薬から漏れ出した有毒な化学物質というとどこか怖ろしげな感じがしてしまいますが、自然の力はそれさえも分解してしまうという事に大自然の偉大さを感じつつ、そうであるのならばドローンなどを使って上空から電磁波を照射し、地雷原を一気に片付けてしまえばと少々乱暴な事まで考えてしまいます。

 以前耳にした情報では、3ドル(USドル)の地雷一つを処理するのに200ドルから1000ドルの費用が必要になるといわれ、紛争が片付いて戦闘が行われなくなったばかりの地域では経済的に費用の捻出が難しいともいわれます。

 危険を冒しながら一つひとつ手作業で探して除去するよりも、遠隔操作で爆破した方が環境にも優しいとなると、地雷の除去がさらに進んでくれないかと願ってしまいます。


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第3064回 毒の利用



 かなり記憶は薄れてはしまいましたが、熊本県民にとって郷土食でもあり、子供の頃から見掛けていた「辛子蓮根」で食中毒事件が起こり、死者まで出てしまったという事はショッキングな出来事でもありました。

 その際、食中毒菌として一気に名前が広まったのがボツリヌス菌で、嫌気性細菌である事から真空パックに入れても増殖を続けられるという事も、それまで真空パックに入れれば食品の日持ちをある程度確保できると考えていた事が、油断以外のなにものでもなかった事を意識させてくれました。

 そんなボツリヌス菌の名前に再び出会うのは、食品衛生の現場ではなく医療に関する事でした。ボツリヌス菌が作り出し、辛子蓮根による食中毒事件の際は死者まで出してしまった毒、A型ボツリヌス毒素(ボツリヌストキシン)は神経伝達物質であるアセチルコリンの伝わりを弱めるという働きが医療分野で応用され、眼瞼痙攣をはじめとする痙攣を止める薬剤として使われています。

 美容分野へも応用は進み、しわを伸ばす働きがあるとして「ボトックス注射」と呼ばれて美容整形では効果を発揮していました。最近では顎の部分の筋肉を細くする事で、すっきりとした小顔に見せるといった目的でも使われている例を多く見掛けるようになってきています。

 そうした生物毒の医療分野への応用に新たな毒素が加わろうとしています。つい先日、その毒を使う蜂の存在を知ったばかりだった事もあり、もうそんなところまで研究が進んでいるのかと驚かされながら、研究成果を待ちたいと思ってしまいます。

 その蜂は「エメラルドゴキブリバチ」と呼ばれるもので、ゴキブリをゾンビ化して操るという驚くべき生態を持つ蜂として紹介されていました。

 エメラルドゴキブリバチは宿主としてゴキブリを確保する際、まずゴキブリの胸部を刺して毒液を注入します。注入された毒液によってゴキブリは5分ほど肢が麻痺した状態になります。その麻痺して動けない簡に脳を刺すと、ゴキブリは30分ほど活発に身繕いをした後、動かなくなり自分の意思では動く事ができない「寡動」と呼ばれる状態になってしまいます。

 ゴキブリは動けないといっても麻痺している訳ではなく、蜂の誘導があれば動く事ができ、自らの意思では動けないだけの状態にあるとされます。その状態になったゴキブリを蜂は触覚を引っ張って誘導し、自らの巣穴まで歩かせて移動してゴキブリの体内に卵を産み付けます。

 一週間もすると卵は孵化して、幼虫はゴキブリの体内を食べ尽くしてしまうのですが、卵を産み付けなかった場合、ゴキブリは正常な状態に戻って、自らの意思で逃げ出す事ができるともいわれます。

 カリフォルニア大学リバーサイド校の昆虫学と神経科学の教授であるアダムス博士は、エメラルドゴキブリバチから毒液を採取して成分を分析した結果、ドーパミンとこれまで知られていなかったアミノ酸が幾つか繋がった状態のペプチドが含まれていたと発表しています。

 新発見のペプチドは「アンピュレキシン」と名付けられ、蜂がゴキブリを操る上で重要な役割を担っていると考えられると同時に、寡動が主な症状一つであり、ドーパミンが深く関わっているパーキンソン病の治療の足掛かりになるのではと期待されています。

 蜂はアンピュレキシンを用いてドーパミンの生成を妨げる事によってゴキブリを寡動の状態にして操っていると考えられ、アンピュレキシンがターゲットとしている細胞を見つけ出して、詳細なメカニズムを探る事ができれば、ドーパミンを生成する細胞の変性によって発症すると考えられているパーキンソン病の治療方法が見付かるかもしれません。

 当初、ゴキブリをゾンビ化して自らの巣穴へ誘導するという話を聞いた際は、少々背筋が寒くなるものを感じてしまったのですが、パーキンソン病の治療に繋がるかもしれないと知らされると、思わず応援してしまいたくなってしまいます。



第3063回 害か益か?



 薬の王様といわれると、何が該当するのかと効能面や利用率の高さなどを考えてしまうのですが、百薬の長といわれると、すぐに酒の事と判ります。発酵食品でもある酒は、適量を守っていれば多くの効能に与かれると昔からいわれてきました。

 その反面、酒は微量であっても身体にとっては毒物であり、適量といわれる量を守ってはいても、体にダメージを与えてしまうという主張はこれまでも根強くされていました。

 酒が体にダメージを与えるという理由の一つは、アルコールが分解される過程でできるアセトアルデヒドの存在で、二日酔いの際の頭痛の原因物質として知られていましたが、DNAやタンパク質に結合して付加体となり、さまざまな疾患の原因となっている事が示唆されています。

 特に幹細胞のDNAへの損傷は深刻とされ、幹細胞のDNAにアセトアルデヒドが作用して付加体となるとその損傷は不可逆的とされ、いろいろな細胞に変化するという幹細胞はその役割を果たせなくなるとされます。

 そうした研究結果だけを見ていると、酒を飲む事は体に非常に大きなダメージを与える事と思えてくるのですが、体もそうした脅威に対して無防備ではなく、アセトアルデヒドを無害化する酵素、アルデヒドデヒドロゲナーゼやDNAの修復システムも備わっています。

 修復機能を無視したままで脅威をいうのも一方的に思え、また、防御はどこまで有効なのだろうと気になりながら、酒は百薬の長なのか、それとも害毒なのかと考えてしまいます。


 

第3061回 青の秘密



 坊ちゃんとは猫の里親探しのサイトを通じて出会いました。とても小さな子猫でしたが、将来、大きく育ってくれそうな雰囲気とどこか微笑んでいるような表情に、この子と一緒なら幸せな日々を過ごせると思えて、急いで申し込みをしました。

 それから我家に来てくれるまで少し時間が掛かったのですが、その間もいろんなやり取りをさせていただき、画像もたくさん送っていただきました。どの画像も青い瞳が印象的で、以前一緒に暮らしていた猫の瞳は緑色だった事から、初めて青い瞳の猫と暮らす事になると考えていました。

 隣県とはいえ立地的には遠い長崎からの長旅を経て、坊ちゃんは我家へ来てくれました。慣れない長距離の移動に疲れたのか、私が抱くとそのまま眠ってしまい、青い瞳は閉じられていました。

 そんなお気に入りの青い瞳でしたが、気が付くと緑色に変わっていて、先猫と同じ色に南阿蘇の太陽にはこの色が良いのかと納得しながら、気になって調べてみた事があります。

 幼い坊ちゃんの青い瞳は「キトンブルー(子猫の青)」と呼ばれるもので、坊ちゃんに限らず全ての子猫は青い瞳で生まれてくるとされます。それが成長に伴って瞳の色が変化し、生後2~3ヶ月頃には、本来その猫が持つ色になります。

 全ての子猫が青い瞳で生まれてくる理由は、生後間もない子猫ではメラニン色素が充分に働いていないためで、目の虹彩の部分がメラニン色素の影響を受けないと透明感のある青い色になります。

 その後、成長に伴ってメラニン色素が働き始めると瞳は本来の色となり、青系のサファイヤブルー、ブルー、アクア。緑系のグリーン、ヘーゼル。黄色系のイエロー、ゴールド。褐色系のオレンジ、カッパーといった9種類に分かれるとされます。

 ごく稀に左右の瞳の色が違う「オッドアイ」と呼ばれる状態になる事があり、特に白猫に多いとされます。一説には白猫の25%はオッドアイともいわれ、生き物の中では最多の比率ともいわれます。

 オリーブグリーンのように見える坊ちゃんの瞳は、陽射しが弱い冬の朝などに青く見える事があり、成長によってどのように色合いが変化したのか、もっとしっかり観察しておけばよかったと後悔しています。


 

第3058回 老化の核心



 この数年、著しく発展を遂げている分野の一つにアンチエイジングがあると思います。老化を遅らせて健康寿命を延長する。誰もが願う事ですが、なかなか実現するのは難しい事でもあります。

 老化は死に至る病と捉える事ができます。地球上のほびすべての生き物が感染していて、生まれたその時から病状の進行が進んでいきます。生き物は進化の過程で致命的な疾患への対抗措置を手に入れてきているのですが、老化という病に対して無力な背景には成長とセットになっていたためともいわれます。

 最近の研究で老化を進める原因物質の一つが特定されつつあるとされ、「オステオポンチン」と呼ばれる物質が老化に深く関わっていると考えられています。まだ研究の途上で仮説段階とされますが、オステオポンチンを人為的に減らす事ができれば若返りも可能とされます。

 2016年4月に発表された疫学研究の論文によると、100歳を超えて大きな病気も抱えていない健康長寿グループと一般の70代のグループとの間で血液中のオステオポンチンの量を比較したところ、健康長寿グループではオステオポンチンの量が圧倒的に少ない事が判っています。

 健康的に年を取っている人、体の老化が進みにくい人は、体内のオステオポンチンの量が少ない事が判り、オステオポンチンこそが生物の老化を進めている原因物質という事ができ、老化が進んでいる人とそうでない人では、血液中のオステオポンチンの量は3倍近くも血中量に差がある事も観察されています。

 オステオポンチンは死に至る病を進行させてしまう悪者かというとそうでない一面を持ち、オステオポンチンの「オス」は「骨」を示し、「ポンス」は「橋」の意味を持っていて、その名の通りカルシウムとコラーゲンを結合して骨を形成する重要な役割を持っています。

 80年代にはすでに骨を作る物質として発見されており、健康の維持には欠かせない物質とされながら、腎臓の周りで増え過ぎると尿路結石になりやすくなるという傾向も知られていました。

 オステオポンチンの重要な機能の一つとして、免疫力を活性化するというものがあり、体のさまざまな臓器、部位で必要に応じて作られています。ケガをした際は傷口付近で作られ、免疫力を活性化させて傷を治癒する事に貢献しています。

 そんなオステオポンチンが老化を進めてしまうメカニズムのカギは、免疫に関わるTリンパ球にあるとされ、加齢に伴って異常化するTリンパ球の性質がオステオポンチンを悪玉に変えてしまいます。

 本来、Tリンパ球はオステオポンチンを作る事はないのですが、異常化すると大量のオステオポンチンを作り出すようになってしまいます。免疫力を高めて傷を治すオステオポンチンは、通常であれば傷が治るとその場からなくなり、炎症も鎮まるのですが、Tリンパ球によって大量に作り出されるオステオポンチンは免疫を活性化し続け、体の各所に小さな炎症を長期間にわたって作り出してしまいます。

 長期にわたる慢性炎症は体にジワジワとダメージを与え、血管で起こった慢性炎症は動脈硬化へと繋がっていきます。これまでの研究で慢性炎症は動脈硬化だけでなく、糖尿病やガンなどの発症に関わっている事も判っており、アルツハイマー病の発症にも影響を与えている事が明らかにされてきています。

 加齢と共に増加し、老化を進めてしまうオステオポンチンですが、最新の研究で内臓脂肪型の肥満によって増加する事が明らかにされています。内臓脂肪をコントロールする事でオステオポンチンの量を少なくし、アンチエイジングに繋げられる事が判り、アンチエイジングとダイエットが意外な接点を持つ事が確認された事になります。

 いずれオステオポンチンの量を有効にコントロールする手法が見付かるのかもしれませんが、それまでは健康的な生活を送る事が健康寿命を延ばすという基本に忠実である事が大切と思えてきます。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
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