第3037回 グラスプリント



 テクノロジーの進歩として非常に夢のある技術として、3Dプリンターという存在があると思っています。立体的にものをプリントアウトできるという事は、将来的に基本的な元素をトナーとして分子レベルでのプリントが可能になれば、食品をデータで購入してダウンロードし、有名シェフの料理を食卓でプリントアウトしてできたてを手に入れる事も可能になると考えられます。

 SF映画の中で、自販機のような機械に食べたい物を告げるとすぐに取り出し口から出てくるというものがあったのですが、それが現実になろうとしていて、食のあり方も大きく変わろうとしていると思えてきます。

 そんな3Dプリンターを使う技術の中で、ガラスのプリントアウトは非常に困難とされていました。自分でデザインしたガラスのオブジェを作ったり、割れたグラスをプリントアウトして補充したりといった事になれば便利だと思えるのですが、ガラスを成型する際に必要となる高温の処理がガラスのプリントを難しいものとしていました。

 これまでも幾度かはガラスのプリント技術が開発されていたのですが、高温の処理ができないために層ごとの結着が完全ではなく、透明感が低かったり、滑らかさに欠けるものとなっていました。

 今回開発されたプリント技術はドイツのカールスルーエ工科大学の研究チームによって開発されたもので、「ステレオリソグラフィ(光造形法)」と呼ばれる技術を使う事で、これまでガラスのプリントを難しくしていた問題を回避しています。

 研究チームは微細な粉末にしたガラスと液体ポリマーの混合物を使って3Dプリンターで成型を行い、層ごとに紫外線レーザーを照射する事で急速に硬化させて造形し、できあがったオブジェを高温の窯に入れる事でガラスを溶かして一体化させ、不要なポリマーを焼失させる事で層の痕跡が残らない透明なガラス製品を完成させています。

 プリントアウトした後、高温の窯に入れるという工程が家庭向きではないようにも思えますが、似たような手法で銀の粘度を使ってアクセサリーを作り、高温になる容器に入れて電子レンジで加熱して仕上げるという事は今日でも行われており、それほど現実的ではないようにも思えてきます。

 今後、技術が発展すれば窓ガラスや鏡にも使えるような滑らかで高精度なガラスも作れるようになるとされ、やがてはガラスが割れる音はプリンターの電源を入れる合図になるのではとも思えてきます。


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第3036回 美しき未知の毒



 梅雨が近付いてくるとさまざまな場所で鮮やかなアジサイの花を見掛ける事が多くなり、ホームセンターの植物コーナーではこれまでに見た事もない形や色合いのアジサイを見掛け、意外と品種が多い事にも新鮮な驚きを持ってしまいます。

 先日、食事をした店では、皿の隅にアジサイの花が飾り付けられ、季節の趣を感じさせられたのですが、食べられる花と勘違いして口にする危険性がある事から、できればやめた方が良いと思ってしまったりもしていました。

 普段、色鮮やかなアジサイの花を眺めている分には意識する事はないのですが、アジサイには毒があり、誤って飾り付けに使われたアジサイの葉を食べてしまったために食中毒が発生するといった事例も見られています。

 アジサイの毒が広く知られるようになったのは、2008年に茨城県と大阪府で起こった食中毒事件で、料理に添えられていたアジサイの葉を食べてしまい、嘔吐や吐き気、めまい、顔面紅潮といった症状が報告され、当時は料理の飾り物用としてアジサイの葉が流通していた事から、二次被害を防ぐためにも大きく報道されていました。

 アジサイには青酸配糖体と呼ばれる毒素が含まれており、食中毒の原因もアジサイに含まれている青酸配糖体が引き起こしたと考えられました。しかし、アジサイに含まれる青酸配糖体は少量であるため、大規模な食中毒を引き起こすとは考えられないという意見が出され、本当に青酸配糖体が原因であったのかについては、未だに謎のままとなっています。

 青酸配糖体が原因ではないにしてもアジサイによって食中毒が引き起こされた事は確かな事実なので、アジサイに毒が含まれている事は確かなように思えるのですが、その毒が何であったのかについては未解明のままとなっています。

 毒素の発見は極めて困難とされ、抽出した毒素が不安定な場合、空気や光に触れた瞬間に分解してしまい、毒性を失ってしまう事も考えられます。古い書物にはアジサイの葉を食べる事で、食べたものを吐き出す事を促すという働きがある事が記載されていて、何らかの物質が含まれている事が覗えます。

 古くから解熱や咳止めの効能があるとして漢方薬として使用された実績はありますが、毒素の特定ができるまでは食からは遠のいていた方が良いと、美しい花を眺めながら思ってしまいます。


第3035回 200年ぶりの青



 青い色が好きで、どんな青色かと聞かれると、コバルトブルーで色付けしたガラスの色がすぐに思い浮かんできます。透明ガラスにコバルトブルーの青いガラスを被せて、彫刻を施したオオカミの柄のマグカップがお気に入りで、一番良い光が当たる東の窓辺に飾って眺めています。

 そんなコバルトブルーは人が発見した最新の青い色の色素となっていて、最新といってもフランス人の化学者、ルイ・ジャック・テナールによる発見は今から200年以上も前の1802年の事となっています。

 新たな青い色素はオレゴン大学で材質科学を研究するマス・サブラマニアン教授の研究チームが、電子工学に活用できそうな新たな素材の研究を進めているうちに偶然に発見されています。

 酸化イットリウムと酸化インジウム、少量の酸化マンガンを混合して加熱し、炉から取り出してみると鮮やかな青い色の物質に変化している事が発見され、それぞれの元素記号からイットリウムの「Y」、インジウムの「In」、マンガンの「Mn」を組み合わせて「YInMnブルー」と名付けられました。

 今回発見された新たな色素は、赤と緑の波長が完全に吸収されて青の波長のみが反射されるという特殊な構造を持つため、非常にくっきりとした青色で、極めて安定した化合物であるために色褪せも毒性の心配もないとされます。

 似たような色合いとしてはラピスラズリから採れる群青色のウルトラマリンがありますが、ウルトラマリンは時間の経過によって分解してしまって色が褪せてしまうという欠点があり、新色の青は色褪せの心配が無い事から文化財の修復などにも期待が寄せられています。

 既に紫外線を反射する特性から断熱効果を発揮して建物内を涼しく保つ省エネ塗料などへの関心も寄せられているそうですが、年内には大手のクレヨンメーカーから新色として発売される事が発表されています。

 発売に当たって「YInMnブルー」はもっと親しみやすい名前で呼ばれるように、子供たちに名前を募集しており、9月頃には新たな名前が決まるそうなのですが、200年ぶりに発見された新たな青色で子供たちが何を描くのか、とても気になってしまいます。


第3025回 基礎代謝の違い



 以前、車を修理に出した際、代車としてお借りした軽乗用車が異常にアイドリング時の回転数が高い車で、信号待ちをしている間もアクセルを踏み続けている感じで、運転していて何となく落ち着けないという事がありました。

 そのせいか修理中の愛車と比べて燃費がとても悪く、修理が終わるまでの間、数日おきにガソリンスタンドへ通う必要に迫られていました。その際に思った事が、アイドリング中という車が何もしていない時に消費するエネルギーが大きい、いわゆる基礎代謝が高いという事が日常的なエネルギー消費に大きな影響を与え、ダイエットに有効と実感できました。

 適度な運動を通してカロリーを消費し、筋肉量を増やす事で基礎代謝を上げる。リバウンドの可能性が少ないダイエット方法として広く定着している考え方だと思えます。そんな絶対的とも思えるダイエット方法が揺らぐようなレポートが先日報告されていました。

 体型が華奢であったり筋肉質であったりといった事は、それほど基礎代謝には影響を与えてはおらず、筋肉量を増やして基礎代謝を高め、ダイエットするという考え方は成り立たなくなってしまいます。

 基礎代謝の約20%は筋肉による消費とされます。そのため筋肉量の増加はエネルギーの消費量を増やして、カロリーの収支を改善してくれるように思えるのですが、筋肉による基礎代謝のほとんどが熱の生産である事を思うと、華奢な人も筋肉質の人もそれほど体温には違いがない事が思い浮かんできて、筋肉量と基礎代謝にはそれほど関連がないように思えてきます。

 筋肉の量が多くなると効率よく熱を作り出して体温を維持する事ができるので、筋肉による熱の生産はそれほど大きなエネルギーを必要とせず、逆に少ない筋肉量では熱の生産に大きなエネルギーが傾けられる事が考えられ、結果的に基礎代謝は大きな違いとなってこないという結論が得られる事が判ります。

 それでは筋肉を付けても痩せないのかというとそんな事はなく、筋肉量が多くなると活動代謝が増える事から、筋肉量を増やした上で運動を行うと、より多くのエネルギーを消費する事になり、ダイエットに有効という事ができます。基礎代謝ではなく活動代謝によるダイエットに繋がる筋肉の増量は、これからも失敗の少ないダイエット法として続けられていくと思えます。


 

第3023回 覆る神話



 糖質制限ダイエットの登場でカロリーや脂質に関する考え方が一変したように、健康に関する考え方は時として大きく変化してしまう事があります。そんな中、これだけは揺るがないだろうと思っていた「減塩」に対する考え方が変わろうとしています。

 事の起こりは2013年にアメリカ医学研究所から出されたレポートで、それまで塩分の摂取を制限する事で血圧の低下が見られる事から、減塩する事は健康に有益とされてきましたが、実際に疾患予防に繋がっているのかについては検証されておらず、塩分摂取量を減らす事が病気を減らしているのか検証したものでした。

 その後、いきすぎた減塩が認知症のリスクを増大させたり、動脈硬化に繋がる事が指摘されるようになり、多くの研究が減塩が健康の増進に寄与しない事を示すようになります。

 特に2014年に発表された論文では、10万人以上の男女を対象に4年近くも追跡調査を行い、尿中に含まれるナトリウム量の計測から日常的な塩分の摂取量を計算し、塩分摂取と心血管疾患やそれが原因で死亡するリスクについての検証を行った結果として、一日に15g以上を摂取する塩分過多のグループではリスクが増大すると同時に7.5g以下の摂取量が少ないグループでもリスクが高まるという結果が報告されています。

 塩分の摂取量とリスクの高まりをグラフに描くと、少な過ぎる塩分摂取量は心血管疾患のリスクを高め、徐々に摂取量が増えるに従ってリスクが下がり、一日に13g程度を底にリスクは高まるようになり、アルファベットの「J」を横に広く書いたような曲線を描くようになります。

 そうした結果に対して、人間は元来、食肉や獲物の血液などから生命の維持に欠かせない塩分を得ていましたが、それらは非常に少ない事から塩分を体内に貯め込んでおく仕組みが発達していて、塩分が不足すると腎臓のセンサーが反応して塩分を体外に逃がさないように「レニン」を分泌してアンジオテンシンを活性化させます。アンジオテンシンには動脈硬化や臓器障害を高めてしまう副作用がある事から、減塩で健康リスクが高まってしまうという仮説が立てられています。

 ナトリウムは人にとって極めて重要な物質で、摂取量を制限する事で弊害が生じる事は当然という意見もあり、今後、健康維持には塩分を減らせば減らすほど良いという常識も覆る事となると思えます。減塩神話が揺らぐ中、何事もほどほどにという事だけは普遍的だと思ってしまいます。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
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