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第3120回 サンゴのために



 2018年7月3日、ハワイで日焼け止めを禁止する法案が成立したという事が話題になっていました。法律は2021年1月1日から施行されるという事で、暑さと陽射しが苦手な身としてはますますハワイへ行く理由がなくなったというか、日焼け止めもなしに強い陽射しの中を歩くのは自殺行為のようにも思えます。

 実際には紫外線をカットする成分としてオキシベンゾンとオクチノキサートを含む市販の日焼け止めの販売と流通が禁止されるだけで、他の成分が使われている日焼け止めの使用は可能で、全面的に日焼け止めが使えなくなったわけではないといいます。

 ハワイで日焼け止めが禁止と聞くと、すぐにサンゴの保護に本格的な取り組みが始まったと思えました。以前から多くの研究で日焼け止めに含まれる成分がサンゴの白化現象を引き起こし、海洋生命体の遺伝子損傷を引き起こしているとされていました。

 その場に行く事はないにしても美しいサンゴ礁の海には憧れてしまうので、ハワイの取り組みが世界的に広がる事を願ってしまいます。世界各地でサンゴの白化現象が確認されていて、このままではサンゴが絶滅してしまうのではという声も聞かれています。そんなサンゴについて朗報となりそうな論文が公開されていました。

 論文では海中に設置したスピーカーから特定の種類のサウンドを流す事で、死滅しかかったサンゴの再生を促す事が明らかになったとされます。サンゴも音楽によって勇気付けられるのかと思わず考えてしますのですが、研究で使われたのはクラシックやロックなどの音楽ではなく、健康的なサンゴ礁に満ちている自然の音だといいます。

 生きたサンゴ礁が発する音を流す事で、死にかけたサンゴの群れの周辺にも魚を呼び寄せる事ができるという仮説に基いたもので、実際に実験を行う事で仮説の正しさが裏付けられ、音の効果で魚の数は2倍にも増えています。

 40日間行われた実験の期間中には魚だけでなく、サンゴ礁の活性化に欠かせないバクテリアの数の上昇も観察され、新しい生命が生まれる場所を確保するために、魚たちはサンゴを良い状態に保とうとしていました。

 サンゴ礁を安全な生活の場としているだけに見える魚たちですが、実際はサンゴの健全な育成には欠かせない存在で、互いに助け合っている事に気付かされ、この技術が有害な日焼け止めの成分の使用禁止と共に世界中に広がる事を願ってしまいます。


 
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第3118回 殺虫剤と魚



 ネオニコチノイド系と呼ばれる殺虫剤には、現在、農薬取締法に基づいて7つの化学物質が登録されていて、昆虫の神経伝達を阻害して高い殺虫作用を発揮し、適応する害虫の種類も広く、人をはじめとする脊椎動物への急性毒性は低いという優れた効果を持っているとされます。

 環境中でも分解されにくく、残効性があるだけでなく水溶性で植物への浸透移行性も高い事から、植物に使用する事で食害する昆虫を待ち伏せして駆除するといった便利な使い方をする事も可能なため、農作物の生産性向上に役立つ農薬として広く使用されています。

 優れた効果と便利さから急速に普及したネオニコチノイド系殺虫剤ですが、近年、無脊椎動物だけでなく毒性が低いと考えられていた脊椎動物に関しても免疫機能や生殖機能の低下といった慢性毒性が報告されるようになり、使用を制限する動きが世界的に広がってきています。

 特に生態系への直接的、間接的影響は大きな問題として捉えられてきていて、世界各地で起こっているミツバチの減少の原因物質として疑われています。水溶性である事から水環境へ移行する事も考えられ、実際、河川水からの検出も報告されていますが、環境中濃度の測定例はまだ少なく、汚染実態についてはまだ明らかにはなっていません。

 そんな中、興味深い論文が11月1日付けの科学誌「サイエンス」に掲載されていました。1993年5月、島根県の宍道湖付近の稲作農家が「イミダクロプリド」という殺虫剤を使い始めます。時を同じくして周辺の甲殻類や動物プランクトンなどの節足動物の数が減りはじめ、翌年にはそれらを餌にする二ホンウナギやワカサギが激減しています。その後もイミダクロプリドをはじめとするネオニコチノイド系殺虫剤の使用は増え続け、魚の数の回復は見られていないとされます。

 この論文によって世界で最も広く利用されているネオニコチノイド系殺虫剤が水界生態系に漏れ出し、漁獲量を激減させて漁業に多大な打撃を与える事が明らかにされた事になります。

 宍道湖ではネオニコチノイド系殺虫剤の使用がはじまる10年以上前の1980年代初頭から漁場の調査が継続的に行われており、水質や節足動物と動物プランクトンの数、魚の漁獲量などを幅広く記録していました。このようなデータは非常に珍しいとされ、論文の筆頭著者で産業技術総合研究所と東京大学に所属する山室真澄氏は、このデータを使用してネオニコチノイド系殺虫剤の使用と食物網の混乱との間の明確な繋がりを見出したとされます。

 ネオニコチノイド系殺虫剤の使用を開始した1993年の前後12年に関して、魚の餌になる微小な甲殻類などの動物プランクトンの量を集計したところ、平均で83%も減少していたとされ、中でもオオユスリカの幼虫は2016年には全く見付ける事ができなかったという衝撃的な結果も得られています。

 ネオニコチノイド系殺虫剤の代表的なメーカーであるバイエル社からは、水の環境は動的なシステムであり、いろいろな物理的、化学的な変化の影響を受ける可能性があるとして、直接的な関連を否定する声明が出されていますが、変化がネオニコチノイド系殺虫剤の使用を開始した直後に起こり始めた事や塩素イオン濃度、堆積物の成分、酸素濃度などの水質の指標にはほとんど変化がない事からも関連は明らかだと思えます。

 別な研究ではネオニコチノイド系殺虫剤の使用と鳥類の激減の関連が明示されており、便利さの副作用がもたらすものの大きさを感じさせてくれます。世界的な人口の増加で食糧増産の重要性がいわれる昨今、食糧生産の必要性と環境に及ぼす影響のバランスについて早急に考えなければならない時期に差し掛かっているのかもしれません。


 

第3117回 静かな危機に



 我家の地下から水を汲み上げているポンプが壊れてしまい、しばらく家の水道が使えなくなった際、近所の水源には随分と助けてもらいました。毎日、水を汲みに行きながら良質な水が必要なだけ手に入る事にとても感謝していました。

 いつも水を汲みにいくと水源のすぐ近くにある神社にお賽銭を上げ、感謝の気持ちを伝えた後に無尽蔵とも思えるほど滾々と湧いてくる水を容器に入れていたのですが、今、世界では多くの水源に危機が迫っているといわれていて、少なくとも近所の水事情を見ているとどこか遠い世界の事のようにも思えてしまいます。

 世界各地の地下には大量の地下水が隠されていて、それらは「地下帯水層」と呼ばれています。地球上に存在する淡水で最も多いのは氷床とされますが、地下帯水層はその氷床に次ぐ水量を誇るとされ、世界中の川にとって重要な役割を果たしています。干ばつの際にも川の水量が大きく変化しないのは、地下帯水層から供給される地下水のお陰とされます。

 10月に学術誌の「Nature」に発表された論文によるとそうした地下水が人類によって何十年も大量に汲み上げられてきた結果、「ゆっくりと干からびかけている」とされています。地下水が汲み上げられている地域の15~21%がすでに重大な閾値(しきいち)を超えているとされ、その比率は2050年までに40~79%に急増する恐れがあるともいわれます。

 閾値とは、その値を超えてしまうと川の水が足りなくなり、流域に棲息する動物や植物の生存が危機にさらされる値に設定されていて、閾値を超えるという事は川の水の恵みによって育まれてきた生態系を維持できなくなる状態に陥る事を指しています。

 川の水は雨や上流の雪解け水に由来するイメージを持ってしまうのですが、実際はほとんどが地下水によるものとなっていて、地下水を大量に汲み上げる事は川の水量を減らすだけでなく、流域に暮らす湿地や植物、動物にも影響を及ぼす事になります。

 現代の生活の多くは地下水によって支えられているといっても過言ではなく、世界の食物の約40%は地下水によって育てられているとされます。そんな地下水の供給源である地下帯水層に水が満たされるには時間が掛かる事が判っていて、今、地下水を汲み上げている影響は未来に生じる事が考えられ、閾値に近付いてから危機感を持っても間に合わない可能性もあります。

 地下水の過剰な汲み上げによって川の水が完全に枯れるという事はほとんどないとされますが、流量が10%減っただけでも流域の淡水系の動植物へは大きな危険が及ぶともいわれます。

 今後、人口の増加によってさらに地下水の需要が高まる事が考えられます。20世紀は石油を巡って人々が争い、21世紀は水を巡って争うともいわれる時代に生きる者として、水の利用について厳しく見直す必要を感じてしまいます。


 

第3111回 衝撃の吸収



 ひどい乾燥体質で、洗顔後は水気が乾かないうちに慌てて保湿剤で保護しないと、すぐに皮膚が突っ張った感じになってしまいます。最近はそうしたニーズが多いのか、保湿剤にも紫外線をカットする機能が備えられていて、ある程度の紫外線は防いでくれるのですが、保湿剤の後は日焼け止めを塗って、つい当たってしまう生活紫外線を防ぐようにしています。

 聞くところでは日焼け止めを塗らない、塗り忘れてしまう事が多いとされる瞼に皮膚ガンが増えているとの事で、オゾン層の破壊がいわれるようになって久しい昨今、日焼け止めは欠かす事のできないものとなったようにも思えます。

 そんな日常に溶け込んでいるようにも思える日焼け止めに関し、気になる臨床試験の結果がFDA(米国食品医薬品局)より発表されていました。日焼け止めに配合されている紫外線防御剤が皮膚から体内へ吸収され、血液を介して全身を巡っているという事が判ったとされます。

 かつて日焼け止めは海水浴へ行った際などの限られた場面でのみ使われていました。紫外線がガンをはじめとする多くの健康リスクを引き起こす事や、オゾン層が破壊されてオゾンホールができた事で昔よりも多くの紫外線が地上に降り注いでいる事が広く認識されるようになると日焼け止めは日常的に使われるようになり、日焼け止めに配合される紫外線防御剤が皮膚から吸収されているのではないかという疑いが持たれるようになっていました。

 紫外線防御剤の多くは、何十年も前にFDAの許認可を得て使用されています。しかし、それは皮膚の表面で使用される事のみを想定しており、体内を巡る事は考慮されていません。今回の研究では、日焼け止めが皮膚の表面に塗られてからわずかな時間で、配合されている成分が血液中に取り込まれる事が発見されています。

 現時点では紫外線防御剤が体内へと取り込まれた事による影響は判っておらず、今後の研究が必要とされています。発ガン性の有無や内分泌系への影響など懸念点は多く、FDAは紫外線防御剤の16種に関し、再審査を行う事を明らかにしています。

 すでにFDAは紫外線防御剤の安全性と有効性を証明するために、血液への吸収に関するデータの提出を義務付けています。日焼け止めを使用しない事は皮膚ガンのリスクを高めてしまう事が知られているので、吸収された成分が引き起こす健康リスクと、どちらが高いリスクとなるのか、そんな事を考えなくてはいけなくなるのかと、今後の展開を気にしてしまいます。


 

第3110回 硬い関係



 リビングの窓、サッシの部分に坊ちゃんが興味を示すので、何かがいるのだろうと考えながら、最近、家の中に侵入する事が増えてきているカメムシではない事を願いつつ、怖るおそる様子を見てみると黒っぽい色のゾウムシがいました。

 特徴的な長い口からすぐにゾウムシと判り、一安心しながらそっと紙の上に乗せて捕獲し、窓の外へとお引き取りいただいたのですが、食欲旺盛な草食昆虫という事で、植えたばかりの花の苗に被害が出ない事を願ってしまいます。

 ゾウムシは昆虫網甲虫目ゾウムシ上科に分類される昆虫で、さまざまな生物の分類上、ゾウムシ上科に属するのは最多数を誇るとされるくらい多種多様な生物で、小さなものは顕微鏡レベルから大きなものでは40mm近い大きさのものが世界中に分布しています。

 判っているだけでも約6万種が存在し、そのうちの1000種以上が日本に生息しているとされます。その中の一種、石垣島に生息するクロカタゾウムシはその名の通り黒くて硬く、その硬さは最強とまでいわれていて、ネットで調べてみても「死んだクロカタゾウムシを拾ったので、試しに指で潰してみようとしたが、指が痛くなるだけで潰せなかった」「標本用昆虫針の一番太いステンレス製の5号でも貫通できなかった」「硬くて消化できないので、鳥もクロカタゾウムシを食べようとしない」といった言葉が見られます。

 ひたすら硬くなる事で天敵がいない状況を作り出してきたクロカタゾウムシですが、その驚異的な硬さの秘密が先日解明されていました。ゾウムシをはじめとする甲虫は、外敵や乾燥から身を守るために体の表面に硬い外骨格を持っています。クワガタやカブトムシと比べてもクロカタゾウムシの外骨格の硬さは群を抜いており、その硬さの秘密はアミノ酸の一種である「チロシン」にあるとされます。

 チロシンは外骨格を形成するタンパク質とキチン質を結合する役割を担っており、クロカタゾウムシの体内ではこのチロシンが豊富であるとされます。しかし、豊富なチロシンを作り出しているのはクロカタゾウムシ自身ではなく、クロカタゾウムシの体内に棲みついている「ナルドネラ」と呼ばれる細菌である事が、今回の研究によって解明されています。

 ナルドネラは1億年前からゾウムシの体内に棲息するようになった事が知られており、そのナルドネラのゲノムを解析したところ、生存に必要な最低限の遺伝子しか持っておらず、大半の遺伝子を失いながらチロシンの生成に特化した機能を有している事が判っています。

 試しにクロカタゾウムシの幼虫に抗生物質を投与して体内のナルドネラが少ない状況を作り出すと、クロカタゾウムシの体液中のチロシン濃度の大幅な低下が観察され、その後、成長した成虫では黒い色素が失われて赤い色合いの柔らかい外骨格になる事が確認されていました。

 別な実験では高い温度で飼育する事で体内のナルドネラが死滅させると、クロカタゾウムシは成虫になる事ができない事も判っており、クロカタゾウムシが成虫になるにはナルドネラが必要である事も示唆されています。

 ナルドネラはクロカタゾウムシという最適な棲息環境を得る代わりに大量のチロシンを提供し、クロカタゾウムシの健やかな成長と天敵を寄せ付けない強靭な外骨格を支えていた事になります。

 1億年もの間続けられてきた共生関係という事になりますが、強さの秘密が解明された事で新たな脅威がゾウムシに迫っているともいえます。その旺盛な食欲から害虫扱いされているゾウムシですが、今回明らかになった共生のメカニズムを逆手に取って、共生細菌だけを標的とした薬剤を散布すれば人体に悪影響を及ぼす可能性が低い方法でゾウムシ類を駆除する事ができると考える事ができます。

 強さの秘密が判った事で危機を迎える。ドラマチックな展開のようにも思えますが、細菌相手の攻撃は薬剤耐性菌の問題のように怖いものを感じてしまいます。共生細菌を利用しているのはゾウムシ類に限らず、昆虫全体の2割近くが成長や生存、繁殖といった事を共生細菌の影響を受けているとされ、その中には害虫も多いといいます。

 ゴキブリ、シロアリ、シラミ、アブラムシ、ウンカ、ヨコバイ、カイガラムシなど、名立たる害虫たちが共生細菌の恩恵を受けている事から、共生細菌を攻撃する事で多くの害虫問題を解決できるようにも思えます。しかし、細菌の対応力の高さを思うと、下手に関わらない方が良いようにも思えてきます。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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