第3034回 紙の魚



 以前、住んでいたマンションで、とても素早く動き回る銀色の小さな虫を発見した事がありました。部屋の電気を点けると明るいのが苦手なのか、そそくさといなくなってしまいます。何か害を及ぼす虫という感じもしなかったので放置していたのですが、やがて形は同じなのですが銀色ではなく黒い虫を見掛けるようになり、あまり光から逃げるという様子もなくなった事から、黒くなった事で光を克服したのかと短時間で進化してしまったような不気味さを感じた事がありました。

 ある時、ティッシュペーパーを使って捕まえてみた事があるのですが、ティッシュペーパーには黒い鱗粉のようなものが残され、光を遮るためのもののようで、光を苦手としなくなった事は確かなように思えます。

 何の虫なのか気になって調べてみると、その独特の存在感から「紙魚(しみ)」と呼ばれる虫である事が判ります。迷惑害虫に入れられているらしく、部屋に紙魚が出た事で絶望感に苛まれたという話まできかされると、部屋にいるという事があまり愉快な事ではないと感じられてきます。

 紙魚は通常の虫のように卵から孵化すると幼虫として過ごし、やがて蛹になって成虫となるという成長の段階を経ず、孵化すると小さい成虫の姿で生まれてきて、その後、脱皮を繰り返しながら大きくなっていき、一生脱皮をし続けます。

 小さな姿からは考えられないほどの長寿で、8年ほどは生きるとされ、甲虫の中では長生きする存在となっています。屋内では紙や乾物、布などの表面を舐め取るように食べるとされ、よく書物に細長いトンネル状の穴をあけて紙魚の仕業といわれますが、紙魚は表面を削るだけで書物に穴を開けてしまうのはシバンムシの仕業となっています。

 マンションの天井は木目調とはなっていたのですが、紙製のクロスを貼っただけのもので、クロスが貼られた板には隙間があるらしく、その継ぎ目の部分に穴が開いているのを発見すると、部屋で紙魚を見掛ける頻度が高まり、やがて天井の穴が広がっていきました。

 紙魚が繁殖して天井のクロスを食べている事が確実になってきたので、さすがに大家さんに報告すると業者を呼んで駆除してくれ、それ以降、紙魚を見掛ける事はなくなってしまいました。

 天井のクロスも新しいものに張り替えてもらえたので、それほど紙魚に困らされたという感じもなく、見掛けて絶望感という事には実感が沸かないのですが、紙魚の語源ともなった魚のように体をくねらせて逃げ去る姿を懐かしくも思える半面、もう見なくても良いかと思えてきます。


 
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第3026回 疲労回復定食



 かつて美味しいけど健康を考える上ではあまり良いとはいえない、そんなメニューの一つとうのが「とんかつ」の位置付けにあったように思えます。サクサクに揚げられた衣に包まれた柔らかな豚肉と、それに合わせられる酸味と旨味、甘味が利いたソースという組み合わせは、ダイエットの強力な敵のようにも思われていました。

 そんなとんかつの評価が変化し始めたのは、ダイエットの考え方の主流がカロリーや脂質の摂取の制限といったものから糖質を制限して血糖値の急激な上昇を抑えるといったものへと移っていったためで、高カロリーや揚げ油、豚肉に含まれる脂肪といった呪縛からとんかつを解き放ってくれたともいえます。

 少しずつ評価が変わってきているとんかつの新たな位置付け、それは現代人に必要な疲労を回復させてくれる滋養食となっています。特にさまざまな食材と合わせられるとんかつ定食は、多くの栄養素を含んでいる事から疲れた時には食べておきたい、そんなメニューとなっています。

 もともと豚肉はエネルギーの生産に欠かせない栄養素であるビタミンB1が豊富とされ、定食として一緒に食べられるごはんや味噌汁、薬味のネギや付け合わせのキャベツ、味付けのソースなどにもビタミンB1は含まれる事から、一食で一日に必要とされる推奨量を遥かに超えるビタミンB1を摂取する事ができます。

 また、同じく疲労回復に役立つビタミンB2やナイアシン、パントテン酸なども多く含まれている事や傷んだ筋肉を補修するタンパク質も多い事も疲労を速やかに軽減してくれると考える事ができます。

 店によっては最初にすり鉢に入れられた大量のごまを渡され、注文した定食が出てくるまでにごまをすって待つという事もあるのですが、その場合、ごまに含まれるビタミンEやセサミンが活性酸素の除去に働きかけて、疲労による酸化ストレスやエネルギー生産の際に発生してしまう活性酸素を除去してくれます。

 カロリーばかりが意識されていたとんかつですが、体内で利用されやすさの指標を示すアミノ酸スコアに優れた豚肉が使われている事を考えると、再評価されてきている事にも納得してしまいます。


 

第3011回 猫の禁忌



 坊ちゃんはあまり食には興味がないらしく、私が食べている物を確認する事はあっても、それを食べたがるという事はありません。これまで二人が共通して食べた物というと、私が食べていたので興味を持ち、一口だけ齧って飲み込んだ食パンのみで、魚や鶏肉、カニカマなど猫が好みそうな物を用意しても、ことごとく食べないといわれてしまいます。

 二人で共通した物を美味しくいただくという事は、ペットを飼う人なら普通に願望として持ってしまいそうに思えるのですが、人は大丈夫でもペットには毒になる物があり、その一環としてネギやチョコレートは広く知られています。

 そんな人は普通に食べている物で、猫には毒となってしまう食べ物の一つに「イカ」があります。イカは魚介類であるだけでなく、猫が好きそうな食感をしている上に猫に欠かせない栄養素のタウリンが豊富なので食べさせたいと思ってしまうのですが、昔から「猫にイカを食べさせると腰が砕ける」と伝えられていて、イカを食べてしまった猫は「腰砕け」と呼ばれる歩行困難な状態に陥るといわれます。

 イカには猫を歩行困難にしてしまうような神経毒は含まれていないのですが、チアミナーゼと呼ばれる酵素が含まれていて、大量に摂取してしまうと体内のビタミンB1を破壊されてしまいます。

 ビタミンB1が破壊されてしまうと、ビタミンB1の欠乏症である脚気の症状が出てしまい、猫は歩行が困難になってしまう事が考えられ、昔からの言い伝えは根拠のないものではない事が判ります。

 チアミナーゼは漁獲後、イカの鮮度が落ちる際に生成されるので、新鮮なイカであれば安全とされ、酵素としての活動ができないように加熱する事でも無害化する事ができると考えられています。

 とびきり新鮮なイカを選び、充分に火を通せばタウリンが豊富なイカを食べさせる事ができるとなれば、牛深へ行った際にイカを購入し、私は刺身で坊ちゃんにはボイルしてと思うのですが、いつものように嫌われそうで、少々ためらってしまうものがあります。


第3005回 スプーン効果



 たまたま購入したそうめんに付録として金属製の円盤のような物が貼り付けてありました。説明書によるとその円盤を鍋の中心に置いておくと、そうめんを茹でる際に鍋が噴きこぼれにくくなるといいます。

 気になってさっそく試してみると、説明書に書かれていたように噴きこぼれず、いつもは鍋に付きっきりで茹でていたものが、鍋を放置して薬味の準備もできてしまいます。

 便利な物もあるものだと思いながら仕組みを調べてみると、円盤が鍋の中心部にある事で通常では鍋の真ん中から上へ向かって水の対流が上昇し、鍋の外側に向かってしまうものが逆に鍋の外側から中心へと流れが変わるために、噴きこぼれにくくなるとされ、同じような効果は大きめのスプーンを入れておいても得る事ができるとされます。

 そうめんやうどんなどの麺を茹でる際、溶け出した小麦の成分も手伝って鍋のお湯は噴きこぼれやすくなってしまいます。鍋のお湯が盛り上がり、今にも噴きこぼれそうになると登場するのが「差し水」で、少量の水を加える事でお湯の温度を下げる事で噴きこぼれを防いでくれます。

 また、差し水をする事で麺の茹であがりにコシが出るともいわれますが、麺を茹でる際は一旦沸騰させたらその温度を維持し続ける方がより美味しい麺に仕上がるとされます。麺を茹でる際にたっぷりのお湯を使った方が良いとされるのは、お湯の温度変化を最小限に抑える目的もあるといえます。

 差し水をしてしまう事は大きくお湯の温度を下げてしまう事から、麺を茹でるという事に関してはあまり良い事ではないと考えられ、差し水は火力の調整が利かない釜戸による調理の名残りとも思えてきます。

 急に噴きこぼれる鍋の事を考えると、差し水で一気に事無きを得たいとも思えてきますが、麺の仕上がりを思うと事前にスプーンなどを沈めておく方が良いのかもしれません。


第3003回 日々のアルミ



 日々の生活の中、見掛けない日がないような物というと、その中の一つにアルミニウムがあると思います。アルミニウムは軽く、丈夫なだけでなく、薄く展ばせるという展性にも優れる事から多くの製品に使われて私たちの身の回りに多く存在しています。

 よくアルミニウムは錆びないと思われる事がありますが、実は錆びやすい金属ともいわれています。しかし、表面に錆びによって頑丈な酸化被膜が形成されるとそれ以上内側へは錆びが浸透しない事から、表面に強制的に酸化被膜を作ったアルマイトは錆びないと思われています。

 軽くて頑丈なイメージがあるアルミニウムですが、実は単体ではそれほど頑丈ではなく、他の金属を添加したアルミニウム合金という形で強さを作り出していて、身の回りにあるアルミニウム製品のほとんどが純粋なアルミニウムではなくアルミニウム合金によって作られています。

 ほとんどのアルミニウム製品がアルミニウム合金で作られていて、純粋なアルミニウムを見る事は稀なように思えてくるのですが、純粋なアルミニウムは意外と身近なところに存在していて、普段から身の回りにある貨幣の最小単位、一円玉は純粋なアルミニウムによって作られています。

 薄く延びる性質からアルミホイルとしても接しているのですが、先日、そんなアルミホイルでユニークな実験が行われていました。

 板状のガムなどの包み紙として使われている片側に紙が貼られたアルミホイルを使い、縦長の形状の真ん中付近の両側を切り取ってくびれがある状態にします。その両端に電池の両極を繋ぐと、真中のくびれて細くなった部分からすぐに火の手が上がり発火していました。

 身近なもので簡単にできる火起こしとの事だったのですが、緊急災害時、火があるかどうかで大きく状況が変化するともいわれます。多分、今後も使う事はないにしても、記憶しておくべき知識だと思って眺めていました。


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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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