第2004回 治療の弊害



 日和見感染症というと元気で免疫力に問題がなければ、感染していても発症する事がなく、これといって問題はないのですが、一旦、何らかの理由で免疫力が下がると途端に症状が生じるという、どこか人が弱るのを待ちわびているような不気味なものを感じてしまいます。

 そんな日和見感染症の一つとして「トキソプラズマ感染症」を上げる事ができます。トキソプラズマ感染症はその名の通り原虫であるトキソプラズマに感染する事で引き起こされる疾患で、軽度の場合は無症状か軽い発熱などの風邪と誤認する程度の症状しか生じませんが、免疫力が低下した高齢者や病中病後の人、免疫抑制剤を投与されている人の場合、重篤化して脳炎や神経系の疾患、肺や心臓、肝臓、眼球などに悪影響が及ぶ事が知られています。

 現在、世界の全人口の3分の1がトキソプラズマに感染しているとされ、日本でも数千万人が感染していると見られており、有病率に地域的な差が大きいとされながらも世界的な感染症となっています。

 現在のところ、それだけ広範囲な感染を引き起こしていながら感染を防ぐ有効なワクチンはなく、感染に対する治療法も確立されておらず、その事が自覚症状がほとんどない事と相まって膨大な感染者を誇る事となっていると考える事ができます。

 先日、大阪大学の研究でインターフェロンによって誘導される特殊なタンパク質の働きによって、トキソプラズマ症の発症が抑え込まれている事が解明されていました。

 「GBP」と呼ばれる分解酵素の一種でもあるタンパク質が、体内に寄生したトキソプラズマを破壊する事でトキソプラズマ症の発症を抑制する働きを持つ「宿主防御因子」である事が明らかにされています。

 トキソプラズマは細部に感染すると「寄生胞」と呼ばれる小器官を細胞内に形成し、その中で宿主から栄養を摂取する事で効率的に増殖しようとします。宿主の免疫系のT細胞やナチュラルキラー細胞から主に分泌されるタンパク質によって、寄生胞内のトキソプラズマが破壊される事がトキソプラズマ症の発症を抑え込む上で重要な働きとなっている可能性が高い事は、30年ほど前から示唆されていました。

 今回の研究結果はその仮説を裏付けた事となりますが、インターフェロンには病原体を直接破壊する構造がない事から、長年、トキソプラズマが破壊され、トキソプラズマ症の発症が抑え込まれているのかについては謎となっていました。

 今回の研究のユニークな点はインターフェロンの作用そのものではなく、マクロファージや線維芽細胞などの免疫担当細胞がインターフェロンによって活性化される事に着目し、寄生胞に集められるGBPの働きが発見されています。

 今後、研究が進めばGBPの機能を高める事で戦略的にトキソプラズマ症の予防やトキソプラズマの感染を治療する事ができる可能性が出てきています。以前、このコラムでも触れたのですが、トキソプラズマは猫を愛おしく思う気持ちを作り出している可能性があります。トキソプラズマの感染を簡単に治療できるようになると、猫を愛おしく思う人が減ってしまうのではと、そちらの方が気になってしまいます。


 
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第2003回 太陽異変



 先日の日蝕を受けて太陽への関心が高まったのではと思うのですが、その太陽の様子がどうもおかしいという話題が科学者の間で交わされている事はあまり知られていない事と思います。

 太陽の活動の活発さは表面に見られる黒点の様子で判るのですが、その黒点の数が100年ぶりの低水準なっていて、太陽の活動は非常に弱まっているとされます。

 太陽の活動は活発な時期と弱まった時期を規則正しく11年周期で繰り返してきたのですが、2000年に活動が低下してから予想されていた2008年を過ぎても活動が活発化せず、今年になってやっと黒点の数が増え始め、活動が活発化してきた気配が見られています。しかし、活発化する速度はこれまでになく緩やかであるというデータが得られていて、その点でもこれまでにない状況にある事が判ります。

 活動が緩やかであれ活発化してきた事で黒点が見られるようになってきてはいますが、黒点が現れる位置にも異変が生じていて、活動が活発になるとまず緯度が高い地域に出現し、徐々に赤道に近い場所に出現範囲が移動するという法則があり、北半球と南半球は赤道を挟んで正確に対象的に出現していたのが南北の対象性が崩れ、南半球に黒点の出現が集中しています。

 そうした黒点の出現状況は1700年代に70年に渡って続いた地球寒冷化時代の記録に一致するとされ、地球は温暖化ではなく寒冷化へと向かう可能性を感じる事もできます。

 また、日本の太陽観測衛星「ひので」による今年3月の観測データでは、太陽の北極にS極とN極が混じって存在している事が示唆されていて、太陽の磁極が入れ替わりつつある事が予想されています。

 太陽の磁極が入れ替わる事自体は珍しい事ではないのですが、南極側では安定してN極が保たれていて、北極のみS極とN極が混在する状態となり、磁極が入れ替わるというより北極、南極共にN極となりつつあり、このままでは赤道付近にS極が配置され、赤道と両極という四重極構造となってしまいます。

 最近の研究で太陽から放出される宇宙線の量と地球上の雲の量に相関関係がある事が判ってきており、地球に到達する宇宙線の量が増えると雲の発生量も増えるとされます。太陽の活動が低下し、太陽の地場が弱まると地球へ到達する宇宙線の量が増え、地球の雲の量が多くなると太陽光の反射率が上昇し、地球上の気温は低下する事が考えられます。

 毎日変わらず照らしてくれる太陽にそのような異変が生じていようとは知る由もなかったのですが、地球温暖化一辺倒の昨今、本当にそれで大丈夫なのかと思えてきます。


 

第2002回 カレーの素材



 カレーというと日本の国民食ともいわれ、各家庭での登場頻度も高く、それぞれの家にそれぞれの味がある事と思います。最近では野菜だけで作る野菜カレーやキノコをたくさん使ったキノコカレーなども普及してきていますが、やはり出汁の素となる動物系の素材は不可欠な物という事ができます。

 カレーに使われる動物系の素材は代表的なところでは牛肉や豚肉を上げる事ができ、それぞれ精肉売り場へ行くとカレー用としてサイコロのようにカットされた物が売られています。カレー専用のカットが施された物以外にも、出汁が出やすい切り落とし肉や最近では挽き肉を使うキーマカレーも人気となっています。

 魚介類を使ったシーフードカレーもカレーの一ジャンルとしてすでに充分定着していて、本場のインド風の鶏肉を使ったカレーも人気となっていて、カレーという料理の素材への柔軟性を感じる事ができます。

 かつてカレーに使う肉については、西日本では牛肉が多く東日本では豚肉が多いという傾向があるとされていましたが、近年はそうした傾向は薄れたともいわれ、先日行われた総務省の家計調査では豚肉が最も使われていて、牛肉が2位、鶏肉、野菜のみ、シーフードと続いています。

 カレーに動物系の素材を使う意味は出汁にあると考える事ができ、根菜類の旨味成分であるグルタミン酸に対し動物系の素材からはイノシン酸を得る事ができます。旨味成分は単体で使うよりも組み合わせる事によって味覚強度が上がり、格段に美味しさを感じられるようになる事から、グルタミン酸とイノシン酸の組み合わせで美味しさを引き立たせているという事ができます。

 牛肉は火を通し過ぎると硬くなってしまうという特徴があり、柔らかく仕上げるには弱火でコトコトと時間を掛けて煮込む必要があります。逆に鶏肉は煮込み過ぎるとパサパサになってしまうので、サッと仕上げた方が美味しくいただけ、時間を掛けて仕上げるカレーには牛肉、あまり煮込まずすぐに食べるカレーには鶏肉の方が向いているという事ができます。

 豚肉は火を通し過ぎても硬くならず、時間を掛けて仕上げるカレーにもすぐに食べるカレーにも向いていて、コクを加えるコラーゲンも多い事がカレー用の素材として人気がある所以かと思えてきます。

 カレーを美味しくする工夫は各家庭ごとに存在するといっても過言ではないほど多くのバリエーションがあり、それぞれの家庭の味となっています。「何でもカレー粉を入れればマレーになってしまうが、カレーに何を入れてもカレーのままである」という言葉もあり、カレーという料理の奥の深さを感じてしまいます。


 

第2001回 粘りの話



 意外なほど身近にあるのにその存在を意識せず、原材料の表記欄にその記載があるとあまり良い感じがしない物の一つに増粘多糖類があるのではと思えてきます。

 学生の頃、増粘多糖類の一種であるカラギーナンの工場へお邪魔した事があり、増粘多糖類というあまり馴染みのない名前のせいでどこか特殊な製造ラインの存在を想像していたのですが、意外なほど特殊な感じがせず、出来上がっていた特大サイズのところてんのようなカラギーナンの姿に驚いた事が思い出されます。

 厚さ5cm程度の無色透明なところてんがテーブルいっぱいに広がっている感じなのですが、その場にところてんらしい香りが一切ない事や、ところてんよりも遥かに透明度が高く、全く色や不純物を含んだ様子がない事に純度の高さを伺う事ができました。

 その当時はあまり利用方法に関する事が思いつかず、身の回りにあるゼリー状の商品という事で室内芳香剤の原料のように思えたのですが、案内をしてくれた担当者の話では室内芳香剤は顕著な利用例の一つに過ぎず、もっとたくさんの物に添加剤として使われているとの事でした。

 その後、意識してさまざまな製品の原材料を記載したラベルを見ていると、確かに多くの製品に使われている事が判り、意外のほど浸透していて、非常に多くの物に使われている事を知る事となりました。

 増粘多糖類は正式には増粘安定剤、糊料(こりょう)、もしくはゲル化剤と呼ばれるそうですが、一般的には必要な機能と安全性を得るために天然由来の多糖類が多く使われる事から、増粘多糖類の名称の方が馴染んでいて、原材料のラベルへの表記もそう書かれている方が多くなっています。

 正確には増粘多糖類は粘度を上げるための増粘剤を2種類以上使用した場合の略称として使われる表記なので、増粘多糖類と記載されている場合は、2種類以上の多糖類が使われ、1種類のみの場合は単品の原材料名が記される事となります。

 増粘剤という事でどこか工業的な感じがしてしまいますが、身近な例としては「あんかけ」などの料理を作る際、水溶き片栗粉を加えてとろみを付けるのはデンプンを増粘剤として利用し、仕上がりの粘度を上げた事になります。

 非常に幅広い分野で増粘多糖類が使われている事については、製品の出来上がりの質感を向上させるだけでなく、液体にわずかな粘りを持たせる事で扱いやすくするという意味があり、原材料を製品化する上での歩留まりの向上などにも役立っています。

 スーパーや持ち帰り弁当店などで調理された惣菜を購入して持ち帰るという習慣が広く普及すると、増粘多糖類は料理の水分が持ち帰る途中でパックから染み出して回りを汚してしまうという事を防ぐ大切な役割を果たす事となり、その用途をさらに幅広いものとしています。

 最近では、介護の現場で物を飲み込む力、嚥下力が低下した人に対し、安全な液体の摂取方法として粘度を向上させるという事が行われるようになり、増粘多糖類はさらに重要性が増しているという事もできます。

 身近にありながら馴染みが薄く、単純な働きの割には意外なほど重要性が高い、それが増粘多糖類ではないかと思えてきます。


 

第2000回 パン粉の話



 揚げ物というと天ぷらやから揚げ、フライなどが思い浮かびます。から揚げは基本的に衣に片栗粉が使われ、小麦粉を使ったり小麦粉と片栗粉を混ぜて使ったりする事もありますが、衣に卵を使う事は稀で、卵を使うのは天ぷらかフライという事になります。

 フライの中には小麦粉と卵、水を混ぜ合わせた天ぷらの衣そのものの生地に浸した後、パン粉が付けられる物もあり、そうなると天ぷらとフライの違いはパン粉の存在となってしまい。パン粉がない小麦粉に水や卵を混ぜた衣だけで揚げられているのが天ぷら、それにパン粉がまぶされたものがフライと思えてきます。

 揚げ物にパン粉を使う意味は衣として中の素材の旨味を逃がさない事や、そのための充分な厚さを持ちながら衣として重々しくなってしまわないような軽いサクサクとした食感を維持する事、素材の旨味を封じ込めながら余分な水分は蒸発させて、素材の持ち味を濃厚にする事、衣自体に揚げ油が染み込み、香ばしい風味を添える事などが考えられます。

 天ぷらの衣をサクっと揚げるにはそれなりに気を使いますが、パン粉を使ったフライだとそれほど気を使わなくてもさっくりと揚げる事ができ、パン粉が果たしている役割の重要さを伺う事ができるように思えてきます。

 パン粉は主に洋食で用いられている事から。西洋料理と共に伝来した事が判ります。しかし、日本へパン粉を伝えたヨーロッパでは、日本のパン粉とは異なる欧米文化圏特有のパン粉が使われていて、日本人には馴染みが薄い存在となっています。

 欧米で伝統的に使われているパン粉は、乾燥させたパンやクラッカーを細かく粉砕して作られた物が使われています。残り物のパンやクラッカーの用途として使い始められた事が考えられ、硬いチーズをすりおろして使う器具が身近にあった事から、比較的容易にパン粉が誕生した事と考えられます。

 シチリアでは硬くなったパンをすりおろし、オリーブ油をまぶして油っぽさがなくなるように丹念に炒め、高価なパルメザンチーズの代わりにパスタにふりかける「庶民のパルメザンチーズ」が食べられていて、チーズと乾燥して硬くなったパンとの関わりの深さの表れのようにも思えてきます。

 欧米の硬いパン粉に対し、日本で使われているパン粉は乾燥させていないパンをほぐして作られる柔らかい物で、「生パン粉」と呼ばれる事があり、日本固有のパン粉として、最近では「Panko」で世界的に通じるようになってきています。

 明治時代を迎え、西洋の食文化が伝えられた日本で、パン粉はコートレットやクロケットなどを作る際に必要になる高価な輸入素材となっていた事から、焼き立てのパンをほぐしてパン粉を作ったところ、輸入品の硬いパン粉よりも大粒の柔らかいパン粉は揚げ油の中で水分が一気に抜けて、素早く油と入れ替わり、細かな気泡がサクサクの食感を生み出す事から一気に普及し、エビフライやコロッケなど後の洋食に欠かせない存在となっています。

 生パン粉には素早く上手に揚がるという以外に別な利点があり、欧米のパン粉に比べ完全に乾燥していない事から粒に柔軟性があり、素材のカーブに馴染んでよく密着して素材の旨みを逃がさないという点を上げる事ができます。

 パン粉を使うフライ物を食べる頻度やバリエーションなどを考えると、西洋から伝えられた物であっても独自の発展を遂げ、もはやパン粉は和の食文化とさえいれるように思えてきます。天ぷらやから揚げの方が登場回数が多く、今一つ出番が少ないパン粉ですが、改めて日本の食文化と思うと、急に親しみを覚えてしまいます。


 

第1999回 粉の力



 天ぷらやフライなどの揚げ物の衣に使う事もあり、家に最も常備してある小麦粉は薄力粉ではないかと思います。お菓子やパンを焼いたり、麺を打ったりという事がある場合は強力粉も常備されている事と思います。

 小麦粉には薄力粉、強力粉以外にも中間の中力粉や中力粉と強力粉の間の存在のようなフランスパンなどを焼く際に使われるフランス粉などもあり、それらが交じると判りにくくなるのですが、単純に薄力粉と強力粉だけなら簡単に見分ける事ができます。

 小麦粉を袋から取り出して別な容器に移し、どちらかが判らなくなった場合、小麦粉を握って固めてみると薄力粉は塊になり、強力粉はサラサラと崩れてしまいます。その違いで薄力粉と強力粉を見分ける事ができます。

 薄力粉や中力粉、強力粉といった「力」の違いは、小麦粉の中に含まれるタンパク質の量の違いとなっています。小麦粉にはタンパク質が6~15%ほど含まれているとされ、その数字を見ただけでもタンパク質量が少ない小麦粉と多い小麦粉では、2.5倍ほどのタンパク質量の違いがある事が判ります。

 小麦粉に含まれているタンパク質の約85%はグリアジンとグルテニンで占められていて、両者はほぼ同量が含まれているとされます。小麦粉に水を加えて捏ねる事でグリアジンとグルテニンは絡み合ってグルテンとなり小麦粉を練った生地に独自の質感を与える事となります。

 もともとグルテニンは弾力に富んでいるのですが伸びにくい性質があり、グリアジンは粘着力が強くて伸びやすいが弾力に乏しい性質を持っています。そんなグルテニンとグリアジンが結び付く事で、性質の異なる二つのタンパク質は適度に両方の特徴を合わせ持つようになり、より力が強い小麦粉という事になります。

 原料となる小麦の種類や品質、捏ねる際の水の量、他に加える副材料や捏ね方によってできるグルテンの量や性質が微妙に異なってくるのですが、硬質小麦の方が軟質小麦よりもタンパク質を多く含んでる事から強力粉の原料とされ、そうした原料小麦の性質の違いが握って固めた際の違いに繋がっているという事ができます。

 グルテニンとグリアジンといっても分子構造が異なる物や、ほぼ同じ比率とされながら微妙に配合量が違う事から、同じ強力粉といっても仕上がる生地の質感には違いが出るとされます。

 小麦粉は弾力がある柔らかめのパン生地や硬いうどん生地、ケーキや天ぷらに使う際は液状に近いほどドロドロにして使われます。そうした状態の変化にもグルテンが関わっていて、小麦粉の用途の幅広さを作り出しているのはグルテンという事もできます。小麦粉の用途の広さに繋がるグルテン量を「力」と表現していますが、小麦粉の現在の地位を確立したものとなると、確かに「力」と思えてきます。


 

第1998回 県民性?



 先日、総務省がまとめた「家計調査 都道府県庁所在地および政令指定都市部ランキング」によると、二人以上の世帯の平成21年から23年分を平均で算出した結果、外食代のうちラーメンに対する支出が一番高い地域は山形市で、一年あたりの支出額は1万2061円で全国平均の5625円を倍以上も上回っているとされていました。

 別な調査でも山形県の麺類に対する支出は月あたり1638円で全国4位となっており、山形県民の麺好きぶりと特にラーメンが好まれている事を伺う事ができます。

 山形県民のラーメン好きの表れのように、山形にはご当地ラーメンがたくさんあります。極細手もみ縮れ麺にあっさりとした醤油味のスープが特徴の「米沢ラーメン」にはじまり、全く方向性の異なるラーメンが存在しています。

 米沢ラーメンは、米沢に在住していた中国人がはじめた屋台のラーメンが原形となったとされ、後に東京で修行した料理人によって手もみによる縮れが加えられ、今日の形となっています。

 米沢ラーメンが醤油味のあっさりした物である事に対し、赤湯ラーメンは辛味噌を使った濃い目のラーメンであり、山形ラーメンとして広く知られているのは「冷やしラーメン」と呼ばれる物で、醤油味の冷たいスープに麺が入れられた文字通り冷たいラーメンとなっています。

 天童市には蕎麦屋で出されていた「鳥そば」の麺をラーメンの麺に置き換えた「鳥中華」と呼ばれるラーメンがあり、温かい鳥中華と山形ラーメンと同じ冷たい鳥中華が存在しています。

 酒田市にはとんこつに鶏がら、昆布、煮干を出汁に使い醤油味に仕上げる「酒田ラーメン」があり、非常に生地を薄くしたワンタンが入る事も特徴の一つとなっています。酒田ラーメンのもう一つの特徴として自家製麺の普及率が日本一という事があり、製麺所ではなく各店舗において麺が作られています。

 新庄市にも独自のご当地ラーメンがあり、鶏がらベースの醤油味のスープに縮れ麺。鳥のもつ煮込みがトッピングされた「とりもつラーメン」が食べられています。「スタミナラーメン」と呼ばれる事もあり、他のラーメンとは明らかに異なる存在感を感じさせてくれます。

 山形におけるラーメンの歴史は古く、1920年代に関東大震災で被災した横浜中華街の人々が移住し、屋台でラーメンを提供したのがはじまりとされ、それ以前にも飢饉の際の非常食として蕎麦が食べられていた事から、麺類に親しむ土壌が形成されていてラーメンも受け入れやすかったという事ができます。

 価格的には安価で、カロリーが高く、動物性油脂がコクを出してくれているラーメンは、親しみやすいご馳走として広かっていた事は容易に想像する事ができ、家族で外食する際もラーメンが選ばれたり、客人をもてなすためにラーメンの出前が取られたりというラーメンに親しむ文化が形成されたともいえます。

 当地熊本もラーメンに関しては独自の文化を持つ土地柄ではありますが、ラーメンに対する支出額やラーメンのバリエーションだけでなく、人口当たりの店舗数でも圧倒的な数を誇る山形の実情を見てしまうと、まだまだと思えてしまうものがあります。


 

第1997回 朝の顔



 子供の頃から何故か魚屋を眺めるのが大好きで、並べられた魚介類を見ていると、どこかワクワクするものを感じてしまいます。そんな魚屋の商品群の中で、「おきゅうと」と書かれた薄い円形にしたところてんのような物を丸めた商品を見掛ける事があり、どのような物か気になってしまいます。

 おきゅうとは博多の郷土食であり、博多に住んでいた事のある方に聞いてみたところでは朝食の定番と聞かされ、ところてんのような物という事だったのですが、ところてんとの違いについてどのように定義したら良いものかと考えてもしまっています。

 ところてんとおきゅうとの違いは原材料にあり、ところてんが天草を原料に作られることに対し、おきゅうとはエゴノリとエゴノリの仲間であるイギスから作られています。伝統的な作り方では、天日干しにした後、エゴノリを7に対しイギスを3の割合で配合し、酢を加えて煮溶かして裏ごしして小判型に成形して、常温で固まらせます。薄い小判型に固まったおきゅうとは端から巻き取られ、ところてんで作った葉巻のような形状で売られています。

 おきゅうとの良し悪しはまず色合いで見分けるとされ、あめ色のおきゅうとが良いといわれます。天日干しにする際、一旦干した後に水洗いを行い、それを状態を見ながら2、3回繰り返します。歩留まりが悪くなる事や手間が掛かる事から、水洗いと天日干しを繰り返す工程をきちんと行わないとおきゅうとの仕上がりが黒っぽくなり、味も悪くなるとされます。

 次に食感に引きがある物が良いとされ、その点もところてんとの違いとなっています。筒状に巻かれたおきゅうとを適当な幅で切り分けると、巻きが解けて短冊状になります。そこへかつお節やおろした生姜、刻んだネギなどを薬味として乗せ、醤油やからし醤油、ポン酢やごま醤油などをかけていただくので、姿はところてんに似ていても食べ方的には豆腐のような印象を受けてしまいます。

 一説にはおきゅうとは佐渡の「いごねり」が博多に伝えられ、博多地区で食べられていた物が福岡市全域に広まったとされます。いごねりは佐渡を中心とした地域で古くから食べられている伝統的な郷土料理で、エゴノリを煮て溶かし、よく練ってから冷やして固めて作られます。

 製法がおきゅうとよりもシンプルで、乾燥と洗浄を繰り返す工程がない事から、いごねりはおきゅうとよりも黒く、イギスが含まれない事から風味や食感も若干異なっていますが、食べ方は細長い短冊状に切り分ける事や、それに刻んだネギやおろした生姜を薬味として添え、醤油でいただくという点では非常によく似ています。

 おきゅうとというどこか不思議な名前については、江戸時代の「筑前国産物帳」に「うけうと」と記されていて、古くから親しまれた名前であった事が伺えます。表記例としては「お救人」「浮太」「沖独活」といったものが見られ、ところてんを「心太」と書く事を考えると、「浮太」が似ていて近いように思えます。

 享保の飢饉の際、海藻から作られたくさんの命を食糧難から救ったという事で、「救人(きゅうと)」と呼ばれるようになったものに丁寧語の「お」が付けられたという説もあり、沖で獲れる独活のような食べ物という事で「沖独活」。製法を漁師が伝えてくれたので、「沖人」が元になったとする説もあり、どれもそれなりの説得力を備えていながら決め手に欠けるように思えてしまいます。

 かつては博多の街で明け方になると豆腐や納豆、シジミやアサリのようにおきゅうとを売り歩く姿が見られたそうで、海藻に含まれる豊富なミネラルや繊維質、低いカロリーなどを考えると、朝食に添えるにはとても良い食品だったのかもしれないと思えます。

 最近、行き付けのスーパーの魚売り場で、黒っぽい四角い塊のおきゅうとと書かれた商品を見掛けます。色合いはおきゅうとにしては黒めで、何よりところてんのように専用の器具で突き出して食べるような形状になっている事に、これは本当におきゅうとなのだろうかと疑問を感じてしまいます。

 筒状に巻かれた商品も売られていますが、こちらは緑掛かっていて、どことなくところてんっぽく見え、福岡市から全九州へ広まっていったとされるおきゅうとも、まだ充分には根付いていないと思えてきてしまいます。


 

第1996回 清める物


 よくファンタジー小説などで、その場を清めたりあまり強力ではない魔物を寄せ付けなくするために「聖水」が登場します。水は地球上ではありふれた物質であり、液体である事から汚れを洗い流す事に使われる事から、多くの宗教で穢れを祓う物として扱われています。

 水は汚れを洗い流す働きに合わせて、純粋な水は浸透圧が高い事から、細菌の細胞質に染み込んで膨張させ、細胞膜を破壊する事で殺菌を行ったり、活動に酸素を必要とする好気性細菌を空気から遮断して酸素を絶ち、活動できないようにするという働きもあり、かつて悪霊の仕業と考えられていた感染症から守ってくれると考える事ができ、穢を祓う物という事ができます。

 水と同じく清めに使われる物として、酒の存在を上げる事ができます。神への捧げ物として使われる事もある酒にはアルコールが含まれ、アルコールはタンパク質を凝固させる働きがある事から、細菌の細胞膜や細胞質のタンパク質を凝固させて死滅させ、殺菌効果を発揮してくれます。

 酒と同じく塩も神前に捧げられたり、塩そのものを穢を祓うために振り撒いたりする事があります。塩は純粋な水が浸透圧で細菌の内部に侵入するという事を逆にする働きを持ち、細菌の内部の水分を引き出す事で細菌が活動できなくしたり、死滅させたりする働きを持っています。

 こうして見ると清めに使われる物は、細菌の感染から身を守るための働きが備えられている事が判ってきます。殺菌力というと、ニンニクの強烈な辛味と臭味の元となっているアリシンにも強力な殺菌力がある事が知られています。

 しかし、ニンニクは禅寺などで「山門に入るを能わず」とされるなど、清めとは逆の印象を受けてしまいます。殺菌力が強力で抗生物質などのように使い続けても耐性が生じず、結核菌のように表面に保護層を持っていて、薬剤が届きにくい菌にも作用する事ができる事から、アリシンを含むニンニクは大きな清めの力を持っているように思えます。

 ニンニクを清めに使う話は、日本最古の書物である「古事記」に登場していて、倭建命(やまとたけるのみこと)が東国を平定して帰途に着いた際、悪霊が白い鹿に化けて現れ、それをニンニクを投げ付けて退治したと記されています。同様の話は「日本書紀」にも登場していて、ニンニクが持つ強力な悪霊を退治する清めの力を伺う事ができます。

 人とニンニクの出会いを伝える伝説でも、悪霊に取り憑かれた夫を救おうとした妻が村の賢者に相談し、長旅の末に賢者が持ち帰った悪霊を祓う植物としてニンニクが登場しています。はじまりの時から穢を祓う物であり、日本最古の文献にも清めとして使われた事が記されているニンニクですが、その後、山門に入れないほどの禁忌とされてしまう事には、やはりその臭いにあるのではと思ってしまいます。しかし、臭いあってこそのニンニクの効能なので、臭を巧く抑え込みながらの利用こそが最良といえます。卵のタンパク質を利用して臭みを抑えて風味を引き出し、効能は確保する、にんにく卵黄には人の優れた知恵を見る事ができるように思えます。


 

第1995回 新感染



 トンズランスというと、どこかお笑いのグループの名前のように思えてしまうのですが、蔓延が懸念される困った菌の名前となっています。正式にはトリコフィトン・トンズランス菌と呼ばれ、水虫の原因菌として知られる白癬菌の仲間となっています。

 トンズランスの名前はキリスト教の修道士が頭頂の髪を丸く剃っていた「トンスラ」という習慣が元になっていて、従来の白癬菌による水虫が足底や足の指の間に発症する事に対し、トンズランスは頭部や首筋などの上半身に発症する事が多く、頭部に発症すると頭頂の毛髪が抜けてトンスラのような状態になってしまう事があります。

 足ではなく頭部に発症する事や痒みがない事から、感染に気付きにくく、感染しても軽微である場合はフケが多くなったり皮膚が赤みを帯びている程度なので、つい放置してしまう事が多く、医療機関にも認識が広まっていない事から、湿疹と誤診してステロイド剤が処方され、かえって症状を悪化させてしまう事例も見られています。

 トンズランスはメキシコやプエルトリコといった中南米で1950年代に発生が確認され、1960年代にはアメリカ、1990年代にはヨーロッパでの発生が確認されるなど、確実に世界中に広がりを見せています。隣国の韓国では1997年に発生し、日本でも2001年に患者が確認され、以降、徐々に感染の拡大が見られています。

 基本的に水虫であるという特性上、接触感染によって感染するのですが、従来の水虫よりも感染力が強く、感染部位も上半身と接触しやすい場所となっている上に、一旦感染すると治りにくいという厄介な特徴から蔓延が懸念されています。

 日本上陸からはそれほど時間が経っていないように感じられますが、上半身の肌が接触する武道や格闘技の愛好家を中心に広がりを見せており、高校生のレスリング大会で医師の診断によって感染を理由に出場を停止されるケースも見られ、今後、出場停止を怖れて感染を隠して出場する選手が出る事も考えられる事から、感染の拡大が深刻化する可能性も出てきています。

 最近、中学での武道が必須科目となっただけに、若年層への広範囲な拡大が心配されます。多感な時期だけに感染や感染してしまった事へのケアなど、これまでの怪我以上に気を付けるべき事が増えてきてしまったのではと思えています。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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