第2022回 乾燥と生



 以前、イタリア人のシェフが「パスタは乾燥させる事で風味が良くなる。パスタは絶対に乾麺を使いなさい」と断言していたので、以来、乾燥パスタを使う事にしています。最近、スーパーの生麺を扱うチルドのコーナーに生麺のパスタが売られていたり、生パスタを売りにしたレストランなどを見掛け、実際はどうなのだろうと気になってしまいます。

 食材は干物などのように乾燥させる事で単純に水分量が減少するだけでなく、味や風味が濃厚になるという事もあります。そのためイタリア人シェフの発言も高い信憑性を感じてしまうのですが、生パスタの製造業者の発言、「パスタは乾燥の過程で風味が失われてしまうので、生パスタはそれがない分、風味が豊かです」という事もどこか納得してしまうものがあります。

 パスタの原料は「デュラムセモリナ」と呼ばれる特殊な小麦粉が使われています。デュラムという品種の小麦を粗挽きのセモリナ挽きにした粉の事ですが、デュラム小麦の特殊性は遺伝子の段階からとされています。

 小麦の遺伝子は7本の染色体で一つのゲノムを構成しているのですが、それが2つや4つ、6つで一塊となる事から、2倍体や4倍体、6倍体といった系統に分ける事ができます。その中で6倍体のものが「普通系」と呼ばれる小麦となっているのですが、デュラム小麦は4倍体となっていて、ポーランド小麦やイギリスのリベット小麦などと同じゲノム構成となっています。

 乾燥した土地での栽培に適していて、粒が大きく、半透明のガラス質と呼ばれる硬い胚乳を持つ事が特徴となっています。名前のデュラムはラテン語の「硬い」という言葉、「デュール」に由来していて、通常の小麦粉の製粉工程とは異なる丁寧な粉砕やふるい、純化といった製粉工程を経て製品化されています。

 セモリナ挽きはデュラム小麦のタンパク質の組織を破壊しないように工夫された製粉方法で、純化工程の際にふすま片を取り除く事にも適していて、ふすまの混入を嫌うパスタに最適な小麦粉がデュラムセモリナとされています。

 デュラム小麦のタンパク質組織を守るようにセモリナ挽きされたデュラムセモリナは、タンパク質を非常に多く含んでいて、強い結合力と適度な伸展性、胚乳に含まれるカロチノイド系の黄色色素であるキサントフィルによる琥珀色を備えた生地となります。茹でる事で熱が加わると生地の中に均一に広がったグルテンが網目状になって熱変性を起こし、歯応えのあるパスタ特有の食感が得られます。

 その熱変性を起こさせるための茹でるという調理の前に、乾燥させるという工程の有無が乾燥パスタと生パスタの違いのように思えるのですが、細かく見てみると生パスタが手打ちで生地を捏ね、パスタマシンで伸ばされ、成形されることに対し、乾燥パスタは機械によって圧力が掛けられた後、金型から押し出して成形されています。この圧力の存在も麺としての仕上がりに影響を及ぼすように思われ、結局、生パスタと乾燥パスタを単純に比較する事は難しいように思えます。

 同一の素材、同一の製法、調理法も同一にしてはじめて本当の違いが判るのかもしれませんが、本場のイタリアでは乾燥パスタの利用が圧倒的に多く、レシピも乾燥パスタを前提に組まれている事を思うと、このまま乾燥パスタで良いようにも思えてしまいます。


 
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第2021回 小麦の熟成



 新麦性、聞き慣れない言葉だと思います。文字からは麦の新しさを示す言葉にように思えるのですが、普段使う言葉ではない事や、同じ穀物である米に対して新米性という言葉を使わない事からも、何を示す言葉なのかと考えてしまいます。

 米は新しい物が美味しいとされ、実りの秋に出回る新米の味わいは格別のものとされますが、小麦に関しては新しい物はそれほど美味しくないとされ、特に加工された小麦粉は熟成期間のあり方によって味や加工の結果に影響が出るとされていて、熟成期間が必要とされます。

 収穫直後の小麦の粒の中では、まだ充分に細胞組織が生きており、さまざまな小麦の成分を分解する酵素や小麦の生地を柔らかくしてしまう還元性物質が多く含まれ、不安定な状態となっています。そのような状態の小麦を粉に挽き、パンやケーキを作っても良質の生地は得られず、思うように膨らます事も難しくなってしまいます。

 収穫後、徐々に酵素の活性が失われたり、内容成分の酸化が進んだりする事で少しずつ小麦は安定した状態になってくるので、それを待って粉に挽く事となります。粉に挽かれた小麦は空気との接触する表面積が大きくなる事や、製粉や運搬の過程で大量の空気に触れる事から一気に酸化が進み、小麦粉は安定度を増してパンやケーキなどに加工する事に適した状態となります。そうした状態変化を「熟成」「エージング」と呼び、微妙な品質変化を見極める事も美味しい小麦粉作りには不可欠な要素となっています。

 収穫されたままの小麦の状態では、熟成はゆっくりと進む事から、日本で主力となっているアメリカやカナダ、オーストラリア産の小麦の場合、収穫後、集荷やタンカーによる海上運搬など時間を掛けて移動が行われ、その時間は収穫から数ヶ月とされる事から、すでにある程度の熟成が行われ、安定した状態で届けられているという事ができます。

 それに対し国産の小麦は収穫後、製粉工場に届けられるまでの機関は数日と短いため、製粉工場内のサイロなどで熟成期間を置く事となるのですが、国産小麦粉の主要な用途は熟成がそれほど必要とされない麺が中心となっている事から、小麦の熟成がそれほど重要視されない事も小麦には熟成が必要という事が知られない理由の一つとなっているとも思えてきます。

 すでに熟成が進んだ状態で届けられる輸入小麦ですが、育成された年の気象条件などによって含まれている酵素の活性が特に高い状態が続いたり、還元性物質の含有量が多いという事があり、一定の熟成期間を経ても安定が低かったり、安定させるための熟成機関を長めにする必要がある場合が存在します。。そのような小麦を新しい小麦に近い状態にある事から「新麦性が高い」「新麦性が強い」と表現し、熟成に時間を掛けるよう心がけたり、加工する際に技術的配慮を行う事となります。

 小麦の熟成期間について、どのくらいの時間が適切なのかについては、研究者によっても大きく意見が分かれていて、製粉後7~11日ほどまで激しい変化が継続するというものから、製粉後24時間は酸化剤を添加したほど激しい変化が起こるが、それ以降はほとんど変わらないとするもの、製粉後は大きな変化はないとするものなど、意見は別れ、生育の際の気象条件や産地などによっても内容が変化してしまう事から一定条件を設定する事は困難とされています。

 今日、小麦粉は単純に小麦を粉に挽いただけでなく、粉の粒度をふるいに掛けて調整したり、異なる産地や品種の物をブレンドしたり、熟成期間を調整したりして作られています。そうした小麦粉を作る技術において日本は最高レベルにあるとされ、自他共に認めるパン好きの私としては、美味しい小麦粉がある国に生まれた事を感謝しなければと思ってしまいます。


 

第2020回 今川回転



 地方に住んでいると地域だけで通じる言葉を、つい全国的な標準語と思い込んでしまっているという事があります。今川焼きは熊本では「蜂楽饅頭」と呼ばれる事があり、子供の頃はそれが正式名称と思っていました。、後に今川焼きや回転焼きといった名称を知り、いまだに今川焼きと回転焼きではどちらが標準的な言葉となっているのだろうと思ってしまいます。

 今のところ今川焼きが一般名として通用しそうとの事なので今川焼きと呼んでいるのですが、全国的には数十種類の呼び名が存在していて、蜂楽饅頭もその中の一つとなっています。

 基本的に小麦粉と卵を水で溶いた生地を円形の型で焼き、中に餡を入れるというシンプルな物であり、食べ応えがあって間食としても成り立つボリュームを持つ事が全国的に普及する人気に繋がったと考える事ができ、それぞれの地域に普及させた店の名前や商品名が名称として根付いた事が、呼び名のバリエーションの多さに繋がっている事と考えられます。

 多彩な名前の中には「おやき」や「きんつば」、「どら焼き」など、既に他の食べ物が存在している名称もあり、何故その名前で呼ばれるようになったのかと興味をかき立てられてしまうものもあります。

 今川焼きはその名前から戦国大名の今川氏に所縁のあるものといわれ事もありますが、今川氏とは関係なく、江戸時代の中期頃、江戸の今川橋にあった菓子店が考案して売り出し、名前も地名に因んで「今川」としていた事が元になっています。

 今川は評判となり、存在や作り方は全国へと広まって行きますが、名前だけは地方では今川といわれても今川橋を知らない事もありピンと来ないためか伝わらず、さまざまな名称で呼ばれる事となったという事ができます。

 戦国武将、今川義元の大のお気に入りで、上洛する際も家臣に焼き型を持参させて休憩のたびに焼かせ、桶狭間でも程よく焼けた物を食べながら寛いでいたところ、織田信長の急襲を受けたという歴史絵巻を期待していた身としては、少々盛り上がりに欠けるネーミングと思いながら、佃煮と同じ地名由来の名称にはどこか親しみを覚えます。

 小豆餡か白インゲン豆を使った白餡かで迷う事もよくあったのですが、最近では餡のバリエーションが増え、お菓子というよりファーストフードに近付いたのではと思える物も存在しています。

 全国的に円形の形状となっていますが、中には北海道で売られている「ばんじゅう」のように半球型の物もあり、形状にもいくつかのバリエーションがあるとされます。

 同様の生地を焼き型で焼き、餡を中に入れて仕上げる物としては「たい焼き」の存在を上げる事ができますが、両者の間には別な世界観が存在するようにも思え、今川焼きは円形の形状でなければと思えて来ます。回転体の形状でもある事から、回転焼きのほうが適切なように思え、回転焼きが正式名称となればと考えてしまいます。


 

第2019回 角の発展



 金平糖と著名人というと、すぐに戦国武将、織田信長が思い浮かびます。宣教師、ルイス・フロイスと謁見した際、フラスコに入れられた金平糖を受け取り、とても喜び、以降、お気に入りとなっていた事でも知られています。周辺の人のさまざまな証言によると、信長は酒を飲まず、部下にも酒を薦める事はなかったそうなので、意外と甘党だったようにも思えます。

 当時の信長の権勢を思うと献上品は真っ先に信長に届けられ、信長より先に金平糖を食べた日本人がいたとは考えにくく、おそらく信長が金平糖を食べた最初の日本人であったという事には納得させられてしまいます。初めて見る金平糖はそれまでの和菓子にはない華やかな姿と、すっきりとした甘さで、驚くべき存在であったという事を想像してしまいます。

 その後、日本へも作り方が伝えられ、貴重な砂糖を使った国産金平糖も作られています。よくいわれる事ですが、金平糖はポルトガル語のお菓子を意味する「コンフェイト」が語源となったとされます。伝えられた当時の金平糖は、今日のポルトガルに残るお菓子の様子から、それほど角が立っいない丸みを帯びた形状だったと考えられ、角は日本において発展したという事ができます。

 結晶を作る際には核となる物が必要となる事があり、信長が食べた金平糖の核にはゴマが使われていたとされます。その後、核の部分にはケシの実が使われるようになり、子供の頃、金平糖を食べると最後に味がしない変な食感の小さな粒が残ると思っていた物がそれに当たります。

 最近では核の部分にザラメやグラニュー糖などの結晶質を使った製品も見られるようになり、もともとが砂糖の塊である事から、コーヒーシュガーの代わりに使って、彩を添えるというお洒落な使い方もされるようになったといわれます。

 金平糖の角は核の回りにできた砂糖の層が傾けられた鍋の傾斜を跳ねながら滑り落ちる際に、熱せられた鍋に触れた部分の水分が飛んで硬くなり、飛び出した部分が繰り返し鍋に触れる事で角が成長するとされます。

 角の出現に関する法則や発生する確率などに関しては、多くの数学者が研究を行ったにもかかわらず、いまだに解明されてはいません。事前に濃く煮詰めた蜜を使い、傾けた大鍋を回転させながらこてを追加って拡販し、何度も密を掛けながら半月以上物時間を掛けて仕上げられています。

 よくうなぎの職人に関して「串打ち3年、割き8年、焼きは一生」という修行の厳しさをいいますが、金平糖の世界では「こて10年、蜜かけ10年」ともいわれ、その日の温度や湿度によって蜜の濃度や鍋の温度、傾きも違ってくる事から、レシピが存在しないお菓子、一子相伝の職人技ともいわれています。

 そうした難しい製法によって作られていたためか、坂本竜馬は金平糖の作り方を誤解していたとされ、よく女性をからかう際に「金平糖のような(でこぼこの)肌を白粉で塗り固めた」という表現を使っています。その際、金平糖のでこぼこができる理由を鋳型といっている事から、竜馬は金平糖を型を使って作っていると思い込んでいた事が伺えます。

 正しい作り方や今日の数学者でもでこぼこの理論を見付けられない事を知ったら、竜馬はどのような顔をするのか。グラニュー糖を核にした透明感の高い金平糖を溶かしたコーヒーを飲ませたり、厳密には金平糖とは呼べませんが、中にお酒が入った金平糖を食べさせたらどのようにいうのか、とても興味が湧いてしまいます。


 

第2018回 古典的保存



 以前、某コンビニのピザまんが気に入っていたのですが、レジの横に置かれた温蔵庫の中の蒸された状態の物を購入して帰ると、帰っている間に袋の中で湯気によって皮がびしょ濡れになってしまう事から、加熱していない物をお願いして購入するようにしていた事があります。

 近所のコンビ二ではパンが並べられたコーナーに加熱する前の中華まん達が並べられていた事から、それを選んで買うようにしていた事もあります。ある日、いつものようにパンのコーナーへ行くとピザまんが見当たらない事から、店員のおじさんに尋ねてみると冷凍庫の中から凍ったピザまんを取り出し、「これは冷凍して時が止めてあるから大丈夫です」と賞味期限が切れた物を手渡され、どこか納得がいかない思いと冷凍で時を止めるという表現が面白くて、複雑な思いの中、帰宅した事があります。

 冷凍という技術の発明は食糧を保存するという上で、非常に有効な手段を得たという事ができ、缶詰の発明と共に食糧保存の歴史に革命的なものであったという事ができます。

 安定的に食糧が得られるという事は、人に限らず動物にとって潜在的な欲求であるという事ができます。食糧が得られた時に余剰分を保存食とし、食糧の確保を安定させるという事は古くから誰もが考える事であり、そのため、保存食の歴史は極めて古いものであるといえます。

 保存食を考える上で最も古典的なものとして「干物」の存在を上げる事ができます。干物は食材を食べられない状態にする大きな要因となる腐敗菌の繁殖を、食材に含まれる水分量を天日などに当てる事で低下させ、腐敗菌が繁殖できない条件を作り出しています。

 水分量が低下した事で食材の味は濃厚になり、旨味も増す事から、干物は単なる保存のためのもの以上に食文化としても根付いているという事ができます。水分量の低下で食材は硬く、軽くなって持ち運びが容易になったり、保存している間に昆虫などに食べられてしまう危険性も下げてくれています。

 干物と同じく古くから使われている保存方法として「塩漬け」の存在を上げる事ができます。塩漬けは食材を高い濃度の塩分に漬け込む事によって、浸透圧を使って腐敗菌やカビなどの雑菌が繁殖できない状態を作り出して食品の保存性を高めています。同じくジャムなどの砂糖漬けも砂糖によって浸透圧を調整して、塩漬けと同じような効果を発生させているという事ができます。

 水分量を下げながら独自の風味を加え、同時に殺菌力を高めるという工夫は「燻製」に見る事ができます。香りの良い木材などをわざと煙が出るように不完全燃焼させ、その煙に当てる事で食材に木材由来の風味と殺菌、防腐作用を加えています。

 また、昆虫などは木材が焦げるにおいを嫌がる傾向がある事から、食品を昆虫などから守る効果も高められています。燻製には幾つかの手法があり、煙を発生させた際の高温に食材をさらす「熱燻」、あまり高い温度にはさらさない「温燻」、温度をまったく上げず、低い温度で煙も冷ましてから食材に当てる「冷燻」、木酢などの燻液に食材を浸した後、乾燥させて作られる「液体燻製」などの手法が知られています。

 フリーズドライに保存料、脱酸素剤と食品を保存する技術は飛躍的に向上していますが、古典的な保存手法にも納得できるものが多く、貴重な食材を大切にしようという思いが感じられるように思えてきます。


 

第2017回 透明な素材



 暑くなってくると透明で冷たいスイーツが見た目にも涼しくて良いように思えてきます。ゼリーのように液体の物を粘度を増したり固めたりとなると、ゲル化剤の登場となります。食品添加物のゲル化剤となるとあまり身近な感じはしませんが、ゼラチンというと急に馴染み深い物に思えてきます。

 ゼラチンはお菓子などの素材売り場へ行けば、粉末の「l粉ゼラチン」や薄いシート状の「板ゼラチン」として売られています。どちらも水であらかじめふやかした後、素材に混ぜ込み温度を下げて固まらせます。

 ゼラチンと同じく素材に加えて固まらせる透明な物として思い浮かぶ物に寒天があります。一部を除きゼラチンが動物系の素材である事に対し寒天は植物系で、食感や性質など同じように見える透明なゲル化剤でも大きく異なる面を持っています。

 ゼラチンは組織を構成する細胞を繋ぎ合わせていたタンパク質を抽出したもので、寒天は食物繊維の塊となっています。そのため扱いにも大きな違いが生じていて、ゼラチンは煮立たせてしまうとタンパク質が変性して固まりにくくなり、逆に寒天は煮立たせる事によって固まりやすくなります。

 タンパク質の塊であるゼラチンと食物繊維の塊である寒天、その違いはカロリーにも現れていて、消化吸収されて栄養となるゼラチンは100g当たり344kcalの熱量を持つ事に対し、消化吸収されない食物繊維の寒天は0kcalとなっています。

 タンパク質と食物繊維という違いはカロリーだけでなく、同じように液状の物を固めながら質感は大きく異なっています。ゼラチンは無色透明なようでよく見ると薄い黄色みがかった色をしていて、寒天はわずかに白濁しています。食感的には圧力を掛けていくとゼラチンには粘りがあり、プルプルとした柔らかさの割には噛み切る直前まで独特な粘りがあるのに対し、寒天は弾力がありながら一定の圧力になるとサクっと歯切れ良く切れてしまい、ゼラチンとは全く違う食感となっています。

 ゲル化剤を求めてお菓子の素材売り場へ行くと、ゼラチンや寒天に混じってもう一つ別なゲル化剤と出会う事ができます。それが「アガー」で、ゼラチンとも寒天とも付かないどこか中間の存在のような印象を受けます。

 アガーは寒天と同じく海藻から作られています。寒天の多くが海藻類の天草から作られている事に対し、アガーはカラギーナンから作られていて、寒天よりも高い透明度を持っています。海藻由来である事から食物繊維の塊であり、カロリーは寒天と同じく0kcalとなっていて、使い方も寒天とほぼ同じになっています。

 アガーの食感はぷるぷるとしていて若干の粘りを持つ事から、ゼラチンと寒天の中間のような印象を受けます。完全な無色透明である事からゼラチンや寒天よりも高い透明感が得られ、素材の色合いを活かす事にも向いています。寒天と同じく室温では溶けない事から、ゼラチンのように冷蔵庫から出してしばらく置いておくと溶けて流れてしまうという事がない反面、口に含んだ際、体温でさっと溶けていく口溶けの良さを感じる事はできませんが、その分、滑らかさを感じる事ができます。

 寒天で固めた物を冷凍すると食物繊維が凍結による水分の膨張によって破壊され、冷凍する前のような食感が失われてしまいますが、アガーで固めた物は冷凍しても大丈夫なので、アガーを使ったプリンやゼリーなどを冷凍保存する事も可能となっています。

 ゼラチンは空気を取り込む事に優れている事から、ムースやババロアには欠かせず、滑らかさや透明感、固まりやすさという点ではアガーが優れ、ようかんやところてんなどのサクっという歯応えには寒天が向いている事になり、同じ透明なゲル化剤ではあってもそれぞれの特徴を理解した上での使い分けが重要となるのかもしれません。


 

第2016回 古くて新しい味覚



 昨年あたりから急速に人気が高まってきた「塩麹」。日本では古くから漬物用の床として使用されてきていましたが、急に人気が高まった事もあり、どこか新しい食材のようにも思えて来ます。

 麹とは発酵に必要なコウジカビをはじめとする有用な微生物を米や麦、大豆などを蒸した物に繁殖させたもので、米を使うと「米麹」、麦を使えば「麦麹」、大豆では「豆麹」と呼ばれてきました。塩麹とは塩に繁殖させた物という訳ではなく、米麹に塩を混ぜ、水で緩く溶いた物となっています。

 麹の主要な微生物であるコウジカビは菌糸の先端からデンプンやタンパク質を分解するさまざまな酵素を放出する事から、培地となる米や麦、大豆に含まれるデンプンやタンパク質が分解され、糖質や旨味の素となる遊離アミノ酸が生成されるため、発酵食品を製造する際の重要な存在となっています。

 麹を利用する発酵技術は日本をはじめ東南アジアやヒマラヤ周辺といった東アジア特有の技術とされ、酒から調味料、保存食といった食と深い関わりを持ち、食文化を語る上で欠かす事のできないものという事もできます。

 一言で麹といっても繁殖させるコウジカビにはさまざまな種類があり、加工する食品に応じた麹が用意されています。酒造りにはアルコール発酵の準備として糖類が必要となる事から、デンプンを分解して糖に変える働きが強いコウジカビが使われ、日本酒の場合は「黄麹」、泡盛には高い気温の中、クエン酸を多く生成して雑菌の繁殖を抑えながらデンプンを分解する「黒麹」、焼酎には黒麹よりも扱いやすい「白麹」などが使われています。

 しょうゆや味噌を作る際は、糖よりもタンパク質を分解して旨味成分を生成する働きが求められる事から、「醤油麹」と呼ばれる独自のものが使われ、鰹節には脂肪を分解する働きが強いものが使われています。

 麹は発酵によってデンプンやタンパク質を分解して糖やアミノ酸を生成するだけでなく、クエン酸などの有機酸やビタミンB群、GABA(γアミノ酪酸)なども作り出す事が知られています。米麹の場合、米にはGABAがほとんど含まれていない事から、コウジカビによって発酵した事によって有用な成分が増えた事を伺う事ができます。

 また、有機酸やビタミン類、GABA以外にも最近では体重の増加を抑える働きがある「αーエチルグルコシド」や血圧降下作用のある各種ペプチドなども生成されている事が判り、日常的に麹を使った発酵食品に接する事は健康を考える上で有益な事であるといえます。

 塩麹その物が製品化されて売られている物も見掛けるようにはなってきましたが、塩を1に対して麹を3を基本として好みで塩の量を加減し、塩と麹を混ぜ合わせて水を加え、一日に一度程度のペースで混ぜ合わせて空気に触れさせるようにして1週間から10日ほど発酵させるとオリジナルの塩麹ができあがるので、我家の味として用意するのも楽しい事かもしれません。

 できあがった塩麹は野菜や肉、魚などに直接かける調味料として利用できるだけでなく、肉や魚を事前に漬け込んでおく事で旨味が増す事から、食材の下処理として利用する事もできます。新しいようで実は古い日本の知恵を活用してみるのも日々の食の彩りとなる事と思います。


 

第2015回 雑穀の夜明け



 最近では少し一段落した感はありますが、ご飯と混ぜて炊く事で味や食感、栄養を高める事ができるとして雑穀を使った製品を多く見掛ける事があります。何種類の雑穀が使われているかが判るような商品名が使われていたり、一部を発芽させるなどして付加価値を付けたものなどもあり、見ているだけでも楽しむ事ができます。

 雑穀とは食糧や飼料として広く栽培されている穀類の総称とされ、日常的な言葉として根付いていますが、本来は生物学的分類ではなく農学的な分類の言葉とされます。痩せた土地や過酷な環境でもたくましく育つ事から、新石器時代などの原始的な社会の食生活においては米よりも重要な食料となっていました。

 狭義の雑穀とはイネ科のキビ亜科に含まれる穀類の事とされますが、一般的に雑穀といった場合、コウリャンやハトムギなどのモロコシ属や豆類、ソバやキヌア、ナタネ、ゴマやヒマワリなども含まれます。麦や古代米なども含まれている例も見られ、雑穀という言葉の示す範囲はかつてないほど広がっているようにも思えます。

 時代劇などを見ていると、換金性が高い米は高級な作物であり、雑穀は米を食べる事ができない貧しい人の食べ物のように描かれていて、どこか雑穀に対してはそのようなイメージを持ってしまうのですが、ご飯を炊く際に混ぜる雑穀のグラム単価を計算してみると、米よりもはるかに高価になっていて、いつの間に立場が逆転したのだろうと思えてきます。

 雑穀にはB6やB17などのビタミンB群をはじめナイアシン、葉酸、カルシウム、鉄分、カリウム、マグネシウム、亜鉛など、現代人に必要なものが多く、食物繊維も豊富な事から、日常的に口にするご飯に混ぜる事によって必要な栄養の補給を行う事ができます。

 雑穀の本来の食べ方としては、雑穀を洗って水気を切り、香ばしい香りがするまでから煎りして砂糖や塩で味付けをして2~3倍のお湯を加えて煮る事で雑穀粥ができあがります。雑穀粥はロシアの伝統料理であり、甘めの味付けに仕上げられたり、できあがる直前に牛乳を加えてコクを出したりして食べられていて、世界的に見ても雑穀を粥にする例は多く見られています。

 日本における雑穀の生産量は第二次世界大戦以降、徐々に減少しており、食用というよりも飼料とされる事の方が多く、雑穀のブームが訪れるまでは雑穀を目にするのはペット用品の鳥などの餌のコーナーとなっていたように思えます。

 そんな雑穀も最近ではその栄養価の高さから健康食と考えられるようになり、アトピーなどのアレルギーを持つ子供が増えて米や麦を食べられない代わりの代替食として注目を浴びるようになってきています。

 雑穀は稲作ができないような山間部でも栽培する事ができ、冷害や干ばつにも強く、病害虫にも強いので農薬も使わずに栽培できます。安定した収穫量が見込めるだけでなく長期保存も可能な事から理想的な農産物のようにも思えます。しかし、小さな粒を収穫してゴミなどを選別する作業は機械による効率化が困難とされ、農村部の人口の減少もあって生産量が増えない状況が続いています。

 古くから接していながらどことなく良いイメージがなく、米中心に考えてしまう穀物ですが、雑穀ブーム以降、定着してきた事を背景に換金性の高い作物という位置付けを得て、生産量が増えていく事を願いたいと思ってしまいます。


 

第2014回 卵とマフィン



 自他共に認めるパン好きな事もあり、どのパンが好きですかと聞かれると、ほぼすべてのパンが好きと思ってしまいます。その中でも何か一つ上げるようにいわれると、いくつか思い付く中には「イングリッシュマフィン」が必ず入っていると思えます。

 日本では一言でマフィンというとアメリカ式のカップケーキが思い浮かびますが、本場のイギリスやオーストラリア、ニュージーランドなどでは、マフィンというとイングリッシュマフィンの事を指しています。

 初めてイングリッシュマフィンを見た際、食パンの中身のような質感と丸い形状が物珍しく思えたのですが、購入して帰った次の朝、袋から取り出して食べるとその不味さに驚かされ、何故このような物が売られているのだろうと思った事があります。袋には必ず焼いて食べるようにという注意書きがあり、「必ず」という部分が気になりながら軽くトーストして食べると、その美味しさと焼く前の状態からの豹変ぶりに驚かされ、それ以来、大好きなパンの一つとなっています。

 いつもは半分の厚さに手で割いて一枚を二分割してからトーストし、得意のポテトサラダや卵サラダをはさんで食べているのですが、イングリッシュマフィンを使った代表的な料理というと、「エッグ・ベネディクト」の存在を上げる事ができます。

 エッグ・ベネディクトは半分に割いたイングリッシュマフィンの上にハムやベーコンをのせ、ポーチドエッグをのせた上からバターとレモンの果汁を卵黄を使って乳化させたオランデージソースをかけて仕上げられるアメリカやイギリスでは朝食のメニューとして人気のある料理となっています。

 オランデージソースは比較的調理技術が要求されるので、エッグ・ベネディクトはそれほど簡単な料理という訳ではないのですが、飽きのこない美味しさが特徴という事もできます。

 エッグ・ベネディクトの由来については幾通りかの説があり、それぞれ興味深く思えてきます。最も有力なところではフランスの伝統的な地方料理「ウ・ベネディクタン」が原形となったというもので、フランス語の「ウ」が卵を示す言葉である事を考えると、名前の段階で酷似している事が判ります。

 ウ・ベネディクタンはプランダードと呼ばれる戻した干しタラとジャガイモをペーストにした物を、焼いたパンに塗り、ポーチドエッグをのせてからオランデージソースをかけて仕上げます。プランダードの部分がハムやベーコンに置き換わってエッグ・ベネディクトとなったという事ができますが、フランスからどのようにしてアメリカへと伝えられたかについては謎となっています。

 それ以外にもウォールストリートで株の仲買人をしていたレミュエル・ベネディクトが二日酔いがひどい朝の朝食としてバターを塗ったトーストにポーチドエッグ、ベーコンと少量のオランデージソースを注文した事が元となり、ホテルの支配人だったオスカー・チルキーが感銘を受けてトーストをイングリッシュマフィン、ベーコンをハムに置き換えてランチメニューとした事がエッグ・ベネディクトのはじまりともされます。

 また、ニューヨークタイムズマガジンのコラム欄でフランスからの移住者の手紙として紹介した中にレシピがあったとあうる説もあり、その場合、「ウ・ベネディクタン」との関連性が浮かんできます。

 オランデージソースやポーチドエッグなど、調理に少々手が掛かる事からフランス由来のようにも思えますが、内容的には某ファーストフードチェーンの朝食メニューによく似ている事もあり、アメリカの食文化のようにも思えます。具材のハムを他の素材に置き換える事でさまざまなバリエーションが存在する事から、ゆっくりした休日の少し遅めの朝食にでもと思っています。


 

第2013回 絶対タブー!



 あまり賛同したくない意見なのですが、「家畜とペットの違いはきわめて主観的なもので、いかなる動物も食べれば同じ肉である」という主張があります。精肉店やスーパーの肉類の売り場で日常的に入手できる牛肉や豚肉、鶏肉以外として猪や鹿、ヤギなども流通している事があり、珍しいところではウズラやダチョウ、ワニの肉も取り引きされていたり、隣国の韓国では犬が食べられている場面を見掛けたりすると、その主張が間違いとはいえないものを感じてしまいます。

 人道的な理由や衛生上の問題などからタブー視する文化や宗教も多くなってはいますが、世界中を見回すと猫を食用に加工して食べる「猫食文化」は確かに存在しています。猫を食べるというとかなり野蛮なような感じがして、未開に近い限られた地域だけの事のように思えてきますが、意外と身近な国であるアメリカ合衆国でも幸運と健康をもたらすとして戦時や極貧状態において食されてきたとされます。

 猫を食べる事は犬を食べる事と同様かそれ以上にタブー視する傾向が強く、肉食動物の摂取を禁じているユダヤ教やイスラム教においても禁じられています。猫は農耕をはじめるようになり、穀物を貯蔵するようになるとネズミから穀物を守るものとして、単なるペットではなく有用な存在となっていたという事がえい、それを食べる事をタブー視するというのは当然の事のようにも思えます。

 中国の広東省を中心とした地域には、冬に猫の肉を生で食べると体が温まるという考えが一部の高齢者に根付いているとされ、中国全体の猫食人口は400万人ともいわれています。近年、観光客への配慮から猫肉の販売や猫食メニューの提示は控えられるようになってきていると事のですが、猫の数が増加傾向にある中、猫食人口は増えつつあるとされます。

 広東省では竜に見立てた蛇、虎に見立てた猫、鳳凰に見立てた鶏の肉を食べると体が強くなるという言い伝えが残されている事も猫食を助長する一因となっているという事ができます。

 中国では日本では考えられないような物が食材として食されている事から、どこか遠い文化のようにも思えてくるのですが、日本でも幕末までは猫が食されていたとされ、第二次世界大戦後の食糧難の時代、広島市の闇市で猫肉を使ったおでんが販売されていた様子が、反戦漫画家の中沢啓治によって語られています。

 猫を食べる習慣は東洋に限った事ではなく、ヨーロッパでもスイスの農村部などでは猫が食べられてきたとされます。2004年の1月に行われたロイターの報道では、スイス料理には仔犬や仔猫も素材として含まれ、家庭での犬猫の消費は合法である事から、国内でのペットの屠殺数を把握する事は難しいとしています。

 スペインのバスク地方にも猫のシチューなどのレシピが残されており、猫食文化が存在していた事を伺う事ができ、ヨーロッパでは凶作に見舞われると猫の事を「屋根のウサギ」と呼んで食用にしたという記録も残されています。

 伝統的に猫と接してきた地域以外にも猫食文化は広まっていて、移民によって猫が持ち込まれたオーストラリアでは、天敵がほとんどいない事もあって猫が急速に増え、在来の動物を脅かす存在になったとして先住民のアボリジニによって猫が食べられています。

 そうした世界的に見られる猫食に対し、近年、経済発展が著しい中国などを中心にペットとして猫を飼う事が根付いてきた事もあり、猫食に反対する運動が見られ、活動家が実力行使で猫肉料理店の営業を妨害するという例も見られています。食物連鎖という考え方からは自然な流れという事もできるのかもしれませんが、できる事ならタブーであってほしいと切に願ってしまいます。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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