第2040回 幼児の友



 ほとんど記憶はないのですが、私にとって最初のペットは猫だったと聞かされています。どの程度の仲好しだったのかは聞かされた事がなく、記憶にもない事からはっきりとしませんが、猫が大切な家族となっている今日の生活の基礎は、その頃に築かれたのかもしれないと思っています。

 それからしばらくして犬を飼ったのですが、ペットの関する記憶はこの犬から始まっていて、今でも大好きだった事が思い出されます。

 最近では動物と接する事でさまざまな症状の緩和に役立つとするアニマルセラピーや、猫が常駐している猫カフェ、犬と一緒に楽しめるドッグラン、同伴可能な宿泊施設など、動物と過ごす時間の大切さや意味が広く意識されるようになってきていると感じます。

 子供の頃にペットの接する事は、世話をするという責任感の育成や言葉の通じない相手の事を理解し、慈しむという気持ちの育成、とても悲しい事ですが大切に思っていた存在との死別の体験と得るものが多いという話を聞かされ、自分なりに振り返ってみてもたくさんの事を学ばせてもらえたように思えます。

 そんな動物と接するメリットについて、家に新生児がいる場合、犬を飼っていると明らかに病気になりにくいとする研究結果があり、とても興味深く思えます。

 家で犬を飼っている幼児は、犬を飼っていない幼児よりも健康で耳の疾患に関する感染症が少ないとうる研究論文は、都市部と農村部に住む幼児を対象に生後9週間から1歳になるまでに、犬や猫などに接触する事により風邪などの気道の感染症やそれに伴う一般的な耳の感染症から保護されるかどうかについての調査結果として作成されています。

 犬と暮らしている幼児が調査期間中に病気になっていたのは全体の期間の27%で、犬と暮らしていない幼児の35%よりも明らかに短く、病気になりにくい、病気になっても回復が早い事が判り、実際に抗生物質を投与する必要性も低かったとされます。

 猫と暮らしていても病気になりにくい傾向は確認されていますが、犬ほどではなかったとされ、犬についても家の中にずっといるより大半の時間を屋外で過ごす犬と暮らしている方がより良好な結果が得られています。

 屋外で多くの時間を過ごす犬はさまざまなほこりや細菌類を家に持ち帰ってくる事から、日頃からそれらにさらされる事で幼児の免疫力が高まる事が理由と考えられ、同じ多くの時間を屋外で過ごす猫は、本能的に毛繕いに多くの時間を掛ける事から持ち帰るほこりや細菌類が少なくなる事が犬ほどの好結果に繋がらなかった事と考える事ができます。

 幼児の健康には母乳や人工栄養、出生時の体重や子供の数、親の喫煙状況など、さまざまな要因が複雑に絡んでくる事とは思われますが、動物と接する価値がまた高まったようで、どことなく嬉しく思っています。


 
スポンサーサイト

第2039回 茶葉の効用



 日本茶が大好きでよく飲むのですが、つい濃く淹れ過ぎてしまって、最近、何か胃の調子が優れないと思っていると濃過ぎるお茶のせいだったりします。

 お茶は当初、薬として日本へ持ち込まれ、長い間、長寿の妙薬として扱われてきたのですが、過ぎたるはという事で反省させられたりしています。

 お茶の健康効果についてはさまざまな事がいわれ、研究も進められています。中でもカテキンの殺菌作用やテアニンの鎮静、リラクゼーション効果が知られるところとなり、カテキンに関しては抗酸化作用によってガンを防ぐともいわれています。

 そんなカテキンの一種、エビガロカテキンガレートにはガン細胞に死ぬ事を思い出させて、無軌道な増殖を止めて減少させる「アポトーシス」を誘発する事が確認されています。エビガロカテキンガレートは発酵の過程で失われてしまう事から、同じ茶葉でも紅茶や中国茶ではなく日本茶に多い成分という事ができ、お茶を飲む価値をさらに高めてくれるものという事ができます。

 お茶は一煎目は温めのお湯が良いとされ、湯冷ましや湯飲みなどにお湯を入れて温度を下げ、茶葉の香りや含まれているアミノ酸の旨味、カフェインの苦味、タンニンの渋味をバランス良く抽出するように急須を使ってゆっくりと淹れます。

 二煎目も同じように温めのお湯で入れ、三煎目は直接急須にお湯を注いで残された苦味や渋味を楽しみます。しかし、エビガロカテキンガレートに限っていうと、80度以上の高温の方が抽出し易い事から、一煎目からポットのお湯を直接急須に注いでゆっくりと抽出して淹れ、二煎目を終えたら茶葉を取り換えた方が良いとされます。

 美味しさを取るか、健康を取るかという選択を迫られたような感じですが、二煎目を淹れ終えた後くらいのほんのりとした苦味と渋味を残す茶葉はポン酢でいただくと美味しいという事もあり、お茶との新たな接し方にも繋がりそうな気がします。

 高い温度のお湯で淹れた濃い目のお茶ですが、胃には負担を掛けてしまいそうなので、何事もほどほどにという健康の基本が見えてくるようにも思えます。


 

第2038回 役割発見



 家族の中で私だけが違うという事がよくあり、子供の頃はよその家の子ではとからかわれる事もありました。そんな中の一つといえるのかは謎ですが、私だけが盲腸を経験していない事から虫垂を保持しており、体質を受け継がなかった、子供の頃に「こんにゃくをしっかり食べておかないと、体内に砂が溜まって盲腸になるぞ」と聞かされ、こんにゃくをよく食べる子供だった事が幸いしたとも思っています。

 一般的には盲腸と呼ばれる事の多い急性虫垂炎は、小腸から大腸へと移った直後の部位、盲腸の末端部にあたる7cm程度の鉛筆のような部分が何らかの原因で詰まってしまい、2次的に細菌感染を起こしてしまった事で引き起こされています。

 虫垂が詰まってしまう理由としては腸の内容物によるものや、リンパ小胞と呼ばれるリンパ球を作っている部分の増殖によるものが多いとされ、砂が溜まるとされたのは腸の内容物によって虫垂が詰まってしまう事を表していたと考える事ができます。

 リンパ小胞の発育が10代の後半から20代の前半にピークを迎える事から、盲腸の発症もその頃が多いとされ、右下の腹部がズキズキと痛むという特徴的な症状があります。

 虫垂はこれといった役割を持たない事や摘出手術をした人のその後の生活を見ていても不具合は皆無とされ、それならばいつ悪くなるか判らない器官を抱えておくよりも健康なうちに早めに摘出しておけば不快な症状を経験する事もなく、元気なうちに自分の都合に合わせた治療が行えるのではと思ったりもします。

 そんな虫垂の役割が疫学的な見地から明らかにされようとしています。虫垂は腸内のバクテリアが暮らす安全な隠れ家としての機能を有していて、赤痢やコレラなどのように菌が宿主となる善玉菌を死滅させてしまう病気に罹った際、消化システムを再生させるための役割を担っているとされます。

 かつて狩猟生活が中心で人々がまばらに暮らしていた頃、消化器官の病気になどによって腸内の善玉菌を失ってしまうと新たな善玉菌を補給する方法が限られ、長期に渡って体調不良を引き起こしてしまう事が考えられ、そのための保険として虫垂内には善玉菌が隠れ住んでいたと考える事ができます。

 人口密度が上がった今日、人同士によって善玉菌の確保が可能な事から虫垂の役目は失われてしまったといえますが、発展途上国ではまだ役割は失われておらず、先進国よりも発展途上国の方が盲腸に罹患する人が少ない事も、人口密度が低く、腸内の善玉菌を失ってしまう可能性のある地域では虫垂は役割を失っていない事を伺う事ができます。

 病の原因となる事だけが知られ、無用な臓器と思われていた虫垂にも役割がある事が判り、完全に退化して無くなっていない意味を知ったように思えます。安易に摘出せずに、善玉菌の隠れ家としてこれからも大切に保持していかなければと思えてきます。


 

第2037回 リンの弊害



 はじめてリンという成分を意識したのは、子供の頃、大好きだった発明の歴史に関する本の中に登場したマッチが元だったと思います。当時の黄リンを使ったマッチは何にこすりつけても温度が上がれば火が着いた事から、西部劇などで見掛ける適当な場所で火を着けるという事ができていたという事で、それが羨ましく思えていました。

 その頃のマッチは黄リンを使っていた事で可能となっていた事ですが、黄リンは発火性が高い事から持ち運び中に発火してしまったり、人体に対して有毒であった事から後に安定性が高い赤リンに代わり、「よこぐすり」と呼ばれる箱の側面に用意されたやすり部分でこすらないと火が着かないようになっています。

 その後、土葬された遺体から浸み出してきて火の玉の原料となる成分として紹介されている記事を読み、高校の生物では体を動かすエネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)として登場しています。

 栄養成分としても頻繁に目にするようになり、体内のミネラルの中ではカルシウムの次に多い成分で、成人の体には850gものリンが含まれているとされる事を知りました。

 体内に存在するリンの85%はカルシウムやマグネシウムと共に骨や歯を作っていて、残りの15%が脳や神経、筋肉などのさまざまな器官の中でエネルギーを作る事に使用されています。そのため、多くの食材に含まれていて、現代人の食生活では不足する事はない成分とされ、逆に過剰摂取が問題となってきているといわれています。

 日常の生活の中でリンを取り過ぎる原因の一つとして、食品添加物の存在が上げられています。食品を選ぶ際、ラベルに記載された原材料の表示を見ると、保存料として「ポリリン酸」の記載をよく見掛けます。また、加工食品や清涼飲料では酸味料としてリン酸も使われています。

 リンはカルシウムの代謝と深く関わっている事から、カルシウムが不足し、リンが過剰となると骨量や骨密度が低下するとされ、骨粗鬆症が問題となっている現代ではリンの過剰摂取は健康面にマイナスとなる事が考えられます。

 リンの弊害についてはそれだけに留まらず、最近では老化を促進する事が判ってきています。アンチエイジングの研究の中で発見されたの一つに「クローソー遺伝子」と名付けられた老化病変を抑える遺伝子があります。リンの過剰摂取によって引き起こされる血清中のリン酸値が高い状態は、クローソー遺伝子の働きを阻害するとされ、老化を促進する可能性が示唆されています。

 最近ではポリリン酸は歯のホワイトニングにも使われていて、また新たなリンの利用に出会えた感じがしているのですが、過剰となっている事を意識しながら日頃の摂取量には気を付けたいと思っています。


 

第2036回 渇望の素



 毎日、いろんな食材をできるだけ幅広く摂る事を心掛けています。旬の物で、できるだけ産地が近く、色が濃い目の物と考えながら選ぶのですが、食べ物を選ぶ際のもう一つのポイント、それは体が求めている食べ物と思ってきました。

 健康を維持するために必要な栄養素が不足すると、自然と体はその栄養素が含まれている食べ物を求めるようになるので、体が求めた食べ物は欠かさず食べるようにしておけば健康の維持という点に問題が生じない、そう思っていたのですが、どうもそれは勝手な思い込みだったようで、不足した栄養素と特定の食べ物を求める事とは関係がない事を示す研究が存在しています。

 機能MRI(磁気共鳴画像)スキャンや血流の変化によって脳の活動を測ると、特定の食べ物を求める欲求はアルコールやドラッグを求める渇望に似ている部分があり、報酬系と呼ばれる脳の部位を活性化させる事が判っています。

 ほとんどの人が突然、何らかの食べ物を求める気持ちに遭遇します。女性の方が男性より、高齢者よりも若年層の方が頻繁に経験するとされ、85%近い男性が欲求に屈してその食べ物を食べる事で満足する事に対し、女性は57%程度の人しか満足しないとされます。

 そうした食べ物への欲求は栄養の偏りを正すという無意識のなせる技という思いの下に始まった研究は、調査が進むに連れて疑問視されるようになり、栄養素が不足して食べたいと思った食材よりもはるかに多くを含んでいる食材を求めない事、栄養価が高くても味や食感といった美味しさでは劣る物が求められない事の合理的な説明ができない事となり、社会的、文化的、心理的などの要因が複雑に絡んで引き起こされている事が判ってきています。

 最も食べたいという突然の欲求が高まりやすい食べ物にチョコレートがあるとされますが、欧米では高い比率で求められるチョコレートはエジプトではほとんど求められる事はないとされ、社会的、文化的背景の影響の強さを伺う事ができます。

 そうなると食べ物を選ぶ基準が一つ崩れてしまうのですが、同研究では欲求の対象があまり健康に良くない食べ物であったり、単に欲求を抑えたい場合はジャスミンの香りを深く嗅ぐと、重要な役割を果たしているアロマの受容体がジャスミンの香りによって占有されてしまう事から、比較的容易に欲求を抑える事ができるとしています。最近、急にジャスミンティーが飲みたくなり、結構な頻度で飲んでいるのですが、それは急な食べ物への欲求の高まりを抑えようとして脳が求めていたのではと、似たような事を考えてしまいます。


 

第2035回 カビないパン



 以前、義母が胃潰瘍による出血で緊急入院した際、取る物取りあえずという感じで充分な準備もできないままでの入院となってしまいました。三週間後、担当の医師より退院の許可が出た事から家に連れて帰ると、入院直前の状態がそのまま残され、鍋には腐敗した煮物が入ったままとなっていました。

 病院の方にばかり気を取られ、家の事は何も気遣っていなかった事を反省しながら台所を片付け、居間に座っている義母を寝室に寝かせるための準備をしに寝室に入ると、サイドテーブルの上に見慣れた大手メーカーの菓子パンが目に入りました。

 倒れる前の朝、食べようと思って用意していたのだろうと思いながら手に取ると、菓子パンは傷んだ様子がなく、柔らかく煮た甘い豆を多く含んでいるにも関わらず、カビさえも生えていませんでした。手に持った袋が傾いた際、袋の口が開けてある事が判り、大手メーカーのパンはカビないといった内容の本の事を思い出し、気持ちが悪くなった事があります。

 今から思うと春先とはいえ締め切った屋内はそれなりの温度となっていた事が考えられ、どのような防腐剤を用いても開封したパンが三週間に渡ってカビが生えないどころか、しっとり感も失われないという事はありえるはずがなく、いつも開いたままにされている勝手口から出入りし、義母の面倒を見てくれていた遠い親戚の叔母さんの忘れものではないかと思っています。

 書籍のタイトルが示しているように某大手メーカーのパンはカビにくいとされ、その理由を添加物の多さゆえにとする意見が多くなっています。社長自らが美味しいパンを作るには添加物は欠かせないという考えを持っているともいわれ、高級な価格帯のパンになるほど添加物が使われている事にもそうした考え方が裏付けられていると見る事もできます。

 そのメーカーのパンがカビにくい事については、そのメーカーでは国内の大手では唯一、世界的に使用が禁止されている「臭素酸カリウム」が添加物として使用されているため、それがカビの発生を阻害しているという意見が多くを占めています。

 臭素酸カリウムはかつてはパンの生地や魚肉練り製品などの品質改良剤として使用されていましたが、発ガン性が指摘された事からイギリスやドイツ、カナダ、中国などの諸外国では使用が禁止され、アメリカでも全面禁止には至ってはいませんが、州単位で使用した場合は消費者に判るように表記しなければならないなどの法制化が進められています。

 日本ではパン以外の使用は禁止され、パンに関しても使用を自粛する事が要請されましたが、一部の業界団体によって通常の製法の場合、臭素酸カリウムは分解して製品の中には存在しなくなる事から、残存が検出されない事を条件に使用が認められています。

 その後、ビタミンCを代用する技術が開発された事から、臭素酸カリウムを継続して使うメーカーの数は減っていますが、某大手メーカーでは継続した使用が続いている事となっています。

 製品中に残存しない事から、製造時に臭素酸カリウムを使用していても製品に記載する必要はなく、出来上がった製品を分析しても使用の有無を知る事はほぼ不可能とされますが、某大手メーカーでは品質の改善と風味の向上のために使用した事を明記しています。

 そうした記載が臭素酸カリウムを使用しているという事実を際立たせる事となっているのですが、残留しない事が前提で使用を認められている臭素酸カリウムがカビの発生を防ぐほど製品に含まれているとは考えられず、書籍中やメーカーに批判的な意見の中には同じように他の添加物を使用したパンにはカビが生え、臭素酸カリウムを使用したパンだけにカビが生えない事から臭素酸カリウムの高い毒性がカビを防いだという結論に達していますが、根拠としてはあまりに薄いと思えてきます。

 食の安全を脅かす物として食品添加物の存在が上げられ、過度に添加物を毛嫌いする動きも見られますが、発ガン性、諸外国で禁止といったインパクトのある言葉に踊らされず、含有量や性質などについて落ち着いた視点を持ち、いたずらに不安をあおるだけの書籍に印税を払わない事も食の安全を考える上では大切な事と思えてしまいます。


 

第2034回 酸味の秘密



 日中に暑さを感じる日には冷や奴、肌寒さを感じると湯豆腐と、意外なほど豆腐を食べている気がします。特に昨年の夏は水を切った豆腐の全面に塩をまぶし、キッチンペーパーで包んで一晩冷蔵庫で寝かせた物を、食べやすい厚さに切ってトマトと交互に並べて粗挽きのコショウとオリーブ油を散らしたサラダが気に入り、かなりの頻度で食べていたように思えます。

 行き付けのスーパーではいろんな種類の豆腐が売られ、近所の豆腐店で作られ「田舎とうふ」と銘打たれたとても固い豆腐も売られています。近所のよしみや使われている大豆の量が多そうな固さから選んだ方が良いような感じがしながら、口に含んだ際に大豆の風味や甘味が広がり、滑らかな食感の物が食べたいと思ってしまう事から、いつも別な製品を選んでしまいます。

 そんな豆腐売り場に激安の豆腐が並べられていて、いつも購入している製品の数分の一という価格には、どこか心惹かれてしまうものがあります。

 激安の豆腐については、スーパーが客寄せのために赤字で放出している、大豆油や豆乳を搾ったあとの搾りかすで作られているといった意見を聞かされる事があります。

 かつてスーパーの客寄せとしては卵が主力となっていたとされますが、消費してしまうまでに数日を要する卵のパックに代わり一食で終わってしまう弁当が主流となっているそうで、豆腐一丁がどのくらいの客寄せとなるのかと思いながら、激安の背景にはそうした宣伝費という考え方もある事と考えてしまいます。

 大豆から油分を搾った後の残りは「脱脂大豆」と呼ばれ、しょうゆの原料として使われています。豆乳を搾った後はおからとなり、脱脂大豆、おから共に豆腐に加工する事はできないので、搾りかすから激安豆腐が作られているというのは正しくない事が判ります。

 激安の豆腐を購入して帰り、何も付けずに味をみてみるとほんのりとした酸味を感じる事ができ、やはりという思いがしてきます。激安豆腐の正体、それは凝固剤に「グルコノデルタラクトン」を使用した豆腐と思えてきます。

 豆腐は豆乳に凝固剤を加えて固めて作られています。凝固材の代表的な物というか古典的な物が「にがり」で、海水から採られた物が使われていました。にがりは塩化マグネシウムを主成分としていて、同じく凝固剤として使用される「すまし粉」の硫酸カルシウムと共に「塩凝固」と呼ばれるマグネシウムやカルシウムと大豆タンパクの電気的なイオン反応を使って豆腐を凝固させています。

 それに対しグルコノデルタラクトンによる凝固は「酸凝固」と呼ばれ、酸によって豆乳中の大豆タンパクが凝固する働きを利用しています。豆乳にグルコノデルタラクトンを加えると徐々にグルコン酸が生じ、ゆっくりと豆乳は固まっていく事となります。

 にがりは大豆の風味や甘味を活かして固める事には向いているのですが、豆乳に加えると急激に固まり始める事から作業性が悪く、豆腐の製造に熟練が要求される事となり、硫酸カルシウムやグルコノデルタラクトンはゆっくりと固まる事から作業性が良く、豆腐が作りやすくなるのですが大豆の風味や甘味を活かす事には向いていないとされます。

 にがりよりもグルコノデルタラクトンを豆腐作りに使うメリットは作業性に限らず、豆腐をロスを少なくして作る事ができるという点にあるともいわれます。豆腐を固める力が強い事から、にがりを使う場合ほどには濃い豆乳を使う必要がなく、薄い豆乳でも豆腐を作る事ができます。

 グルコノデルタラクトンを使った豆腐、特に大豆の味が薄まってしまう薄い豆乳から作られた豆腐では、グルコン酸由来の酸味がしてしまうのですが、艶やかな食感が特徴でもあり、グルコノデルタラクトンという化学的な響きとは裏腹に天然成分でもあり、ビフィズス菌を増やすという健康効果もあるとされる事から、激安豆腐の見方に微妙なものを感じてしまいます。いろんな要因で購買意欲は変わってしまうものなのですが、豆腐も少し悩んでしまう存在となっています。


 

第2033回 黄色に黄信号?



 かつては病気でもしない事には食べられなかったような物が、今では簡単に入手できて気軽に食べる事ができる。食が豊かになったという意味で聞かされる言葉ですが、その代表の一つにバナナがあるように思えます。熱帯で育つバナナは、普通では日本の気候では育てる事ができない事から輸入に頼るしかなく、昔は貴重品であったとされ、今日の安価な価格設定との違いを感じてしまいます。

 最近ではあまり大きな房ではなく、小分けされた4、5本が一塊となった房単位で売られている場面を多く見かけ、価格も100円を切る物も珍しくはありません。そんな身近でありふれた存在となったバナナが、かつてのように貴重品に、それ以上にもう手に入らなくなるかもしれないという怖ろしげなニュースを聞かされた事があります。

 植物は受粉などによって複数の個体の遺伝子が継承された種を残す事で繁殖しています。複数の個体の遺伝子を継承する事は遺伝的多様性を確保するためともいわれ、遺伝的な多様性が確保されている事で一定のウィルスによる絶滅という種を根絶やしにされる危険性を軽減しています。

 バナナを食べていると判る事ですがバナナには種がなく、縦に切ってみると黒っぽい種があった名残のような部分を中心近くに見付ける事ができます。本来の野生のバナナには種があったものが、ある時、突然変異で種がないバナナが生まれ、それを栽培種として育てているために種がないのですが、種がないために通常の方法では繁殖ができない事から、世界中のバナナは株分けによって数を増やしてきています。

 株分けによって繁殖が行われている事から、同じ種のバナナは同じ遺伝子を持つクローンという事ができ、極端に遺伝的多様性が低いものとなっています。そのためバナナを枯らすウィルスや病原菌が発生した場合、一気に絶滅へと追い込まれてしまう危険性を持っています。

 以前、甘みが強くとろけるように柔らかな食感で大人気となった品種「グロスミシェル」は、土壌菌が原因とされる「パナマ病」や「斑点病」の蔓延によって絶滅へと追い込まれたとされ、現在、同じ土壌菌のフザリウムに由来した新たなパナマ病が東南アジアをはじめとする広い地域に広がり、バナナは絶滅へと向かうのではないかといわれています。

 グロスミシェル種が全滅した地域では、パナマ病に比較的強かったキャベンディッシュ種が代わりに栽培されるようになり、かつての栽培量を回復していましたが、今回の新たなパナマ病はそのキャベンディッシュ種を直撃しているといいます。

 世界中に広まったバナナ絶滅の噂の出所は、イギリスの科学雑誌「ニューサイエンティスト」に掲載された記事とされ、ベルギーの植物病理学者フリゾン博士によるものとされます。しかし、当のフリゾン博士は「絶滅などとは絶対にいっていない」と発言を否定しており、「輸出量が多い中南米に広がると、前回のグロスミシェルの際と同じ道を辿るかもしれない」といっただけとしています。

 グロスミシェルと同じ道というと「絶滅」と思えてくるのですが、実はグロスミシェルは絶滅はしておらず、主要な産地が打撃を受けて市場から姿を消しただけで、今日でもアフリカや南米では地元の消費用に栽培されて、地産地消されながら生き残っています。

 現在、遺伝的多様性に乏しいとされながらバナナの品種は五百種以上もあるとされ、年間の総生産量は約8500万トン。その中から輸出されているのは全体の13%に過ぎず、その中からキャベンディッシュ種は10%とされ、キャベンディッシュ種が突然姿を消しても総バナナ量の中ではわずかな出来事でしかないという事もできてしまいます。

 バナナをデザートやダイエット、朝食として食べて少量を消費する日本とは事なり、バナナやバナナの仲間のプランタンを主食とする人は世界中に10億人もいるとされ、バナナが絶滅してしまうと10億人が主食を失う大変な出来事のように思えるのですが、とりあえずそれほど深刻な事態ではない事に安堵しながら、バナナだけでなく遺伝的多様性を確保せずに栽培してきた全ての作物に、新たな保護の目を向けなければと思えてきます。


 

第2032回 安全のための焼け



 小学生の頃、一学期の終わりに担任の先生が「夏休みが終わったら、誰が一番黒く日焼けしているか競争しましょう」と全員に提案し、負けないようにと毎日外で遊んでいたのですが、夏休みが終わってみると地黒の友人には適うはずもなく、頑張っても無理と思った事があります。

 日焼けは太陽光、特に紫外線を浴びる事で皮膚に起こる変化で、大きく分けて皮膚が赤く炎症を起こす「サンバーン」とメラニン色素が皮膚に沈着する「サンタニング」に分ける事ができます。

 皮膚が紫外線を浴び、紫外線量が皮膚に含まれるメラニンの保護能力を超えた際にサンバーンが起こると考えられ、メラニン色素の量には個人差がある事から、日頃から紫外線に対する防御能力の高い人とは、事前にメラニン色素を多く持った地黒の人となっています。

 紫外線を浴びて赤く炎症を起こしてしまうサンバーンは、有害な紫外線から皮膚を守る役目の一環とされ、サンバーンによって紫外線で損傷した皮膚細胞を除去したり皮膚の再生を促す、損傷した遺伝子を持つ細胞を取り除く事で皮膚ガンの発生を防ぐなどの働きを担っていると考えられます。

 夏の強い陽射しの下、日焼けして赤くなるのは日常的に経験している事ではありますが、どのようにしてサンバーンが引き起こされているかについては、詳細なメカニズムは不明となっていました。

 カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームによると、太陽光に含まれる紫外線には非常に強い細胞を殺す作用があり、紫外線を浴びて死んだ細胞の中ではRNAの一種が分解され、それを隣接した細胞が検知する事によって自分たちも紫外線による障害を受ける可能性がある事を察知している事や、死んだ細胞の周辺の健康な細胞に対し炎症を起こすように信号が送られている事、そうした働きによってサンバーンが引き起こされている事が明らかにされています。

 RNAはDNAと対になって遺伝情報伝達の役割を担っている事が知られていますが、サンバーンに関係したRNAは「非コードRNA」と呼ばれる遺伝情報の伝達には関わらず、遺伝子の働きを抑制する役割を持つRNAである事も判っています。

 今回の研究では、直射日光に15~30分程度、肌をさらした際の量に相当する紫外線を人の皮膚細胞に照射し、紫外線によって損傷した状態の細胞を正常な細胞の中に加えてみるという形の研究手法が採られています。

 通常はウィルスに関係した外部から来たRNAを検知するセンサーが、紫外線によって損傷し、死滅した細胞の中で分解されたRNAを認識して炎症反応を誘発する事が観察され、紫外線によって炎症が引き起こされる過程が解明された事になります。

 今回の研究によって紫外線によって損傷を受けた細胞を放置する危険性を体は熟知していて、事前に損傷を受けた細胞を周辺の健康な細胞ごと取り除く仕組みを備えていた事を知り、ますます私の紫外線嫌いが進みそうな気がしています。


 

第2031回 創生前から



 東日本大震災による原子力発電所の事故以来、食品に含まれる放射能の量をチェックする事で安全性をアピールする内容の広告を見たり、個人向けに放射線を測定するガイガーカウンターの販売なども見掛けたりします。

 そうした広告を受けて個人単位で食品に含まれる放射線の量を測定していると、思わぬ食品で高い反応が出て驚かされるのではと思ってしまいます。

 天然に存在するカリウムのうちには、0.0117%の割合で放射性同位体のカリウム40が含まれています。カリウム40の半減期は12億5千万年とされる事から、超新星爆発の際に核反応が起こって作られたものが地球創生によって取り込まれたと考えられていますが、そのためにカリウムを多く含む食品にガイガーカウンターを当てると反応してしまう事があります。

 カリウムはあらゆる食品に含まれていて、ナトリウムの排出を促す事から血圧が気になる人には、カリウムを多く含む食材はお薦めとなっています。そのカリウムの中の0.0117%が放射性同位体のカリウム40となる事から、私たちの体の中にもカリウム40は含まれていて、日常の食を通しても摂取している事となります。

 カリウム40の放射線はトリウム、ウランと並んで自然放射線量の3分の1を占めるとされるほど多くの放射線を出している存在となっていますが、カリウム40がトリウムやウランに比べて圧倒的な量が自然界に存在するからで、単体で見た場合のカリウム40は微量の放射線しか出していないとされます。

 地球創生以前に作られたものが現在も残っているほどの長い半減期は、それだけ緩やかに放射線を出しながらカリウム40が崩壊している事を示しています。人の体内には約200gほどのカリウムがイオン化した状態で存在し、その中の0.0234gが放射性同位体のカリウム40という事になります。

 量的には多いようにも思えてくるのですが、原子レベルで見ると極めて微々たる放射線量となり、今日、私たちはカリウムは健康に良いとしてカリウムが多い食材を摂取している事となります。意外と複雑な放射線と放射性同位体、広告に惑わされない確かな目が必要と思えてきます。


 
プロフィール

kcolumnist

Author:kcolumnist
にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR