第2138回 暖気運転



 小さい頃から血圧が低く、朝は決まった時間に起きて準備はするのですが、準備を終えてから学校へと向かう前にしばらくボーっとしている時間が必要で、その暖気運転の時間がなければ一日を始められない状態が続いていました。自分でも何故そんな時間が必要なのか理解できなかったのですが、そうしないと行動できない事から毎日の朝の儀式のように繰り返していて、後に血圧が低い事に由来していると知る事になりました。

 低血圧は高血圧よりも治療が難しく、血の巡りが悪い事から血栓症や脳梗塞、心筋梗塞などを起こしやすいといわれた事があるのですが、高血圧のように命に関わる病気を引き起こす事はまずないともいわれます。

 一般的には最大(収縮期)血圧が100mmHg以下の状態が低血圧とされ、日本人の1.5~7%程度が該当するとされています。特に若い痩せ型の女性に多いとされ、寝起きが悪い、気力が出ない、立ちくらみやめまい、慢性的な倦怠感などが自覚症状として知られています。

 明確な原因が存在する事は少なく、遺伝的な要因や血圧を一定に保つように調節するホルモンである「アルドステロン」の代謝異常が関わっていると考えられています。

 最近は公共の場に血圧計が設置されていたり、家庭で簡単に計測できる血圧計なども普及している事から、思わぬ低血圧を発見してしまう事も多くなってきていると考える事ができますが、基本的に自覚症状がなかったり、自覚症状を感じていても日常生活に支障がないレベルであれば、あえて治療をする必要はないとされます。

 治療を行う場合は血圧を向上させる昇圧剤や自律神経の調整剤、精神安定剤などの薬物療法が中心となりますが、それほど症状がひどくなければ日常生活の見直しだけでも回復が見込めるともいわれます。

 低血圧症の場合、一日を通しての血圧の変動が小さく、生体リズムが狂いやすい状態にあるので、毎朝、同じ時間に起床するようにして朝の光を浴び、朝の準備を行って軽く体操をするなどして、体内時計の調整を行う事が大切とされます。

 また、年齢と共に血管が硬くなって血圧は上がってくる傾向がある事から、症状は年齢と共に回復するともいわれます。いつの間にか朝の暖気運転の必要性を感じなくなってきたように思えるのは、加齢のためという認めたくない事実がそこにあるようにも思えています。


 
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第2137回 白のリスク



 糖尿病は生活習慣や遺伝的な要因、肥満や運動不足などが原因として上げられます。そのため、まず家族の中に糖尿病を発症した者がいないかを確認し、発症者がある場合でも生活習慣を見直す事で発症にリスクを下げられるといわれます。

 血液検査で血糖値の数値などを気にする事も大切なのですが、血液検査において糖尿病の発症について気にするべき数値が新たに加わる可能性が最近の研究で示唆されてきています。

 イスラエルのシェバ医療センターで平均年齢30.8歳の男性を対象に検討を行ったところ、正常範囲内であっても白血球の数値が高めの場合、2型の糖尿病を発症するリスクが高まる傾向がある事が判ってきています。

 血液1立方ミリメートル当たり3000~12000個という白血球数の健康な男性、24897人を追跡調査し、2型糖尿病発症との関係を検討した結果、年齢やBMI(肥満指数)、糖尿病の家族歴、日常の運動量、中性脂肪の量や空腹時血糖などの影響を除外すると、白血球数が血液1立方ミリメートル当たり1000個増えるごとに糖尿病の発症率が7.6%向上する事が確認されています。

 日本での白血球の正常値は3200~8500個とされ、今回、対象となった被験者のほとんどが正常値内にある事が考えられますが、白血球の数に合わせて5つのグループに分けた中の5400個未満の最も少ないグループに比べ、6900個以上のグループでは発症リスクが1.52倍高いとされ、最も少ないグループでは過体重や糖尿病の家族歴があったり、中性脂肪の数値が高めなどの糖尿病発症リスクが高い状態でも発症率は低い状態だったといいます。

 白血球数が高い事がどのように関係して糖尿病の発症リスクを高めるのか、高い状態でどのような対処を行えばよいのかについては今後の研究を待つ事となりますが、気を付けるべき事として記憶に留めておいた方が良いのかもしれません。


 

第2136回 栄華の果て



 栄華を極める・・・歴史関連の書物を読んでいると結構目にする言葉なのですが、一庶民としてはどのような状態なのかあまりイメージする事ができません。歴史上、どのような人が栄華を極めたのかと思いながら振り返ってみると、藤原道長はその一人ではないかと思えてきます。

 藤原道長は平安時代の中期に活躍した公卿で、後一条天皇、後朱雀天皇、後冷泉天皇の外祖父にあたり、長女の彰子を一条天皇の皇后、次の三条天皇には次女の妍子、三女の威子は後一条天皇の皇后として「一家立三后」と、当時の人々を驚嘆させています。

 父の兼家は摂政として権力を掌握していますが道長は五男であり、有力な兄の陰に隠れて当初は目立たない存在だったといいます。兄の道隆が酒が元で命を落とし、続いく次男の道兼が伝染病で相次いで命を落としたあたりから頭角を現しはじめ、左大臣となって権力を握っています。

 道長は非常に豪爽な性格であったとされ、父の兼家が才人として知られた関白頼忠の息子、公任を羨んで自分の息子たちと比較し、「我が子たちは遠く及ばず、公任の影を踏む事さえできないだろう」とため息交じりに嘆いた際、言葉もない道隆、道兼を尻目に「影を踏む事はできないでしょうが、その面を踏んでやりましょう」と答えたとされます。

 深夜の宮殿を巡る肝試しを命じられた際も兄の道隆、道兼が恐怖のあまり逃げ帰ってしまったのに対し、道長は一人肝試しをやり遂げ、宮殿奥深くの柱を削り取って証拠として持ち帰っています。

 そんな道長の栄華を表したものとして「この世をば、わが世とぞ思う、望月の、欠けたることも、なしと思えば」という詠が残され、三女を後一条天皇に嫁がせた直後の道長の心情を表しているともされます。

 道長自身はいい過ぎたと思ったのか、自らの日記である「御堂関白記」にその日の宴席の様子を描き残しながら、詠については記載していませんが、道長に批判的だった実資の日記に書き残されて後世に伝えられる事となっています。

 それだけの栄華を誇った道長ですが、晩年は糖尿病に悩まされていた可能性を示す資料が残されています。道長の死因については不明とされ、ガンもしくは糖尿病という憶測がされていますが、さまざまな資料をみていると糖尿病が有力なように思えてきます。

 道長は50歳を過ぎたあたりから頻繁に喉の渇きをうったえ、よく水を飲んでいたとされます。その頃の道長とされる肖像画は、栄華を反映した美食のためか、かなりの肥満体となっており、美食、飽食、運動不足に当時の貴族にありがちな不規則な生活の跡と見る事ができます。

 当時の権力争いはその後の武家社会のような明確な軍事力を用いたものではなかった事から、心理的なストレスも大きかった事も考えられ、酒を好んだ事も糖尿病発症の要因として考える事ができます。

 道長の父をはじめとする親戚筋にも糖尿病と見られる病で死亡している事から、生活習慣やストレスに加え、遺伝的な要因も大きく発症に作用したと見る事ができ、晩年、実資に対し、「そなたの顔がよく見えぬのだ」と話していた事は、糖尿病性の視力疾患を発症していた事を彷彿とさせてくれます。

 最晩年に背中におできができ、長く苦しめられたという記録も残されていますが、血液中に糖分が多く、最近の感染症を起こすと治りが困難な糖尿病の典型的な症状と見る事もでき、その後、亡くなっている事から、化膿した部分から雑菌が入り込み、敗血症を引き起こした事が栄華を極めた道長の命を奪ったとも考えられます。

 詠に残された満月のように満ち足りていた道長の人生、全てに恵まれていながら健康だけには恵まれなかった事が、文字通り道長の命取りとなったという事ができ、どのような地位にあっても自らの健康は自ら守らなければならない、そう教えてくれているようにも思えます。


 

第2135回 合金の妙



 アマルガムというと水銀と何らかの金属を混ぜ合わせた合金の事を指しますが、あまり良い印象を持てないのは有害な水銀が使われている事やその利用法にあるように思えてきます。金属は混ぜ合わせて合金にすると、不思議と素材の良い面が際立つ事が多く、単純に複数の金属を合わせた以上の大きな効果を得る事ができます。アマルガムもそんな金属の性質を使用したもので、他の金属と合金になりやすい水銀特有の性質を利用したものという事ができます。

 日本で古くから使われていたアマルガムを利用した技法の一つに「消鍍金(けしめっき)」があり、すでに古墳時代には使われていたとされます。消鍍金は今日のような電解鍍金が想像もできなかった頃の金属の表面加工技術の一つという事ができ、合金になりやすく常温では液体という水銀の性質を大いに利用したものという事ができます。

 水銀と金は相性が良く、常温で液体の水銀に金を近付けるとまるで溶けるように金は水銀に吸い込まれていき、金アマルガムが形成されます。金アマルガムから鹿皮や反古紙などを使って余分な水銀を絞り出して硬さを調節し、梅酢などを使って洗浄した銅の表面に均一に金アマルガムを塗り付けて火にかざすと、およそ350度で水銀が蒸発してしまう事から金が銅の表面に残され、メッキされた状態ができあがります。

 奈良の大仏の表面を覆う金メッキにもこの方法が使われ、加熱されて気化した水銀の蒸気が大気中に放出された事から、水銀による健康被害が発生した事が考えられますが、実際、その事を示していると思われる奇病の発生が大仏建立の頃の文書に記載されています。

 金アマルガムの手法は金や銀などの鉱石を精錬する際にも用いられ、細かく挽いた鉱石を加熱しながら水で練って、そこへ水銀を加える事でアマルガムを形成し、金や銀を取込んだアマルガムを加熱する事で水銀を蒸発させれば金や銀を得る事ができます。

 通常は気化した水銀の蒸気は回収され、再利用する事で大気中への放出が起こらないようにした設備の中で処理されるのですが、そうした設備のないアマゾンの奥地で起こったゴールドラッシュの際、奈良の大仏建立と同じ奇病の発生が見られた事もアマルガムの印象を悪くしているようにも思えます。

 古墳に大仏、アマゾンの奥地。日常生活とはあまり関係のない話のように思えますが、アマルガムを一気に身近な物としてしまうのは歯科治療に使われるアマルガム修復かもしれません。アマルガム修復はアマルガムを虫歯の修復に使うもので、アマルガムの加工に適した性質や安価である事などから多くの国で採用された歯科治療法となっています。

 歯科治療に用いられるアマルガムには「銅アマルガム」と「銀スズアマルガム」があり、銅アマルガムはその名の通り銅と水銀を合わせた物にスズや銀を添加材として加えて質感を調節して使われています。銅には殺菌作用という利点はあるのですが、徐々に水銀と共に溶出する事から現在ではほとんど使われなくなっています。

 銀スズアマルガムは銀とスズを用いたアマルガムで、銀とスズの合金に銅や亜鉛を添加した粉末を水銀で練って作られています。歯に対しての接着性はないのですが、固まる際に僅かに膨張する事からしっかりと内部から患部に圧着するという性質や安価である事から広く使われています。

 銀スズアマルガムからも水銀の溶出が起こるとされ、健康への弊害が懸念された事があります。歯科医によって各金属の配合比率が違う事から、健康被害の発生を予測する事が難しく、問題をより複雑にしているともいわれます。

 そうした事情からあまり良い印象のないアマルガムですが、常温で液体、合金になりやすいという水銀の特徴を上手く利用した技術であり、長い金属との付き合いの中で培われてきた知恵の一つという事ができます。


 

第2134回 味覚不全?



 料理をしていて、調味料を加えて味見をします。一味足りない感じがして調味料を足し、また味見をするとさっきよりも良い感じになったのですが、少しバランスに欠ける感じがして味を調え直して味見をします。そんな事を繰り返しているうちに少しずつ味が感じられなくなってきます。

 同じ味ばかりなので麻痺してきたのだろうかと思うのですが、実は猫舌である事を忘れて味見をしていたので口の中を火傷してしまい、味を感じる事ができなくなっていたという事に気付いて、相変わらずの猫舌を笑ってしまう事があります。

 火傷以外で味覚がおかしいと感じたのは、以前、ギムネマ茶を飲みながら焼きそばを食べていた時の事で、ギムネマ茶によって甘味を感じなくなっていた事から、ソースの味が記憶にあるものとは大きく違い、驚いた事があります。

 それ以外ではあまり味覚関連の不調を感じた事はないのですが、いつもよりも味を薄く感じる、味がしない、塩味や甘味といった特定の味が感じられない、感じているはずの味とは別の味がする、何も食べていないのに何らかの味が感じられてしまうという味覚障害が最近増えてきているとされます。

 かつては味覚の異常というと亜鉛の欠乏症が真っ先に疑われていました。最近でも日本人の食生活では亜鉛が不足しているとされる事から、亜鉛不足が引き起こす味覚障害も少なくないようにも思えます。

 味覚障害を引き起こす原因は亜鉛不足ばかりではなく、原因がはっきりとしない特発性の味覚障害や薬剤の副作用、心因性などがあり、特発性の中には潜在化した亜鉛不足も含まれていると考えられます。

 亜鉛は微量元素の一つで食物を通して摂取しています。健康の維持には欠かせない栄養素で、特に細胞の再生に重要な役割を担っていて、亜鉛が不足すると味を感じる味細胞の再生が遅れて、古くなった味細胞では味を感じる能力が低下する事から、亜鉛の不足が味覚障害に繋がるとされます。

 味覚障害自体は直接生命に関わる病気ではありませんが、QOL(生活の質)に大きく関わる事でもあるので、的確な原因の究明と対処が必要な症状ということもできます。

 最近、高齢者の間で増えてきているとされるのが薬剤の副作用による味覚障害とされ、抗ガン剤や抗生物質、睡眠薬、抗アレルギー薬、血圧の降圧剤や糖尿病の治療薬、高脂血症の治療薬などを長期に渡って服用する事でも味覚障害を引き起こすとされています。

 薬剤の中には亜鉛と結合して化合物を形成する事で体に必要な亜鉛の吸収を阻害してしまうものがあるため、食事を通して充分な亜鉛を摂取していると思っていても、気付かないところで亜鉛不足が進行している事があるので注意が必要です。

 長期に渡って薬剤を投与され続けている高齢者の方が治療を行い、完治するまでの期間は長いとされますが、改善率に大きな差異はないとされる事から、味がおかしいと感じたら受診してみる事が早い完治に繋がるという事ができ、早期発見、早期治療が基本となっているといえます。

 味がおかしいと感じた時、それが習慣的な事か客観的な事かを判断する事も難しいのですが、回りの人と一緒に確認してみる事も重要となるので、コミュニケーションが第一とも思えてきます。


第2133回 依存と認知



 以前、とあるロックグループの歴史に関する記事を読んでいて、当時のボーカリストがアルコール依存症の後遺症として顕著な記憶障害であった事から歌詞を覚える事ができず、ライブでも歌詞カードを片手に歌っていたという記載があり、アルコール依存症の影響の深刻さに驚いた事があります。

 アルコール依存症は、日本では身近なアルコール飲料が関わっている事もあり、それほど深刻な事とは受け止められていませんが、薬物への依存症であり、自らの意思で飲酒癖を制御できない精神疾患とされます。

 アルコール依存症の患者では認知機能の低下が見られる事が多いとされ、60歳代で認知症の初期状態になるとされます。それは認知症の原因として最も多いアルツハイマー病の平均発症年齢よりも10歳も若いとされ、併せて脳梗塞を発症する頻度も60歳代で50%と、健康な高齢者の4倍近い数値となるといわれます。

 アルコール依存症による認知機能の低下はアルコール関連認知症と呼ばれる事もあり、長年の大量飲酒と栄養障害による脳の委縮や脳血管障害などが関係しているとされ、断酒や食事療法、リハビリテーションなどによる生活の改善やビタミン剤の投与、脳梗塞に対する薬物療法などの並行によって認知症状を改善する事は可能と考えられています。

 高齢者のアルコール依存については、もともと飲酒の習慣があったところに定年退職などで時間を持て余すようになり、昼間から飲酒を行ってしまうようになる事や、配偶者に先立たれた寂しさを紛らわす事にアルコールを使ってしまう事などが深く関わっているとされます。

 アルコール依存症は薬物依存でありながら、他の依存性を持つ薬物よりもはるかに容易に入手できてしまうという点も治療を難しくしているとされます。高齢化社会を迎えるに当たり身近な人の支援や地域との関わりなどが、多くのアルコール依存症を克服するカギとなるのかもしれません。


第2132回 どちらへの反論



 心臓病で入院した患者を対象とした動物性脂肪から植物性脂肪への切り替えによる死亡リスクの判定は、植物性脂肪へ切り替えたグループに有意にリスクの高まりが見られるという意外なものとなり、その内容は論文として医学雑誌の「BMD」誌に掲載されました。

 論文の内容がそれまで常識とされてきた事を覆すものであった事もあり、さまざまなメディアで「本当に健康に良い脂肪はどちら?」「飽和脂肪酸もそれほど悪いものではない」といった見出しの記事の掲載が行われる事となっています。

 それに対しAHA(米国心臓協会)は2日後には声明を発表し、「1日当りの摂取カロリーのうち、動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸からは7%未満が好ましいとする従来のガイドラインの推奨に変更はない」としてこれまでの姿勢を維持する事を明確にしています。

 AHAのスポークスマンによると、今回の研究を興味深いものとしながら、これまでに動物性脂肪を植物性脂肪に切り替えた事による有益性を示す研究は多数報告されており、今回の研究はこれまでの研究に反する例の一つとなるに過ぎないとしています。

 脂肪は吸収され、代謝されていく過程でさまざまな脂肪酸へと変化していきます。最近になって脂肪酸の過不足や体への影響がいわれるようになってきています。動物性、植物性という分け方ではなく、後々どのような脂肪酸へと変化するのかを考慮した上で脂肪と向き合う必要があるのかもしれません。


第2131回 どちらの脂肪?



 動物性脂肪は飽和脂肪酸を多く含む事から常温では固形で、植物性脂肪は不飽和脂肪酸が多い事から常温でも液体。飽和脂肪酸は血中コレステロール値を高めてしまう事から、動物性脂肪が多い食生活を続けていると心臓病のリスクが高くなるので、植物性脂肪に切り替えてヘルシーな食生活を送った方が良い。今更いうまでもない事で、広く知られている事と思います。

 しかし、本当にそうなのだろうか、少し考えてしまう研究結果が存在します。オーストラリアで40年程前に行われた研究を再解析したところ、動物性脂肪から植物性脂肪に切り替えたグループで心臓病のリスクが上昇している事が判っています。

 今回の研究の元となったのはオーストラリアで1966~72年にかけて心筋梗塞や心不全などの循環器系の急激な疾患で4つの施設のいずれかに入院した30~59歳の男性458人に対し行われたもので、無作為に動物性脂肪から植物性脂肪へと切り替えた221人と何もしなかった237人に分けてその後の経過を観察しています。

 切り替えたグループでは一日の総摂取カロリーのうち不飽和脂肪酸が占める割合を15%に増やし、逆に飽和脂肪酸の割合は10%以下に減らしています。コレステロールの摂取量も300ミリグラム以下になるように制限し、バターからマーガリンへと切り替えるようにマーガリンを配布しています。

 何もしなかったグループでは特別な食事に関する指導は行われていませんが、自身の健康を考え、自主的にバターからマーガリンへと切り替えた患者も見られています。

 経過を観察した5年後の死亡リスクは切り替えたグループが何もしなかったグループの1.62倍となり、循環器の病気による死亡が1.70倍、心臓病では1.74倍といずれの場合においても切り替えたグループの方が高くなっています。

 世界的に動物性脂肪から植物性脂肪への切り替えが推奨される中、意外な結果と思えるのですが、バターからマーガリンへと切り替えた事によるトランス脂肪酸の摂取、当時のマーガリンに多いリノール酸の過剰などいろいろな要素を考える事ができそうにも思えるのですが、本来、さまざまな食材からバランス良く栄養素を確保すべきところを、明確に善悪を分けるという考え方にも問題があるように思えてしまいます。


 

第2130回 カレーの極意



 カレーというと日本の国民食ともいわれ、広く一般家庭でも日常的に作られ、各家庭なりのこだわりや独自のレシピが存在していたりもします。市販のルウを使う事が一般的となっていますが、単品ではなく複数の種類のルウを合わせて使ったり、他の調味料を合わせたりと美味しくするための無数の工夫が存在する独自の世界観を確立している料理という事もできます。

 基本的な作り方としては、出汁の素となる動物系の素材とジャガイモやタマネギ、ニンジンといった根菜類を使い、大きめ鍋で煮込んで素材が柔らかくなったらルウを溶かして仕上げます。

 個々のカレーを美味しくするための工夫の多くはルウを溶かした後の味を調整する段階に行われる事が多く、スパイスやペパーソースを追加して辛味を増したり、チョコレートやインスタントコーヒーの粉末などの通常の料理では登場しない素材を使う例もあり、カレーという料理の特異性を際立たせてくれています。

 ルウを製造しているメーカーの開発担当者に話を聞いてみると、市販のルウを使って美味しく作るコツは箱に記載された通りに作るという事で、基本に忠実である事が重要と思えてきます。

 特に大事なのがほとんどのルウの説明書に記載された「具材が煮えたら一旦火を止めてルウを加える」という事らしく、美味しくできるかどうかを左右する重要な部分となっているともいわれます。

 油脂分を含む固形のルウを溶かすという事を考えると、高温で煮立っている方がより良く溶かせるように思え、せっかく高まった温度を火を止めて下げてしまう事に抵抗を感じるのですが、そうする事には大切な意味があるといいます。

 カレーの美味しさに関わる要素の一つに適度なとろみがあるのですが、そのとろみを決める物の一つにデンプンの存在があります。

 デンプンを水と共に加熱すると吸水しながら膨張し、熱によってデンプンの粒が崩壊してゲル状の「糊化」と呼ばれる状態になります。カレーのとろみにはこの糊化したデンプンが関わっているとされ、糊化は90度付近で最も効率よく起こるとされます。煮立った鍋の火を止め、細かな気泡が浮いてこなくなる温度が90度くらいとされ、ルウを入れる際に火を止める事には、この糊化に必要な温度にするためという事ができます。

 煮立ったままの状態では、水にさまざまな成分が含まれた状態で沸騰している事から、温度的には100度を超えており、固形のルウ表面の部分のみが一気に糊化されてしまい、それが水分を吸収して内側への水分や熱の伝導を阻害する事からダマになりやすくなり、かえってルウは溶けにくくなってしまいます。

 ルウを溶かすと、その段階で調理完了という感じがするのですが、説明書にはもう一つの大事な行程である「再び火に掛けて、しばらく煮込む」という事が書かれています。鍋の中で糊化したデンプンは、当初は白濁した状態となっていますが加熱される事でやがて透明となり、急激に粘度を増していきます。

 火を止めた鍋の中でルウを溶かして全体を糊化させ、再度の加熱で糊化の度合いを高めながらルウ自体の粉っぽさを消していく。それによって市販のカレールウは最大限の美味しさを発揮できるように作られています。

 ルウを溶かした後の味の調整の段階でさまざまなこだわりの味付けが行われるのですが、デンプンのとろみに焦点を当てるとデンプンの分解を促す酵素などを含む食材は避けた方が良い事が判ってきます。テレビのCMなどで蜂蜜を加えてコクを出す事が一般化していますが、蜂蜜にはデンプンを分解する酵素が含まれている事から、仕上げではなく煮込む前に加えて酵素を失活させておく必要がある事が判ってきます。

 家庭の数だけあるともいわれる美味しくするための工夫。どのようなものが行われているのか、とても興味が湧いてしまいます。


 

第2129回 祝いの破裂音



 子供の頃、駄菓子屋へ行くと「ダイナマイト」と呼んでいた爆竹が売られていました。映画などで見るダイナマイトに良く似た小さな爆竹は、当初は側面に桜の花をかたどった印刷が施されていたのですが、途中から桜の花の印刷がないカラフルな色付けがされた物に変わり、大きさも少し小さくなって爆発力も小さくなり、不発で終わる物も多かった事から、安全上の配慮が行われたのかコストダウンが行われたのかと、いまだに謎のスケールダウンとなっています。

 中国の正月に当る春節には、爆竹は欠かせないものとなっているとされ、日本で売られている物よりもはるかに大きく、破裂音も爆発力も強力とされます。最近では安全意識の高まりから数は減ったとされますが、それでも数百本を束ねて帯状にした物の端を竿などに吊るして火を着け、連続的に激しい破裂音を響かせている姿は圧巻と思えると同時に、異なる文化圏の祝い事と思えてきます。

 中国で春節に爆竹が欠かせない物となった由来は魔除けにあるとされ、漢の時代に書かれた「神異経」や「西荒経」によると西方の山奥に人に似た姿で一本足の「山魈」と呼ばれる怪物が棲んでいて、山魈に出会った人は高熱を発して苦しみながら死んでいくとされていました。

 山魈は春節になると山を下りて人里までやってくる習性があった事から、人々にとって春節は1年の始まりとして目出たいよりも山魈に出会ってしまうかもしれない恐怖の日となっており、人々は春節をとても怖れていました。

 ある日、一人の農夫が山で竹を伐採してから家へ帰ろうとしていると、とても冷たい風が吹いていた事から寒くてたまらなくなり、とりあえず伐採した竹で焚き火をして暖を取る事にしました。

 火を起こして竹を燃やし、温まりながらふと目を上げるとそこに山魈がいた事から農夫は驚き、慌てて焚き火をそのままにして逃げ出しました。すると山魈は火の着いた竹が爆ぜる音に驚いて逃げて行き、山魈の意外な弱点を知った農夫はその事を皆に告げて山魈が山を下りてくる春節に爆竹を鳴らす事で、山魈が人里に近付かないようにして安心して春節を迎えるようになったといいます。

 今でも竹を燃やすと突然の破裂音に驚かされる事がありますが、南北朝時代頃までは竹を燃やした原始的な爆竹が一般的に使われており、その後、火薬の発明に伴って火薬を使用した爆竹が作られるようになりますが、爆竹の名前は伝統的に使われるようになっています。

 現代風の紙を巻いた爆竹が作られるのは宋代の事とされ、串状に束ねる事で連続して長時間燃焼し続けられるように工夫されたのも同じ頃とされ、その後、さらに発展を遂げながら徐々に山魈を祓うものから神を迎えるためのものと意味合いが変化し、今日を迎える事となっています。

 日本でも鎌倉時代には後嵯峨上皇が爆竹を見学したという記録が残されており、爆竹の習慣があった事が判ります。日本における爆竹は原始的な竹を燃やしたものであったとされ、その伝統は今日の正月の飾りなどを竹と一緒に燃やす「ドンド焼き」などに見る事ができます。

 日本の厳かな正月には爆竹の破裂音は似合わないとは思いますが、たまには派手な火薬も良いのではと思う反面、毎年、爆竹による死者が出ると聞かされると、穏やかな正月が良いと思えてきます。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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