第2179回 食べるべきか食べないべきか(3)



 興味深い事に健康と食に関して、全く正反対の内容の主張を記載した本が同じ月に出版されていました。一冊は日常的な肉食を否定するもので、肉食を止める事で日常的に心配される病気を防ぎ、健康的な生活が送れるという内容。もう一冊は健康長寿を実現するには、肉食は欠かせないとするものとなっています。

 肉食の歴史は非常に古く、進化の過程においても行われてきた事は容易に理解できる事で、一説には脳の容量の増加を促す一因となったともいわれえます。しかし、狩猟生活を止めて農耕を行うようになり、穀物を主食として食べるようになってからは、硬い穀物の消化に合わせて腸が長くなり、その長い腸で肉を消化するためにさまざまな毒素が発生し、健康を害しているという事が肉食有害論の中では展開されています。

 それに対し肉食有益論の中では肉食を行う事で新陳代謝が活性化し、さまざまな抵抗力が向上して病気になりにくくなる事や、動物性タンパク質の方が必須アミノ酸を多く含んでいてバランスに優れているため、健康の維持に有効である点などが上げられています。かつて知り合いの漢方医がいっていた「食べた物で体が作られるのだから、いくら分解されて再構築されるにしても、大豆が筋肉などの肉になるというより鶏肉の方がイメージに合っている」という言葉はそうした必須アミノ酸のバランスの事を指していたと思い出されます。

 以前とは食べ物に含まれている栄養素への評価も変化してきていて、動物性脂肪に含まれる脂肪酸、アラキドン酸もかつてはアレルギーや炎症の悪化を助長するとして健康に対しマイナスの作用を持つ成分とされていましたが、脳細胞の柔軟性を保つ事には欠かせない成分である事から、今日ではやる気を支えるサプリメントとして製品化さえされていて、どの部分に焦点を当てるかによって健康、不健康の評価が分かれてしまうように思えます。

 また、食べ方の変化も肉類の栄養的価値を変化させたという事ができ、かつて獲物の肉を生で食べていた頃は、血液やさまざまな器官内の微量な元素や酵素などを摂取する事ができましたが、加熱調理するようになってからはそれらの働きを充分に得る事ができなくなり、肉類の栄養的価値を下げているという意見もあります。

 その反面、加熱調理を行うようになった事で食事や消化に要する時間が短くなり、それによってできた余暇が文明の発生に繋がったとする考え方もあり、調理という行為の存在についても評価が分かれるようにも思えます。

 肉類については栄養面では肯定的に捉えながらも成長促進剤やホルモン剤、抗生物質や「霜降り」を促進するための偏った食材活、経済性を優先させた不適切な飼料など飼育方法を疑問視する声もあり、食べるべきか食べないべきか微妙なものを感じてしまいます。


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第2178回 食べるべきか食べないべきか(2)


 人間は雑食性の生物であり、肉や野菜を食べる事ができます。犬はかなり肉食に近い雑食性とされ、一応、肉ばかりでなく野菜を食べる事もあります。しかし、猫は完全な肉食であり、野菜を食べる必要はないとされ、人間から見るとかなりの偏食という事ができます。

 猫が偏食でも丈夫に育つ理由はビタミンなどの肉食では摂取できない栄養素を体内で合成できる事や捕食した獲物の血液中の微量元素を利用できるからで、人間には食物から摂取する事が欠かせないビタミンCなども体内で合成する事ができ、その意味ではビタミンCは猫にはビタミンではないといえます。

 日本では猫は魚を好むと考えられ、ペットフードの売り場へ行くとカツオやマグロを中心としたフードが売られ、鶏肉のササミを使った物も見られますが、原料をササミとしながら味付けは魚という製品も多く見られます。

 日本で猫が魚を好むとされるようになったのは仏教の影響が大きいとされ、経典や蓄えた穀物をネズミから守り、ペットとしても最適だった猫が日本人が仏教の影響で獣肉を食べなくなった事に付き合わされているうちに、魚を好むDNAが積極的に受け継がれたためともいわれます。

 日本では猫には魚となっていますが、日本以外では猫には肉となっていて、魚由来のフードは少数派となっています。猫は狩の名人で水に入る事を好まないという点では、魚を獲って食べていたというより鳥や小動物を捕まえて食べていたという方が自然に思えるので、肉を食べさせる方が妥当なようにも思えます。

 また、猫のフードに関しては乾燥させたドライフードと缶やパウチなどに入れられたウェットフードがあり、どちらも長所と短所がある事から賛否両論がいわれる状態となっています。

 ドライフードの最大のメリットは保存性の高さにあり、水分量の少なさから比較的多めの量を買い置きする事ができます。気に入って食べてくれていると思っていても、ある日急に飽きて食べなくなる事があるので、保存性の高さを利用して数種類を買い置きしてローテーションさせて飽きさせないようにするという事も比較的簡単にできるようになっています。

 かつてはドライフードは硬い食感が歯石を除く事に作用し、猫のオーラルケアに役立つという事が最大のメリットのようにいわれていましたが、最近ではドライフードによる歯石の除去は否定的に見られるようになり、むしろ主原料がトウモロコシや大豆といった穀物であり、肉食の猫には不向きな食材が使用されているともいわれるようになってきており、本来食べるべきではない穀物の摂取によって尿のpHが変化し、猫にとって日頃から注意すべき疾患である尿路結石を誘発するという意見も出されています。

 ウェットフードは水分量が多い事から、日頃から水分を多めに摂って尿路結石の予防を図りたい猫には最適とする意見もありますが、食べ比べさせるとウェットフードを食べて水分を摂った分、水を飲まなくなる事からそれほどの違いはないようにも思えます。

 ウェットフードの最大のメリットは猫が本来食べるべき動物由来のタンパク質を多く含んでいるという事で、多くの製品が加熱調理される過程で骨や組織から出たゼラチン質を含む事など、良質のタンパク源となる事が考えられます。

 それぞれ長所と短所を併せ持つドライとウェットのフードですが、共通していえる事は選択が飼い主の主観に左右される事から、飼い主の目に美味しそうに見えるように不要な着色料が添加されている事や、品質を保持するために保存料を含む事、猫用に限った事ではありませんが缶入りの製品は内側のコーティングから染み出す化学物質や原材料の魚に含まれる水銀など、考えていくと多くの問題を内包しています。

 猫まんまというとご飯に味噌汁という感じですが、塩分が多く動物性たんぱく質を含まず、米という穀物中心といった物よりは遥かに優れた栄養バランスを持つキャットフードですが、それにしても何を食べさせるべきか、何を食べさせないべきか難しいものがあります。


第2177回 食べるべきか食べないべきか(1)



 何を食べるべきか、または何を食べないべきか。夕食の献立やレストランのメニュー選びではなく、もっと長期的な人生においてとなると非常に難しい問題のように思えてきます。よく書籍やテレビ番組などで何か一品の食材を採り上げ、それを食べれば健康になる、もしくは食べないようにすれば不調を回復し、健康的な生活を実現できるような事がいわれたりしますが、食と健康の複雑な関わりを思うと、事はそれほど単純ではないように思えます。

 以前は食を通して健康的な生活を実現するために、一日に30品目の食材を摂る事が推奨されていました。多くの食材からバランス良く栄養を摂取する事を意識しての30品目で、その数字には根拠がないといわれ、出典元となっていた厚生省の「食生活指針」では2000年の改訂以降は記載が削除されています。

 30品目と多数に上ったもう一つの理由として、日常的に栄養を摂取する食材を多岐に渡らせる事でリスク分散を行うという考え方もあります。

 食物には栄養と共に微量な毒素となりえる成分も含まれる事から、摂取する食材が偏らない事で一定の毒素の摂取量を低減したり、たくさんの微量な毒素に触れる事でより多くの毒素耐性を確保するというもので、どことなく後付けの理由のようにも感じてしまいます。

 根拠がない30品目という数字ですが、毎日他品目を摂取するという事は健康にとても良いという印象を受けます。それに対しその正反対といえる偏食不健康で、健康面には大きなマイナスの要因として上げられます。

 偏食は好き嫌いの結果のようにいわれ、何らかの食材に食事が偏ってしまう事を指し、また、稀に一日単位では必要な栄養素を確保はしていても、3食をそれぞれ1食ごとに見てみると人様な栄養素が均等に摂れていない状態を指す事もあります。

 偏食を否定する理由としては、栄養が偏る事で健康体になれないとか頑丈な体に成長できないといった事がいわれます。しかし、アメリカの大リーグで活躍している日本人選手の食生活を取材したテレビ番組が、あまりの偏食加減に医師会からストップが掛かり、放映を見合わせたという事例や、アフリカ奥地の原住民の極端に炭水化物に偏った食生活を見ていると、偏食の弊害はそれほどでもないようにも思えてきます。

 アフリカの原住民の例はかなり極端で、ほとんど食事で摂る事のないタンパク質を腸内細菌から得ているというのは、長年に及ぶ偏食に対し体がシステム的に対応した例という事もできると思えてきます。

 最近の研究で何かの食べ物を急に強く食べたいと思ってしまうのは、何らかの栄養素の不足を補おうとする無意識の衝動ではないという事も証明され、そうした事を考えていると、何を食べるべきか、食べないべきか。本当に難しい問題と思えてしまいます。


第2176回 不景気の効能



 最近は明るい話をよく耳にするようになり、景気は良い方向へ向かっているのだろうかとニュースを眺めたりしてしまいます。かつてはバブル経済崩壊後の「失われた10年」といわれていたものが、いつのまにか「失われた20年」といわれるようになり、自動延長されている事にいつまで失われ続けるのだろうと不安になったりもしていました。

 人々の生活に暗い影を落とす不景気ではありますが、全てにおいて「負」の影響ばかりではなく、中には良い方向へと作用する事もあるというレポートが報告されています。

 経済不況が健康に及ぼす影響についての研究の舞台となったのは1980年から2010年にかけてのキューバで、ソ連産の石油と自国産の砂糖を物々交換していたキューバが1991年のソ連崩壊によって甚大な経済的打撃を被り、新たな経済改革によって95年以降の経済回復、その後の経済発展という社会の変化が背景となっています。

 研究を行ったのはスペインのアルカラ大学医学部の研究チームで、キューバ全土の都市部のデータを検討し、国民の体重やBMI(肥満指数)、糖尿病の罹患率、死亡率などの変化を評価しています。

 経済危機によって燃料や食料が不足すると、ガソリンの価格が高騰し、品切れとなる事も見られた事から自動車の利用率が減少し、徒歩や自転車といった移動手段が増える事となり、消費カロリーの増加が見られています。そこに食料の不足から摂取カロリーの減少が加わり、国民全体で平均5.5kgの体重の減少、BMIでは1.5の減少が見られています。

 経済不況が続いた91年から95年の間に小太り(過体重)や肥満の割合も全体の33.5%となり、国民の8割が週に5日程度の充分な運動を行った計算になると分析されています。しかし、そうした傾向は95年以降の経済状況の回復に合わせて変化が見られるようになり、BMIは2.6の増加が見られ、95年当時は国民の半数以上(56.4%)が正常体重であった事に対し経済発展を遂げた2010年には42.1%と半数を切る結果となり、小太りや肥満の割合も52.9%と高い比率になっています。

 ソ連崩壊という経済危機の始まりから5年後の96年に糖尿病や心臓病、脳卒中による死亡率の減少が観察され、その後、6年に渡って同じような傾向が続きますが、経済が回復した2002年以降は経済危機以前の状態に戻ったとされ、経済危機が健康面ではプラスに働いた事が裏付けられています。不況というとさまざまな閉塞感からくるストレスなどのマイナス面しか意識されませんが、プラスの面もある事を意識して前向きに考える事が脱却に繋がるのかもしれないとも思えてきます。


第2175回 炊く油



 ほとんどファミリーレストランを利用する事がなく、利用してもコーヒーのみという事が多かったのですが、久々に食事をする事となり、その気になって眺めてみるとメニューの多彩さに楽しさを憶えてしまいます。

 メインのおかずを選び、それに主食となるご飯やサラダ、スープ、飲み物などのセットを追加するシステムなのですが、普段だと食べやすさから主食をパンにしてしまうところをあえてご飯にして和定食にしてみました。

 しばらくすると四角いお盆に載せられた和定食のセットが届けられます。ご飯が盛られたプラスティック製の黒い器は茶碗というには深く、丼と茶碗の中間のような形状で、箸の使い方が上手ではない人でも食べやすいような合理的な形状のように考えられた物であると思えてきます。

 自分で炊いたよりもかなり柔らかめのご飯を食べ進めていくと最後の一粒まで綺麗に食べる事ができ、プラスティックの器の表面を眺めながら、本来であれば多量のご飯粒がこびり付き、上手に食べる事ができないはずの器でもそうならずに綺麗に食べ終える事ができた理由について考えてしまいます。

 子供の頃、洋食店で初めて洋皿にご飯が盛り付けられて出された際、それまでに経験した事がないスタイルが嬉しく思えたのですが、食べ進めていくと皿の表面にご飯粒が多量にこびり付き、綺麗に食べ終える事ができない事が悲しく思えた事があります。

 今でこそフッ素樹脂加工による表面処理やポリプロピレンなどの素材が発達、普及していますが、子供の頃の私の食事はともかく、製造の現場では機器類へのご飯粒のこびり付きは大きな問題となっていました。

 炊飯釜の表面や型枠などへのこびり付きはご飯のロスとなるだけでなく、機器類の洗浄に要する手間を大きくしてしまいます。そこで使用されるようになったのが「炊飯油」と呼ばれる油脂類で、少量の油脂を炊飯するご飯に加える事でこびり付きを大幅に減らす事ができます。

 炊飯に油脂を加えるメリットはそれ以外にもたくさんあり、ご飯がふっくらと艶やかに炊き上がる、粘りがなく冷めても硬くなりにくい、水分が逃げにくく乾燥しにくい、古米や外国産米特有のにおいを和らげたり香りを良くするなどの利点があるとされます。

 本来、油分を含まずにご飯は炊かれるため、油脂を加える事で油っぽさが気になるようにも思えるのですが、炊飯時に加えられた少量の油は、米に含まれるデンプンなどの作用によって乳化してしまうためにほとんど炊き上がった際には油の存在を感じさせなくなり、油分が加わる事で微妙なコクが加わったり糖化したデンプンによる甘味が加わる事で、本能的な味覚を刺激して美味しさをより強く感じるようになるともいわれます。

 そのため油脂メーカーごとに配合が異なる内容を見てみるとくせのない油分がベースとなり、乳化をより円滑に行うために植物由来のレシチンを乳化剤として配合したり、素材の内部に浸透しにくい脂肪酸グリセリンエステルなどが使われるといった工夫を見る事ができます。

 家庭でもご飯を炊く際に少量のサラダ油などを加える事で美味しく炊き上がり、炊飯器にも問題はないともいわれますが、油分が多くなってしまったり乳化が充分ではない場合、ご飯を水に漬けると油分が浮いてくる事があるともいわれ、できる事なら普通に炊いたご飯を食べたいものだ思ってしまいます。食べやすさや食べ終わりの状態にこだわってしまう私ですが、炊飯油という合理性とは距離を置いておきたいと考えています。


第2174回 納豆の効用



 子供の頃から接していた事もあり、納豆にはほとんど抵抗を感じる事はなく、西日本では敬遠される傾向が強い食品という話や関西の人の納豆に対する酷評を聞かされると、少々違和感を覚えてしまいます。

 熊本は西日本でも例外的に納豆が大量消費される土地柄らしく、熊本のみで流通するパン食専用の納豆の存在などが全国ネットのクイズ番組で採り上げられると、納豆という食品に関して特殊な環境下で育ったという事が強く意識されてきます。

 納豆が嫌われる理由の一つとして臭いの存在が上げられる事が多いのですが、食べる時にそれほど臭いを意識する事がなかった私でも健康食品の原料素材として精製されたナットウキナーゼに接した際は、とても強烈なものを感じてしまい納豆が臭い故に嫌われるという事を強く意識しました。

 ナットウキナーゼは納豆菌が作り出す酵素の一種で、日本の須見洋行によって発見、命名されています。茹でた大豆が納豆菌によって納豆に変えられていく結果として生じる酵素ともされ、ナットウキナーゼを含んでいるのは納豆だけといわれます。

 強力な血栓溶解作用がある事で知られ、血栓症の予防や血液サラサラ効果などを目的とし利用などが見られています。同じく血栓の生成を予防し、血液をサラサラにする健康法としてアスピリンの常用などが知られていますが、アスピリンの代替品としても推奨されています。

 最近ではアルツハイマー病の原因とされる有害なタンパク質、アミロイドβを異性化する働きが知られるようになり、今後の研究によっては益々人気が高まりそうな酵素ともなっています。

 納豆菌自体も高い生存能力や有用な働きを活かした整腸作用や、水質の改善能力を使った環境改善作用などで注目が集まってきていて、納豆に関する意識は新たな変化の時を迎えそうな気がするのですが、抽出されたナットウキナーゼに接して初めて感じた納豆への嫌悪感は何ともいえないものがあったようにも思えています。


 

第2173回 のの字の変化



 最近になって伝統的なスタイルから大きく姿が変わってしまった物の一つに「ロールケーキ」があると思います。幅広く焼き上げられたスポンジにクリームをのせ、巻き込んで仕上げられるロールケーキは、かつては断面が「の」の字になっていたものが最近ではスポンジを内側に入れない形で「○」が断面となっていて、大量のクリームをスポンジで包んだ物という印象になっています。

 以前はスポンジの比率が高く、クリームが少ない事にがっかりする事もあったと考えると歓迎すべき変化ともいえるのですが、ホイップした柔らかい生クリームの部分が増えた事で食べにくくなったり、カロリーが気になったりと少し贅沢な悩みも発生させてくれています。

 ロールケーキの誕生には、世界が大きな変革の時を迎える事となった新大陸の発見、大航海時代の到来が大きく関わっています。15世紀の後半、ヨーロッパ諸国が貿易の拡大、植民地の獲得という覇権争いを繰り広げる中、いち早く力を着けたスペインは中南米や西インド諸島においてサトウキビの栽培に着手します。

 植民地からもたらされ、ヨーロッパ中に普及した砂糖は製菓技術を飛躍的に発展させ、小麦粉に卵を加え、砂糖で甘く味を着けて焼き上げるビスケットの誕生に繋がりました。小麦粉と卵の比率は変化し、卵を攪拌して泡立てて窯でふんわりと焼き上げたスポンジケーキも登場し、最新の洋菓子であるスポンジケーキは日本へも伝えられ、カステラとなって日本の食文化に根付いています。

 日本においてスポンジの部分が洗練されてカステラとして成立した事に対し、ヨーロッパではスポンジにジャムやクリームを塗る事でケーキが成立していきます。その中で片側にクリームを塗って巻き込む事で作られるロールケーキは早い時期に誕生していたと考えられ、16世紀の初めには作られていたとされます。

 当時、ケーキは生命を維持する食と大きくかけ離れたものであり、贅沢品以外の何物でもなかった事から、独自の発展を遂げる事となり、より贅沢で華美な物へと変貌を遂げていく事となります。

 そんな中、誕生当時の姿でどちらかといえば質素な雰囲気を残した物としてロールケーキが存在していたのですが、ここにきて町起こしと一体化した地域性豊かなご当地ロールケーキの登場や、○型のロールケーキといった物へと急激な変貌を遂げています。

 長い歴史の中、最近になって急速な進化を遂げはじめたロールケーキですが、その変化によって地域の食文化への融合も見られている事から、新たな道を歩んでいるという事もでき、歓迎すべき変化なのではとも思えてきます。


第2172回 ラジオ焼いたら



 ラジオ焼きというと、あまり美味しそうな響きに聞こえてこないのですが、人気のB級グルメの祖先の一つと考えられています。丸く窪んだ鉄板の中に小麦粉を溶いた生地を流し込み、具材を入れて回転させながら焼き上げるというスタイルは、今日のたこ焼きそのものに見えてきます。

 ラジオ焼きは明治から大正にかけて繊維工業や鉄鋼業、造船業などの産業で賑わう大阪の街で誕生したとされ、屋台を中心に売られていました。たこ焼きとの最大の違いは主役となる具材がコンニャクであった事で、その後、おでんの具材として売られていた牛スジ肉をしょうゆ味に煮込んだ物が使われるようになるのが昭和8年の事で、「明石焼き」をヒントに牛スジ肉がタコに置き換わるのは昭和10年の事だったともいわれます。

 濃厚な味のソースやマヨネーズが味付けに使われるようになるのは第二次世界大戦終了後の事となっており、そこから全国的な人気の食べ物として普及する事となります。

 ラジオ焼きの名前は当時、非常に高価で高級品として扱われていたラジオに因んだもので、同じくたこ焼きのルーツとして語られる事のある「ちょぼ焼き」も少なからずラジオと関係しているとされます。

 ちょぼ焼きはラジオ焼きやお好み焼きの原型といわれる事もあり、安価でハイカラな軽食とされた「一銭洋食」に端を発するともいわれます。窪みが並んだ金型に小麦粉を溶いた生地を流し込んでコンニャクや紅ショウガ、エンドウ豆などの具材を入れて焼き上げられ、四角く成形された形に丸い突起が並ぶ姿がラジオを彷彿とさせる事や、大阪ではラジオのつまみの部分をを「ちょぼ」と呼んだ事がその名に由来するともいわれます。

 ラジオ焼きに影響を与えてタコを使うという着想の元となり、丸く焼き上げられる姿も似ている明石焼きこそがたこ焼きの元祖のようにも思えてくるのですが、明石焼きは主原料が卵という点がたこ焼きとは大きく異なり、その点ではラジオ焼きの方が近い存在と思えてきます。

 明石の街では江戸時代を中心に、かんざしに使われる色鮮やかな装飾品である「明石玉」の製造が一大産業として発展していました。鉛で作った玉に鮮やかな彩色を施すために下地として使われたのが卵白で、たくさん余ってしまう卵黄の利用法として「玉子焼き」と呼ばれる明石焼きが考案されたとも、明治に入り安価なセルロイドが大量に輸入されるようになり、職を失った職人たちが明石玉の型を使い、明石玉に見立てた玉子焼きの屋台をはじめたともいわれます。

 姿や製法が非常に近いラジオ焼き。ラジオ焼き成立に深く関わっていると考えられるちょぼ焼き。多大な影響を与え、タコを入れる元となった明石焼き。それぞれがたこ焼きの成立には欠かせない存在という事ができ、大阪に花開いた粉物文化の集大成ともいえるたこ焼きへと繋がる祖先となっているのかもしれません。


第2171回 中華料理店から



 少し前の事となるのですが、知り合いと中華料理店で食事をしていて、知り合いが北京ダックを注文すると店のシェフが「北京じゃないけど良いですか」と確認を取りに来て、「大変ですね」「そうなんですよ。単なるインフルエンザなんですけどね」という会話が交わされ、中国で鳥インフルエンザが流行し、鶏やアヒルの肉の輸入が禁止された事を意識してしまうという場面がありました。

 当時は牛や羊の口蹄疫と同じように人への感染という影響よりも養鶏業への打撃の方が心配されていたのですが、その後、人への感染力を得て大流行し、大変な被害を出すという怖ろしげな話がされるようになり、いつの間にかそれが必然のようにもいわれるようになってきています。

 インフルエンザにはA、B、Cといった型があるとされ、その中で人がAやB、Cにも感染するのに対し鳥はA型のインフルエンザにしか感染しないとされます。通常は鳥と人では遺伝的に大きく異なる事から、共通のインフルエンザウィルスによる感染は起こらないとされますが、鳥から比較的遺伝子的に感染しやすい豚、豚から人へとウィルスが突然変異を繰り返しながら人から人へと感染する力が培われていくと考えられています。

 そのため鳥と豚、人間が近い位置関係で生活する都市でインフルエンザの感染力は形成されるとされますが、鳥インフルエンザは鳥から人へと幾つかの段階を飛び越して感染するという部分がこれまでにない存在とも思えてきます。これまでにない存在となると罹患して回復したという免疫を確保した人の存在がない事となり、一旦感染すると重症化する事も考えられ、鳥インフルエンザの脅威をより大きいものとしています。

 今回の鳥インフルエンザに関しては、抗インフルエンザウィルス薬のタミフルやリレンザが効果的という予測が出されています。おかしな偶然なのですが、中華料理店で鳥インフルエンザの話を聞いた直後、中華料理もいろいろと大変だという話の一環として、中華料理で使われる「八角ウイキョウ」の値段が高騰して困るという話も聞かされています。

 タミフル(オセルタミビル)は、ウィルスが感染した細胞から別な細胞へと感染を広げようとする際に使う酵素の働きを阻害する事で、インフルエンザウィルスの増殖を抑え込む働きがあります。一般的にC型には効果がないとされ、B型にも効きにくいされる半面、A型には効果があるとされる事から、鳥インフルエンザには有効と考える事ができます。

 タミフルはシキミ酸から10段階ほどの工程を経て作られています。シキミ酸は当初、植物のシキミから発見され、その名が付けられましたが、ほとんどの植物に含まれており、八角にも多く含まれています。

 中華料理店で鳥インフルエンザに関する話を聞いていた頃は、SARS(重症急性呼吸器症候群)が話題となり、パンデミック(世界的大流行)という言葉がよく聞かされていました。そんな中、タミフルの増産と確保がいわれ、原料となる八角の品不足にも発展していたという事になります。

 そうした事情から私の中ではどちらも中華料理店から始まったような呑気な印象があります。しかし、呑気な事をいっていられないのは、中国では鳥インフルエンザに感染した事が判ると強制的に隔離され、治療が行われるのですが、退院後、日本円にして100万円近い治療費が請求される事となるといいます。

 現地の人の収入を考えると感染して生還しても復旧できないほどの経済的損失を受けてしまう事となるため、体調不良を隠して自宅療養する人も少なくないという予測もあり、実際には感染者の数は遥かに多いという見方も存在します。今回の感染の発生がどのような展開を見せるのかは、今のところ不明なままとなっていますが、一刻も早い収束を待ちたいと思っています。


第2170回 作用と副作用



 昔、飼っていた猫はなかなかの長寿だったのですが、若い頃にFLUTH(猫下部尿路結石)を患い、結石体質が災いしたという事で以降をリンなどの含有量が低く抑えられた処方食のみを食べていました。今ではFLUTHに関する研究も進み、処方食の内容や予防に関するアプローチも変わってはいますが、当時の結石の原因となる考えられていた成分を抑えた低ミネラルな内容の食の影響は、高齢になってから思わぬ弊害となって現れてきました。

 ある日、後ろにいる私の気配を感じた猫が振り返ろうとした際、まるで電源が切れたみたいに下半身の力がなくなり、その場に倒れ込んでしまいました。自分でも何が起こったのか理解できないらしく、パニックになりかけている猫をとりあえず立たせて様子を見るのですが、体の角度を変えようとする度に同じような事が起こります。

 尋常ではないものを感じ、急ぎ掛かり付けの獣医の下へ連れて行き、レントゲンを撮影してみると骨が異常に隆起していて、体の角度を変える際に神経に当っている事が判りました。

 低ミネラル食でうまく利用や排出ができずに骨に沈着したカルシウムが原因という事ですが、高齢であるために外科手術で突起部を削る事は見送られ、代わりに意外な治療法が採られる事となりました。

 ステロイド剤は皮膚炎から喘息、関節リュウマチなどの免疫関連の疾患の治療に広く用いられ、聞き目が強い半面、副作用も多く、強めである事が知られています。ステロイド剤の副作用の一つに骨からカルシウムを流出させて骨粗鬆症を生じるというものがあり、その副作用を利用して骨の隆起を小さくしようという治療法が行われる事となりました。

 薬は意図した働きが作用とされ、意図しないものは副作用として悪い事と認識されますが、時にはそれも作用となると副作用の定義を改めて考えてしまうと同時に、ステロイド剤とカルシウムに関する強烈な記憶として残されています。

 先日、血液中のカルシウム量の増加によって血栓症のリスクが高まるといった研究レポートに触れたのですが、それに関連した新たなレポートを知る事となりました。新たなレポートでは、ステロイド剤の使用によってエコノミークラス症候群のリスクが引き上げられるとされています。

 静脈血栓塞栓症、いわゆるエコノミークラス症候群は長時間、同じ姿勢でい続ける事で血栓を生じる事によって起こるとされ、座席が狭くて窮屈なエコノミークラスの座席で起こりやすい事からその名が付けられていますが、実際には座席が広いファーストクラスや飛行機以外のバスや列車の座席でも起こる事が確認されています。

 デンマークにおいて40万人以上を対象に検討を重ねた結果として、ステロイド剤の使用でエコノミークラス症候群の発生リスクが倍以上に高められたという結果が得られていますが、ステロイド剤が骨からのカルシウムの流出を促す副作用を持つ事、骨からカルシウムが流出して血液中のカルシウムの濃度が高まると血栓を生じるリスクが高まる事などを考慮すると、当然の結果のようにも思えてきます。

 以前、お話を聞かせていただいた某体育大学の教授によると、エコノミークラス症候群を予防する最も簡単で有効な方法として「貧乏ゆすり」が推奨されていました。乗り物による長時間の移動や同じ姿勢を長く続けるデスクワークを日常とする人で、ステロイド剤を使用している場合は定期的に貧乏ゆすりを行う事が大切となってくるのかもしれません。


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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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