第2200回 要?不要?
世界最大の感染症というと虫歯ではないかと思えます。ミュータンス菌に代表される酸を作り出す菌によって、歯を溶かされてしまうという細菌感染症で、除菌好きの日本人でも9割以上の人が感染していると考えられています。
ミュータンス菌は人体に多く棲息する常在菌の一種であり、感染力が非常に強い細菌だといわれます。一旦感染すると駆除するという事は困難で、これまで幾度もミュータンス菌を駆除するという抗菌剤の開発の話はありましたが、いまだに実用化には至っていません。
人によっては生まれてくる際、産道にいる酸を作り出す菌に感染する事がミュータンス菌への感染のはじまりとする意見もありますが、多くの場合、母親からの唾液を介した母子感染が主な感染経路といわれます。
母親が何かを食べてると子供が興味を示すので、食べかけの物を与えてしまったり、固い食べ物を噛み砕いて与えたりといった行為によって感染するとされ、将来的な虫歯のリスクを考慮した上で注意するようにいわれる事があります。
子供が3歳くらいになって常在菌のバランスが安定し、後からきた菌が繁殖する余地がなくなると、感染力が強いミュータンス菌も簡単には繁殖できないとされ、稀に見られる虫歯ができない人はそのような状態にあるとされます。
そのため子供が母親の唾液に触れないようにする事が大切なように思えてくるのですが、単純にそうとだけはいえないような事が判ってきています。スウェーデンで行われた新生児を対象とした研究では、親の唾液によってアレルギーが発生するリスクを大きく下げる事が報告されています。
生後、1~3日の新生児184人を対象に18カ月に渡って行われた追跡調査の中で、アレルギー性疾患の発症率はアトピー性皮膚炎が25%、ぜんそくが5%だったとされます。36か月の時点ではアトピー性皮膚炎が23%、ぜんそくが8%となっており、生後6カ月の時点で子供がおしゃぶりを使っていた比率は全体の74%であったという結果が得られています。
おしゃぶりの使用の有無によるアレルギー性疾患の発症率の変化は見られていませんが、おしゃぶりを与える前、洗浄方法として熱湯、水道水、親が事前に使用すると回答が分かれる中、親が先に使用しておしゃぶりの洗浄性を確保していたグループで顕著にアレルギー性疾患の発症率の低下が観察され、その比率はアトピー性皮膚炎で63%減、ぜんそくでは88%減にも上ったとされます。
先進国では子供の3人に1人が何らかのアレルギー疾患を抱えているとされ、その原因の一つとして極端な衛生環境を上げる声もあります。親の唾液に触れる事によってさまざまな細菌と接し、アレルギー性疾患の発症が抑えられたと考えられる一方で、唾液を通して親の腸内細菌を受け継ぐ事ができ、アレルギー性疾患の発症が抑えられたという可能性も考えられています。
ミュータンス菌やピロリ菌への感染の可能性を高めてしまう事ではあるのですが、アトピー性皮膚炎や小児ぜんそくの事などを思うと、どちらのリスクを選択するべきかと考えてしまいます。
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