第2200回 要?不要?



 世界最大の感染症というと虫歯ではないかと思えます。ミュータンス菌に代表される酸を作り出す菌によって、歯を溶かされてしまうという細菌感染症で、除菌好きの日本人でも9割以上の人が感染していると考えられています。

 ミュータンス菌は人体に多く棲息する常在菌の一種であり、感染力が非常に強い細菌だといわれます。一旦感染すると駆除するという事は困難で、これまで幾度もミュータンス菌を駆除するという抗菌剤の開発の話はありましたが、いまだに実用化には至っていません。

 人によっては生まれてくる際、産道にいる酸を作り出す菌に感染する事がミュータンス菌への感染のはじまりとする意見もありますが、多くの場合、母親からの唾液を介した母子感染が主な感染経路といわれます。

 母親が何かを食べてると子供が興味を示すので、食べかけの物を与えてしまったり、固い食べ物を噛み砕いて与えたりといった行為によって感染するとされ、将来的な虫歯のリスクを考慮した上で注意するようにいわれる事があります。

 子供が3歳くらいになって常在菌のバランスが安定し、後からきた菌が繁殖する余地がなくなると、感染力が強いミュータンス菌も簡単には繁殖できないとされ、稀に見られる虫歯ができない人はそのような状態にあるとされます。

 そのため子供が母親の唾液に触れないようにする事が大切なように思えてくるのですが、単純にそうとだけはいえないような事が判ってきています。スウェーデンで行われた新生児を対象とした研究では、親の唾液によってアレルギーが発生するリスクを大きく下げる事が報告されています。

 生後、1~3日の新生児184人を対象に18カ月に渡って行われた追跡調査の中で、アレルギー性疾患の発症率はアトピー性皮膚炎が25%、ぜんそくが5%だったとされます。36か月の時点ではアトピー性皮膚炎が23%、ぜんそくが8%となっており、生後6カ月の時点で子供がおしゃぶりを使っていた比率は全体の74%であったという結果が得られています。

 おしゃぶりの使用の有無によるアレルギー性疾患の発症率の変化は見られていませんが、おしゃぶりを与える前、洗浄方法として熱湯、水道水、親が事前に使用すると回答が分かれる中、親が先に使用しておしゃぶりの洗浄性を確保していたグループで顕著にアレルギー性疾患の発症率の低下が観察され、その比率はアトピー性皮膚炎で63%減、ぜんそくでは88%減にも上ったとされます。

 先進国では子供の3人に1人が何らかのアレルギー疾患を抱えているとされ、その原因の一つとして極端な衛生環境を上げる声もあります。親の唾液に触れる事によってさまざまな細菌と接し、アレルギー性疾患の発症が抑えられたと考えられる一方で、唾液を通して親の腸内細菌を受け継ぐ事ができ、アレルギー性疾患の発症が抑えられたという可能性も考えられています。

 ミュータンス菌やピロリ菌への感染の可能性を高めてしまう事ではあるのですが、アトピー性皮膚炎や小児ぜんそくの事などを思うと、どちらのリスクを選択するべきかと考えてしまいます。


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第2199回 冷房の父



 子供の頃に読んだ本の中に四六時中、部屋の温度を凍えるほどの低温に冷やし続けている隣人の話があり、古びたアパートの雰囲気と部屋を冷やすクーラーがアンモニアを使っているという事に古びた時代感を感じられた事が思い出されます。

 日本では空気を冷やして冷風を吹き出す用途で使われるためクーラーと呼ばれる事が多いエアコンは、意外な人物、ベンジャミン・フランクリンによってその原理が発見されています。

 1758年にフランクリンとケンブリッジ大学で化学の教授を務めていたジョン・ハドリーはアルコールなどの揮発性の高い液体を使い、蒸発させる際の気化熱を使って物を冷すという実験を行い、エーテルを使う事で水銀の温度計をマイナス14度にまで冷却する事に成功しています。

 その後、イギリスのファラデーが1820年に圧縮する事で液状化させたアンモニアを気化させ、回りの温度を下げるという今日のエアコンや冷蔵庫の基礎となる原理を発見し、1842年にフロリダの医師、ジョン・ゴリーによって氷を作ったり病室を冷すといった役割において実用化されています。

 初期のエアコンにはファラデーからの伝統でアンモニアが冷媒として使われていたのですが、アンモニアには腐食性があり、エアコンのシステムが腐蝕されてアンモニアが漏れ出すと有毒でもあった事から、安定的に作動する無害な冷媒が求められていました。

 それが解決されたのが1928年の事で、トマス・ミジリーの手によって今日のようなフロンガスを使ったエアコンが考案されています。しかし、人体には無害なフロンガスですが、オゾン層の破壊という問題を引き起こすとされ、今日ではオゾン層に無害な代替フロンと呼ばれるものが使われるようになっています。

 以前、車のエアコンが壊れた際、事細かにエアコンの仕組みを観察した事があります。コンプレッサーでガスを圧縮して液化し、高温の液化ガスの熱を発散。再度気化させて熱交換器を冷し、熱交換器に風を当てて冷風を発生させるという仕組みはとても感動的に思え、考えた人の凄さを思っていたのですが、歴史を掘り下げてみると意外な人物に繋がり、テクノロジーの進歩の面白さを感じてしまいます。


第2198回 食べる?(2)


 将来懸念される人口爆発、環境の悪化による食糧難の問題を解決する糸口として推奨されている昆虫食。優れた面を多く持つとされ、その優位性を理解する事はできるのですが、やはり抵抗感が大き過ぎ、何か別な選択肢はないものかと考えてしまいます。そんな選択肢の一つとなるのではないかと思えてくるのが、最近話題になる事も増えてきたミドリムシではないでしょうか。

 単細胞生物のミドリムシは理科や生物の教科書中でもその姿を見掛ける事ができ、ある意味よく知られた存在となっています。鞭毛を持っていて、それを回転させる事で推進力を得て移動する事ができる事から、どちらかといえば動物的印象が強いのですが、細胞内に葉緑素を持っていて光合成を行うという植物的な面も持っています。

 ミドリムシのそうした性質は、単細胞生物は動物、植物の区別をする事が難しいという議論の際の例として用いられる事が多いとされ、実際にはと聞かれるとミドリムシはミドリムシと答えたくなってきます。

 ミドリムシはムシという名前から昆虫の一種のような印象も受けてしまいますが、藻類の一種に分類され9種類の必須アミノ酸を全て含み、14種のビタミン類、鉄分やカルシウムなどのミネラル類、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの必須脂肪酸といった59種の栄養素を含んだ優れた栄養の供給源という事ができます。

 似たような存在としてクロレラが知られていますが、クロレラと比べてミドリムシは固い細胞壁を持たない事から、含まれている栄養素の消化吸収に優れるとされ、理想的な食材とも思えてきます。

 理論的には主食とミドリムシだけで健康的な生活を維持する事が可能とされ、それだけの食材を水と二酸化炭素だけで育てられるという事は驚異的とも思えるだけでなく、ミドリムシを大量に養殖する事で二酸化炭素を吸収させて、地球温暖化の問題も解決できるという副効果も期待する事ができます。

 すでに健康食品の素材や食材としての利用も開始されており、あまりイメージの良くないミドリムシではなく学名のユーグレナという名称も使われており、昆虫食よりは現実的のような感じがしてきます。

 現在、乾燥させた粉末として扱われていますが、緑色の粉末を見掛けたら抹茶やワサビを思い浮かべるのではなく、主要な食材としてユーグレナを思い浮かべる日が来るのかもしれません。


第2197回 食べる?(1)



 食用としての事績を持つ物の中で、最も食べたくない物といわれると昆虫ではないかと思います。以前、食用の芋虫が入ったキャンディやビールを見た事があるのですが、味をみるどころか手に取る事も躊躇われるほどの抵抗感を覚えた事が思い出されます。

 姿が見えない場合でも内容を知っていると抵抗感を禁じる事はできず、カイガラムシから作られるコチニール色素ですら含まれていると、その製品を選ぶかどうか考えてしまいます。

 そうした昆虫を食料にするという事への嫌悪感は、多くの人に共通した事ではないかと思えるのですが、そんな中でFAO(国連食料農業機構)によって昆虫を食材とする「昆虫食」が推奨されたというニュースは、大きな衝撃をもって見られた事と思います。

 今後も増え続ける人口や環境の悪化による深刻な食糧難を解決する方策の一環という事では理解できるのですが、それ以外の選択肢はないものだろうかという事を真っ先に考えてしまいます。

 日本人は世界的に見ても稀といえるほど「虫嫌い」といわれます。諸外国では家の中に虫がいてもゴキブリなどの不衛生な虫やムカデなどの危険なものでない限り、それほど意識しないとされ、中には虫がいる事を住みやすい環境にあるとして歓迎する例も見られています。

 行き過ぎたと批判される事もある衛生状態や、高度に発達した殺虫剤やテレビCMの影響かと思えてくるのですが、日本人が極度の虫嫌いとされる半面、日本は有数の昆虫食文化を持つ国ともいわれています。

 昆虫は必須アミノ酸を多く含むという優れたタンパク源であり、鉄分などのミネラル類も多く含まれています。日本では古くから主に山に囲まれた地域などで貴重なタンパク源として食材とされ、地域の食文化に深く溶け込んでいる例も見られます。

 昆虫を食料として考える場合、栄養価の高さだけではない大きなメリットがあるという事ができます。現在、主要なタンパク源となっている牛や豚などの家畜の場合、穀物を中心とした配合飼料を与えている事から、養って後にその肉を食べるよりも飼料として与えている穀物を直接食べる方がより多くの人を養う事ができるとされ、限られた食料の中で家畜を増産する事は困難と考えられています。

 それに対し昆虫は食料としての効率がよく、繁殖力も旺盛なので、短期間に多くの収量を得る事ができると考える事ができます。

 また、家畜の飼育は牧場という面で行われる事から、面積によって飼育できる上限が決められてしまう事となります。魚の養殖であれば水深という形で面に立体的な要素が加えられるので、飼育量の増加を図る事ができますが、要求される酸素量の問題から飼育密度は限られてきます。

 昆虫の場合、立体的に飼育できる上に飼育密度に対しても魚ほど限られてはおらず、高密度の中、工業的手法による大量生産という事も考える事ができます。

 食糧生産、供給という意味からは非常に優れている事が判る昆虫ですが、理解はできても食べるとなると別問題で、無理としか思えないところに食の難しさがあるように思えます。


第2196回 善と悪



 幸いな事に思春期の頃、ニキビとは縁がなく、その後の吹き出物と呼ぶべき年齢になってもほとんど悩まされるという事はありませんでした。回りにひどい痕が残っている人もいるので、改めて悩まされる事がなかった事をありがたく思っています。

 ニキビは毛穴が皮脂やホルモン、細菌などの相乗作用で炎症を起こす事でできると考えられ、皮脂の分泌が激しい部分にできやすいといわれます。角質などによって毛穴が詰まる事からはじまり、詰まった毛穴の中での皮脂の過剰な分泌、紫外線や空気中の酸素による皮脂の酸化、細菌の増殖などの要因が複雑に絡むとされ、詳細なメカニズムについてはいまだに解明されていない部分を残しています。

 ニキビの発生に関わる細菌としては「アクネ菌」がよく知られており、アクネ菌は皮膚表面の免疫力を下げて炎症が起こりやすい状態を作り出すともいわれています。

 アクネ菌は一般的な皮膚の常在菌で、嫌気性である事から誰でも皮脂を分泌する脂腺の奥の方に棲息させているとされ、ニキビ予防のために殺菌性のある成分を含むもので洗顔をするのは、アクネ菌を減少させてニキビができる原因を減らそうとしている事が判ります。

 最近行われた研究では、ニキビがある人とない人の表皮のアクネ菌を集めてDNAを元に菌の種類を特定し、遺伝子解析を行ったところ、ニキビがない人には多く、ニキビがある人には稀にしか見られないアクネ菌の種類がある事が判ってきています。

 また、ニキビがある人では高い確率で見付かり、ニキビがない人の肌ではほとんど見られない種類のアクネ菌がある事も判ってきており、同じアクネ菌でも善玉と悪玉がある可能性が示唆されています。

 将来的に研究が進み、悪玉のみを減らして善玉を増やす事ができれば、有効にニキビを防ぐ事ができる可能性もあり、腸内細菌と同じようにアクネ菌も善玉と悪玉のバランスについて考えなければならないものへとなっていくのかもしれないと思えてきます。


第2195回 長寿の秘密


 先日行われた日本糖尿病学会と日本癌学会の共同による「糖尿病と癌に関する委員会」では、糖尿病によるガン発症のリスクや糖尿病がガンの発症を促すメカニズム、共通する危険因子などの検討を重ねた結果として、糖尿病患者のガンリスクは健康な人の1.2倍に上るとされていました。

 また、別な研究では元気な長寿者の調査を行った結果として、糖尿病と無縁であった事が長寿者に共通する事として観察され、余病のデパートと呼ばれる糖尿病が長寿に与える影響の大きさを伺う事ができます。

 100歳を超える長寿者を対象に行われた研究では、100歳という高齢からほとんどの人が何らかの慢性疾患を持っていて、高血圧が82%、白内障が46%、心臓疾患が29%、呼吸器疾患が21%、脳血管障害が16%、ガンが10%という罹患率となる中、糖尿病だけは6%と極めて低い罹患率となっていたとされ、日本の成人の4人に1人が糖尿病予備軍という事を考えると、尋常ではない低い比率である事が判ります。

 万病の元ともいえる糖尿病と無縁であった事が長寿に繋がったと結果から分析する事はできますが、単純に糖尿病にならなかったというだけでなく、糖尿病になりにくく、長寿に繋がる何かがあると考える事もできます。

 そうした考えの下、着目されたのが「アディポネクチン」と呼ばれるホルモンの一種で、インシュリンの働きを良くして糖代謝を活発にし、糖尿病を防いだり、動脈硬化を防いだりする働きを持つ事で知られています。

 100歳を超える長寿者の場合、このアディポネクチンの血中濃度が高いとされ、実際、90%以上の人で通常は血液1ミリリットル当たり10マイクログラム程度のものがその倍の20マイクログラムもあったとされます。大量のアディポネクチンが分泌され続けていた事が長寿に繋がったと見る事ができます。

 血中のアディポネクチン値が高いと長生きできるという事になるのですが、アディポネクチンを摂取しても消化器官内で分解されてしまう事から血中濃度は高くならず、常に血中濃度を高い状態にするには点滴をし続けるしかなく、あまり健康な状態とはいえなくなってしまいます。

 アディポネクチンは脂肪細胞から分泌される事から、脂肪が多いと分泌量が多くなるように思えるのですが、困った事に脂肪が多くなると分泌量が減少するという傾向があります。大人になって成長が止まってからの体重増加の多くは脂肪量の増加とされ、男性で10kg、女性で8kg以上の脂肪による体重増加が見られた場合、アディポネクチンの分泌量は半減するともいわれます。

 単純な指標としてはウエストのサイズが身長の半分を超えると、アディポネクチンの分泌量が減少するとされるので、正確に把握する事で目安とする事ができます。大豆やDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)を多く含む魚油にはアディポネクチンの分泌量を増やす働きがある事から、食の面からも意識して長寿を目指すというのも良い事なのかもしれません。

 かつて長寿に繋がる食を研究しに奄美大島へと渡った事があるのですが、振り返ってみるとアディポネクチンという視点からも現地の食の優れた点が見えてくるように、今なって思えてきます。


第2194回 目の日焼け



 かつては日焼けやシミ、ソバカス程度だったものが、最近では活性酸素の発生やDNAの損傷など、紫外線は油断のできない怖ろしいものとなってきています。昔と比べて上空のオゾン層の破壊が進んでいる事もいわれているので、日頃から充分に気を付けておかなければならない事の一つともなっています。

 直接、皮膚に照り付ける陽射しによって紫外線を意識する事はあるのですが、意外と盲点となるのが紫外線を見てしまった事による目の日焼けで、皮膚のように黒く変色するといった事がない分、意識されるという事はありませんが、皮膚よりも影響を受けやすいともいわれます。

 目は光を見るための器官である事から、陽射しを見る事は当然の事のように思えてくるのですが、陽射しの中に含まれる紫外線は目の水晶体や網膜などに損傷を与え、水晶体が濁ってしまう白内障や硝子体の混濁によって起こる飛蚊症の原因となるとされます。

 フランスの彫刻家、アリスティド・マイヨールが大好きなのですが、彼が晩年、大きく視力を失った理由は非常に細かいタピスリーの仕事に携わったためとされていますが、晩年を過ごした生地、パニュルス・シェル・メールで散歩を日課としていて、海岸線に点在する真っ白い岩の照り返しを長く見過ぎたせいともいわれます。

 目の日焼けを防ぐにはサングラスが有効で、オーストラリアでは小学生でも通学時にサングラスを掛けるように指導されています。最近は紫外線を防ぐ機能が高いサングラスも出回っていて、比較的安価に入手する事ができるのですが、選び方を間違えるとかえって害になってしまう事もあります。

 サングラスのレンズは紫外線を防ぐ効果があるものを選ぶのが第一条件となるのですが、デザイン性を優先してレンズ部分が小さい物や目との隙間が大きな物を選んでしまうと、暗いレンズ越しに見ている事から瞳孔は開いた状態となり、そこへ回り込んだ光が入り込む事から裸眼以上に悪影響が出るとされます。

 サングラスを選ぶ際はレンズの部分が大きく、目の回りを広範囲にカバーして光の回り込みがない事を意識した物を選択する必要があります。紫外線を見た事で体がメラニン色素を用意して、シミやソバカスの原因となるという研究結果もあり、UVケアは目からとも思えてきます。


第2193回 塩と論争



 我家の猫の食はとても難しく、なかなか気に入ってくれる物を見付けるのが大変となっています。元々食に興味がない感じで、あまり食べる方ではなかったのですが、少しは気に入ったような雰囲気でも続くとすぐに飽きてしまうのか、「これは食べない」という意思表示をしてくれます。

 意思表示はとてもはっきりしていて、ご飯が入ったボウルにトイレの後みたいに砂を掛ける仕草をしてくれるので、ご飯を上げた後、砂を掻くような音が聞こえてくるとかなり落胆してしまいます。

 そんな我家の猫が珍しく気にいてくれた猫缶が見付かり、とても喜んで食べてくるので嬉しくなってきます。気に入っているのだから毎日でもと思えてくるのですが、カツオやマグロは水銀の心配がある事から、同じシリーズのささ身の比率が高そうな物に変え、2、3日間を置きながら与えるようにしています。

 お気に入りとはいえ与える以上は内容にも気を配らなければと思い、一応、少量味見をしてみたのですが意外と塩味が強く、塩分の事が気になってきます。

 猫は肉食動物である事から、日頃から多くのタンパク質を摂っており、それを代謝するために常に腎臓に負担を掛けているとされ、塩分を摂る事で腎臓への負担が増し、将来的に腎臓疾患に繋がる事から、猫に塩分を与えてはいけないという意見があります。

 また、正反対の意見もあり、猫は本来、狩猟によって獲物を得て食べているので、獲物となった小動物の血液を介して塩分と接していて、塩分の摂取によって消化器官が活動を始める合図となるため、猫に塩分を与えない事は消化器官の円滑な活動を阻害してしまうともいわれます。

 実際に高齢の猫を見てみると、多くの猫に晩年は腎機能の低下が見られ、日常的に腎臓を気遣った生活をさせておく事の重要性が伺える半面、高齢でも元気で腎機能にも問題がない猫の好物が塩分が多い鮭の切り身であったりして、一様に塩分を否定して良いものかと悩ましく思えてきます。

 同じような塩分を巡る論争は人間にもあり、大きく意見が対立しています。米国医学研究所の発表によると現在推奨されている塩分の一日あたりの摂取量、5.8g未満には科学的根拠がなく、厳し過ぎる減塩は血液中の脂質量やインシュリンへの抵抗性に悪影響を及ぼし、結果的に心臓病や脳卒中のリスクを高める懸念があるとしています。

 それに対し米国心臓協会は、現在の塩分摂取推奨量は細心の注意の下に行われた科学的研究の評価によるものであると激しく反論し、過度の塩分摂取が血圧への影響とは独立した形で心臓や腎臓、血管にも影響を与えるとして減塩を行う重要性を強調しています。

 どちらも一理あり、判断に困るところですが、人間ですら論争の対象となる事を猫に置き換えるというのはとても難しい事に思えて、もっともな答えが何処かにないかと探してしまいます。


第2192回 予防薬?



 ベータラクタム、テトラサイクリン、マクロライド、どこか強力そうな響きを持つこれらの言葉は、抗生物質の系統を示す名称となっています。そのテトラサイクリン系の抗生物質の一つ、ミノサイクリンは皮膚の感染症などの治療に使われていますが、少し変わった副作用を持つ事でも知られています。

 ミノサイクリンを服用すると集中力を持続できる時間を延長する事ができる事や、雑念に捉われにくくなり、冷静な判断を下せるようになる。覚醒剤が効きにくくなる。鬱病の症状が改善するなど、副作用とは呼べないのではと思える働きがあるとされます。

 ミノサイクリンを服用する事で、日常的な不安や恐怖心といった負の感情を抑える事ができ、それによって生じていた社会的に不適応な行動を抑制できるからと考えられ、抗生物質としてよりもそちらの面の方がより有用な働きとなるようにも思えてきます。

 かつてミノサイクリンのそうした作用は研究の対象とされ、他者への信頼行動を薬剤の介入によって左右できるかというテーマでの実験が行われています。

 実験では若い男性約100名を集め、4日間に渡って一日に2回、ミノサイクリンか偽薬を投与して5日目にゲームとして対面した女性に対し、どの程度信頼してお金を預ける事ができるかという内容で行われました。

 被験者には事前に女性の写真を見てもらい、どの程度好みの女性なのかのアンケートを取り、預ける金額の大小は信頼度によって決めるように指示しておきます。

 実験の結果として偽薬を投与されたグループでは信頼度を示す金額が好みの女性の場合、顕著に多くなる傾向が観察され、好みの女性には盲目的に信頼してしまう傾向が伺えたのですが、ミノサイクリンを投与したグループではそうした傾向が抑えられるというものとなっていました。

 別な実験では逆のパターンも試され、男女を問わずに感情を排した冷静な判断をミノサイクリンが促す事が判ってきています。最近、振り込め詐欺の名称が変更された事が話題となっていました。ミノサイクリンが予防薬となるのか、微妙なものを感じてしまいます。


第2191回 無価値な物?



 時代と共に評価が変わる物。食の世界では意外なほど多いように思えるのですが、その代表的な例として食物繊維を上げる事ができると思えます。

 食物繊維は食品に含まれる成分のうち、人の消化酵素では消化できない難消化性成分の事を指し、植物や海藻、菌類などの細胞壁を構成する成分が多くを占めています。栄養素としては炭水化物に含まれるのですが、消化できない事から吸収もされず、かつては栄養的には価値がないものとして扱われていました。

 食物繊維の有用性について最初に言及したのは、某有名シリアル食品会社の創業者の兄で医師であったジョン・ハーヴェイ・ケロッグで、1918年の著書「自家中毒」の中で腸内で細菌が未消化のタンパク質から毒素を生成し、その毒素によって自家中毒が起こるとして、対策として食物繊維を積極的に摂取して腸内を刺激し、毒素が作られにくくするという事を提唱しています。

 しかし、その後も食物繊維は栄養的には何の価値もない物としての位置付けは変わらず、1970年代になってバーキットとトロウェルの共著による「精製炭水化物と病気・食物繊維の影響」によって、食物繊維が大腸ガンの発症を防ぐ事に言及されてはじめてその重要性が認識されるようになっています。

 1990年代には消化吸収されにくいという特性を活かして、食物繊維を多く含むコンニャクや寒天を使ったダイエットがブームとなり、食物繊維は日本人に足りない栄養素の一つとして認知され、血糖値の緩やかな上昇を促して糖尿病を防ぐ働きや、腸内での脂質の再吸収を妨げる働きなどによっても健康食品としての位置付けを不動のものとしています。

 その後の研究で大腸ガンを防ぐ効果については否定されていますが、生活習慣病の予防やダイエットなどその他の機能の大きさから食物繊維は支持され続け、食物繊維を積極的に摂取する事は重要視されています。

 栄養的には何ら価値を持たないとされていた事についても、腸内細菌の働きによって酪酸やプロピオン酸などに変換されてエネルギー源として吸収されている事が判り、栄養的価値はほとんどないとはいえないものとなってきています。

 腸内細菌に関する研究が進んだ事もあり、食物繊維の大半を占めるセルロースを人は腸内細菌を介する事で、意外なほど高い率で利用している事が知られるようになり、粉砕したセルロースであればほぼ100%近くが分解されて利用されているとされます。

 栄養的に価値がない、必要な栄養素の吸収を妨げてしまう可能性を持つと、当初は評価が低かった食物繊維ですが、時代と共に評価が上がり、今では重要な栄養素として扱われるようになっています。利用率の高さから一定ではないにしてもエネルギーを発生している事になり、今はカロリーがほとんどないように思われていますが、やがてはカロリー計算の対象となり、ダイエットへのアプローチも変わって来るのかと、今後の展開が気になってしまいます。



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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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