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第2249回 毒の効用



 ボツリヌス菌というと当地熊本の名産でもある「辛子れんこん」で発生した食中毒事件が思い出され、嫌気性細菌であった事から菌の増殖を防ぐために酸素を遮断していた環境下で増殖したという盲点を突いた食中毒の発生や、中毒時の毒性の強さ、身近な食品で多くの中毒患者が発生した事など、当時の事は記憶に強く残されています。

 ボツリヌス菌が作り出す毒素である「ボツリヌストキシン」は、致死性の感染症を引き起こす事で知られる破傷風菌が作り出す「テタノスバスミン」を上回る毒性を誇るとされ、食中毒と侮れない怖ろしさを感じさせてくれます。

 ボツリヌストキシンは、その毒性の強さ故に第二次世界大戦中に生物兵器として研究されたという歴史を持ち、兵器としての可能性を持ち合せていた事がボツリヌストキシンの精製法を確立したり、性質を理解するという事への推進力となったという事もできます。

 「細菌兵器及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」が制定された1973年以降は、開発や生産、貯蔵、輸出入が国際的に制限されるようになっていたのですが、ボツリヌス菌が増殖しながら生成してしまう事に関しては国際法の規制も及ばないというところに生物毒の怖ろしさを感じてしまいます。

 そんなボツリヌストキシンの名前を意外なところで聞かされる事となったのが、美容整形の分野で行われえている「ボトックス注射」で、ボツリヌストキシンの神経毒としての作用を利用し、筋弛緩作用を応用した「シワ取り」や「輪郭補正」などに使用されています。

 最近ではボツリヌストキシンの筋弛緩作用を応用し、リハビリの分野にも使われるようになってきていて、怖ろしい毒素は希望をもたらす薬剤へと変貌を遂げるのかともと思えてきます。

 脳卒中や脳梗塞を起こした際、一命を取り留めても後に身体に麻痺が生じる後遺症が残される事があります。そうした運動機能の障害は、発症直後などの早い時期から適切なリハビリを行う事が効果的とされ、改善効果が上がるとされるのですが、半年を超えたあたりから急に効果が頭打ちになる「6カ月の壁」と呼ばれる現象が生じるとされます。

 6カ月の壁の主な原因は麻痺して動かない筋肉の委縮にあるとされ、ボツリヌストキシンを用いた治療法は筋弛緩作用を利用して動かせない筋肉の緊張をとき、委縮を和らげる事で動きを滑らかにして筋肉の委縮の先に起こる関節が固着してしまう「拘縮」を防ぐ働きがあります。

 委縮の状態を脱して身体を動かせるようになると、頭部への磁気刺激と集中的なリハビリを組み合わせた画期的な治療法を受ける事も可能とされ、麻痺の改善には大きな効果が上げられる可能性がでてきます。

 かつて食中毒菌として俄かに注目を集めたボツリヌス菌ですが、最近では平和な利用法の方が目立ってきていて、菌たちも喜んでいるのではと思ってしまいます。


第2248回 安全への戦い(2)



 ハッサル博士による食の安全に関する大規模調査の結果が「食品とその混ぜ物の処理」として刊行される2年前、アメリカでは頻発する牛乳に対する不正な混ぜ物について、有力な新聞であるニューヨークタイムズが「ジャグの中に死がある」という記事を掲載しています。

 当時、ニューヨーク市内に供給されるための牛乳の実際の生産量は680万ガロンであった事に対し、ニューヨークで消費された牛乳の量は750万ガロンであった事から、差し引き70万ガロンが何らかの不正な混ぜ物であったとされ、多くの新聞でこの問題が取り上げられたにも関わらず、問題の解決には多くの時間を要する事となります。

 結局、牛乳への不正な混ぜ物の問題が解決するには、新たな技術であった低温加熱殺菌法の導入や牛乳ビンを使った小口梱包技術の発明、牛乳への規制方法の確立といった事が整えられた後という事になり、20世紀を目前とした頃であったとされます。

 日本では第二次世界大戦後の高度成長期に工業の急速な発展に伴う公害の問題が発生し、食の安全が崩壊する中、1960年に牛肉の大和煮の缶詰の原料として、密かに安価な鯨肉や馬肉が使われるという「うそつき缶詰事件」が発生し、社会問題化した事で「不当景品類及び不当表示防止法」が制定され、その後、消費者保護法の制定によって産業優先の考え方から消費者優先へと意識が移っています。

 各国が苦い経験の下に食の安全を確保していく中、安全を考える上で食品による危害の発生が段階的に存在する事も安全の確立を難しくしているという事ができます。

 食品による危害の発生について「急性的危害」に分類されるものは、薬物や化学物質による急性食中毒などの健康被害の発生を指し、「短期的危害」は微生物や細菌の増殖による食中毒の発生を指しています。

 それに対し「中期的危害」は、栄養素の偏りによる生活習慣病などの健康被害を指し、「長期的危害」は環境ホルモンをはじめとした化学物質によるガンの発生や催奇形性といった健康被害を指します。

 何らかの健康被害が発生するとした場合、食との因果関係が明確な急性的危害と短期的危害に対し、中期的危害や長期的危害は健康被害が生じたとしても因果関係自体を証明する事が難しい事から、急性的・短期的危害だけに着目した対策が行われる、もしくは行われているのではないかという懸念が食に対する安心感を大きく損失させ、逆に安全性を下げてしまうという可能性もあります。

 食品添加物の防腐剤や品質保持剤といった部分でそうした傾向が顕著に見られ、ある程度知名度のある薬剤に関する危険性を指摘し、敬遠されてしまうために別のあまり知られていない薬剤が代わりに使われるようになり、かえって中期的・長期的危害が発生する危険性が高まるといった事例も確認されています。

 食を取り巻く法整備も進められる中、日々食に関する情報は溢れていて、その中から正しい情報を取捨していかなければならない状態にあります。食の安全を確保するためには、そうした情報収集力が問われる時代になっているのかもしれません。


第2247回 安全への戦い(1)



 古代ローマにおいて「いつも飲んでいたワインの味がおかしい」という訴えが相次ぎ、調査官が派遣されて調べたところ、ワインの製造業者がワインの熟成を早めるために渋味の素となるアロエや薬品などを加えていた事が判明し、処罰されたという記録が残されており、人為的な行為によって食の安心安全が脅かされた最古の記録ともいわれます。

 古代ローマに限った事ではなく、利益を追求する、手間を軽減するといった理由から正規の方法ではない製法や原料が用いられたりする事で、食の安全性が低下してしまうという事が発生するのは容易に想像する事ができるのですが、中世までの社会では農業を中心として成り立ち、小さな村を単位として生活していた事から、村を構成する人々が顔見知りであり、食品への混ぜ物などの混入はほとんどなかったとされます。

 中世から近代へと時代が移り、産業革命の波が広がっていくと人々は村から街へと移り住み、食料の生産も工業的手法が取り入れられるようになり、利益追求の中で倫理観が置き去りにされるという今日のような食の安全が脅かされる土壌が作られたように思えます。

 そうした食への倫理観の低下を受けて1820年には、イギリスのフレデリック・アークムが「鍋の中に死がある」と題した論文を発表し、イギリスでは基本的な食べ物となっていたパンやビール、紅茶やワインなどの多くに混ぜ物がある事を証明して警鐘を鳴らしています。

 アークムの論文の中で最も多く取り上げられていたのは、主食であるパンに関する不正な混ぜ物で、ロンドンのパン屋の多くがパンにミョウバンを混ぜるという不正を行っており、ミョウバンを混ぜたパンは質の悪い小麦粉を使っていても白く高級そうに焼き上がるが、食べた後に消化不良を起こすとしています。

 不正な混ぜ物が行われていた食品はあらゆる種類に及ぶとされ、抵抗力が低い子供だけでなく、鉛や銅、水銀、ヒ素なども使われていた事から大人たちの中にも長期に渡る健康不安や命を落とす例も見られ、社会問題へと発展していきます。

 そうした深刻な事態を受けてロンドンのロイヤル・フリー・ホスピタルの内科医、アーサー・ハッサル博士によって2400件に及ぶ試験が行われ、多大な品目の食品を厳密かつ系統だって調査した食の安全を確保するための初の試みとなっています。ハッサル博士の調査結果は一冊の本にまとめられ、1856年に「食品とその混ぜ物の処理」として刊行されています。

 ハッサル博士による調査によってイギリスの議会も食の安全問題に次第に注目するようになり、医師や化学者、製造業者などによる複数の委員会が発足しています。議会においての証言も行われ、1860年には「食品及び薬剤粗悪化防止法」が成立し、食の安全を確保する闘いは本格的な幕開けを迎えたという事ができます。


第2246回 存在しない音



 普段、あまり感じていないのですが酷い肩凝りらしく、鍼灸師をしていた伯父に驚かれた事があります。そのせいか、たまに頭痛という事もあるのですが、それもほとんど気にならないので、随分と得な体質ではないかと思えてきます。

 肩凝りが原因ではなさそうな感じなのですが、たまに耳鳴りがする事があり、短い時間ですが片方の耳が大きな音を聞いた後のように「キーン」と音がしてしばらく聞こえなくなる事があります。

 大概、暇な時間などに多いようで、音に集中しなければならない時などに起こった事はないし、放置しておけばやがて治ってしまうので、神経がパニックでも起こしているのだろうと思い、大して気にもしていません。

 耳鳴りは300人に1人の割合で悩まされているとされ、私のように生理現象の一つと思って全然気にしていない人もいれば、音がしていないのに音がするとして非常に不快に感じていたり、中には精神を病んでしまうほどに悩まされる人もいて、深刻なケースでは自殺に追い込まれる事もあるといいます。

 根本的な原因が解明されていない事から治療法も確立されてはおらず、発症した際、どこが適切な相談先かも判らずに複数の病院を渡り歩く患者も少なくないとされます。

 謎に包まれていた耳鳴りに対し、耳鼻咽喉科や神経精神科、生理学、解剖学などの医師による共同研究チームが結成され、重度の耳鳴りに悩まされる患者を対象にMRIを使った検査を行ったところ、重症患者ほど脳の特定部位のネットワークに異常があり、耳鳴りの音は聴覚とは関係なく脳の内部で作り出されている事が判っています。

 音の強さに関しては、脳の中央部にある「尾状核」や記憶を掌る事で知られた「海馬」が関連していて、耳鳴りによる不快感は前頭葉の一部が関わっている事も判います。耳鳴りが発生する場所と不快感を感じる場所が異なる事が解明された事で人によって耳鳴りに対する不快感に大きな違いがある事が説明できるだけでなく、例え耳鳴りを治療する事はできなくても不快感を取り除く事は可能となるといった事も考えられます。

 研究チームは今後、耳鳴りと関連した部位をさらに詳しく絞り込んでいくことで、発生に関するメカニズムの解明や治療法の確立への道筋を付けるとしています。300人に1人とはいえ切実に治療法の確立を待つ人がいるだけに、一刻も早い研究成果を待ちたいと思います。


第2245回 器の味



 和食の世界では料理に合わせて器が選ばれたり、器に合わせて料理を創造したりという事が行われ、色合いや形、質感などの器の雰囲気も料理の重要な一部として扱われる事があります。

 器は料理の入れ物に過ぎず、食べる訳でも栄養を提供してくれる訳でもないのにという見方もできるのですが、実は器は料理のできを左右する重要な意味を持っている事が判ってきていて、器によって料理の味そのものが変わってくるという研究結果が得られています。

 英国、オックスフォード大学で行われた研究絵では、被験者にさまざまなスプーンでヨーグルトを食べてもらい、味の感じ方の違いを分析した結果、プラスティックのスプーンで食べた際は味が濃厚で高価な感じが得られ、白いスプーンを使った場合は白いヨーグルトよりもピンクのヨーグルトの方が甘味が強く感じられ、黒いスプーンを使うとピンクよりも白いヨーグルトの方が甘く感じられるという結果が得られていました。

 また、チーズを食べてもらう実験では、ナイフ、フォーク、スプーン、つまようじなどを使ってチーズの味の感じ方を比較したところ、ナイフに突き刺して食べた時が一番塩辛く感じられる事も判り、食器が意外なほど味に影響を与えている事が判ってきています。

 今回の研究によって食器の形状や色合い、質感や重量など日団は意識しない細かい事が料理の味に影響している事が判り、うまく活用する事で料理をより美味しくする事ができるだけでなく、塩分や糖分などの摂取量のコントロールにも利用できる事が考えられ、料理の完成度を高めるために器にまで心を配った先人たちの知恵が活かされる時がきたと思えてきます。


第2244回 平和利用



 リチウムというとバッテリーがすぐに思い浮かんできます。リチウムイオンバッテリーの登場によって、かつて主流だったニッカドバッテリーは徐々に姿を消していき、メモリー効果の発生を防ぐためにバッテリーは使い切ってから充電するという習慣は、今の若い人たちには馴染みのない事となっています。

 リチウムイオンバッテリーは従来の放電のみを行う電池が一次電池と呼ばれるのに対し、充電も行う事ができる事から二次電池と呼ばれ、正式にはリチウムイオン二次電池と呼ばれます。

 ノート型のパソコンや携帯電話の普及に合わせて、小型で軽量、高出力も可能なバッテリーが求められる中、ニッケルとカドミウムを使ったニッカドバッテリー、その後継となった水素イオンバッテリーに続く物として登場しています。

 本格的な登場は1996年頃と、歴史の浅い技術となっていますが、登場後はモバイル機器ばかりでなく幅広い分野で使われるようになっていて、ハイブリッド車の電源として使われる事から、自動車産業にも欠かせない存在となってきています。

 今日の多くの産業に重要な意味を持つ物質となってきたリチウムですが、1821年にウィリアム・トマス・ブランドによって単離されて以降、それほど必要となれるものではありませんでした。

 第二次世界大戦中に航空機用の耐熱グリースの素材として使われたくらいで、これといった重要性は感じられない素材だったのですが、水素爆弾の製造に使われるようになると東西冷戦を背景に軍需物資として扱われるようになり、急速に需要が高まっています。

 冷戦の終結後、それほど需要も高くない状態に戻ったリチウムでしたが、バッテリーへの利用によって三度目の注目を浴びた事になります。そんなリチウムに効能がある事が判ってきて、やがて新たな需要が発生するという予想が行われるようになってきています。

 以前、リチウム鉱山の映像を見た際、地下水を溜池に流し込んで日光と風で水分を飛ばして濃縮し、それから抽出を行う事から塩田そのものにしか見えないという印象を持った事があります。

 自然界では塩分と一緒にいる事が多いので、まさに塩田から採取されている状態なのですが、塩分と同じく自然界には広く存在していて、飲み水としている地下水などにリチウムの含有量が多い地域では精神疾患や自殺の発生率が低い事が判っています。

 水道水中のリチウム濃度が低い地域と中程度の濃度の地域、高濃度の地域を比べると、明らかに高濃度の地域では精神疾患での入院率、自殺率が低い事が観察され、窃盗や強盗といった犯罪の発生率も低いという結果が得られています。

 リチウム濃度が高い温泉水を飲むと血液中のリチウム濃度が上昇し、ふさぎ込んだり不安を感じるといった精神症状が改善され、神経細胞の成長を促す特殊なタンパク質の量も増える事が観察され、それらが精神疾患の発生やネガティブな感情の発生を抑えていると考える事ができます。

 リチウムの濃度と硬貨の発生については地域によってばらつきが生じるという不可解な結果も得られているとされますが、今後研究が進んで安らかな心を得る成分という事が明らかになると、バッテリー以上に重要な存在となるのかもしれません。

第2243回 塩分事情



 今年は暑くなるのが早く、本格的な夏が始まったと同時に猛暑日の言葉も連続で聞かれ、各地で観測史上最高という記録も散見された事から、熱中症への警戒を呼び掛ける言葉を多く聞かされていました。

 汗は水分が蒸発する際の気化熱を使って体温を下げようとする仕組みですが、水分と同時に体内のミネラル分も体外に出してしまい、特に浸透圧を調節している塩分の損失も考えられる事から、たくさん汗をかく際は水分だけでなく塩分も一緒に補給するという話は、夏場にはよく聞かされる事となっています。

 最近ではそうした事も考慮して水分だけでなく塩分の補給もできるようにしたアイソトニック飲料が売られているのですが、それがかえって困った事態を引き起こしているといわれます。

 現在、厚生労働省によって推奨されている塩分の摂取量は、男性が一日に9g以下、女性はさらに少なく7.5g以下とされています。実際の生活を見てみると一日に10gを超えているケースが多く、塩分は日常的に過剰になっている事や、通常の汗では塩分が不足するほどの損失は起こらない事から、あえて塩分を補給する必要はないとされます。

 体内で過剰となった塩分は腎臓から尿へと排出されるのですが、その際、カルシウムも一緒に排出される事から、塩分の過剰摂取はカルシウムの損失に繋がり、骨粗鬆症を悪化させてしまったり、汗によって水分が失われて尿量が減り、濃い目になっている事から結晶化しやすく、尿路結石も起こりやすいとされます。

 また、最近の人気キーワードとなっていた「塩・・・」とも併せて、熱中症にならないように水分と塩分を摂取しているうちに塩分の過剰摂取が進んでしまい、血圧が上昇してしまうという事も考えられるといわれます。

 逆に日頃から塩分の摂取を控えている人や高血圧の治療を行っている人たちの間では、汗をかいた事による塩分の不足が起こりやすいとされ、熱中症への警戒が必要とされます。

 暑さが厳しさを増す中、たかが塩分、されど塩分という言葉が思い浮かんできて、塩分以外のミネラル分の事も含め、日頃から考えておかなければと思えてきます。


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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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