第2259回 包丁を眺めながら(2)
最近はステンレス製の物が主流となっていて、場合によってはセラミックスという事もあるせいか一時期ほどは見掛けなくなったのですが、以前はたまに日本刀と同じ作りという宣伝文句で包丁が売られている事がありました。
日本刀の鋭利な切れ味と美しさは世界的に認知されている事から、同じように切れ味が求められる包丁にも日本刀のイメージを持たせる事で高級感と高性能をアピールする狙いと思われるのですが、基本的に日本刀と包丁は全くの別物である事からどこか胡散臭さを感じていました。
日本刀は製法によって違いがあるのですが、刃の部分の「刃金(はがね)」、側面の「側金(がわかね)」、刃の反対側になる「棟金(むねがね)」、中心部に当たる「心金(しんがね)」によって構成され、切るための固さや地鉄としての美しさを演出する鋼と、折れないための柔らかい鉄が一緒になったハイブリッド構造を持っています。
基本的に日本刀は、固く美しい鋼で柔らかい鉄を包み込んだ構造になるのですが、包丁は鋭利な刃を作るための鋼に柔らかい鉄を貼り付ける、もしくは鋼を鉄が包む構造になっていて、日本刀と包丁は鋼の刃を持ってはいますが逆の構造となっている事が判ります。
大規模な鉄鉱石の産出やコークスによる高温の溶鉱炉といったものではなく、砂鉄を集めてたたらで製鉄していた日本では鉄は貴重であり、その鉄を精錬して得られる鋼は高価なものであった事から、刃を作るために欠かせない鋼の比率を低くして扱いやすい厚みと重量を出すには包丁の構造が必要だったと考える事ができます。
今日、製鉄法の発達によって鋼も貴重ではなくなってしまいましたが、できる事なら日本刀と包丁は別物であってほしいと思えます。日本刀の美しさは刀匠によって打ち上げられただけでなく、研ぎ師によるいくつもの細かな工程による仕上げも関わっているとされ、入念な研ぎが施される背景には精神面だけでなく、軽い気持ちで使わないようにするという抑制的な意味もあったとする説もあります。
気軽に使わないような工夫が施された日本刀、日常の道具である包丁、そこにも大きな違いがあるように思えてきます。
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