第2320回 新たな抗菌性
よく日本人は潔癖症で、細菌や昆虫などに極端に不寛容だといわれます。日常の生活の中に抗菌グッズが溢れ、繊維製品の中にも防ダニと記載された物も珍しくはありません。殺虫剤の普及率も非常に高く、殺虫剤や殺菌剤が常備されているという家庭も多い事と思えます。
そんな抗菌大国の日本で、最近では抗菌剤として銀イオンを用いる事が人気となっていて、いたる所で「Ag+」と書かれた製品を見掛けます。金属イオンには抗菌作用を持つ物が多く、イオン化した銀も強力な殺菌力を持っています。
銀イオンを使った製品もそうした性質を利用した物という事ができますが、そんな銀イオンよりもさらに人気となりそうな新たな抗菌作用を持つ素材に関する研究結果が発表されていました。
新たな抗菌素材の名前は「ブラックシリコン」で、次世代の太陽電池パネルの素材として研究が進められています。太陽電池は二種類の性質が異なる半導体を貼り合わせ、日光を当てると電気を発生させてくれます。シリコンは半導体でもあるので、太陽電池の素材として有望な事は解るのですが、殺菌作用が注目されるようになったきっかけは、セミやトンボにあるとされます。
自然界に普通に存在し、人に対しては体力や免疫力が下がっている時に感染する事で知られた緑膿菌に対し、セミの羽が強力な殺菌作用を持っているとされます。緑膿菌は抗生物質に対して耐性を獲得する力を持っている事から、何か別なメカニズムが働いているとも考えられていたのですが、羽の表面を電子顕微鏡で拡大したところ「ナノピラー(極微細突起)」と呼ばれる極めて小さい突起が等間隔に並んでいる事が判り、細菌が付着するとその突起で粉々に切り刻んで死滅させていた事が観察されています。
さらに研究を進めるとベニヒメトンボの羽にも同じようなナノ構造がある事が判り、その作りがブラックシリコンの表面とほぼ同じである事が突き止められ、実験の結果、ブラックシリコンにも緑膿菌を殺菌する作用があるだけでなく、耐性菌を生じる事でも悪名が高い黄色ブドウ球菌や食中毒を起こす枯草菌など、広範囲の菌に対し殺菌作用を発揮する事が判っています。
現在、ブラックシリコンは高価な素材とされていますが、ブラックシリコンゆえの殺菌力というのではなく、構造の方に重要性がある事から、ナノピラーを他の安価な素材に持たせたり、ブラックシリコン自体が太陽電池パネルの増産で安価となったりといった事も考えられます。
細菌を切り裂いて殺すナノピラーですが、あまりにも微細なために肉眼で見たり、手で触れてもセミやトンボの羽のように艶々としていて、抵抗は感じないとされます。やがて抗菌グッズの在り方は大きく変わるのかもしれません。
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