第2320回 新たな抗菌性



 よく日本人は潔癖症で、細菌や昆虫などに極端に不寛容だといわれます。日常の生活の中に抗菌グッズが溢れ、繊維製品の中にも防ダニと記載された物も珍しくはありません。殺虫剤の普及率も非常に高く、殺虫剤や殺菌剤が常備されているという家庭も多い事と思えます。

 そんな抗菌大国の日本で、最近では抗菌剤として銀イオンを用いる事が人気となっていて、いたる所で「Ag+」と書かれた製品を見掛けます。金属イオンには抗菌作用を持つ物が多く、イオン化した銀も強力な殺菌力を持っています。

 銀イオンを使った製品もそうした性質を利用した物という事ができますが、そんな銀イオンよりもさらに人気となりそうな新たな抗菌作用を持つ素材に関する研究結果が発表されていました。

 新たな抗菌素材の名前は「ブラックシリコン」で、次世代の太陽電池パネルの素材として研究が進められています。太陽電池は二種類の性質が異なる半導体を貼り合わせ、日光を当てると電気を発生させてくれます。シリコンは半導体でもあるので、太陽電池の素材として有望な事は解るのですが、殺菌作用が注目されるようになったきっかけは、セミやトンボにあるとされます。

 自然界に普通に存在し、人に対しては体力や免疫力が下がっている時に感染する事で知られた緑膿菌に対し、セミの羽が強力な殺菌作用を持っているとされます。緑膿菌は抗生物質に対して耐性を獲得する力を持っている事から、何か別なメカニズムが働いているとも考えられていたのですが、羽の表面を電子顕微鏡で拡大したところ「ナノピラー(極微細突起)」と呼ばれる極めて小さい突起が等間隔に並んでいる事が判り、細菌が付着するとその突起で粉々に切り刻んで死滅させていた事が観察されています。

 さらに研究を進めるとベニヒメトンボの羽にも同じようなナノ構造がある事が判り、その作りがブラックシリコンの表面とほぼ同じである事が突き止められ、実験の結果、ブラックシリコンにも緑膿菌を殺菌する作用があるだけでなく、耐性菌を生じる事でも悪名が高い黄色ブドウ球菌や食中毒を起こす枯草菌など、広範囲の菌に対し殺菌作用を発揮する事が判っています。

 現在、ブラックシリコンは高価な素材とされていますが、ブラックシリコンゆえの殺菌力というのではなく、構造の方に重要性がある事から、ナノピラーを他の安価な素材に持たせたり、ブラックシリコン自体が太陽電池パネルの増産で安価となったりといった事も考えられます。

 細菌を切り裂いて殺すナノピラーですが、あまりにも微細なために肉眼で見たり、手で触れてもセミやトンボの羽のように艶々としていて、抵抗は感じないとされます。やがて抗菌グッズの在り方は大きく変わるのかもしれません。


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第2319回 ホットかパンか?


 先日、知り合いと軽食に関する話をしていて、ホットケーキと呼ぶか、パンケーキと呼ぶかで世代感が分かれると話していました。最近はパンケーキと呼ばれて人気となっているようなので、やがて巷のホットケーキミックスがパンケーキミックスと名前が変えられると、ホットケーキと呼ぶ私は昔の人といわれるのかもしれません。

 ホットケーキの歴史は非常に古く、小麦を粉に挽いて味を付けて焼いた物と定義すると、その発祥は古代エジプトにまで遡るともいわれます。

 ヨーロッパでも謝肉祭の最終日、マルディグラと呼ばれる火曜日にホットケーキを焼くという習慣がある事から、「ホットケーキの火曜日」という言葉が定着しており、古くから親しまれていた事が伺えます。

 アメリカには「ホットケーキのように売れる」という言い回しがあり、日本の「飛ぶように売れる」に当たる言葉とされていて、ホットケーキの人気が判るようにも思えます。

 そのアメリカではどちらかというとパンケーキと呼ばれる事が多いとされ、他に焼く際に使われる調理用の鉄板を意味する「グリドル」が付けられたグリドルケーキや、薄く焼かれる事からフラップジャックという呼び方もされています。

 その土地の食文化というテイストを加えながら世界中で愛されているホットケーキですが、最近、少々悪い事に名前が使われている場面を見掛けるようになってきています。

 糖分がタンパク質を巻き込んで褐色に変化していく事で生成される糖化タンパク質、もしくは糖化最終産物は老化に直接関係する物としていわれるようになり、白い小麦粉の生地が美味しそうな焼き色と香ばしい風味を出すホットケーキに象徴される事から、ホットケーキ化という表現をされる事があります。

 糖化タンパク質を生じるメイラード反応は、ホットケーキを焼く時のみに見られる反応ではなく、コーヒー豆の焙煎やしょうゆの醸造、トーストの焼き色やカラメルの色や風味など日常の多くの場面で見られ、利用されています。

 しかし、象徴的な存在として使われた事もあって、ホットケーキは体のホットケーキ化を進める食品といわれる事も増えてきています。糖化タンパク質を生じるのは急速な血糖値の上昇や日常的な高血糖にあるとされ、ホットケーキの問題ではないように思えます。短絡的な発想で否定してほしくない、そんな歴史を持つ食べ物がホットケーキだと思っています。


第2318回 自給への思い



 相変わらず食材の偽装が話題となっていますが、以前、産地偽装が問題になってからは、スーパーなどでも生鮮食料品のラベルなどに産地が記載されるようになり、どこからやってきた食材なのかを意識する事ができるようになりました。

 産地が近い物を見ていると、どことなく旬を反映しているようで、季節感が失われて久しいといわれる野菜を眺めながら季節を感じる事ができるように思えます。

 地産地消という言葉もあるので、できるだけ地域に根差した産地の近い物や、国内産の物という事を意識しながら食材を眺めているのですが、その際、売り場の多くの食材が国内産の物であり、輸入食材が意外と少ない事に気付いて、日本の食料自給率は危機的状況にあり、2010年に40%を割り込んでついに30%台になってしまったという言葉を思い出してしまいます。

 日本の食料自給率は農地の減少や農家の後継ぎ不足の影響もあって年々低下しており、2010年には39%にまで低下してしまい、手厚い保護や抜本的な振興策を行わない限り、輸入以外に食料の確保は難しくなってしまう。途上国の人口爆発や温暖化によって世界的な食糧危機が起これば、日本の生命線を絶たれてしまうといった怖ろしげな話も聞かされています。

 日本の食料自給率はカロリーベースで計算されています。世界的に見て自国の食料自給率をカロリーベースで計算している例は稀とされ、特殊な計算方式を採っている理由は、あまりにも低過ぎる自給率を少しでも高めに見せるためともいわれる半面、実は日本の食料自給率はそれほど低くはなく、少しでも数値を低く見せる事で壊滅的な農業という雰囲気を演出しているという逆の意見も存在しています。

 40%という自給率は先進国でも最低水準にあるとされますが、カロリーベースではなく諸外国と同じように生産高ベースで計算すると66%となって、世界的に見てもそれほど見劣りする数字ではないものになってくるとされます。また、生産額をベースに考えると日本の農業生産額は8兆円とされる事から、世界第5位の農業大国となるともいわれます。

 生産額で農業大国となる事に関しては、日本の世界有数の物価高が影響しているようにも思えるのですが、売り場の国産食材の占有率を見るとそれほど壊滅的な状況にはないようにも思えてきます。

 世界的な食糧危機についても、急激な人口の増加に食料の増産が追い付いているため、起こり得ないとする意見もあり、実際にこの10年の間の人口の増加率は189%にも上りますが、食料の増産は215%と人口の増加を26%も上回っており、どちらかというと在庫過多の傾向にあるとされます。

 さまざまな意見が飛び交い、今一つ理解しにくい食料を巡る問題ですが、確実にいえる事はいただく食材に対する感謝の気持ちだけは忘れてはいけないという事だと思えてきます。


第2317回 師の教え



 もう故人となってしまいましたが、人生で唯一、師匠と呼ぶ人物がいて、いろんな話を通して人生における大切な事をたくさん学ばせていただきました。その師匠から聞かされた話で、子供の頃、遊んでいて知らずに櫨の木に触れてしまい、かぶれて泣きながら帰宅した事があるそうです。

 事情を聞かれ、「櫨にまけた」と説明する師匠に母親は、「男の子が負けて泣きながら帰宅するものではありません。今から行って、噛みついて仕返しをしてきなさい」というので、師匠もすぐにその場に戻り、櫨の木に噛みついて口の回りをさらに激しくかぶれさせながら勝ち誇って帰宅したそうです。

 そんな師匠に母親は、「勝ってきましたね。それなら治りも早いはずですよ」と微笑んでくれたとの事でした。今の親では考えられない教育のように思えるのですが、その後に聞かされた「漆職人はかぶれないために、日頃から漆を舐めながら仕事をしている」という話には、かぶれる危険性がある物を口にする事で異物と認識させないようにするという経験的な知恵の存在を感じる事ができました。

 最近の研究でアレルギーがある子供を、アレルギー物質から遠ざけるようにするとかえってアレルギーの範囲が広がり、やがては食べられる物がなくなる危険性がある事が報告されていました。

 また、別の研究では食物アレルギーを持つ子供は、母乳と離乳食を併用していた機関が短い傾向がある事が判り、離乳期の食生活のあり方でその後の食物アレルギーが防げる可能性が示唆されています。

 食物アレルギーを持つ子供の場合、母乳と離乳食を併用した期間の平均が5.5か月であったのに対し、食物アレルギーのない子供の場合は平均が9カ月と倍近い長さになっていて、離乳食を始めた時期も生後16週以前とアレルギーがある子供は早くから始められていた傾向が強い事がいわれています。

 まだ免疫の働きが充分ではない早い時期に外部の食材に接し、早々に外部の食材だけにされてしまう、それによって食材の一部を異物として認識し、アレルギーを生じるという流れは充分に考える事ができます。私に子供がいたとして、櫨の木に噛みついてくるような教育はできませんが、その後を大きく左右する離乳食の扱いは気を付けてあげなければと思います。


第2316回 記憶のために



 年を取ると徐々に物忘れが進み、認知症などの病気を除き、ある程度は仕方のない事と考えられています。そのため周囲もそうした事情を理解して接し、本人も必要な事はメモしておくなどの工夫をする事で生活の質を維持する事が可能ともいわれます。

 しかし、記憶力を競う競技を見ていると、上位入賞者には意外にも年齢の高い人が多く、加齢による記憶力の減退は俗説にすぎず、年齢を理由に記憶力の低下を安易に受け入れてしまう事が記憶力を減退させているのではとも思えます。

 加齢による記憶力の減退は記憶を掌る脳内の海馬に蓄積された情報が、神経細胞の働きの低下でうまく取り出せなくなる事によって起こると考えられています。日頃から脳に刺激を与えておく事が大切とされる理由は、海馬からの情報の取り出しを常に行っておく事で記憶の出し入れをスムーズにしておくという意味があり、そのためにさまざまな方法が推奨されています。

 日常生活の中で簡単にできる方法として音読が良いとされ、新聞や雑誌などを声に出して読んでみると、意外なほど脳が活性化するといわれます。また、会話を交わす事、笑う事も脳の働きを良くするとされ、特に笑顔は脳の活性化を促すとされます。

 誰も相手がいない場合は、鏡の中の自分と会話して笑うということも効果的なのですが、周囲の理解が得られていないと認知症と勘違いされそうで怖いようにも思えます。

 カラオケで歌う事も脳の活性化には良いとされ、リズム感や音感、歌詞などさまざまな事に気を使う事も脳を多面的に活性化させると考えられます。カラオケは数年に一度、避けられない事態として参加させられるのですが、脳の活性化といわれると、何となく率先してやるべき事なのかと思えてきます。


第2315回 過剰なる危険?



 一頃ほどではありませんが、健康食品は日々の生活の中に溶け込み、たくさんの種類が販売されています。サプリメントという呼び方が定着した事も、気軽さ、手軽さをサポートしてくれているようにも思えます。

 かつて食物から必要な栄養素を確保するしかなかった頃、地域や季節によって栄養の偏りが生じていた事が考えられますが、今日ではサプリメントを上手に活用する事で、不足した栄養素を補う事ができます。

 健康を維持するために必要となる栄養素の摂取目安は定められていますが、実際には摂取目安よりも多くの量が必要であり、目安とされた量で健康の維持を行い、余剰となった分が他の器官で別な働きを担うという意見もあり、過剰症とならない程度に多めに摂取するべきかとも思えてきます。

 一つの器官で使われた栄養素の残りが別な器官で新たな役割を果たし、それを体内で連続して行うために多めの栄養素を摂取するというカスケード理論がサプリメント大国のアメリカを作ったともいわれますが、サプリメントによって高純度の栄養素を摂取できるようになった事で、栄養素の中には過剰に存在する事でそれまで知られていなかったリスクを生じる事もいわれるようになってきています。

 ビタミンB群は水溶性ビタミンである事から、体内に貯蔵する事ができず、利用されなかった分は排出されてしまう事から不足しないよう意識しておかなければならないビタミンと思えるのですが、そんなビタミンB群の中でビタミンB12は血液中の濃度とガンの発生率に比例関係が見られ、発ガンのリスクを高めている可能性が示唆されていました。

 ビタミンB12は別名「造血ビタミン」とも呼ばれ、葉酸と共に赤血球を作る働きを、担っています。不足すると造血作用が低下する事から貧血に陥るとされ、記憶力の低下や不眠、早期老化などの悪影響を及ぼす事も知られています。

 貧血の対策としてレバーが薦められる事がありますが、レバーにはビタミンB12が多い事も貧血対策に選ばれる理由の一つともなっています。他の食材としては貝類、海藻類、青魚等に多く含まれていて、食事が野菜中心に偏ると不足する可能性があると考えられます。

 デンマークで行われた研究では約10年の間に研究機関に登録されたデータのうち、ガンに罹患した事がない人を血液中のビタミンB12の濃度別に3つのグルーに分けて検討を行ったところ、濃度が上がるほどガンに罹患する例が多く観察され、血中濃度と発ガンに何らかの関連性があるのではと考えられています。

 しかし、追跡調査が長期に渡ると血中濃度差と発症率の有意義な差は見られなくなるとの事から、ビタミンB12が直接関与しているとはいえないという見方もする事ができます。慢性的な貧血の身としては、ビタミンB12を摂るべきか、摂らないべきか悩んでしまいそうな研究報告となっています。


 

第2314回 重くて硬くて危険な


 タングステンというと、電球がすぐに思い浮かぶのは古い感覚でしょうか。電球の中では極細のフィラメントが電気抵抗によって発熱し、光を発しています。そのままではすぐにフィラメントが燃え尽きてしまうので、電球内を真空にして酸素から遮断するだけでなく、フィラメントにも頑丈さが求められます。

 非常に頑丈な金属であるタングステンは、そのフィラメントの素材として最適とされていました。電球の中心部に細いタングステンの線がコイル状に巻かれていて、電球が点かなくなると軽く振ってみる事でフィラメントの断線を判断していた事が思い出されます。

 タングステンは融点が3380度と金属の中では最も高く、電気抵抗も比較的大きいというフィラメントに最適な特性を持つだけでなく、炭素を結合させた炭化タングステンは非常に硬度が高い事からさまざまな工業製品に用いられています。

 ドリルの刃や切削工具に用いられる事もあり、比重が金に近いという重い金属である事から、釣りの重りにも使われるとされますが、従来の鉛と比べると高価である事から普及は進まないのではとも思えます。

 放射線を遮蔽する力も高い事からX線を使う機器の部品や硬くて重いという性質を活かした貫通力を持つ砲弾、電子顕微鏡の光源、反物質生成実験の際の陽子と電子などを衝突させる的といった最先端の分野でも使われる半面、日本刀を研ぎ上げる際、刀身に硬い金属を押し付けて磨きを掛けるといった伝統分野においても活用されていて、最近ではアクセサリーの素材としても見掛ける機会が増えてきています。

 現代生活を陰で支え、欠かせない素材となっているタングステンですが、健康に関しては悪影響を及ぼす可能性がある事が新たな研究で示唆されています。

 タングステンは1781年にスウェーデンのシェーレによって灰重石から分離され、重い石を意味する「タングステン」の名前が与えられました。その2年後にはスペインのエルヤル兄弟によって木炭を使って還元されて純粋なタングステンが得られ、今日、元素記号として使われている「W」はその際に名付けられた「ウォルフラム」に由来しています。

 融点の高さや堅牢さから工業的な利用が盛んになるのは近年の事ですが、タングステンを使った製品の生産量はこの10年で2倍になったといわれるほど盛んに使われるようになっています。そうした利用量の増加に伴い、空気中に含まれる微細なタングステンの量も増加していて、尿検査を行うと尿中に含まれるタングステンの量がナノレベルで増えているとされます。

 気になるのは、尿中のタングステン量が尿1ミリリットルあたり1ナノグラム上がるごとに、脳卒中のリスクが1.66倍に高まる傾向があるとされる事で、19~49歳という比較的若い世代では2.17倍とさらに顕著に高まっていたとされます。

 タングステンが体内にある事で触媒のような効果を発揮して、酸化ストレスを引き起こしている事が原因ではとも分析されていますが、同じ酸化ストレスによって引き起こされる心臓病のリスクが高まったとする結果は得られていない事から、今のところ体内のタングステン量と脳卒中リスクの間に相関関係があるという可能性しか判っていませんが、思いの外、身近にある金属だけに詳細な解明を待ちたいと思ってしまいます。


第2313回 薄くなる訳


 初めて男性型の薄毛の原因について聞かされた際、男性ホルモンには体毛を太く育てる働きがあり、思春期以降の男性の体毛が濃くなるのは、その頃を境に男性ホルモンが盛んに分泌されるためで、そうした体毛の中で唯一頭髪だけは女性ホルモンが掌っている事から、旺盛な男性ホルモンによって女性ホルモンの働きが阻害され、男性型の薄毛が起こってしまうとされていました。

 その後、頭髪のみ女性ホルモンが掌るというのではなく、男性ホルモンが関わっていて、結晶化した男性ホルモンが毛細血管を詰まらせて髪を生み出す毛母細胞の働きを阻害する事や、髪が生え換わるサイクルの乱れなどの薄毛の原因に関するたくさんの説を聞かされたのですが、どれも最終的な根拠に乏しいのは、治療法が確立されない事からも明らかと思えています。

 そんな中、毛髪を太く成長させるはずの男性ホルモンが何故、薄毛の原因となってしまうのか、その詳細なメカニズムに関する研究結果が発表されていました。

 男性ホルモンには従来からいわれてきたような毛髪を太く成長させる働きがある事は確実とされるのですが、別な働きとして皮下脂肪を委縮させるという働きもある事が判ってきています。

 男性ホルモンが盛んに分泌される事で全身の皮下脂肪が委縮するのですが、特に皮下脂肪が少なく、皮膚も薄い頭皮では皮下脂肪が委縮した事により皮膚の弾力性が失われ、髪を育てる毛包細胞が表皮と骨の間に挟まれて圧迫を受けてしまいます。

 そのため毛包細胞は髪を育てるという働きを充分に発揮できなくなり、せっかく生えた髪が産毛化してしまう、育たずに抜けてしまうという薄毛が起こってしまいます。毛包細胞自体も正常な髪の育成が行えず、髪が細くなってきたという信号を送って髪を育てるための男性ホルモンの分泌を要請する事から、さらに皮下脂肪を委縮させてしまい、負のスパイラルにはまってしまうと考えられています。

 これまで頭皮の血行を促すものや男性ホルモンの働きを阻害するといった育毛法がありましたが、今回解明されたメカニズムを思うと、ある程度、理に適ったものである事が判ります。今回の研究を受けて、今後は頭皮の皮下脂肪を増やすといった新たな育毛法が登場するのではと考えています。


 

第2312回 灰と脂(2)



 以前、石鹸の生地にエキス分を練り込み、型で打ち出して石鹸を作っている石鹸工場から出る廃生地を使って高級品とされる透明石鹸を作った事があります。

 通常、石鹸の中では石鹸の結晶が形作られていて、それが光を通さず乱反射させる事で石鹸は白をはじめとした濁った色をしています。透明石鹸はアルコールや砂糖の力を借りてその結晶が形作られる事を阻害し、乱反射させずに光を通すようにする事で透明な外観を作り出しています。

 アルコールや砂糖といった余分な素材を使い、結晶化を阻害するという一手間多く掛かる事や、透明な外観そのものから受けるイメージなどから透明な石鹸は高級品とされるのですが、元の石鹸生地には大きな違いがない事を確認してしまうと、洗浄機能に大差がない事を理解してしまいます。

 通常の石鹸と透明石鹸ほど明確な外観的差異はありませんが、現在、石鹸については法的に定められた幾つかの種類が存在しています。

 普段、洗顔などに使っている石鹸は「化粧石鹸」と呼ばれる物で、分類上は「化粧品」の扱いになります。また、殺菌剤などの薬用成分が練り込まれた物は「薬用石鹸」と呼ばれ、こちらは「医薬部外品」に分類されます。

 化粧品と医薬部外品はそれぞれを製造する事が認定された工場でしか生産する事ができず、認定のない工場などで作られた石鹸は洗濯に用いる洗濯用石鹸か食器や食材などを洗う台所用石鹸のいずれかに分類され、分類上は洗顔には使用できない事になります。

 最近では石鹸を手作りして愛用したり、手作りした石鹸を販売したりという例も増え、そうした石鹸は法的な分類ではありませんが「雑貨石鹸」と呼ばれる事があります。手作りというオーガニックなイメージや素材の効能、物によっては美容成分が加えられているなど、思わず顔を洗いたくなるのですが、本来の分類上は洗濯や食器洗いに使うべき物という事には多少の違和感を覚えてしまいます。

 石鹸は油脂を脂肪酸とグリセリンに分解したというすでに消化された状態にあるため、環境中においても高い分解性を持っています。そのため環境に優しいといわれ、小動物の中には石鹸カスを好んで食べるものもいます。しかし、高い分解性はそれだけ多くの酸素を消費し、水の流れが淀んでいるような酸素の供給が限られた場所では、その場の酸素を一気に使い切り、酸欠の状態を作り出して環境改善の足を引いてしまう事があります。

 伝説によると、神様に捧げられた生贄から滴り落ちる脂から生じた石鹸。神様のお裾分けともいえる物でもあるので、上手に付き合う事が大切なのかもしれません。


 

第2311回 灰と脂(1)



 漢字とは便利なもので、一文字で何らかの意味を表していたりします。中には思いがけないものを示している事があり、そんな意外な意味で驚かせてくれた漢字の一つが「石鹸」の「鹸」の字で、それ自体でアルカリ性を示す文字となっています。そのため石鹸とは石のように固形化したアルカリ性の物という意味があり、アルカリ性である事が石鹸の本質のように思えます。

 石鹸は早くから利用されていて、伝説では古代ローマにおいて神殿があるサポーの丘で神に捧げられた生贄の動物を焼いた際に滴り落ちる脂が、薪の木灰の中に落ちて石のような塊りになり、その塊を含んだ灰で洗浄すると汚れをよく落とす事ができる事が知られるようになって石鹸が発見されたとされますが、それよりもさらに古い古代メソポタミアの粘土板に楔形文字で石鹸の製法が記されている事から、石鹸の英名の語源となったサポーの丘での発見談は、単なる伝説上の事といえます。

 サポーの丘が石鹸発祥の地ではないにしても、石鹸の発見についてはサポーの丘の伝説と似たようなものであったように思えます。経験的に灰を使う事で脂汚れを効果的に落とす事ができるという事は知られていて、灰を使おうとして偶然中に散在していた焼け残った脂が思いの外汚れを落としてくれたという経験は有史以前にも行われていた事が容易に想像できます。

 一般的な生活の中で水だけでは落としにくい汚れとして、油脂類の汚れがあります。油脂類の汚れは酸性を帯びている事から、アルカリ性で中和する事によって洗い流しやすい状態にする事ができます。洗浄に灰を使うという知恵はそうした性質を利用したものであり、灰自体が水と油を結び付ける繊維質の役割を果たす事も洗浄力を大きくしていると考える事ができます。

 それに対し古代の石鹸は熱せられて滴り落ちた脂が灰のアルカリ性と出会う事で脂肪酸とグリセリンに別れ、「鹸化」と呼ばれる化学反応を起こす事で水と油を結び付ける界面活性作用を持つようになり、大きな洗浄力を得ています。

 洗浄剤として重曹が人気となっていますが、重曹はアルカリ性によって汚れを中和したり、水に溶けにくい結晶が研磨剤として働く事に加え、油汚れそのものを鹸化して洗浄力に加えていると考える事ができます。

 有史以前からアルカリ性という性質を上手に利用してきた石鹸ですが、現代では中性や弱酸性の石鹸も登場し、アルカリ性の物と同じ洗浄力を発揮するために合成の界面活性剤が使われるなど、石鹸自体のイメージを悪くしています。漢字の意味に立ち返ってみると、中性や弱酸性の物はそもそも石鹸なのかとも思えてきます。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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