第2438回 撲滅と対処



 1980年、天然痘の撲滅宣言が行われ、一部の研究用サンプルを残して天然痘は地球上から姿を消しました。天然痘の撲滅は人類史上の輝かしい功績とも思えるのですが、残念な事に天然痘以降、細菌やウィルスなどによる感染症の撲滅例は見られていません。

 日本では外国を旅行中に感染し、死亡した例を除けば1956年に人が、1957年には猫が発症したのを最後に狂犬病は発生しておらず、日本国内においては狂犬病は撲滅できているようにも思えるのですが、狂犬病の撲滅は事実上不可能といわれています。

 狂犬病は発症した際の特異な症状から、非常に古くからその存在が知られ、狼男や悪魔憑きなどの超自然的な言い伝えの中には、少なからず狂犬病の影響が見られるともいわれます。

 紀元前3500年頃にはすでに知られていたとされる狂犬病ですが、それほど古くから知られていながら同じウィルス感染症である天然痘のように撲滅に至らず、むしろ撲滅は不可能とされる最大の理由は狂犬病が人獣共通感染症であるという点にあるとされます。

 天然痘の原因となる天然痘ウィルスは人にしか感染せず、天然痘は人獣共通感染症ではないために、エドワード・ジェンナーの手によって開発された天然痘ワクチンの種痘を普及させる事によってウィルスの伝播や拡散を防ぎ、ウィルスを孤立させていく事で根絶が図られています。

 それに対し狂犬病は人獣共通感染症であり、人以外の動物にも狂犬病ウィルスは感染する事ができるため、ワクチンによる封じ込めが有効に作用しないという事が考えられます。感染はすべての哺乳類に及ぶ事から、地球上のすべての哺乳類にワクチンを摂取させる事が困難であり、ネズミなども感染対象に含まれている事から、予期せぬところにウィルスは隠れていて感染拡大の時を覗っているという事ができます。

 狂犬病は感染している動物から噛まれるなどして感染してから、ウィルスは脳内へと移動して増殖し、症状が発症するまでに時間が掛かる事から、感染した段階で免疫血清とワクチンを投与する事で発症を未然に防ぐ事ができ、それが唯一の治療法とされてきました。

 脳内でウィルスが増殖し、症状が発症した場合はほぼ100%死亡するとされていて、発症後の治療も不可能と考えられてきましたが、2004年に発症後、生還するという奇跡的な治療例が報告され、少しずつ怖ろしい狂犬病の克服へと向けた動きが始まっているように思えます。

 全身の疲労感や嘔吐、視野狭窄、精神錯乱、運動失調といった脳の感染症が疑われる少女が病院を訪れ、症状は急激に悪化して唾液過多や左手のけいれんといった症状まで見られていました。両親の話では、ミサの最中に教会内に迷い込んできたコウモリを保護して外に逃がしてやろうとした際、混乱したコウモリに指を噛まれてしまったそうで、検査の結果、血液と髄液に狂犬病ウィルスの陽性反応が出ていました。

 すでに発症している事から治療法は存在しないと思われるのですが、担当した医師は狂犬病のウィルスが脳細胞を破壊したり、脳に炎症を起こさせたりするのではなく、脳からの指令を阻害する事で結果的に心臓や呼吸を止めてしまい死に至る事に着目し、狂犬病ウィルスから神経細胞を守る事を中心にした治療の展開を考えます。

 さまざまな文献を調べ、麻酔薬のケタミンに狂犬病ウィルスの阻止効果があるという動物実験の報告を発見し、患者にケタミンを投与して昏睡状態とした上で治療が行われました。抗ウィルス薬や鎮痛剤を使った結果、狂犬病からの生還という偉業に成功する事となっています。

 その後、6例の成功例が報告され、ミルウォーキー・プロトコルとして知られるようになりますが、医学論文としては報告されておらず、狂犬病治療のための最善の方法であるのかについての検証が行われているとされます。

 撲滅は不可能であっても、確たる治療法が確立されれば恐怖は半減されると思えます。狂牛病や鳥インフルエンザなど、何かと人獣共通感染症が話題になる事が多い昨今、一つでも多くの病気の脅威が取り除かれればと願ってしまいます。


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第2437回 月の海の秘密



 中国の人と話をしていて、月には天女があるという話を聞かされ、月にはうさぎのはずと思ってしまいます。月の表面にある黒い部分、月の海は見る角度で見え方が変わるために、世界中のさまざまな地域によって月に住んでいるものは異なっています。

 月の成り立ちについては諸説があるのですが、有力な説の一つとされる巨大な天体の衝突によるとするジャイアントインパクト説では、日本からうさぎに見える月の黒い部分は二段階に分けて形成された事になります。

 地球が今のような大きさになった頃、「ティア」と呼ばれる火星ほどもある巨大な天体が斜めに地球に衝突し、巨大な衝撃で地球とティアのマントル物質が飛散し、その一部が地球の周回軌道上に集積して月が形成されたとされます。

 当初は融けた溶岩の塊りだった月も次第に冷えて固まり、表面に多くの凹凸を持つの球体となります。現在、白く見えている高地の部分はこの時にできあがり、溶岩が固まる際に浮上して押し上げられる事によってできたと考えられています。

 その後、内部から溶岩が噴出し、低くなっている窪地に溜まって冷され、固まって黒く見えるうさぎの部分ができたとされます。溶岩の噴出には地球の重力が影響したのか、月の裏側にはほとんど黒い部分がなく、表側だけに偏在する形となっています。

 こうしてうさぎが月に誕生したのですが、イメージ的に回転しながら地球の周りを回っている感じがする月ですが、実は常にうさぎの面だけを地球に向けて回っています。

 2007年に日本の月探査機「かぐや」が打ち上げられ、月の表面の200億以上の点の赤外線調査を行っています。それによってうさぎの年齢が判る可能性があり、超巨大衝突によって溶けた経験がある事も裏付けられてきています。

 まだまだ月には謎の部分も残されていて、これから解明されて行く事になると思います。毎日見ていて、海の満ち引きなどさまざまな影響を受けている月ですが、知らない事が多いと思うと、どことなく神秘的に見えてきます。


第2436回 お茶の効能



 お茶が大好きで、茶筒を開けた際の茶葉の香りや、急須にお湯を注いだ際の立ち上る湯気の香りを楽しんだりしています。お茶と接していると、つい濃い香りや味を求めてしまい、少しずつ茶葉の量が増えていってお茶が濃くなっていき、気が付くと胃に不調が生じたりもしてしまい、お茶に含まれる茶カテキンの殺菌力の強力さを思ってしまいます。

 最近、茶カテキンは肝臓や筋肉中に含まれる脂肪をエネルギーとして消費しやすくする働きがあるとして、特定保健用食品に認定された事もあり、高濃度茶カテキンとしてダイエット用のサプリメントやペットボトル入りのお茶などに配合している製品を見掛けるようになってきています。

 ダイエット効果や殺菌作用に限らず茶カテキンには血圧の上昇抑制や血中コレステロール量の調整、血糖値の調整、抗酸化作用、老化の抑制、抗突然変異性、抗ガン作用、虫歯の予防、アレルギーの抑制などの働きがあるとされ、新たに認知症の発生抑制作用もいわれるようになってきたので、今後、さらに茶カテキンの人気は高まって行く事と思っています。

 そんな茶カテキンの利用法の一つに、お茶でうがいをする事によって風邪などの感染症を防ぐというものがあったのですが、先日、お茶のうがいにはそれほど効果がないという気になる研究結果が報告されていました。

 日本で行われた緑茶を使った研究では、15歳から17歳までの高校生を対象に半年以内にインフルエンザや免疫系統の疾患、心臓病に罹患した生徒、呼吸器や腎臓、肝臓に異常がある生徒を除いた757人をランダムに2つのグループに分け、片方を緑茶でうがいするグループ、もう片方が水道水でうがいをするグループに分けて90日に渡って経過を観察しています。

 一日3回、登校後、昼食後、放課後にうがいをするようにして、水道水グループには期間中、緑茶でうがいをする事を禁じています。その結果として緑茶グループでは全体の4.9%に当たる19人がインフルエンザを発症し、水道水グループでは6.9%の25人が発症しています。

 一見すると緑茶グループの発症率が低く、緑茶うがいによるインフルエンザの予防効果が発揮されているように思えますが、さまざまな要因を加味した上では統計学的に有意な差とはならないと評価されます。

 今回の研究を行ったチームは、以前、緑茶の抽出物を使って老人ホームの入居者を対象とした同様の実験を行っており、その際は緑茶うがいによる予防効果を確認しています。指示通りに3回のうがいを行わなかった生徒が全体の3割に上る事が確認されているので、完璧に実施されていれば少し違った結果になったかもしれない可能性を研究チームは示唆していますが、同様にペットボトルのお茶を急須で淹れるお茶と同一視してよいものなのかと、お茶好きとしては疑問を感じてしまいます。


第2435回 和食の仲間



 和食が世界遺産に登録という話題が出始めて以降、和食とはという議論が展開されるのを楽しく拝見しています。和食というと魚がタンパク源として多用され、根菜類などの野菜を多く摂る食事がイメージされ、日本生まれの固有の食文化に属するものと定義できるように思えるのですが、日本生まれの固有の食であればラーメンや肉食の雄、トンカツも含まれていて、ヘルシーなイメージから少し遠ざかってしまうようにも思えてきます。

 日本生まれの食文化の中でも洋食と呼ばれるカテゴリーは日本人の感覚からは、和食とは区別されるものなのですが、海外の人には日本食として同一視されるようにも思えます。そんな洋食の中にあって、代表格の一つともされながらトンカツは和食の仲間入りを密かに画策しているように感じられて、特異な存在のようにも受け止められています。

 コロッケやクリームシチュー、カレーライスといった洋食が独自の世界観を持って、海外の料理のような雰囲気を演出している事に対し、トンカツは多くの場合、定食となった際に茶碗に盛られたご飯や味噌汁、漬物がセットになっていて、調味料として和辛子が添えられる点も和食らしさを感じさせてくれます。

 今日でこそトンカツは濃厚なトンカツ専用のトンカツソースをかけて食べられていますが、誕生して間もなくは如何にも和を感じさせてくれる調味料で食べられていました。

 トンカツの誕生は明治時代の初頭と考えられ、明治5年(1872年)に仮名垣魯文による「西洋料理通」に「ホールコットレット」として登場したのが文献上、最初の記載とされています。その後、バターで炒め焼きにする調理方法や薄切り肉を使った「豚の肉フライ」などの記載が見られ、明治43年(1910年)に魚の切り身程度の厚さに切り分けた豚肉を使う、今日のスタイルのトンカツが登場しています。

 「豚肉のカツレツ」として記載されたレシピには、揚げ上がったトンカツを食べる際に三杯酢を使うと書かれていて、大正4年(1915年)に書かれた「ポークカツレツ」のレシピにも、搾った橙の果汁をかけて食べると記載されている事から、豚肉をフライにしたという脂濃さをさっぱりと食べるために、和食の調味料が使われていた事が判ります。

 刻んだキャベツを付け合わせにしてソースをかけて食べるという今日のスタイルを採り入れたのは、豚肉よりも牛肉を使った「牛肉のカツレツ」の方が先で、大正11年(1922年)の事となっており、文献上、トンカツにキャベツの千切りを添えるという記載は、それから4年後の事となっています。

 三杯酢を使うというかつてのスタイルがそのまま伝統的に継承されてきていれば、トンカツ定食の和食らしさはさらに高まるように思えるのですが、フライという調理スタイル自体が洋食そのものであり、どこまでいっても和食である事には微妙なものを感じ続ける事になるのかと考えてしまいます。


第2434回 パン粉の文化



 阿蘇の内牧は全国的に知られた温泉地で、今なお活動を続ける活火山、阿蘇の恵みともいえる豊かないで湯を目当てに県外からもたくさんの観光客が訪れています。そんな内牧の一角にから揚げの専門店があり、その店のから揚げが評判となっていた事から同じようなから揚げを扱う店ができ、内牧は今日のようなから揚げの戦国時代といわれる遥か以前からから揚げを扱う店が多いという土地柄となっていました。

 街中にから揚げを扱う店が多い温泉地というだけならそれほど珍しくもない感じだと思えるのですが、内牧のから揚げにはパン粉を使った衣が着けてある事から、事情を知らない県外からの観光客には熊本固有の食文化として、鶏のから揚げにはパン粉を使うという誤解を受ける事が多々あると聞かされた事があります。

 内牧のから揚げにパン粉が使われている理由は、元祖となるお婆さんがいて、そのお婆さんが揚げて売っていたから揚げが人気となっていた事から、近所で真似をする店ができ、徐々に増えていきながら広範囲には伝播しなかった事から、地域の限定的な食文化となっています。

 最初にパン粉を使ったから揚げを作り、原点となったお婆さんのお孫さんと話をした事があるのですが、何故お婆さんがから揚げにパン粉を使う事になったのかを聞く事はできず、未だにパン粉着きから揚げの誕生秘話は謎のままとなっています。私的にはパン粉が使われた段階でから揚げではなくチキンカツなのですが...。

 パン粉はヨーロッパを中心とした地域で古くなり、固くなってしまったパンの利用法の一つとして考案されています。日本で見られる食パンを使った生パン粉は日本で誕生した固有のもので、トンカツをはじめとする揚げ物によく合った事から普及が進み、主流となっています。

 生パン粉を使うメリットはフライの衣とする際、柔らかい事から素材の形状によく馴染み、揚げ始めると含まれている水分が素早く揚げ油と入れ替わって細かい気泡となりながらサクサクとした軽い食感となる事が上げられ、それが日本人の好みに合うものとなっています。

 生パン粉は保存性が低い事が最大の欠点となる事から、生パン粉を乾燥させて水分を除く事で保存性が高められ、今日見掛けるような粗目の粒の大きなパン粉ができあがり、日本ではパン粉といえば乾燥させた生パン粉を指すようになっています。

 そんな日本式のパン粉ですが、欧米では伝統的な粒の小さなパン粉に対し、粒が大きなパン粉の事を日本スタイルのパン粉と呼び、「Panko」の名前で流通する例も見られています。

 そんな日本スタイルのパン粉を使った内牧スタイルのから揚げ。下味が付けられている事から味的にはから揚げと感じられるのですが、見た目は丸みのある一口チキンカツ。微妙なものを感じながら、地域限定の食文化と思えてきます。


第2433回 毒の蜘蛛



 学生の頃、スペイン語の先生からメキシコに住んでいた頃の話を聞かせていただき、その中で夜は非常に静かで何も聞こえない中、カサカサという音が家の外から聞こえてきて、音を立てているものを確認すると大量のタランチュラが家を取り囲んでいたという身の毛もよだつようなパニック映画紛いの話を聞かせていただきました。

 手のひらよりも大きな黒い毛に覆われた禍々しい姿の蜘蛛、しかも猛毒を持つ怖ろしいものとしてイメージする事ができたのですが、後にタランチュラとは現実の存在ではない事を知りました。

 タランチュラはヨーロッパに伝わる伝説の毒蜘蛛で、名前の由来はイタリアの港町、タラントにあるとされます。タラントには古くから毒蜘蛛の伝説が伝えられており、タラントの毒蜘蛛に噛まれてしまうと毒の作用によってタランティズムと呼ばれる症状を発症するとされます。

 タランティズムを発症した患者を死なせないためには、タランテラという激しい踊りを一晩中踊り続ける必要があり、毒に冒されフラフラになりながらも朝まで踊り続ける事ができれば、毒が抜けて生き残る事ができるとされ、南イタリアでは16世紀から17世紀に掛けてタランティズムの発祥が多く報告されています。

 タラントの近郊には大型のコモリグモの一種であるタランチュラコモリグモが棲息している事から、コモリグモの大きな姿がタランチュラの伝説に結び付いたのかもしれないとも思えます。

 実際のコモリグモにはそれほどの毒性はないそうで、同じ地域内に棲息する人に対しても危険なレベルの毒を持つ「ジュウサンボシゴケグモ」が毒蜘蛛の正体で、コモリグモはその姿のために毒を持つと誤認されていたと考える事ができます。

 タランチュラの伝説を知るヨーロッパ人が新大陸へと渡り、南米の熱帯雨林の中で怖ろしげな姿の大きな蜘蛛を見掛けた際、タランチュラと呼んだ事から、多くの大型の蜘蛛が毒の有無にも関わらずタランチュラ呼ばわりされています。

 タランチュラと呼ばれたコモリグモの毒性を確認するために、昆虫学者のファーブルはコモリグモにひよこを噛ませてみて、ひよこが死んでしまったという記録を残していますが、ひよこは噛まれた事により歩けなくなってエサを食べる事ができず、餓死してしまっているので、厳密には毒によって死亡したのではないといえます。

 毒に致死性はない事が判ったコモリグモですが、噛まれた事によって免疫の極端な反応によって起こるアナフラクシーショック引き起こしてしまうと、命に関わる事もあるので君子危うきに近寄らずというのが一番のように思えます。毒性は低くても、あの姿で家を取り囲むというのは、大変な恐怖を感じてしまいます。


第2432回 葛と水


 今年も暖かくなってきた事もあり、庭の雑草が勢い付いてきています。そんな雑草たちの中で少し遅れて芽吹いてきて、圧倒的な勢いで毎年庭を席巻してくれる存在が「葛」となっています。

 その強力な生命力と旺盛な繁殖力は他の雑草を圧倒的に凌駕していて、せっかく植えた庭木も葛によって覆われて日光を奪われ、枯れさせられてしまったものが多数存在し、秋を迎えて紫の花が咲いているのを見掛けると、何ともいえない敗北感を味わっています。

 そのような日常の繰り返しのため、葛には良いイメージが全然ないのですが、葛の根から採れる葛粉となると話は別で、原料の採取から加工までを全て国内で行った国産の葛粉となると、とんでもない高級食材と思えてきます。

 葛粉を使う代表例としては和食のあんかけやごま豆腐などが思い浮かんでくるのですが、最も目に見える形での利用例というとくずきりか葛まんじゅうではないかと思えてきます。

 透明感あふれる葛粉の生地に包まれた餡という葛まんじゅうは、湿度が高く厳しい暑さの日本の夏にひと時の涼をもたらしてくれる和菓子なのですが、最近では葛粉以外を使った葛まんじゅうも見られ、デンプンを熱で硬化させた透明な生地を持つ和菓子の総称という感じに、葛まんじゅうの名は形骸化してしまっているようにも思えます。

 昨今、レストランメニューを中心とした材料の偽装表示が問題となっていましたが、葛まんじゅうは大丈夫だろうかと心配になったりもします。

 そんな葛まんじゅうと良く似た存在として、水まんじゅうがあります。すでにどちらの呼び名も形骸化しているので、葛まんじゅうに水まんじゅうが含まれたり、水まんじゅうに葛まんじゅうが含まれたりという解説を見る事もあるのですが、概念的に含まれてしまう事はあっても似て非なる物ではないかとも思えます。

 よくいわれるところでは、葛まんじゅうは葛粉のみで作られ、水まんじゅうは葛粉にわらびの根から採られる蕨粉を混ぜて作られているという違いに触れられています。

 今日では、葛粉も蕨粉も高価になってしまったので、それ以外の原料が多く使われるようになり、すでに両者の違いは失われてしまっているという意見もありますが、売られている両者を見ていると、明確な違いが存在する事が判ってきます。

 売られている両者の姿を見ると、どちらもまんじゅうの名に相応しく丸いドーム型をしている物がほとんどなのですが、生地の部分の透明感に違いがある事に気付きます。葛まんじゅうは透明感が強く、あくまでも透き通った生地が餡を包んでいますが、水まんじゅうは乳白色で透明とはいえない感じの生地が餡を包んでいます。

 また、生地に包まれた餡の量にも違いがあり、薄い生地に多量の餡が包まれている葛まんじゅうに対し水まんじゅうでは生地の比率が高く、生地の食感も充分に堪能できるようになっています。

 おそらく葛まんじゅうと水まんじゅうの出発点では、葛粉のみで作るか、葛粉に蕨粉を配合するかという違いが存在し、葛粉のみで作ると透明感が強くなる事や、蕨粉を配合する事で食感が面白く、水菓子としても愉しむ事ができるという特徴が餡の比率の違いを生み、今日にスタイルのみが継承されているのかもしれません。


 

第2431回 外部免疫?



 いつも風邪をひきそうになると、独特の落ち着かない不安な気分になり、何故、そのように神経質になっているのだろうと思っていると数日後に発症してしまいます。それが判っているので、特有の落ち着かない気分がしてきたら先手を打ってグミキャンディーを大量に食べるようにしています。

 グミキャンディーはゼラチンが主成分であり、コラーゲンの塊りともいえる事から、コラーゲンが大好物で与えられると活性が大きく高まるとされる免疫細胞、マクロファージを元気にして風邪の発祥を免れようという作戦です。

 私が行っているのは単なる民間療法レベルのものですが、マクロファージをはじめとする免疫細胞を活性化してガンをはじめとする病気を治療しようとする考え方は免疫療法と呼ばれ、本来備わっている自己治癒力を活用する事から、体亜への負担も少ない治療法として注目された事もありました。

 残念な事に有効な手法が確立されないままとなっていた免疫療法ですが、新たな手法が考案され、ガン治療を大きく前進させる事が期待されています。

 新たな手法は地元の熊本大学で研究されていたもので、新しい点としてはiPS細胞を使ってマクロファージを大量に作成する事で、作成する人工マクロファージには遺伝子を組み込む事で抗ガン剤のインターフェロンを分泌する力が与えられています。

 ガン細胞は一定の大きさに成長すると免疫を抑制する力を獲得し、その事がこれまで免疫療法がうまく作用しない原因となっていたのですが、マクロファージにはガン細胞に集まる習性があり、その習性を利用して大量の人工マクロファージをガン細胞の回りに集め、マクロファージの免疫としての働きが抑制されてしまっても抗ガン剤を分泌する事でガン細胞を攻撃する事が可能となっています。

 すでに実験では良い成果が得られており、2016年の臨床試験開始を目処に準備が進められているとの事で、新たなガン治療の登場に期待が高まってきます。いつもお世話になっているマクロファージが絡んでいる事もあり、応援に力が入ってしまいます。


第2430回 トマトの秘密

 先日、身近な物を使った科学実験のような事を行う番組を見ていると、圧縮空気をを使って野菜を超高速で射出し、どの野菜が縦に固定されたまな板を貫通する事ができるかという実験を行っていました。

 ジャガイモなどの如何にも硬そうな野菜たちがまな板にわずかに傷を付ける程度しかできなかった事に対し、意外にも真っ赤に熟れた柔らかいトマトが見事にまな板を貫通して、視聴者を驚かせるという結果になっていました。

 完熟したトマトはとても柔らかく、その柔らかさを利用して包丁の切れ味を示す場面に使われたりもします。少しでも切れ味が劣る包丁だとトマトの表面の皮を切る前に中の身を潰してしまい、切り口がとても汚くなってしまいます。

 そうならないようにトマトを切る際は、あらかじめ包丁の角を使って皮に切り込みを入れ、そこから包丁を滑らせるようにして切る事にしています。

 そんな柔らかいトマトも熟す前の青い状態の時は硬く、多少切れ味の落ちた包丁でもザクザクと切る事ができます。普段、熟したから柔らかくなったとしてあまり深く考えていなかったトマトの変化は、実は詳細なメカニズムが解明されてはおらず、謎のままとなっていました。

 これまでトマトが熟すと柔らかくなる事については、細胞壁が深く関わっていると考えられていて、成熟に伴って細胞壁の中の硬さに繋がる成分が分解され、細胞壁その物が柔らかくなっていくという仮説が考えられていました。

 最新の研究では、トマトの硬さの変化には「架橋性多糖」と呼ばれる物質が関わっている事が判り、その名の通り分子と分子の間に橋を架ける働きを持つ架橋性多糖がトマトの細胞壁を構成する分子を繋ぎ合せ、硬い状態を作り出していた物が、成長によって橋を架けかえる分子が活性化し、柔らかい状態へと変化している事が判ってきました。

 植物の細胞を包み、形作っている細胞壁は常に一定という訳ではなく、成長に応じて分子レベルで激しく変化し続けていた事が判ったのですが、どちらかというとまな板を撃ち抜くトマトの方が衝撃的で、そこまでの破壊力を持つ理由は豊富な水分にあるとの事でした。

 柔らかさや瑞々しさはトマトの特徴ですが、意外なところで意外な研究が行われているものだと驚かされてしまいます。


第2429回 磁石と流れ



 歳がばれてしまいそうなので、あまり大きな声ではいえないのですが、子供の頃、小さな磁石の小片を使って血行を促進し、筋肉の凝りを癒す貼り薬のCMで、その会社の会長さんが登場するものが大好きでした。たった一言、商品名をいうだけなのですが、毎回、思わず笑ってしまっていた事が思い出されます。

 血液には鉄分が含まれる事から、磁力線から何らかの影響を受ける事や、フレミングの左手の法則のように磁力や電流には方向性が存在する事を考えると、強力な磁力によって血行が促進されるイメージは持てるのですが、鉄分を多く含む赤血球が磁力線に集まってしまって血流が悪くならないか、どのようなメカニズムで血行がよくなるのかといった疑問は生じてしまいます。

 同じような事を考える人も多かったのか、長い間、磁石による血行促進は科学的な裏付けが存在しない状態の中、疑似科学とされたり、思い込みによるプラセボ効果であるといった見方もされながら、真相の究明が待たれてきました。

 磁力と血行の関連性が長い間不明だった理由の一つに、磁力を対象として真相の究明に当たる分野が存在しなかったという事があり、磁力と物質や生命の関連を研究する分野、磁場科学の成立は21世紀になっての事となっています。

 新しい学問である磁場科学では、これまで磁場には反応せず、影響を受けないと考えられてきたタンパク質などを分子レベルで研究し、高分子の物質であっても磁場の影響をどのように受けているのかなども研究されています。

 そうした研究の一環として、強力な磁場に1分間ほど血液をさらすと、血液の粘度が30%程低下し、磁場を除去しても2時間くらいは粘度が下がった状態が続き、その後、血液は元の粘度に戻る事が判っています。

 その現象は繰り返し起こる事が確認されているので、体の一部に強力な磁石を貼っておく事で、血管を通って血液が磁力線を受けて粘度が下がり、血行が促進されていたという事が判ってきます。

 磁力線を当てる事で、それまでバラバラの方向を向いている状態だった赤血球の向きが整い、流れやすい状態になるためとされ、磁石による血行促進が証明された事で思わず会長におめでとうといいたくなります。

 金属のクリップをたくさん磁石にくっつけると、磁性を帯びて長いひも状に繋がる事がありますが、強力な磁力線を受けた赤血球でも同じ事が観察され、私のもう一つの疑問も解消される事となりました。

 CMを見て笑っていた当時、小粒でもかなり強力な磁石が使われている事が宣伝されていましたが、今では比べものにならないほど強力なネオシム磁石も売られています。どのくらいの強さの磁石がもっとも健康には良いのか、今度は新たな疑問が生じてきました。


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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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