第2459回 修復の停止法
染色体の末端には「テロメア」と呼ばれる部位があり、細胞分裂を行う際に端がわずかに切れてしまい、本来の長さが失われていきます。テロメアは染色体が2重螺旋構造を成す際の結合部位であるため、一定以上の長さが失われると分裂した後、2重螺旋構造を確立できなくなる事から細胞は分裂する事ができなくなり、寿命を迎えるといわれています。
ガン細胞や生殖細胞は短くなったテロメアを修復する能力を持っているので、細胞分裂によってテロメアが短くなってしまっても再生する事で無限ともいわれる細胞分裂を行う事が可能となっています。
かつてテロメアの仕組みとテロメアを修復する酵素、テロメラーゼが発見された際、テロメラーゼを使って短くなったテロメアを修復すれば不老不死が可能になるのではと期待された事がありました。
しかし、生命はそれほど単純なものではなく、テロメラーゼを使ってテロメアの修復を行おうとすると、テロメラーゼは破損して切れてしまった染色体の端にも新たなテロメアを作ってしまう事から、不完全な遺伝情報しか持たない切れた染色体が稼動してしまう事となり、ガン化するリスクを高めてしまうという結果に繋がっていました。
テロメラーゼによるテロメアの修復にはさらに謎の部分があり、修復を行ってテロメアが元の長さに戻った後、どの様にしてテロメラーゼは修復を終了し、元よりも長いテロメアにしてしまわないのかという事も謎となっていました。せっかくなので前よりも長めに修復しておけば、それだけたくさんの回数の細胞分裂が行える事になります。
先日、テロメラーゼが働く酵母菌の研究によって、テロメラーゼがテロメアの長さを一定以上にしないメカニズムが解明されていました。酵母菌の中ではテロメラーゼが働いて元の長さになると、SUMOと呼ばれるタンパク質が別のタンパク質と結合し、テロメラーゼを弾き飛ばす事で修復を強制終了させていた事が観察されています。
酵母菌と人のテロメアはよく似ているといわれ、今回発見された仕組みは人にも当てはまる可能性が高いとされています。テロメラーゼを上手に使って健全な細胞のテロメアを修復し、老化を防ぐ事はまだ先の事かもしれませんが、テロメラーゼのブレーキが判れば、無限にテロメアを修復し続けるガン細胞の増殖にもストップが掛けられる可能性があり、今後を大いに期待したいと思ってしまいます。
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