第2482回 味覚の正体?



 食べ物は五感の全てを使って味わいなさい。食の世界の奥深さを感じさせてくれる言葉で、料理に向き合った際の季節感や盛り付けの美しさを感じる視覚、沸き立つ音や焼ける際の音、噛み砕く際の食感を感じる聴覚、漂ってきたり口に運ぶ際の香りを感じる嗅覚、口に含んだ際の味覚、料理に触れたり口に運ぶ際の触覚など、感性の全てを使って美味しさを感じ取るのですが、意外にも複雑な感性の中で最も重要となっているのは嗅覚で、直截的に味を感じていると思われている味覚は、食べ物の味を決める要因としては20%程度しか作用していないといわれます。

 簡単な実験でそれを確認する事ができ、個性的で濃厚な味を持つカレーも鼻を摘まんで嗅覚が働かないようにして食べると、何を食べているのか判りにくくなってしまいます。

 もっと顕著な実験としては、嗅覚が働かない状態で同じような大きさ、形に切り分けたリンゴとタマネギを食べ比べてみても違いが感じられず、嗅覚が働くようになると味が戻ってきたような感覚に捉われ、嗅覚が味の感じからに大きな影響を与えている事が判ります。

 味の感じ方には嗅覚が重要とはいっても、食べ物を前に鼻から吸い込んでいる香りはそれほど大きく影響はしておらず、食べ物を飲み込む際に喉から鼻へと抜ける空気に含まれる香りが大きく作用しているとされます。

 喉から鼻へとにおいを運ぶ空気の流れは、鼻へと抜けるという意味からレトロネイザルと呼ばれるそうですが、風邪をひくとレトロネイザルが弱まる事から味に感じ方が弱まってしまい、健康な時とは違った味に感じてしまう事になります。

 以前、ミルクとチェリーとマスカットを一緒に噛むとイチゴになるという不思議な歌を使った駄菓子のコマーシャルがあったのですが、どのような化学変化を起こさせているのだろうと思うと、レトロネイザルを使って三つの食材の香りを混ぜてイチゴの香りを演出し、味を感じさせていた事が判ります。

 味の感じ方のほとんどは嗅覚が占めている事は、さまざまな実験で確認する事はでき、理解できるのですが、これからも料理は五感の全てを使って味わっていかなければと思っています。


 
スポンサーサイト

第2481回 コーンと肥満(2)



 デンプンはぶどう糖がたくさん連なった形で構成されている事から、αアミラーゼという分解酵素を加えて加水分解すると、デンプンからぶどう糖を得る事ができます。液化と呼ばれる工程で得られたぶどう糖は、グルコアミラーゼという酵素によって糖化の工程が行われてさらに細かい状態になり、グルコースイソメラーゼによって異性化が行われて果糖へと分解されていきます。

 そうして得られる異性化糖のうち果糖の比率が高い物が果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖の比率が高い物がぶどう糖果糖液糖と呼ばれています。同じ液糖の中に共存している事や素は同じデンプンである事などから、似たような物と思えてくるのですが、体内での動きをみていると両者は全く別の経路を辿る事が判ります。

 ぶどう糖は体内に入ると小腸から吸収されて血液中に入り、全身を巡りながら細胞へ運ばれてエネルギーとして利用され、使われなかったぶどう糖は中性脂肪として蓄積されて行きます。

 それに対し果糖はほとんどが肝臓に運ばれて代謝される事から、ぶどう糖と比べて血糖値を上げる事がなく、肝臓で中性脂肪に変換されて蓄積されていきます。果糖の血糖値を上げにくいという性質は、摂取後の満腹感にも影響していて、血糖値が上がらない事で満腹感を感じさせて食欲を抑える物質の分泌に繋がらず、過食に繋がるともいわれています。

 果糖は果物や野菜など自然の物に含まれ、古くから人は果糖に接してきています。しかし、果物や野菜には食物繊維が多く含まれていて、果糖の吸収を緩やかにしていた事や、果糖を代謝するためのビタミンやミネラルも多く含まれています。

 コーンシロップとして摂取する事で果物や野菜に含まれる天然の果糖よりも遥かに多い量の果糖を摂取し、吸収を緩やかにする成分や代謝を助ける栄養素の不在も果糖の弊害を大きくする事が考えられ、本来、無害であった果糖を有害なものに変えてしまったようにも思えます。

 アメリカではコーンシロップの摂取が肥満や生活習慣病を引き起こすとして、コーンシロップの使用に規制を求める動きも見られています。同じような事はトランス脂肪酸の際も見られていて、アメリカではトランス脂肪酸の使用に規制が設けられ、日本ではそれほど摂取していないとして規制は設けられていません。コーンシロップも同じような状態なのですが、どのような事になるのか注意深く観察したいと思っています。


第2480回 コーンと肥満(1)



、「果糖ぶどう糖液糖」と「ぶどう糖果糖液糖」、あせて並べてみると、どちらかが正しく、どちらかが間違いのようで、どちらも見覚えがあるようにも思えてきます。実はどちらも正しく、天然由来の甘味料として身近なところで使われたりもしています。

 果糖ぶどう糖液糖もぶどう糖果糖液糖も「異性化糖」と呼ばれ、デンプンからぶどう糖を作り、ぶどう糖を果糖に分解する異性化呼ばれる工程を経て作られています。砂糖よりも安価であり、液状で使いやすい事から多くの食品に甘味料として使われているのですが、ぶどう糖を分解して得られた果糖がぶどう糖よりも多いのか、ぶどう糖の方が果糖よりも多く含まれているのかで果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖と呼び名が変わってしまいます。

 ぶどう糖よりも果糖の方が甘さが強いのですが、果糖は温度によって甘さが変化し、高温ではぶどう糖の甘さを下回ってしまう事から、冷たく冷やして愛用する清涼飲料やアイスクリームなどには果糖ぶどう糖液糖、常温や温度に関係なく愛用される物、もしくは高い温度で愛用される物にはぶどう糖果糖液糖が使われるという傾向があります。

 日本では第二次世界大戦後の食糧難を脱するために芋類の栽培が行われ、輸入に頼っていた砂糖に代わる甘味の調達という事が研究され、芋類から得られるデンプンを使った糖分、異性化糖が作られるようになっています。

 アメリカでは広大な畑で作られるトウモロコシ、特にデンプンが多いデント種のトウモロコシから得られるデンプン、コーンスターチを使って異性化糖が造られ、その原料や質感、性質などからコーンシロップと呼ばれて、大量消費される清涼飲料などを支えています。

 アメリカにおけるコーンシロップの製造技術は1970年代に日本から伝えられたものですが、トウモロコシの一大生産国であった事も手伝い、一気に普及してアメリカに安い糖分を供給する事に繋がり、アメリカ人の食文化に大きな変化をもたらしたともいわれます。

 以前、アメリカのファストフード店で食事をしていて、後から入ってきた少年が日本でも見られるようなセット物を注文し、ハンバーガーとポテト、日本のLサイズよりも遥かに大きな空の紙コップを受け取り、店内の機械を操作して好みの清涼飲料を好きなだけ飲んでいる事が印象に残ったのですが、そうした安価な清涼飲料を提供できる背景には安価なコーンシロップがあったという事ができます。

 アメリカでは供給地であったキューバに革命が起こって以降、砂糖の不足に悩まされていました。デンプンから糖分を作る異性化糖の技術は砂糖の不足を補うものであり、農家に大量の助成金を交付しながらトウモロコシの増産を後押しし、トウモロコシの安定的な大量供給を可能にしてコーンシロップの普及が一気に進んでいます。

 コーンシロップはさまざまな加工食品に使われ、アメリカの豊かな食文化の発展に寄与したといわれる反面、肥満と生活習慣病という悲劇ももたらしてしまったともいわれます。豊かさ行き過ぎた先にあるもの、コーンシロップはそうした言葉を思い起こさせてくれます。


第2479回 雷の季節に



 我家の猫は、その日の気温によって快適な場所が変わるらしく、家の中に数カ所のベッドをキープしています。その日は私がパソコンに向かう隣の椅子らしく、私の横に来て丸くなって寝ていました。

 時折、私が立てる物音で目を覚ましたり、寝返りや伸びをしながら寝ている姿を眺めていると、それだけで幸せな気分になってきて、思わず撫でてやろうと手が伸びそうになるのですが、せっかく寝ているのだからと眺めるだけにしていると幸せな時間はそれほど長くは続かないのか、遠くで雷鳴が聞こえ始め、雷が苦手な猫は何処かへ逃げて行ってしまいました。

 朝から大気の状態が不安定という事で、晴れ間が出たり、雨が降ったりと賑やかな天気で、今度は雷かと思っていたのですが、南阿蘇は高地という事もあり、あまり呑気に油断してはいられない事も考えてしまいます。

 机の隅に置いたインバーター式のスタンドは落雷の際の電磁波に反応するらしく、比較的家の近くに落雷があると勝手に電源が入ってしまいます。突然、電源が入って灯りが点き、何事と思っていると遅れて大きな音と地響きがしてくるのですが、以前、帰宅するとそのスタンドが点いていて、猫の姿が家中を探しても見当たらないので、一番の避難場所としている机の裏を見ると、そこに小さくなって座っていた事があります。

 一人、取り残されて心細い上に、地響きを伴う大きな雷鳴が怖かったのか、それ以来、雷が鳴りはじめるとすぐに避難するようになっていて、私もその姿を見ると、「大丈夫だよ」と声を掛けながら家電製品のコンセントを抜いて回ります。

 雷に関する研究が進むにつれて雷への対処法も変化してきていて、以前は常識的に考えられていた事が間違いであるという例も多くなってきています。何もない平野で雷に遭遇した場合、できるだけ姿勢を低くするために地面に伏せるとされていましたが、落ちた雷は地面に沿って流れる事から、地面に伏せていると大きなダメージを負ってしまう事となります。

 傘は金属部品を使っていて、高い位置に掲げる事から危険とされ、合羽などの雨具は絶縁性があるので安全という声もありましたが、雷の大きな力は簡単に合羽程度の厚さの絶縁体でも突き抜けてしまうので、ほとんど保護作用はないといわれます。

 また、コンクリートの壁も危険とされ、中に入れられている鉄筋に沿って電気が流れたり、落雷によって生じた電磁波によって鉄筋や針金、電線などに電気が発生する事もあるので、コンクリートは絶縁体であっても壁には近付かない方が安全とされています。同じように水回りも危険とされ、水道管を伝って電気が流れる事があるので、雷が近付いてきたら水回りとは距離を置いておいた方が良いともいわれます。

 数年前の落雷では、電磁波によって生じた高い電圧の電気が流入して、普段使っていない家電製品が壊されてしまい、使おうとして被害に気付くという事が相次いで時と共に被害の大きさを実感させられる事となりました。大自然相手の事でもあり、防ぐという事は容易ではない事もあるのですが、ひたすら何事もなく終わる事を祈り続けるのみという点は、昔も今も、猫も人も変わらないように思えてきます。


 

第2478回 要?不要?(3)



 グルテンフリーという食品が多く出回るようになって、意外なほど広範囲にグルテンが使われている事に気付きます。一番意外な用途だったのは、小麦の価格が世界的に高騰した際、ダンボールの価格が値上げされていて、理由を聞くとダンボールを作る際、ボール紙を貼り付ける糊として小麦のグルテンが使われていて、その糊が高騰しているという事でした。

 それだけ広範囲に使われ、日常生活にも深く根差しているグルテンですが、あえてグルテンフリーの商品が出回るようになってくると食べるべきか、食べないべきか迷ってきてしまいます。

 グルテンを食べない理由の一つとしてダイエットへの悪影響がいわれ、グルテンを摂らない食生活を実践した事によって比較的短期間で減量に成功したという例が報告されています。

 そうした事例の多くを確認して見ると、グルテンのみを摂らなくなったというよりグルテンを含む小麦を摂らない事が実践されていて、グルテンを排除して減量に成功したというより低炭水化物ダイエットを行っていたという方が的確であり、グルテンが過体重に繋がっていたとは思えなくなります。

 そんな中、グルテンを摂るべきではない理由として、グルテンの依存性がいわれるようになってきています。グルテンを摂る事によって食欲が増幅され、さらに多くのグルテンを求めて食欲が暴走し、その結果、日常的な過食が続いて肥満や生活習慣病に繋がるといいます。

 グルテンの依存性について言及しているサイトなどによると、グルテンを摂取すると消化の過程でペプチドが生じ、その一部が脳内に入り込んで受容体と結合し、麻薬を摂取した際と同じ状態になる事で依存性が生じるそうなのですが、パン中毒、うどん中毒といった話は聞いた事がなく、依存性の情報を聞いて自らにも該当する事を意識し、すぐにグルテンフリーを実践してみたという報告には依存性も禁断症状の存在も感じられず、報告者自身がその存在を否定して見せているようにも思えます。

 グルテンはタンパク質である事から、消化される際はアミノ酸かそれが幾つか連なったペプチドの状態にまで分解されるのですが、どのようなペプチドが脳内で作用するのかの特定はなく、その事を裏付けるような学術研究の存在も聞いた事がなく、根拠に乏しいようにも思えてきます。

 砂糖には依存性がある事がいわれるようになってきているので、小麦製品のパンやケーキ、クッキーなどは砂糖が依存性を持たせている可能性も考えられ、グルテンが重要な美味しさの要素となるうどんや、グルテンの塊りともいえる麩に対する依存性や禁断症状、食欲の異常な増進がいわれない事からもグルテン中毒の存在は疑わしさを覚えています。

 小麦粉は血糖値を高めるというGI値が高いとされ、砂糖に匹敵するほどとされます。小麦粉のGI値を高めているのはグルテンを形成する素となるグリアジンにあるという意見もあり、グルテンを摂るべきか摂らないべきか、相変わらず悩ましく思えています。


第2477回 要?不要?(2)



 日本では炭水化物の摂取を控え、血糖値の急激な上昇を抑えて脂肪細胞を成長させない低炭水化物ダイエットが主流となりつつあります。日本に先駆け、低炭水化物ダイエットが流行していたのはアメリカで、そのアメリカにおいてグルテンフリーダイエットが流行している事から、やがて日本でもグルテンフリーがダイエットの主流となってくる事が考えられます。

 すでにグルテンを日常的に摂取する事に警鐘を鳴らしたり、グルテンフリーにする事で健康を取り戻す事ができるとした記載を掲載している記事も見られ、グルテンを摂取する事は健康を損なってしまう可能性があるような印象も受けてしまいます。

 そうした記事の多くには、グルテンの弊害としてグルテンを代謝できないセリアック病に言及しているものが見られ、セリアック病の症例を持ち出す事で、健康な人でもグルテンによって同じような症状を引き起こしたり、グルテンを摂取する事でセリアック病になってしまうような不安を煽るものも存在します。

 セリアック病はグルテンに対する免疫反応によって引き起こされる自己免疫疾患で、グルテンを摂取する事で自己の免疫が栄養を吸収する小腸の上皮細胞を攻撃し、炎症を起こすなどの症状が見られ、グルテンを摂取しない事が最大の予防法となっています。

 日本では人口の0.7%程度の人が、欧米では1%の人がセリアック病と診断されるそうですが、逆に99%の人はグルテンを摂取しても免疫疾患を起こす事はないという事もできます。実際、医師の間ではセリアック病ではない人がグルテンフリーにするメリットは何もないという意見もあります。

 グルテンを含まないグルテンフリーの食べ物が一つの市場を形成し、健康食品やオーガニック食品の売り場のような特殊な付加価値商品の売り場だけでなく、普通にスーパーでも購入する事ができるようになれば、セリアック病の患者は安心できる食べ物の入手先に困る事はなくなるという良い面はあるのですが、グルテンフリーの言葉に食品添加物不使用のような安全性を感じるのは、少し違う事かなと思えてきます。


 

第2476回 要?不要?(1)



 ピザの生地を捏ねながら、時折、麺棒に生地が貼り付かないように打ち粉をします。その際、気付かないうちに付近に小麦粉が飛んでしまうらしく、後になって水気を吸ってベタベタし始めて小麦粉がそこまで来ていた事に気付きます。

 飛散していた小麦粉が水分を吸った事で特有のタンパク質であるグルテンが形成されたためで、原料となる小麦の品種によっても含有量に違いが生じますが、小麦に含まれるタンパク質の多くはグルテンの素となるグリアジンとグルテニンによって占められ、含有量の多さによって小麦粉は強力粉や中力粉、薄力粉などに分けられます。

 でき上がった生地を使ってピザを焼くと、焼き上がりには生地の中に大きな気泡ができて、平たく薄く伸ばした生地は大きく変形した仕上がりとなります。この気泡は酵母によって生成された二酸化炭素を小麦粉のグルテンが包み込む事でできたもので、グルテンの働きが弱いと二酸化炭素は外へ漏れだしてしまい、生地は充分に膨らまず、ふっくらとした仕上がりは得られない事になってしまいます。

 ピザ生地に限らずパンがふっくらと焼き上がるのもグルテンによるもので、古代エジプトでパン生地を発酵させるという事が発見されたといわれていますが、発酵によって酵母が二酸化炭素を作り出してもグルテンがないとパンは膨らまない事から、パンの発酵技術発見はグルテンのお陰という事もできます。

 和食に目をやると、天ぷらの衣を軽くサクッとした食感に仕上げ、揚げ上がりが繊細で華やかな感じにするにはグルテンは余計な存在となるため、グルテンの量が少ない薄力粉を使って、グルテンの形成が行われないように冷水を使い、できるだけ攪拌しないようにして衣を作ります。

 グルテンの存在を嫌う天ぷらの対極に位置するのが天ぷらに添えられる吸い物などに入れられる麩で、麩は小麦粉を捏ねてグルテンを形成した後、水洗いをする事でグルテン以外を洗い流し、取り出したグルテンそのものを使って作られています。

 そうめんや冷麦、うどんなどの麺類の食感において重要視されるコシにもグルテンは深く関わっていて、より良くグルテンを形成させて状態を整えるために麺を打つ際は小麦粉に水を加え、グルテン形成の助けになる塩を加えて時間を掛けて捏ね上げています。

 和食にも深く関わっているグルテンですが、アメリカではグルテンを含まないグルテンフリーの食品が拡がってきていて、大きな市場となってきています。植物由来のタンパク質という事もあり、あまり悪い印象はないのですが、グルテンは本当は悪者なのでしょうか。


第2475回 不屈の父



 クルフカの名前を知ったのはごく最近の事で、どこか見慣れた感じがする姿やヨーロッパやアメリカでは広く普及しているとされているにも関わらず、その存在を全く知りませんでした。

 クルフカの名前はポーランド語で牛を意味する「クルフ」が語源となっていて、名詞を親しみを込めて呼ぶ際の「カ」が付けられる事で「小牛ちゃん」といった意味になるとされます。

 クルフカはポーランド人のフェリックス・ポモルスキによって発明されたとされ、フェリックスは今日でも「クルフカの父」と呼ばれています。7歳の頃から叔父が経営するキャンディ工場に出入りし、キャンディの作り方を教わっていたフェリックスは、成人した1921年にはボズナンの街において工房を開き、クルフカの製造と販売に着手しています。

 クルフカの製造販売で成功を収めたフェリックスは、1930年代には本社を移転し、工場も大規模なものを建設してクルフカの普及に力を入れます。その際、黄色に牛の絵が描かれた包装紙を用いた事が評判となり、クルフカの製品名を定着させる事に繋がっています。

 1939年、ナチスドイツがポーランドに侵攻して第二次世界大戦が勃発すると、ポーランド全土がドイツの支配下に置かれてしまい、フェリックスは会社と工場をドイツ人に乗っ取られる形で追放されてしまい、フェリックスのクルフカ作りは理不尽な終焉を迎える事となります。

 第二次世界大戦が終結するとフェリックスは首都ワルシャワに近いミラヌヴェックにおいて工房を再建し、新たな会社名を息子にちなんで「L・ポモルスキ少佐と息子のキャンディ社」としています。ポーランドの陸軍において少佐となっていたフェリックスの息子、レシェックは終戦と共に軍を退役し、父と共に会社の再建に身を投じています。

 平和が訪れ、父と子が力を合わせて新たなスタートを切ったクルフカ作りでしたが、当時の政権によって工場は接収され、国営化されて同じように国営化されていたチョコレート工場の傘下に置いてしまいます。

 国営工場で生産されるクルフカの品質は急速に劣化し、それを眺めながら「国がそういうでたらめな事をやるのならば」とフェリックスとレシェックは自宅の庭にあった小屋を工房に改装し、クルフカ作りに着手しました。

 父と子による手作りのクルフカの美味しさは評判となり、口コミで近隣一帯に急速に広まっていき、ポモルスキ親子の「本物のクルフカ」はワルシャワ市内の店頭に並ぶほどの人気となっています。

 その後、1963年にクルフカの父、フェリックスは他界してしまいますが、レシェックが跡を引き継ぎ、共産主義の矛盾から生じた経済混乱や政府による価格統制などの苦境を乗り切り、今日もクルフカを作り続けています。

 会社の名称は父と子がクルフカ作りを始めた際の「L・ポモルスキ少佐と息子のキャンディ社」に改められ、文字通りレシェック・ポモルスキ少佐の息子であるピョートルが経営に当たっています。

 幾度もの困難を乗り越え、世界中で愛されているクルフカ。その存在を知らなかった事は、ずいぶんと損をしていたように思えてきます。


第2474回 美味しい工夫



 夏といってすぐに思い浮かんでくる物、その中の一つにスイカがあると思います。濃い緑色と黒の縞模様を持った特徴的な大きな姿は、簡単なイラストであっても描かれているだけでそれが夏の場面であるという事を意識してしまいます。

 最近は個食化の波を受けてスイカ自体も小さくなってきていて、メロンよりも少し大きいくらいの小玉スイカが出回るようになり、大人数でなくても気軽にスイカを購入する事ができるようになってきています。

 そんなスイカを美味しく食べるための工夫として、少量の塩をかけるという事が経験的に行われてきました。塩味を感じない程度の微量であっても、スイカの表面に塩分が存在する事で甘味を感じやすくなり、スイカをより甘く、美味しく食べる事ができます。

 スイカの品種改良が進んで糖度が高い物が出回るようになった昨今、スイカに塩をかけるのは少し前時代的にも見えてきます。スイカをより美味しく食べるには、塩をかけるよりも良い方法があります。それはよく冷やすというもので、冷す事によってスイカの甘味はより強力なものとなります。

 スイカの甘さには砂糖と同じ物であるショ糖、果物の字を持つ果糖、最も吸収されやすいブドウ糖の3種の糖分が関わっています。馴染み深いショ糖を100として考えた場合、ブドウ糖の甘さは60と少なく、果糖は80から140の間で変動する甘さを持っています。

 甘さの変動に関係しているのが温度で、ショ糖やブドウ糖が温度に影響されず一定の甘さを保つ事に対し、果糖は温度が低いほど甘さが増すといった性質を持っています。

 果糖が温度によって甘さが変化する理由は果糖の分子構造にあるとされ、果糖は温度によって分子構造が変化するという性質を持っています。果糖は分子構造によってα型とβ型の2種類に分けられ、人はα型よりもβ型の方を3倍も甘く感じるとされます。

 温度が高い状態にある果糖にはα型の分子が多く含まれていて、それが温度が下がっていくに連れてβ型に置き換わっていきます。より甘味が強いβ型が多い状態の方が甘味が強く感じられるのですが、同じ変化はスイカの中でも起こっていて、冷す事でスイカはより甘く感じられるようになります。

 井戸や川の水に浸してスイカを冷したというレトロな話もありますが、当時と比べて家庭用の冷蔵庫は格段に進化し、品種改良だけでなくスイカをより甘く、美味しくしてくれていると、昔よりも格段に甘いスイカを食べながら思ってしまいます。


 

第2473回 石炭からパン、そして未来



 ドイツのパンというと、ライ麦の粉にサワードゥと呼ばれる酸味のある酵母を使った素朴なライ麦パンが思い浮かびます。冷涼な気候と痩せた土地のために小麦が育たず、代替作物としてライ麦の栽培が主流となっていた事によるのですが、そんなドイツに水と石炭でパンを作る方法と呼ばれた画期的な技術が確立されます。

 フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュによる「ハーバーボッシュ法」は、触媒によって空気中の窒素を使いアンモニアを大量に作る事を可能にし、肥料を増産して痩せた土地を肥えさせ、小麦の増産に道を開くものとなりました。

 ハーバーボッシュ法によって大量に作り出されるようになったアンモニアは世界中に行き渡り、食料の増産に貢献して今日の人口増加にも繋がったとされ、今日でも大量に生産されている量は、地球上の全ての人が毎日1トン近くのアンモニアを使用している計算になるとまでいわれています。

 そのように大量に生産されているアンモニアのほとんどが肥料として使われ、一部が火薬などに使われているのですが、最近、新たな利用法の研究が進み、今後、アンモニアの更なる増産が行われるようになる可能性がいわれています。

 現在、石油に代わる自動車の動力源として有力視されているものの一つに水素による燃料電池があります。水素に空気中の酸素を結合させる事で発生する電気を使ってモーターを稼動するというものですが、水素と酸素を結合させた後は水しか排出しない事から、極めてエコな動力源と見られています。

 その反面、水を電気分解させて水素を発生させる事や、発生させた水素を貯蔵して運搬できる状態にするには大きなエネルギーが必要とされ、街中で気軽に水素を補給できる水素ステーションの普及が進まない限り実用化は難しいともいわれます。

 そこで水素を蓄える事のできる物質、「水素キャリア」を使って結合させる事で水素を運搬できる状態にし、水素キャリアと結合している水素を取り出して使うという手法が採られ、現在、プロパンガスやメタノールを使って燃料電池に必要な水素の供給を行う事が有力視されています。

 アンモニアは2つの窒素原子と6つの水素原子から作られていて、分解して水素を使った後は空気中で最も多い窒素が排出されるだけであり、しかもプロパンガスと同じくらいの圧力で液体になる事から、タクシーの車両などにガスを供給しているガスステーション程度の設備で水素の素となるアンモニアを提供できる可能性があります。しかもアンモニアから水素を取り出す際に必要となるエネルギーはメタノールと比べて3分の2と小さく、効率の良い水素の供給源という事もできます。

 ハーバーボッシュ法で使われるよりも遥かに小さなエネルギーでアンモニアを作り出す触媒も発見されており、太陽エネルギーで水を分解し、発生した水素を使ってアンモニアを合成する技術も考案されています。

 今後、アンモニア製造の効率化が進めば燃料電池車の実用化がさらに加速されるように思えます。プロパンガスやメタノールのように爆発や燃焼といった危険性もアンモニアには少なく、直接吸引しなければほとんど問題がない事から、(その点でもアンモニアの未来は明るいように思えます。

 アンモニアによる燃料電池車が一般化して街にはアンモニアステーションが見られるようになり、植物の栄養と同じ物で車を走らせているというのはメルヘンな感じがするのですが、速いレーサーを「血管にアンモニアが流れている人」と形容した際、あまり恰好良く思えないのは古いアンモニア観なのかと思えてきます。


プロフィール

kcolumnist

Author:kcolumnist
にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR