第2656回 真の柏餅
春を迎えると和菓子店の店頭に桜餅が並び、桜の花の時期が終わると端午の節句を意識した柏餅へと変わっていきます。普段から柏餅が大好きという事もあり、店頭で存在感を感じられると嬉しくなるのですが、端午の節句が終わると別な和菓子へと変わってしまう事があり、柏餅の時期が短いようにも感じられます。
大好きな柏餅ですが九州以外では食べた事がないので、厳密にはいつも食べているのは柏餅ではないという事ができます。近畿地方以西では柏餅を包むカシワがほとんど自生していないため、サルトリイバラの葉を代用する事が通例となっており、カシワの葉以外で包んだ物は「しば餅」と呼ばれるので、性格にはしば餅を好んで食べているという事になります。
また、カシワの葉で包んだ本来の柏餅も厳密には柏餅ではないという事ができます。柏餅に使われている葉はブナ科のカシワのものであり、漢字で表記する場合、正確には「槲」の文字が使われます。それに対し「柏」はヒノキ科のコノテガシワを指す漢字となっていて、コノテガシワは針葉樹である事から葉で餅を包む事はできなくなっています。
カシワの葉で餅を包むという事は古くから行われていたそうですが、柏餅が急速に普及し、端午の節句に食べられるようになったのは江戸時代、徳川九代将軍家重の頃とされます。
カシワは新しい葉の新芽が出て育つまでは古い葉が残っていて落ちてしまわない事から、「家系が途絶えない、子孫繁栄」の縁起物とされ、それが大名家などの武家社会に好まれて、参勤交代によって全国へと広められています。
当時は砂糖が貴重であった事から、中の餡には味噌を使ったものが主流となっていたそうで、現在でも小豆のつぶ餡、こし餡に加えて味噌餡はポピュラーだといわれますが、味噌餡の伝統がない九州で育ったせいもあり、小豆餡以外の柏餅は考えられないものとなっています。
五月晴れの空の下、清々しい風を受けて大空を優雅に泳ぐ鯉のぼりを眺めながら、柏餅をいただく。その際の柏餅はつぶ餡であってほしいという変なこだわりを持って、端午の節句の縁起物と接しています。
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