第2674回 蕎麦の粋(3)



 天ぷらやから揚げなどの揚げ物を作る際、決まって細切りにしたジャガイモを揚げてフライドポテトも一緒に作るようにしています。ジャガイモが好きで、中でもフライドポテトが大好きという事もあるのですが、ジャガイモを揚げる事で油の状態が良くなるというおまじないのような意味もあります。

 フライドポテトの本場というと、ハンバーガーとセットになっているイメージが強い事からアメリカが思い浮かんでしまうのですが、アメリカにフライドポテトが普及した歴史は意外と浅く、第一次世界大戦以後の事といわれます。

 第一次世界大戦当時、ヨーロッパに派遣されたアメリカ兵がベルギーでフライドポテトをご馳走になり、その美味しさに魅了されて本国へ帰還後、再現したのが始まりといわれベルギー人がフランス語を話していた事からフランス人と勘違いしてしまい、それがアメリカでフライドポテトの事を「フレンチポテト」「フレンチフライ」と呼ぶようになった由縁ともいわれます。

 ヨーロッパでジャガイモが本格的に食べられるようになるのはフランス革命の際、パンが不足してしまったために革命政府が家畜の飼料として使われていたジャガイモを配給したのがきっかけとされ、同じフランス語圏のベルギーでもその頃から食べられるようになったと考えられます。

 今日ではフライドポテトの最大の本場となっているベルギーでのフライドポテトの誕生は、漁村で小さな川魚を獲って油で揚げて食べていたところ、川が凍ったために魚が獲れなくなり、代わりに秋に収穫していたジャガイモを揚げて食べるようになったという事が始まりといわれ、今では主食のように食べられています。

 食べ方としてはマヨネーズにハリッサと呼ばれる唐辛子やにんにくなどで作られる辛いペッパーソース、レモン汁などを混ぜたソースを付けて食べる事が一般的となっていて、ピリ辛のソースは「サムライソース」と呼ばれています。

 何故サムライなのかは不明となっていますが、遠く離れたサムライの国でフライドポテトとそばが出会っているというのは不思議な縁を感じます。フライドポテトを盛り付けたポテトそばは、若年層をターゲットとして阪急電鉄の駅そばが提供を開始したところ、話題性の大きさと美味しさから一気に普及が進んでいます。

 今では注文を受けてからそばを打ち始めるという店は少なく、そばが出されるまでの間を酒を飲んで待つ「蕎麦前」の習慣もなくなってしまいましたが、粋な江戸っ子であればフライドポテトと相性の良いビールを傾けたのではと想像してしまいます。


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第2673回 蕎麦の粋(2)



 つゆがはられたそばの丼に揚げたての天ぷらを入れると、高温で調理された衣の香ばしい風味と油のコクが加わり、淡白なつゆにアクセントが加わって美味しさが引き立てられます。天ぷらとそばは優れた取り合わせだと思えるのですが、いつ頃から天ぷらそばが食べられるようになったのか、明確なところは不明なままとなっています。

 江戸時代がはじまる少し前、そばを細く麺に切り分ける「そば切り」は誕生しています。しかし、それからしばらくしょうゆは高級品という時代が続く事から、そばを食べる調味料には味噌を3倍量の水で溶いて袋で濾した「たれ味噌」が使われ、今日のそばとは趣が大きく異なるものが食べられていました。

 関西で造られたしょうゆが「上り醤油」として江戸に送られていたものが、江戸時代の中期頃には常陸、下総、上総、相模などで盛んにしょうゆが造られるようになり、「地回り醤油」として江戸庶民の間に普及するとそばは今日のようなスタイルになっていったと考える事ができ、天ぷらそばもそれ以降の事と思えてきます。

 江戸時代、長らく天ぷらは屋内での調理が禁止されていました。油の精製技術が低かった事から、調理に伴って油煙が生じて室内に籠ってしまう事や、火加減が細かくできない竈による火災の発生を懸念しての事ですが、そのため天ぷらは屋外の屋台で供される事が多くなっていました。そばの屋台も多く見られていた事から、自然発生的に天ぷらと結び付いて天ぷらそばが発生したと考える事ができます。

 屋台のそば屋では事前にそばは打って用意されていた事から、客が注文をしてからそばが出されるまではそれほど時間は掛からず、そばが出てくる間に酒を飲んで待つという余裕はないように考えられ、天ぷらを肴に酒を飲みながらそばのできを待つという江戸の粋は、注文を受けてからそばを打ち始める正式なそば屋で誕生したように思えます。

 そうしたそば屋では、油煙を上げながら店の裏手で天ぷらを揚げるよりも近くの屋台で揚げられたものを購入しておき、すぐに出す事ができる肴として用意していた事が考えられ、酒の肴であった天ぷらが遅れて出てきたそばのつゆに浸して食べられ、天ぷらそばとなっていったように思えてきます。

 そば屋に長居をしない事を良しとする事についても、そばの普及に屋台が大きく関わっている影響が大きいように思えて、天ぷら、そばと当初はファストフード的な存在であったものが、後に専門性を高めて固定店舗となっていく中、文化的に成熟する事で粋となっていったように考えてしまいます。


第2672回 蕎麦の粋(1)



 最近のヒットメニューの一つとして「ポテそば」なる名前を聞いていたのですが、季節柄、「ポテざるそば」も登場したという事で大いに興味を魅かれています。ポテそばとは天ぷらそばや山かけそばのように、その名の通りフライドポテトがトッピングされたそばの事で、最初に聞いた際は抵抗を感じたのですが、そばと天ぷらやかき揚げといった揚げ物との相性の良さを考えると、意外と良い取り合わせのようにも思えます。

 ジャガイモが大好きで、フライドポテトにも思い入れが大きい身としては、表面の揚げたてのカリッと感は大切にしたい事もあり、天ざるそばのようにそばとフライドポテトが分けて出されるのが嬉しいとポテそばよりもポテざるそばの方に魅力を感じてしまいます。

 天ざるそばというと、以前、東京の下町にある隠れ家的名店に案内された際、身なりの良い初老の紳士が文庫本を片手に来店し、天ざるそばを注文して天ぷらを肴に酒を飲み、そばをいただいて長居する事なくさっと帰っていく姿に江戸の粋を感じた事があります。

 江戸っ子がそば屋で酒を飲むようになったのは、当時のそば屋が注文を受けてからそばを打ち始めるため、その待ち時間を埋めるために酒を飲むという習慣が根付いたともいわれ、酒の肴としてすぐに出す事ができる焼き海苔や板わさ、出汁巻き卵、蕎麦味噌、鴨焼きなどのメニューが用意されていました。

 そば屋に入るとまず酒とすぐに出てくる肴を注文し、そばが出てくる間に飲む酒の事を「蕎麦前」と呼ぶ独自の文化も生まれていて、蕎麦前は日が傾いたまだ明るい時間にふらりと立ち寄るという自然体が一層酒を美味しくしてくれるとされ、海苔で酒を一本、出汁巻き卵や天ぷらでもう一本。その後、そばをいただいてそば湯で軽く酔いを覚まして長居せずにさっと帰るのが粋とされます。

 そば屋で酒を飲む通の文化として、「ぬき」と呼ばれる独自の注文方法が存在し、ぬきで注文するとそばを抜いた状態で供されていました。「天ぬき」の場合、熱々のつゆに揚げたての天ぷらが入った状態、鴨ぬきの場合、切り分けた鴨肉がつゆに浸かった状態で出されてきて、天ぷらや鴨肉を味わいながら酒を飲み、つゆの美味しさを堪能しながら半分ほどを残しておいて打ち上がったそばを待ったといいます。

 せっかちな江戸っ子に愛され、手早く食べられる食事というイメージのそばですが、細かな部分に遊び心に満ちた粋な世界が展開されているのだと、尽きない興味を感じてしまいます。


第2671回 古代のGPS



 ストロンチウムというと最近では原発事故の影響もあり、放射性同位体であるストロンチウム90が思い浮かび、土壌中の濃度などが気になったりもするのですが、本来のストロンチウムは広く地殻中に存在し、産業的にも幅広く利用されてきました。

 炎色反応が綺麗な赤である事から花火や発煙筒の炎の色を赤くする事に使われたり、最近では見掛けなくなってきたテレビやパソコンのモニターなどに使われていたブラウン管にも欠かせない素材となっています。馴染み深いフェライト磁石の磁性を発生させる素材としても使われていて、身の回りの意外なところにストロンチウムが使用されている事が判ります。

 世界中に広く分布しているストロンチウムですが、天然には84、86、87、88といった4種類の同位体が存在していて、その比率は地域によって微妙なばらつきがあるとされ、地域ごとの同位体比率を分析すれば場所を特定できるという地質学的GPSといった性質を持つ事が知られるようになってきています。

 デンマークのエクトウィズ付近で1921年に非常に保存状態の良い青銅器時代の女性の遺体が発掘され、日本ではそれほど存在を知られてはいませんが、地元のデンマークでは「エクトウィズ・ガール」として教科書にも登場する存在となっています。

 約3500年前に16~18歳の若さで亡くなった彼女はお洒落なブラウスとミニスカートを身に付けた状態で埋葬されていて、そんな彼女の各部位に含まれるストロンチウムの構成比を分析する事で生前の彼女の行動を知るという興味深い試みが行われていました。

 歯の表面のエナメル質は子供の頃にしか形成されない事から、エナメル質に含まれるストロンチウムの同位体比を調べる事で彼女の生まれ育った場所が判るとされ、彼女は埋葬地となったエクトウィズから800kmも離れたドイツの南西部で生まれた可能性が高いという分析結果が得られています。

 彼女が着ていた羊毛製の衣服の繊維からは、ドイツのシュバルツバルト地方のものである事が示唆され、毛髪や爪に蓄積されたストロンチウムからは彼女が亡くなる前の2年間にデンマークと生まれ故郷を2度も行き来していた事が判っています。

 青銅器時代というと今日のような移動手段を持たない事から、狭い地域内を移動する事なく生涯を終えるイメージがありますが、彼女は意外なほどグローバルな旅をする人だった事が伺えます。青銅器時代には旅人や客人をもてなす習慣が根付き始めたともいわれ、そうした習慣が彼女の旅を可能にしたのかもしれませんが、グローバル化とは現代だけのものではない事を3500年前の女性が物語ってくれているようにも思えます。


第2670回 植物感染



 慣れてしまったのか、一時期ほどの怖ろしさをもって語られなくなった狂牛病。牛の場合が狂牛病で羊はスクレイピー、人はクロイツフェルト・ヤコブ病などと呼ばれますが、共通するのは感染源がプリオンという小さなタンパク質で、病気を引き起こす事から感染性プリオンと呼んで体内にある正常型のプリオンと区別されています。

 感染型プリオンは体内に存在する正常型プリオンの高次構造を変化させて感染型に変えて増殖すると考えられていて、これまで感染症を引き起こす病原体として捉えられていた細菌やウィルスとは違う新たな感染症の原因とされます。

 感染性プリオンの怖ろしさは変性への強さにあり、感染力を奪って不活性化させるには134度の加圧蒸気で18分以上処理する必要があるとされ、通常の調理などでは毒性が消えず、知らずに感染性プリオンが含まれた食材を感染力を残したまま食べてしまう可能性があります。

 これまでは狂牛病に関する検査を行う事で、食肉に感染性プリオンが混入する事を防いでいましたが、最近の研究で食肉以外の部分からも感染の可能性が示唆されていて、感染性プリオンの脅威は新たな段階を迎えたようにも思えます。

 今回の研究で確認された事は、感染性プリオンに感染した動物や人の脳や排泄物から単離した感染性プリオンが小麦の根や葉に吸着し、その後も感染力を維持できる事。感染性プリオンが吸着した小麦の根や葉を洗浄して動物に与えると、感染が起きてしまう事。そして感染性プリオンは土壌中から植物内を移動し、感染可能な量が葉や茎に蓄積される事といった新たな感染経路を示すものとなっています。

 プリオン病は感染した動物の肉に含まれる感染性プリオンによって感染が引き起こされると考えられ、草食動物である牛や羊に関しては人が肥育を目的として本来は食べる物ではない肉骨粉を飼料として与えた事が原因とされてきました。

 飼育されている牛や羊ならそうした飼料に触れる事もありますが、野生動物である鹿やヘラジカの間に特定の地域の風土病として広がっていた慢性消耗病の原因も今回の研究によって解明の糸口を見付けられるようにも思えます。

 小麦などの植物の場合、感染性プリオンを含んでいるかを検査する事は極めて難しく、今後、どのように食の安全を確保するのかという問題が生じる中、DNAも持たないプリオンが何故増殖しようとするのか、いまだに理解できず頭を捻ってしまいます。


第2669回 美味しい1%



 たまにおからの煮物が食べたいと思う事があるのですが、せいぜい小鉢一つもあれば充分な事に対し、売られているおからの量は一人暮らしにはとうてい消費できるものとは思えず、断念してしまうという事が多々あります。

 いろんなレシピを試してみてと思い、伝統的な和食の煮物から変わり種のコンソメとミルクを利かせた洋風の煮物と試してみたのですが、なかなか一人では消費しきれず、「君が一緒に食べてくれたら」と坊ちゃんの方を眺めてしまいます。

 そんな際に思い出すのが江戸時代の儒学者、荻生徂徠の事で、若い頃、とても貧しかった荻生徂徠は近所の豆腐店からおからをもらい、それご飯代わりに食べる事で飢えを凌いでいたそうですが、後にそれが何より辛かったと残しています。

 確かに少量であればとても美味しく食べられるおからも、毎日、大量にとなると辛いものがあると思いながら、その当時からおからが不要な物とされていたという事実に気付いてしまいます。

 おからは年間に65万トン以上の量が豆腐の製造によって発生し、食用として使われるのはそのうちの1%程度で、残りは飼料や肥料への転用、産業廃棄物として処分されています。

 おからが不要な物として処分されるようになったのは、豆腐の需要が増加する江戸時代の頃からとされ、荻生徂徠が毎日おからをもらえていたのもそうした背景からという事ができます。

 おからが好まれない最大の理由はパサパサした食感にあるといわれ、さまざまな工業技術が進化して大豆を圧搾する技術が向上するに従い、おからは美味しさを失っていったともいわれます。

 大豆から豆腐作りに必要な豆乳を絞り出す技術の向上、凝固材の発展で薄い豆乳からでも豆腐を作る事が可能になっている事や、昔ほど豆腐を消費しなくなった事などを考えるとおからの発生量は減少しているようにも思えるのですが、それでも膨大な量が廃棄されてしまっています。

 一説には国民一人当たり15g程度を毎日食べれば、全てのおからを処分せずに済むそうなので、栄養価が高く、現代人に不足しがちな食物繊維を多く含む優れた食材とされるおからの消費につながればと、いろんなレシピを考えてしまいます。


 

第2668回 白と黒の疑惑



 どの程度、現地の事情に詳しいのかは判らなかったのですが、自称現地の事情通という方からパンダに関する幾つかの疑惑を聞かされた事があります。最大の疑惑は、パンダはいわれているような絶滅が危惧される希少種ではなく、中国の奥地にはたくさんいるのではないかという事で、いわゆるパンダ外交の付加価値を高めるために希少種という事にされているとの事でした。

 その方の話では、中国の奥地ではパンダに遭遇した話は珍しくはなく、野生のパンダは私たちが持っているのんびりとした雰囲気のイメージとはかけ離れていて、パンダに襲われて片腕がない人に会った事もあるそうでした。

 俄かには信じがたい話と思えるのですが、本当に希少種ならば芸を仕込んでサーカスに出すような事はしないといわれると、何となく説得力を感じてしまいます。

 そんなパンダに関する研究結果が報告されており、パンダは200万年もの間、笹を主食としてきていながら消化器官は草食には対応しておらず、他の草食動物とは完全に差別化された消化器系を持っている事が明らかにされています。

 パンダの祖先となるクマは雑食性の動物なのですが、パンダの腸内にはクマと同じ腸内細菌が保持されている事が確認され、草食動物は植物の固い繊維質を効率的に分解して栄養素を吸収するために独自の消化器系へ進化させていますが、パンダの消化器系は肉食動物の典型的な特徴を残しているといわれます。

 そのため、1日14時間も掛けて12kg以上の竹や笹を食べるパンダですが、摂取した量から消化できるのはせいぜい17%程度と見積もられ、あまり効率の良い生活を送っていない事を伺わせていました。

 今回の研究結果は極めて興味深く、予想をはるかに超えるものであったとされ、パンダが草食に充分対応するだけの進化を遂げていない進化のジレンマに陥っている事を示唆しているともいわれていますが、そうなるとパンダが人を襲う事もある獰猛な雑食動物という事に新たな説得材料が加わってしまったようにも思えて、またパンダへ疑惑の目を向けてしまいそうになってしまいます。


第2667回 油点眼



 生まれ付きの乱視で、子供の頃に眼科で診てもらったところ、先生に「良くならない代わりに悪くもならないので、たくさん本を読みなさい」といわれた事が今でも思い出されます。正常な状態を知らないので、物を見るために常に力が入っているらしく、そのために生じるさまざまな弊害も普通の事と思っていました。

 その後、パソコンの画面に向かう事が増え、目を酷使しているという自覚もするようになってきて、目が疲れて乾燥するといった事も感じるようになってきたので、目の疲労を軽減するという目薬を愛用するようになったのですが、目薬の点眼よりも点眼後にしばらく目を閉じている事の方が効果的に思えて、一時しのぎ的なものとしか感じられませんでした。

 ドライアイに悩まされている人は800万人ともいわれ、目の不調をドライアイと認識していない人を加えると2000万人にも上るとされ、すでに国民病ともなっているという事もできます。そんな中、意外なほど効果的な物としてひまし油が密かな話題となっています。

 ひまし油を初めて知ったのは子供の頃、たまたま見ていた映画の中でひまし油が混ぜられた食事を食べた人たちがトイレの前に列を作るといったコミカルなもので、その際、飲まされた事があるという母親にドロドロして飲みにくい物であったという感想も聞かされています。

 下剤として使われる物という印象付けができてしまったひまし油ですが、その後、ラジコンのエンジンに使われるといった事や第二次世界大戦中のプロペラ式の戦闘機のエンジンにも使われていたという話を聞かされ、体に悪い物というイメージができあがってしまいました。

 目に直接油を点すという事には抵抗を感じてしまうのですが、インドのアーユルヴェーダなどでは有効な治療法として行われている例もあるだけでなく、普段使っている目薬にも使われている事があるので、それほど特殊な事ではないようにも思えます。

 目の表面はムチン層、涙液層、油層の3層構造となっており、多くの場合、表面の油層が減ってしまって涙液の蒸発が起こり、結果的に目が乾燥してしまうとされます。ひまし油はそんな油層の回復を促すとされ、油層が原因で起こるドライアイを軽減させるといわれます。

 注意が必要なのは油層以外の原因、ムチン層や涙液層が原因で起こるドライアイには効果が薄いとされる事や、薬局で下剤として売られているひまし油は飲みやすくするために香料が加えられ、それらの多くはハッカ油やオレンジ油といった目に沁みる成分が使われている事から点眼には不向きとなっている事です。

 余計な成分を含んでいないマッサージ用などのひまし油を手に入れる必要があるのですが、ひまし油について調べてみると、治癒効果の高い油としてさまざまな情報があり、意外なほど重宝しそうな感じもするので常備するのも良いのかもしれないと思っています。


第2666回 白粉現象



 気温が高くなってきて、テンパリングに最適な室温を上回るようになってきたので、そろそろ大好きなチョコレート作りもシーズンオフかなと思っています。テンパリングはチョコレートの美味しさを左右する重要な作業なので、涼しくなるまでは一休みするとして、その間の分としてたくさん作るという事を考えてしまうのですが、かなり繊細な食べ物でもあるので作り置きはしない方が無難なようにも思えてきます。

 意外な感じがするのですが、チョコレートは含まれている水分が極端に少ない事から、栄養価に富んでいながらカビや腐敗菌の繁殖といった生物的劣化とは縁が薄い食べ物となっています。カビや雑菌の繁殖がないというとかなり保存性が高いようにも思えるのですが、温度や湿度の変化には敏感で劣化の原因となってしまいます。

 広く知られている事ですが、チョコレートを高い気温の中に放置するとチョコレートの中の油脂分が溶け出し、表面で固まって白い粉をふいたような状態のファットブルームを起こしてしまいます。逆に低温にさらされると、表面の結露などによって溶け出した糖分が結晶化して白い粉状となるシュガーブルームを起こして風味や食感が劣化してしまいます。

 そうしたブルーム現象がどのように起こるのかについて、世界的なチョコレートメーカーの研究によってメカニズムが解明され、ファットブルームを防ぐ方法についてもいくつかの推測が行われていました。

 ファットブルームはカカオに含まれる脂質が液化して表面に染み出してくる事から始まるのですが、液化した脂質がどのように表面に移動するかを再現するためにチョコレートを粉末化して、油脂分として少量のひまわり油を滴下し、状態を高出力エックス線を照射して観察したところ、油脂分はチョコレートの微細な隙間を毛細管現象のようにすばやく染み込む事で移動する事が確認されました。

 この事からチョコレートの内部の隙間を少なくして、液化した脂質が通る隙間を少なくする事や、脂質が液化しにくい温度である18度を保った環境に保管する事がファットブルームを防ぐ方法と推察されていました。

 チョコレート内部の隙間を少なくするには、できるだけ滑らかな状態に仕上げる事が良いと考えられる事から、ミルクチョコレートよりもビターチョコレートの方がファットブルームを起こしやすいという長年の謎が解けたように思えて、今回の研究を興味深く眺めてしまいました。


 

第2665回 握力が知らせるもの



 最近、あまり関連がなさそうな事で簡単に体の状態を知る事が可能という研究報告が増えてきたように感じます。先日は小さな線虫の嗅覚を使って非常に安価で高い精度のガン検診が可能との報告が行われていて、患者の負担が極限まで軽減されそうな半面、事がガンなだけにそれを線虫から知らされるという事には何となく抵抗を感じてしまいました。

 また、先日行われた新たな研究では、握力の強さが信頼性の高い健康のバロメーターとなる事が報告されており、握力計を握る事で心臓病のリスク判定ができるという事には、何か不思議なものさえ感じられます。

 世界17か国の35~70歳の14万人を対象に4年に渡って行われた健康状態の経過観察の際、握力計による筋力の計測も追加で記録してもらっていたところ、4年の調査期間の間に握力が5キロ低下するごとに何らかの疾患による死亡リスクが16%増加するという関連性が確認されました。

 年齢や喫煙、アルコールの摂取、教育水準、職業などの健康に影響を及ぼす要因を考慮しても同じ結果が得られており、握力の低下は心臓発作リスクの7%増、脳卒中リスクの9%増にも関連している事も判っていて、握力の測定は血圧よりも死亡リスクの判定に有効と見られています。

 握力の強さは体格や体重、民族といった違いや個人差があるため、今後は誤差を調整するための研究を重ねる事が重要とされますが、健康管理のために一家に一台、握力計という時代が来るのかと、少々奇異な感じがしてしまいます。


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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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