第2738回 マーマレードへの想い



 トーストに塗るジャムについて考えていて、いつの頃からかマーマレードが平気というか好きになっていた事に気が付いてしまいました。

 ゲル状の透き通ったオレンジ色の中に細かく刻まれた柑橘系の果肉や皮が散在するマーマレードは見た目にも綺麗で、わざわざ窓際の棚に置いたりもするのですが、子供の頃は大嫌いで、パンに塗るジャムがマーマレードしかなかったりすると、そのまま何も付けないパンだけを食べたりもしていました。

 マーマレードが好きになれなかった理由は、柑橘類があまり好きではなかったという事もあるのですが、何より苦手としていたのはあの特有の苦味で、解毒力が充分ではない子供は本能的に苦味を避ける傾向があるそうなので、苦味も含めて美味しく感じるようになった事は成長の証ではとも思えます。

 マーマレードは言葉の響きがマスカレードなどに似ているせいで、勝手にイタリアやフランスが発祥の地ではと思っていたのですが、諸説がある中、イギリスが発祥の地という説が多く唱えられていて、言葉自体も英語となっています。

 よく知られたところではスペインで大量のオレンジを買い付けたイギリスの商人が、購入したオレンジが甘味がなくて酸っぱい上に苦味まで強く、とても販売できる物ではない事に気付いて悲嘆に暮れていると、彼の妻が砂糖で煮詰めてジャムにする事を提案し、マーマレードが誕生したとされます。

 その際、大量のオレンジを一人でジャムにしてしまうのは大変だった事から、一人息子のメアーに手伝わせようとして、「メアー マ ラッド(私の息子、メアー)」と叫んだ事がマーマレードの語源になったともいわれます。

 また、別な説ではポルトガルではオレンジではないのですが、「マルメロ」と呼ばれるカリンを砂糖漬けにした「マルメラーダ」が作られていて、そのマルメラーダが原形となり、英語でマーマレードとなったというのも有力な由来説の一つとなっています。

 ユニークなところでは、マーマレードは本来薬であり、スコットランドの女王、メアリーが腹痛を訴えた際に処方され、そのエピソードは民間に伝えられて「病気のメアリー」を意味する「メアリー マラード」が語源になったという説もあり、確かにメアリーマラードは英語の綴りがマーマレードに似ています。

 メアリー女王はよほどマーマレードが気に入ったのか、その後、何度もマーマレードを食べたがって仮病を使うようになったともいわれ、メアリー女王が病気だからと何度も召使がマーマレードを作った事もメアリーマラードが名前の元となった理由として伝えられています。

 ジャムが最初に作られたのは1万~1万5千年前の旧石器時代後期の事とされ、ミツバチの巣から集めた蜂蜜を使って果物を煮た事がはじまり考えられています。

 西洋式のジャムが日本に初めて伝えられてのは16世紀の後半に宣教師によってもたらされたと考えられていて、当時、西洋風の物を好んだ織田信長が口にした最初の人ともいわれています。

 マーマレードが誕生するのは18世紀の事となっているので、残念ながら織田信長はマーマレードを知らない事になってしまいます。オレンジの爽やかな風味とほんのりした苦味を戦国の覇者がどのように感じるのか、少し気になってしまいます。

 メアリー女王のように薬として処方され、その後、マーマレード食べたさに何度も仮病を使うようになり、イギリスではマーマレード、日本ではノブマレードと呼ばれるようになるという事にはならなくて良かったとは思っています。


 
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第2737回 意外な危険



 秋が近付いてくると秋の味覚という事が気になり、年間を通して見掛けていてもキノコに注目してしまいます。以前ほど新手の栽培種に出会う機会は減ってしまいましたが、スーパーの生鮮売り場でキノコを眺めているのも楽しいと思えてきます。

 シイタケをはじめとするキノコには三大旨味成分の一つとされるグアニル酸が多く含まれている事から、煮込み料理などに加えると食感がアクセントになるだけでなく、味に深みを加え、出汁の旨味を増強する働きをしてくれます。

 身近な存在であるキノコなのですが、実は正確にはどのくらいの種類のキノコが地球上に存在するのかといった事は判っておらず、おそらく4000~5000種類程度だろうというアバウトな把握のされ方しか行われていません。その中のおよそ100種類ほどが食用になり、40種類ほどが毒キノコだろうといわれているのですが、ほとんどのキノコは食べられるのか毒があるのかといった事も判っていない事になります。

 近年では2004年に19人の死者を含む59人の食中毒を起こして、それ以降、毒キノコといわれるようになったスギヒラタケが記憶に新しく、少し古い図鑑には食用キノコと記載されている事からもキノコの毒性の判断の難しさを感じる事ができます。

 日本ではシイタケによく似ていて、専門家でも見分けが難しいといわれるツキヨタケやシメジによく似たクサウラベニタケ、シイタケ似のカキシメジが三大毒キノコとして知られていますが、意外と身近なところにも危険なキノコが存在しているともいわれます。

 命に関わる事はないとはいわれますが、馴染み深いエリンギやマイタケはシアン産生菌に含まれていて、生食すると腹痛を起こす程度の青酸化合物を含む事があるとされ、食用キノコの代表格ともいえるシイタケも生で食べると全身に湿疹がでる「シイタケ皮膚炎」を起こす事があるとされます。

 高価なキノコとして知られたマツタケもアレルギー症状を引き起こすヒスタミンなどを含んでいる事から、生食する事で胃腸炎などのアレルギー症状を引き起こすといわれています。

 いずれのキノコの毒性も熱には弱いために充分な加熱を行う事で危険性はほとんどなくなるのですが、安全な食材としての認識が定着している事からバーベキューなどで加熱が不充分な生焼けのものを食べたり、焼いて縮んでしまう事を嫌って火を充分に通さなかったりすると危険性が残される事が考えられます。

 また、欧米には一部のキノコを生でサラダに加えて食べる習慣がある事や、健康法の一環として食材は生で食べる「ローフード」といった文化が伝えられている事からも、日常的なキノコであっても食べ方によっては危険である事は認識しておかなければと思えます。


第2736回 鋳掛屋という商売



 子供の頃、古い鍋の底に小さな穴が開いてしまっているのを発見し、その事を母親に告げると「昔は鋳掛屋さんという商売の人がいて、こうした穴の開いた鍋を修理してくれていた」という事を教えられました。

 アルミをプレス加工した安価な鍋なので、わざわざ職人に費用を払ってまで修理するというほどではないのかもしれませんが、一緒に生活してきた物という愛着があり、近所に鋳掛屋があれば良いのにと思った事が思い出されます。

 その後、時代劇を見ていて、民家の軒先で鍋の底を叩いている姿を見掛ける事があり、あれが鋳掛屋なのかと感心した事があるのですが、町内を声を掛けて回り、それぞれの家の鍋を修理する事で生活が成り立つという事にはどこか不思議なものを感じてしまいます。

 江戸時代、鋳造によって作られる鍋や釜は重要な家財道具となっていたのですが、当時の鋳造技術では「鬆(す)」が入る事も珍しくなく、使っているうちにピンホールができたり、ひび割れによって穴が開く事も見られていました。

 当時、鍋や釜を含む金属製品は泥棒が真っ先に狙うといわれるほど貴重で高価な物であった事から、穴が開いたくらいで容易に捨てて買い替える事ができる物ではなく、完全に使い物にならなくなるまで補修を繰り返しながら使われていました。

 そうした補修を専門に請け負うのが鋳掛屋なのですが、鍋や釜が貴重で高価であり、鋳造技術が未熟であった事が需要を生み出して成り立っていた商売という事が判ります。

 時代を感じる隙間産業という感じがする鋳掛屋ですが、道具箱の中に「ふいご」を持参していて、鍋や釜の穴やひびを修理するために鋳鉄を溶融するだけの熱を軒先で発生させていたという、意外なほど本格的な物であったという事もできます。鋳掛屋の語源は「溶かして=鋳て」かける事が元となっているとされ、鍋の底を叩いて直すだけではない事が覗えます。

 江戸時代が終わり、明治、大正と時代が進んでも鉄製の鍋や釜の品質はそれほど向上せず、鋳掛屋は必要な商売として成り立っていくのですが、昭和に入り、工業が近代化されてくるとプレス加工された安価な鍋が出回るようになり、補修するよりも買い替える方が手軽となったり、鍋の素材がアルミになった事で補修が格段に難しくなってしまった事も鋳掛屋の衰退に繋がったという事ができます。

 今日、鍋の内側にはフッ素樹脂やセラミックなどのコーティングが施されている事が普通になり、鋳掛屋も成り立たなくなってしまっていますが、フッ素樹脂加工の鍋のように説明書通りの使い方をしていても数年で駄目になる事を考えると、補修しながら長く付き合っていたという昔の鍋が良い物のように思えてきます。


 

第2735回 成績向上薬



 DHA(ドコサヘキサエン酸)が最初に話題になった際、頭が良くなる成分として注目を集めました。DHAはアラキドン酸と共に細胞膜の柔軟性を確保する成分なので、DHAを摂る事で細胞膜を柔軟にして脳細胞の繋がりを良くする事で記憶力を向上させてくれるのですが、成績を良くするには知識を記憶する必要があるので、DHAを摂った上で勉強をしないといけないため、単純にDHAを摂取しただけでは成績は上がらない事が最初のDHAブームの終焉に繋がったと思えます。

 DHAの人気の高さに感じた事は、頭を良くするというサプリのニーズの高さと、手軽さが求められているという事だったのですが、意外な薬が手軽に頭を良くしてくれるかもしれないという研究結果が発表されています。

 日中、起きている事が困難なほどの眠気によって眠ってしまったり、何らかの急激な感情の変化が生じた際に体の力が抜けてしまうといった症状を伴う慢性疾患、ナルコレプシーの治療に有効とされる薬剤のモダフィニル。モダフィニルは過度の眠気に対して覚醒作用を持つ薬剤ですが、学習効果の向上にも役立つという声が以前からありました。

 2008年にはモダフィニルの学習効果向上を肯定する論文も出されてはいますが、その後、否定的な意見も出され、賛否両論となっていました。今回、そんなモダフィニルの学習効果向上作用に関する1990年から2014年までに行われた24の研究例を詳細に再検討する事で立案能力、決定能力、学習能力、思考の柔軟性、記憶力、創造性などの認知能力の向上作用に関する評価が行われています。

 モダフィニルの服用によって得られた情報から最適な計画を決定して立案する能力の向上に一定の効果があった事が判り、集中力、学習能力、記憶力もわずかながら向上していたとされる反面、創造性や思考の柔軟性、作業記憶にはほとんど効果がなかった事が判っています。

 そのため、モダフィニルは創造性、柔軟性に富んでいるとされる「地頭の良さ」には繋がらないが、学業の成績を向上させる働きはあるという事ができると思えます。

 副作用もほとんどないとされる事から一度試してみたいと思ってしまうのですが、日本ではモダフィニルは第一種向精神薬に指定されており、麻薬取締法によって規制されているため、触れる事自体難しいといえます。もし普通に手に入るとしたら、試験後の尿検査でドーピングが判り、合格を取り消されたといったニュースを聞く事になるのかと想像したりもしています。


第2734回 黄色いガード



 どちらかというと物憶えは良い方で、結構、古い事を憶えていて驚かれる事があります。そんな自分の記憶の中で一番怖かった事はと思い返してみるのですが、それほど怖いと思える記憶がない事に気付きます。

 死を意識した事は何度かあり、中でも強烈な台風の風の中、近所の家の屋根が丸ごと剥がれて自分に向って飛んでくるのが見え、そのままの位置にいると危険なので前へ進むか後ろへ下がるかと考えながら前へ進んだところ、回転した屋根の風の受け方が変化し、前進した私を直撃するように進路を変えてしまいました。

 幸運にも近くのマンションの壁に当たって屋根が粉々に砕け、怪我一つする事なく無事にいたのですが、前進して避けるという賭けが外れて直撃を受ける事が判った際、屋根の質量からほぼ即死だろうと思えた事は怖い記憶の部類に入るのではと思えます。

 そんな体験も屋根が剥がれて飛んできたという珍事としての記憶となっていて、恐怖体験として残されていない事に自らの呑気さを意識してしまうのですが、もし、恐怖体験を持っていて、できるだけ思い出さないようにしたいと思うのであれば、お薦めとなる成分があります。

 健康食品の宣伝効果もあり、ウコンの有効成分、クルクミンの名前は広く知られ、どちらかというと「お酒の友」という感じで受け取られていますが、最近になってクルクミンはアルツハイマー病や神経の病変を防ぐ効果などが知られるようになり、研究が進められています。

 そんなクルクミンの新たな効果として恐怖体験などの記憶を脳の中でブロックし、思い出させないようにする働きがあり、その効果は長時間続くという事が判ってきています。

 アルツハイマー病や神経の病変は体内で起こる炎症が原因と考えられ、クルクミンにはそれらの炎症を抑える消炎効果があるとされています。脳には独自の免疫システムがあり、クルクミンの消炎効果が脳細胞に働きかける事で記憶の形成に変化を与える事で恐怖体験を思い出しにくくしていると今回の研究結果は結論付けられており、ウコンは肝臓を守るだけのものではない事が判ります。

 比較的クルクミンは体内での吸収が良くないので、高濃度のクルクミンを摂取する必要がありそうですが、ウコンの一種、ターメリックがたくさん使われたカレーを食べる頻度が高い事も恐怖体験を思い出せない事に貢献しているのかと、改めて考えてしまいます。


第2733回 ナタデココの今



 スイーツのブームは一気に盛り上がり、その後、急速に過ぎ去っていくという傾向があるのですが、20年ほど前に大人気となった「ナタデココ」もそうしたものの一つだったと思えます。それでもコリコリとした独自の食感の面白さや、大量の食物繊維を含む事から日常的な食として定着しているという事ができます。

 健康的な食品として発酵食品が上げられる事がありますが、実はナタデココも発酵食品であり、ブームが過ぎてしまった後も優れた特性から研究が進められ、新たな効能や利用法について期待が高まってきています。

 ナタデココはフィリピンで伝統的に食べられてきた食品で、「ナタ」とは現地の言葉で「表面にできる膜」や「上皮」といった意味があり、「デ・ココ」には「ココナッツの」を指す事から「ココナッツの表面にできる膜」といった意味になります。その名の通りココナッツの中に含まれているココナッツ・ジュースを、「ナタ菌」と呼ばれる酢酸菌の一種によって発酵させるとココナッツ・ジュースの表面にナタ菌の働きによって透明な膜が生じ、それが一定の厚みになったところで切り分けて食用にされています。

 一般的に酢酸菌はエタノールを分解して酢酸を生成しますが、ナタ菌の仲間であるアセトバクター・キシリウムはグルコースなどの糖類を発酵してセルロースと呼ばれる繊維を合成します。ナタ菌が合成するセルロースは植物が合成する物と比べて非常に細く、その直径は100分の1以下ともいわれ、極細の繊維が綿密に絡み合う事で強い弾力がありながら一定以上の力になると急に潰れるという独自の食感を生み出しています。

 ナタ菌が作るセルロースは植物由来以外のセルロースという事で、「バクテリアセルロース」と呼ばれるのですが、ナタデココにはそのバクテリアセルロースが歯応えからも感じられるほど非常に多く含まれていて、それが多くの健康効果に繋がっています。

 ナタデココのバクテリアセルロースが綿密に絡み合ってできるしっかりとした食感は、食べ応えがあって満腹感が得られやすいだけでなく、体内で大量の水分を吸収して膨らみ、消化されにくい事から腹もちも良いとしてダイエットに有効とされるだけでなく、コレステロールの再吸収を妨げる事や血糖値の急激な上昇を抑える事から生活習慣病の予防やアンチエイジングといった分野でも有効な働きとなるとされています。

 また、バクテリアセルロースによって作られるナタデココのようなゲルは非常に均一性が高い事から、乾燥させる事でスピーカーのコーン紙として高品位な音質を得る事ができると期待されていて、ハイテク素材としての研究が進められています。

 ナタデココの99%は水で占められているのですが、乾燥させると残りの1%のセルロースナノ繊維が得られるので、そこへ合成樹脂を浸透させる事で有機ELディスプレイの透明基板として利用が可能といいます。これまで使われてきたガラス製のパネルと比べて、ナタデココのパネルでは折り曲げる事が可能となり、しかも低コストで製品化できるというメリットを多く備えています。

 画面もスピーカーもナタデココ由来となると、ハイテクイメージが強いテレビの製造工程の中に発酵という項目が加わるのかと思うと、何やら不思議な感じがしてきます。



第2732回 ココの謎



 ダイエットの主流が糖質制限や血糖値の急激な上昇を抑えるものに移ってから、それほど「脂肪=悪者」という感じが薄れてきたように思えます。そうした流れからか脂肪酸への関心も高まり、中鎖脂肪酸が多く健康効果が高いとしてココナッツオイルが人気となっていました。

 ココナッツオイルはその名の通りココナッツから採られる油脂なのですが、ヤシ油との違いを聞かれるとあまりココナッツやココナッツから作られている製品について認識していなかった事を自覚してしまいます。

 ヤシの実とココナッツの関係についても漠然としたままとなっているのですが、実はヤシにはたくさんの種類があり、広義のヤシの実とはそれらすべての種類のヤシの果実を指し、ココナッツはその中のココヤシの果実を指しているのですが、ほとんどの場合、ヤシの実として見掛けるものはココヤシの実である事からヤシの実とココナッツは同じ物とされています。

 ココナッツは繊維質の厚い殻と、その中に硬い殻に包まれた大きな種子という構造になっています。種子の中は白い大きな胚乳で占められていて、胚乳の中は白い固形の胚乳と透明な液状胚乳に分かれています。

 よく現地の映像としてココナッツの端の部分を鉈で切り取り、空洞の内部にストローを差し込んでココナッツジュースを飲んでいる場面が見られるのですが、未成熟なココナッツの液状胚乳は飲料として飲む事ができ、固形胚乳も生食する事ができます。

 完熟したココナッツの胚乳を削り取って乾燥させたものは「コプラ」と呼ばれ、お菓子作りなどで使われるココナッツロングやココナッツ粉末は、このコプラを細かくおろした物となっています。

 ココナッツ由来の液体という事ではココナッツミルクがあり、最近ではエスニック料理などの普及もあって一般家庭でも活躍しているのですが、ココナッツミルクはコプラを粉末にしたものを水に浸して弱火で煮込み、浸出した液体をガーゼなどで濾したものとなっていて、ミルクと呼ばれる通り白く脂肪分多く含んだ液体となります。

 また、植物の細胞を培養する培地としてココナッツミルクが使われる事があるのですが、この場合のココナッツミルクはココナッツの液状胚乳の事である事から、正確にはココナッツミルクではなくココナッツジュースの事となり、ココナッツ由来の製品名をややこしくしてくれています。

 ココナッツクリームはコプラから浸出した濃厚な脂肪分を集めたもので、ココナッツミルクの缶詰を静かに置いておくと上澄みに塊りが得られる事がありますが、それがココナッツクリームとして料理などに使われます。

 煮出しただけでココナッツクリームのような濃厚な脂肪分を得られるコプラを圧搾すると液体の油脂が得られ、大人気のココナッツオイルとなります。ヤシ油はココヤシの胚乳から得られる油を指し、他の品種のヤシの果実から得られる油は、アブラヤシの場合はパーム油などと別な名前で呼ばれている事から、ココナッツオイルとヤシ油が同じ物である事が判ります。

 最近、美容効果が高いとしてココナッツウォーターの人気が高まってきています。ココナッツウォーターは未成熟なココナッツの中の液状成分とされる事から、ココナッツジュース以外の何物でもないのですが、美容効果の高さをアピールするために清涼飲料のイメージが強いジュースという言葉を避けてウォーターとした配慮が、またココナッツの世界をややこしくしてしまうように思えています。


第2731回 ポマース普及?



 自分でドレッシングを作るようになった頃、どうせなら体に良い油を使おうとオリーブ油を使ってみる事にしたのですが、初めてのエクストラバージンのオリーブ油はクセが強く、油の味に抵抗感を覚えてしまいました。今では家で使う油のほとんどがオリーブ油となっているのですが、最近のオリーブの不作や円安による値上げには少々不安を感じています。

 値上げによる割高感を少しでも軽減させるためか、最近、オリーブ油の売り場では、それまでは見掛ける事がほとんどなかった「オリーブ・ポマース油」を見るようになってきました。

 オリーブ油は大きく分けると「バージン・オリーブ油」「精製オリーブ油」「オリーブ・ポマース油」に分ける事ができます。バージン・オリーブ油はオリーブの果実のみを原料としていて、遠心分離などで得られた油の中から風味が良好で酸度が低い方が良質とされ、風味や色合いが良く、酸度が0.8%以下のものが最高品質の「エクストラバージン・オリーブ油」とされます。

 精製オリーブ油は文字通り精製したオリーブ油で、バージン・オリーブ油の品質が劣るものに脱酸、脱臭、脱色などの処理を施し、酸度を0.3%以下に調整して作られています。紛らわしいのは日本で「ピュアオリーブ油」として売られているもので、ピュアの名前から純度が高く、エクストラバージンに匹敵すると思われてしまう事もあるのですが、精製オリーブ油に中程度のバージン・オリーブ油を加えて風味付けをし、酸度を1.0%程度に調整したもので、分類的には精製オリーブ油となっています。

 ポマース油は果実に含まれる油分を無駄なく回収するために、バージン・オリーブ油を搾った後の果実から溶剤を使って抽出したもので、本来のオリーブ油とは若干成分的な違いがある事から国際オリーブ協会ではポマース油をオリーブ油と表記する事を禁じ、食用ではなく工業用に使用する事を推奨しています。

 オリーブ・ポマース油を精製して酸度を0.3%以下とした「精製オリーブポマース油」はその国の基準に適していれば「ポマース油」と明記した上で食用として販売が可能とされ、日本ではJASの基準をクリアしたものは「オリーブ油(ポマース油)」として格安で販売されています。

 オリーブ油はヘルシーである事が売りであったため、エクストラバージンか特有の風味に馴染みの薄い人向けの精製オリーブ油がほとんどでしたが、思わぬ価格訴求のポマース油の登場に驚きながら、今後も値上げが心配されてはいますが、それほど大量に使うというものでもないので、これからもエクストラバージンを使っていきたいと考えています。


 

第2730回 共生?強制?



 最近、腸内細菌の細かな働きが知られるようになり、共生という事の大切さを考えさせられてしまいます。種を超えて支え合い、より良く生きる事は素敵な事と思え、自然の素晴らしさを感じさせられます。

 一方的に利益を得る寄生、互いにメリットを与えあう共生、共に自然界では多くの例を見る事ができます。そんな一つの共生関係について意外な疑問が湧き上がり、実は共生ではなかった可能性が出てきています。

 あまり気にする事もなく見掛けてしまう普通の小さな蝶、シジミチョウは、幼虫の頃、蜜を提供する事で蟻たちが天敵から守っているという共生関係にある事が知られています。

 シジミチョウの幼虫が提供する蜜は糖分とアミノ酸を豊富に含んでいる栄養価の高いもので、蟻たちはそれを与えてくれる幼虫の周りに留まって幼虫が天敵から襲われる事がないように守っています。自分を守る手段を持たない幼虫と栄養価の高いエサが欲しい蟻たちの相互共生なのですが、蟻たちがいなければ危険にさらされる幼虫に対し、蟻たちは他にもエサはたくさんあるという利益の価値という点で釣り合いが取れていないという見方をする事ができます。

 不釣り合いな利益による相互共生に疑問を持って行われた研究では、幼虫から蜜を与えられた蟻は、歩行活動が少なくなって幼虫の周辺に長く留まるようになり、攻撃性が高くなって幼虫に近付くものを攻撃するようになる事が観察されています。

 蜜を与えられた蟻の脳内を調べたところ、人間と同じように快感や意欲に関わる物質としてドーパミンが蟻にも存在しますが、そのドーパミンの量が減っている事が確認されています。ドーパミンの量は多過ぎると統合失調症などを引き起こし、少なくなると無気力になる事が知られています。

 統合失調症の治療に処方される薬、レセルピンは脳内のドーパミン量を減少させる事で症状を抑える効果を発揮しますが、レセルピンを健康な蟻に与えてドーパミンの量を減少させたところ、幼虫から蜜を与えられた蟻のように歩行行動が減少する事が判り、幼虫の蜜にはドーパミンの働きを抑えて蟻の行動を操作する作用があるという結論が得られました。

 今後、蟻にとって幼虫の蜜を得る事がどれほどの利益となるのかについての研究が進められるそうですが、ドーパミンの働きを抑えて自分のそばから立ち去りにくく操作する事は理解できるのですが、それでは無気力な蟻が周りにたくさんいるだけの状態になってしまいそうで、攻撃性が増してしっかりと守ってもらえるという部分に何らかの秘密がありそうな気がして、新たな研究成果を待ちたいと思ってしまいます。


第2729回 怖い動物(2)



 大柄で屈強な感じがする雄の種豚を除き、通常はふっくらと丸く、穏やかなイメージがある豚ですが、そのイメージを一変させてくれたトリュフの話は、あくまでもトリュフが発するフェロモンのなせる事で、普段、見掛ける豚はそれほど怖ろしいものではないと思えます。

 そんな豚の姿を変えてしまうような研究が行われ、その研究成果ともいえるマッチョな豚は、食や豚のイメージを変えるだけでなく、食や環境という事に対して新たな問題を提起もしていました。

 中国と韓国の共同による研究チームが「ゲノム編集」と呼ばれる新たな手法によって筋肉の発達を抑制する因子、ミオスタチンに関する遺伝子の働きを抑さえ、筋肉がしっかりと発達する、質の良い赤身が得られる豚の品種改良に成功しています。

 同じような肉質と収量の改善手法は質の良い赤身肉を多く得られる事で知られる牛種、ベルジアン・ブルーでも行われた事があるのですが、ベルジアン・ブルーの場合、何代にもわたって必要な形質を持つ牛を掛け合わせ、農業的に行われる品種改良の結果として誕生しています。

 今回の改良は交配よりも確実で短期間で結果が得られるゲノム編集技術が使われてはいるものの、これまでの品種改良と変わらないものであると研究チームは説明していますが、異論もあり、今後、食の安全や生態系の保全といったさまざまな観点から充分な検討が行われるべき事と思えてきます。

 これまで行われてきた遺伝子組み換え技術は、遺伝子の一部を切り取り、必要な機能を持つ遺伝を組み換える事で人に都合の良い形質を持つ生物を作り出すというものでした。

 組み換えによって作り出された遺伝子は明らかに自然界には存在しないものであり、自然界に放たれてしまうと従来の生物の遺伝子を変更させてしまい、在来の生物を絶滅させてしまうという事も危惧されています。

 それに対しゲノム編集は遺伝子を組み換えるのではなく、必要な遺伝子の働きを活性化したり、不要な遺伝子を抑制したりする事で必要な形質の生物を得るというもので、自然界に起こる突然変異を人為的に行うものと考えられています。

 そのためゲノム編集では遺伝子組み換え技術によって可能となっていた「蛍の光を放つマウス」といったような、本来はあり得ない形質を生物に持たせる事はできませんが、体が大きく育つ、成長の速度が速い、病気に強いなどといった都合の良い品種を作り出す事は可能となっています。

 ゲノム編集は人の都合によって自然界にあり得ないものを作り出す遺伝子組み換えよりも、本来の遺伝子の働きを都合よく操作するものである事から、消費者の抵抗感が少ない事が予想され、遺伝子組み換えよりも普及する可能性が高いと見られています。

 今後、食の世界にも応用される事が確実といえるゲノム編集技術ですが、自然界でも起こっている突然変異を人為的に行うという見方ができる反面、これまでの進化の過程で起こらなかった変異を人の都合で強制的に実行すると考える事もでき、安全性や自然環境への汚染など、多方面からの詳細な検証が必要といえます。存在しなかったものは存在しない方が良いように思えるのは、臆病な性格ゆえなのかと考えてしまいます。


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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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