第2795回 捨てハーブ



 ハーブというと一番大好きなバジルが思い浮かび、それ以外となると代表的なローズマリーやタイム、オレガノなどが浮かんできます。高価なといわれるとサフラン、日本のといわれるとシソ、幅広く利用されるというとミントなどが思い付くのですが、最もたくさん栽培されているといわれると、少し考えてしまいます。

 世界中で最もたくさん栽培されているハーブというと、意外な感じがするのですがパセリといわれます。パセリはセリ科に属するハーブで、料理に使われるようになったのは古代ローマの頃と、非常に古い歴史を持っているのですが、最も栽培されている反面、最も捨てられているハーブともいわれています。

 パセリは料理の彩りとして少量が添えられていて、付け合わせの野菜を食べはしますが、そのまま捨てられてしまうという場面を多く見掛けます。濃い緑色で料理の見栄えを良くするワンポイントとなり、特有の香りが食欲を高める働きがあるのですが、パセリの働きはそれだけに留まらず、寿司に添えられる甘酢漬けのショウガ、ガリのように彩り、香りに加えて食中毒のリスクを低減するともいわれます。

 パセリの原産地である地中海沿岸では、日本と同じように新鮮な魚介類を生で食べる文化が早くから根付いていて、パセリに含まれるクロロフィルなどのポリフェノール類は強い殺菌作用を持つ事から、経験的に料理に添えたり、細かく刻んでトッピングに使うといった利用法が生まれたと考える事ができます。

 パセリ特有の爽やかな香りは精油成分のアピオールによるもので、胃に対して多くの良い働きを持っています。胃液の分泌を促して消化を円滑にしたり、胃の働きを正常化させて胃痛や胃もたれなどの不快感を改善する。胃粘膜を強くして、胃にかかるストレスを軽減する。出過ぎた胃液の逆流を抑え、胸やけを予防するといった働きがいわれており、料理を美味しくいただく上で欠かせない働きという事ができます。

 濃い緑色は栄養価が高いとして知られる緑黄色野菜の仲間である事を示していて、捨ててしまうのは非常にもったいない食材といえます。最近では美肌や美白にも良い働きがある事が知られるようになり、早く捨てられるだけの存在から脱却してほしいと思えてきます。


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第2794回 卵と玉子



 たまごを漢字で書くと「卵」か「玉子」となります。一般的に生物学的には卵が使われ、食材としては玉子と記載されるという使い分けが行われていますが、食材であってもイクラは鮭の卵であり、同じくウズラも卵となっています。

 生物学的な意味での卵は子孫を残す目的を持つ物で、孵化するという事ができるため、普段、身近に接している鶏の卵は食用を目的とした無精卵である事から玉子と書きますが、ちゃんと温めれば孵化する有精卵であっても料理に使う際は玉子と記載されてしまい、その境の曖昧さを感じてしまいます。

 玉子の語源は「玉のような子」、もしくは「子供になる玉」にあるとされますが、玉子という言葉自体が登場するのは室町時代以降の事とされ、普通に玉子で通るようになるのは江戸時代に入ってからの事とされます。

 それ以前の呼び名は殻を持つ事から「殻(かひ)の子」という事で「かひご」と呼ばれていて、当時は卵も「かひ」と読まれ、かひごには「卵子」の文字が当てられる事もありました。

 「たまご」という呼び名が生まれた頃から卵と玉子の境は曖昧であり、そのまま明確な使い分けも決められないで今日に至っている事が判るのですが、少なくとも食材として調理される鶏のたまごが玉子、鶏以外の動物や鶏であっても食べない場合は卵という事だけは確実なように思えます。

 最近、何かと話題になる事が増えてきている玉子かけご飯ですが、殻子かけご飯でなくて良かったと思いながら、TKGではなく玉子かけご飯と呼んでほしいと思ってしまいます。


第2793回 打撃系?



 健康に関する用語は定期的に新しいものが出てくるように思えるのですが、「フレイル」という言葉を最初に聞いた時は、思わず中世のヨーロッパで発展した打撃系の武器を連想してしまいました。

 子供の頃、ファンタジー小説が好きで、フレイルは重装備の騎士が手にする棒の先に鎖が付き、その先に棒状の打撃部が付いた特徴的な武器で、先端の打撃部が棒状だとフレイル、球状だとモーニングスターと呼んで区別されていました。

 最近、耳にしたフレイルはそうした打撃系の武器の事ではなく、日本老年医学会が2014年から提唱し始めた「加齢で起こる心身の機能が低下した状態」を指す言葉となっていて、高齢者の介護が問題となる中、フレイルの予防の重要性がいわれるようになってきています。

 フレイルの語源は英語で「虚弱、脆弱」という意味を持つ「フレイリティ」にあるとされ、体重の減少や歩行速度の低下、筋力の低下、疲れやすさ、活動量の低下といった状態が特徴とされています。

 高齢期に起こる生理的予備機能の低下によってストレスに対する脆弱性が進み、生活機能障害や要介護状態に陥ったり、最悪の場合、死に繋がるとされる事から、フレイルを予防する事は高齢者のQOL(生活の質)を確保する上でも重要な事と思えます。

 また、フレイルにはこれまでの高齢化問題でいわれていたような筋力の低下による動作の敏捷性が失われて転倒しやすくなるといった単純な身体的問題ばかりでなく、認知機能の障害や鬱などの精神的、心理的問題、独居や経済的な困窮という社会的な問題も概念的に含むとされ、フレイルの予防は今後の高齢化社会の最重要項目ともいえます。

 加齢によって筋力や体力が低下する事で動く事が億劫になり、部屋でじっとして過ごす事が多くなってしまい、生活の質が低下するだけでなく、さらに筋力や体力の低下を招くという悪循環がはじまる。活動量の不足や栄養状態の悪化からさらに身体機能の衰えに繋がり、鬱や認知症をはじめとするさまざまな病気に罹りやすくなって寝たきりの状態に陥ってしまうといった例が上げられており、欧米では20年も前から注目されているともいわれます。

 バスや電車を使って生活必需品を自分で買いに行く事ができる。友人の家を訪問したり、家族や友人にアドバイスをする事ができる。補助なしで椅子から立ち上がったり、手すりを使わずに階段を上がる事ができる。週に一度は外出したり、15分以上続けて歩く事ができるといった事ができなくなる事がフレイルとなっている可能性があるとされますが、高齢者の間では意外なほど広くフレイルが浸透しているようにも思えます。

 フレイルの予防には日常の生活を通して筋肉量を維持するために良質なタンパク質を充分に摂り、適度な運動を心掛けて社会との接点を持ち続ける事が大切とされます。高齢者に起こる悪循環ではありますが、若いうちからフレイルの存在を意識して予防に努める事が大事と思えてきます。


第2792回 接する時



 唯一の家族が坊ちゃんという事もあり、猫がいない生活は考えられないのですが、猫アレルギーという人に出会う事もあり、自分が不幸にして猫に対するアレルギーを発症してしまったらと考えると怖ろしいものを感じてしまいます。

 現在、子供の約10%が罹患しているとされる小児喘息(ぜんそく)も猫をはじめとするペットが原因の一つとされていて、子供の頃に動物と触れ合う事ができずに育つという事は、楽しい事を一つ封じられてしまったようで寂しく思えてきます。

 自分が子供だった頃と比べ、小児喘息と診断される子供は増えてきていて、何らかのアレルギーを持つ子供が増えているとされる事から、小児喘息も増加傾向を続けるのかと暗澹たる思いになってしまうのですが、意外にも早い時期に動物と接する事で喘息のリスクが低下する事が判ってきています。

 小児喘息はこの10年で2倍に増えたともいわれ、主な増加要因として受動喫煙と共にペットの存在が上げられ、微細な抜け毛やフケなどがアレルギーに繋がるアレルゲンとなると考えられています。その反面、生後間もなく動物と接する事で喘息を発症するリスクが低下するという研究報告も増えてきていて、動物と喘息に対する相反する意見が存在する事となっていました。

 スウェーデンで行われた研究では、2001年~2010年の間に生まれた101万1051人の子供について、飼い犬や農場の登録データ、喘息の診断や薬の処方についての検討を行い、動物と接する事と喘息についての関連を調査しています。

 実際にデータの分析に成功したのは小学校に上がる前の37万6638人と小学生の27万6298人でしたが、分析の結果、生後1年以内に犬と接触した場合、小学校に上がる前のグループで10%、小学生では13%の喘息の発症が減少したという結果が得られています。

 犬よりも衛生的には劣ると考えられる家畜と接した場合はさらに結果が大きく出ていて、小学校に上がる前のグループで31%、小学生で52%もの喘息になるリスクの低下が確認されました。

 生活環境の衛生度が極端に向上した事、リスク要因が意識されて遠ざけ過ぎてしまった事などが却ってアレルギーを増やしているという指摘もありますが、今回の研究はそうした意見を裏付けるかたちになり、子供が小児喘息にならないようにペットを遠ざけるのではなく、早期に接させておく事がリスクを下げてくれるという事を示してくれたように思えます。


第2791回 飽和の必要



 「脂肪足りて脂肪酸足りず」という言葉がありました。最近ではダイエットの悪役が脂肪から炭水化物に移った事もあって、脂肪酸の働きが再認識されるようになり、脂肪分の多い食事は日常に溢れているのに、特定の脂肪酸が不足してしまうという事だと言葉の意味を理解されやすくなってきています。

 脂肪酸を分類する際、幾つかの分け方があるのですが、その一つに構成している炭素の鎖に二重結合や三重結合を持つか持たないかで分ける方法があります。二重結合や三重結合を持たない脂肪酸は炭素鎖が水素で飽和されている事から飽和脂肪酸、二重、三重の結合を持つ脂肪酸は水素で飽和されていない事から不飽和脂肪酸と呼ばれています。

 同じ炭素量の不飽和脂肪酸と比べると飽和脂肪酸は融点が高くなる傾向があり、常温では固形の脂として健康に悪影響を与えるイメージを持たれています。かつて飽和脂肪酸は血液中のコレステロール値を高くし、将来的に動脈硬化を引き起こすリスクを持つとされましたが、最近の研究では飽和脂肪酸と血液中のコレステロール量とは無関係である事がいわれるようになってきています。

 心臓病、特に心筋梗塞のリスクを高めてしまう事もいわれており、確かに摂取量によって分類したグループを観察すると、摂取量が多いグループではリスクが高まり、少ないグループでは発症リスクが低い事が確認されて関連性が裏付けられているのですが、同時に摂取量が少ないグループでは脳卒中のリスクが顕著に高まる事が判ってきています。

 また、飽和脂肪酸の摂取を気にし過ぎた肉類の摂取不足によるタンパク質の不足も血管を脆くする事に拍車を掛ける可能性があり、適度に脂肪分を含んだ肉類を摂取する事の大切さが窺えます。

 まだまだビタミンやアミノ酸ほどには働きや過不足の弊害が知られていない脂肪酸ですが、何かと話題になる機会が増えてきているようなので、正しい認識が広がればと思っています。


第2790回 ぐらつきリスク



 かつてはお腹の調子を整える程度にしか働きが認識されていなかった腸内細菌も、最近ではさまざまな働きが知られるようになり、健康を考える上で極めて重要な存在という事が判ってきています。

 同じように体内に棲息する細菌である歯周病菌が健康に及ぼす影響も徐々に解明されつつあり、先日行われた研究では歯周病がある程度進行し、歯にぐらつきが生じている場合、糖尿病を発症するリスクが高まる事が確認されていました。

 東京大学の宮脇氏を中心とした研究グループによる2507人の男性会社員を対象とした調査によると、当初、糖尿病を発症した人はいなかったものの、5年に及ぶ追跡調査中に134人が糖尿病を発症し、年齢や肥満の度合い、喫煙、飲酒、高血圧などの影響を除いて検討を行ったところ、歯周病の度合いが高い人は5年以内に糖尿病を発症するリスクが28%程度上昇する事が観察されています。

 対象を年齢層で分けると、26~40歳までの層ではリスクの高まりはそれほど顕著ではないとされますが、41~55歳の層では38%ものリスクの高まりが見られた事から、中、壮年での注意が必要とされています。

 歯周病の度合いの中でも比較的症状が進んだ歯のぐらつきに焦点を当てて結果を検討すると、糖尿病を発症するリスクは89%も上昇する事が判り、歯周病と糖尿病の関連の高さが覗えます。

 虫歯が健康にさまざまな悪影響を与える事は以前からいわれていましたが、今後、さらに研究が進んで歯周病菌そのものが影響を生じるという認識が広まると、腸内細菌に対して行われているような菌活の範囲が広がるようで、共生する難しさを再認識する事になるのかと想像しています。


 

第2789回 溶ける話



 先日、アメリカである清涼飲料の容器の中からネズミの死骸が出てきたというクレームを付けた男性に対し、メーカー側が「もし製造時にネズミが混入し、一定期間、製品に浸されていたのであればネズミの死骸はドロドロに溶けているはず」と反論して消費者の失笑を買うといった事がありました。

 何となくその製品の事を怖ろしく感じてしまうのですが、オレンジジュース程度の酸性でも同じような事が起こるとされ、意外なほど骨をはじめとする組織は酸の影響を受けるものだと、自分で酢締めにして小骨の存在をほとんど感じなくなったコノシロを食べながら思ってしまいます。

 清涼飲料によって骨が溶けるという話は、子供の頃は都市伝説のように聞かされていたのですが、改めて振り返ってみると何を根拠にしていたのか少し不思議に思えてきます。

 清涼飲料の原材料の欄に酸味料としてリン酸が記載されているため、それが原因ではなかったのかと想像しているのですが、酸味料を加えてpHを酸性に傾けている事や、強い炭酸から受ける刺激などが骨に悪影響を与えるイメージに繋がってしまった。リンはカルシウムと結合しやすく、リン酸カルシウムになるとカルシウムは吸収されずに体外に排出されてしまう事などが、清涼飲料が骨を溶かす事の論拠となったように思えます。

 清涼飲料に酸味を持たせる際、酢酸やクエン酸よりもリン酸の方がはるかに原料として安価なために酸味料として使われているのですが、清涼飲料に含まれるリン酸は野菜ジュースとそれほど変わらない量となっています。

 最近行われた研究では、清涼飲料が骨に悪影響を与える事はなく、わずかに高齢の女性の骨粗鬆症に影響する程度とされていて、骨が溶ける事がない事は証明されているのですが、含まれている糖分の多さは世界的な健康に深刻な影響を与えているともいわれます。

 何事もそうですが、適度な距離感の下に上手に付き合う事が大事なのかもしれません。


第2788回 意外な不足?



 飽食の時代といわれて久しく、身の回りにはたくさんの食材が売られています。そんな先進国の食事情として、栄養のバランスが偏ってしまい、食は足りているのに特定の栄養素が不足してしまうという事がいわれるようになってきています。

 先進国における不足しがちな栄養素として、亜鉛の名前を聞くようになってそれなりの時が経過したように思えます。亜鉛不足の原因は小麦粉や白米など、食材が精製され過ぎたために含有量が低下してしまっていて、食を通して充分な量が摂取できていないとされ、食物繊維の過剰摂取や食品添加物として加えられるポリリン酸も亜鉛の吸収を阻害するとされます。

 また、ストレスが掛かると、肝臓ではストレスに対抗する物質であるメタロチオネインが生成され、その際、メタロチオネインの原料となるのが亜鉛で、高ストレス社会では激しく亜鉛が消費されるともいわれます。

 亜鉛不足の典型的な症状として味覚異常が知られています。味覚は舌にある味蕾の中の味細胞で感じ取っていますが、味細胞は非常に新陳代謝が激しく、10~20日で新たな細胞に生まれ変わっていきます。新陳代謝には酵素が関わっており、酵素を構成する成分が亜鉛である事から、亜鉛が不足すると味細胞の新陳代謝が行われず、味覚を正常に感じる事ができなくなります。

 味覚異常が生じると、それまでとは食べ物の味が変わって感じられるようになったり、いつも口の中で何らかの味が感じられるといった症状が見られ、その事がストレスとなり、さらに体内の亜鉛の消費量が増大して亜鉛の不足が深刻になるといった悪いスパイラルにはまってしまう可能性も出てきます。

 日頃からストレスを感じていたり、インスタント食品やスナック菓子を食べる頻度が高い、降圧剤や高脂血症の改善薬などを飲用しているといった人で、最近、食べ物の味が変わってきた、口の中が乾きやすくなってきたという自覚症状がある人は、努めて亜鉛を多く含む食材を生活に取り入れた方が良いのかもしれません。


第2787回 予防事情



 今年も本格的な寒さを前に、インフルエンザの予防接種に関する話題を聞くようになってきました。接種を希望する人が多くなる事からワクチンが不足しがちになり、価格も高騰するのではというありがたくない話も聞かされているので、変な騒動にならなければ良いと思っています。

 予防接種は毒性を弱めた状態の病原体や病原性を不活性化、もしくは死んだ状態の病原体、タンパク質の精製物質などを投与する事で事前に免疫を得ておき、伝染病への感染を抑止するもので、最も効果的で安価な感染拡大予防ともいわれています。

 ウィルスや細菌などの病原体を培養したり、無毒化したりして体内に送り込み、免疫系のシステムを活用して病気に備えるというと最新鋭の科学のように思えますが、予防接種の歴史は意外なほど古く、紀元前1000年頃のインドでは既に行われていました。

 感染力が強く、感染してしまうと治りにくいだけでなく40%近くにもなるとされる高い致死率を持つ天然痘に対して、天然痘に感染した患者の体中にできた膿疱から採取した膿を健康な人に摂取させる事で軽度の症状を発症させ、その後、天然痘に感染しなくなるという人痘法が経験的に行われていました。

 人痘法はトルコでも行われていて、症状が軽い天然痘から採取した液体を接種させる事で感染を防ぐという習慣は、1718年、オスマントルコ駐在大使の妻として現地に滞在したメアリー・ワートリー・モンターギュによってイギリスに紹介され、メアリーは自らの娘に接種させる事で人痘法をイギリスの上流階級に広めています。

 当時の人痘法ではウィルスの弱毒化や不活性化という事が行われていないために、予防接種によって2%程度の死者が出たとされ、天然痘の予防のために天然痘よりもはるかに症状が軽く、治りやすい牛痘のワクチンを使用するようになるには、イギリスの医師、エドワード・ジェンナーの研究を待つ事となります。

 牛の世話や乳搾りなどで日常的に牛に接している人が、本来は牛の病気である牛痘に感染してしまうと、その後、天然痘には罹らないという民間の伝承を元に、牛痘を天然痘のワクチンとして使うという発想に繋がり、ジェンナーは18年に渡って研究を続けて1796年5月14日に使用人の子供、ジェームズ・フィリップスに牛痘の接種を行っています。

 子供の頃に読んだ伝記では、当時の人々は牛痘を接種されると牛になってしまうと怖れたため、ジャンナ―は自らの子供に接種させて効果を実証したと書かれていましたが、実際にはジェンナーが自らの子供に接種させたのは天然痘であり、牛痘接種の7年前の事であったために、免疫を獲得してしまっていたジェンナーの子供は牛痘接種の研究対象にはなれなくなっていました。

 1798年には牛痘を使う種痘法について発表が行われ、ヨーロッパ中に広まっていくのですが、牛になるという怖れは相変わらず根強く、「神が乗った聖なる牛」から得られたものという説明を行い、普及に努めたと伝えられています。

 今日では感染前に免疫を獲得しておいて発症を未然に防ぐ、症状を軽く済ませるという事は普通の事として認識されていますが、免疫系の働きも知られていない頃、経験的に予防接種が行われていたという事には驚かされてしまいます。


第2786回 味噌の世界(2)



 和食に欠かせない調味料である味噌。今日でこそ味噌は調味料の一つとして見られていますが、かつてはおかずの一品であり、日本人にとって主要なタンパク源の一つともなっていました。

 今でも肉味噌やネギ味噌といった料理に味噌がおかずであった事の名残りを見る事ができ、発酵によって大豆の豊富なタンパク質を消化吸収やすい状態にした味噌は、獣の肉を常食としない日本人にとって貴重なタンパク源であったという事ができます。

 そんな味噌の起源というと遣唐使によって中国からもたらされた発酵食品の「醤(しょう、ひしお)」が原形としてあり、醤ができる前の段階のまだ穀物の粒が完全には分解されていない状態でいただくものとして「未醤(みしょう)」と呼んだ事が味噌の語源となったとされます。

 醤を作ろうとしていながら、何故醤ができあがる前の段階で食べるようになったのか。発酵に適した気候を持つ日本という環境を考えると、待てなかったという事は考えにくく、醤になる前の段階で食べる食文化がすでに存在していた事を感じてしまいます。

 縄文時代の後期、すでに確立されていた製法を使って塩が作られ、塩によって食品を保存する事が行われていました。そうした保存食の中には自然に発酵するものがあり、発酵したものはタンパク質が分解されてできた旨味成分を多く持つ事から、未発酵のものよりも美味しい事が経験的に知られるようになったと考える事ができます。

 古墳時代には麹を発酵させる技術が確立されている事から、中国から醤がもたらされる以前から日本では同様の発酵食品が作られていて、そこへ完全に発酵させたものが醤として伝えられ、発酵の途中で完成としていた自分たちの醤を未醤と呼ぶようになったと思えてきます。

 多彩な食文化が花開いていたとされる縄文時代、すでに味噌は各家庭で作られていたのかもしれない、醤の文化圏の中でも独自の製法とされる味噌を見ていると、そんな事を考えてしまいます。


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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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