第2850回 喪失復活?(2)



 我家の猫、坊ちゃんの生誕の地という事もあり、長崎の街は大のお気に入りとなっています。そんな長崎の伝統的郷土菓子でありながら「カスドース」の存在を知らず、後に知ってそのユニークさに驚かされた事があります。

 カスドースは普通に焼き上げたカステラを使って作られるお菓子で、カスドースという名前の最初の二文字、「カス」はカステラの事を示しています。後半部分の「ドース」はポルトガル語の「甘い」という意味の言葉で、二つを合せる事で甘いカステラという造語になっています。

 1550年以降、ポルトガルの商船が出入りするようになった平戸で、カトリックの宣教師たちによって伝えられた南蛮菓子の中にカスドースは含まれていたとされ、当時、卵や砂糖を使うカステラがかなりの贅沢品とされていたのに、そのカステラにさらに手を加え、卵や砂糖を追加して使う事からカスドースは幻のお菓子とされ、黄金色の鮮やかな色合いもあって平戸藩では長らく門外不出のお菓子とされていました。

 作り方は、一旦焼き上げて冷ましたカステラから表面の茶色く焼けた部分を除いて食べやすい大きさの短冊状に切り分け、乾燥させます。乾燥したカステラの短冊を溶いた卵黄に潜らせて、鍋に熱した糖蜜の中で揚げるようにしながら卵黄を固め、グラニュー糖をまぶして仕上げられます。

 今でも完成したカステラにさらに手を加えるというだけでも贅沢なお菓子と思えるのですが、よく考えてみるとカステラを使ってはいますが作り方そのものはフレンチトーストではないかと思えてきます。

 フランスではフレンチトーストは「パンペルデュ」と呼ばれます。ペルデュには「失われた」「ダメになった」といった意味があり、古くなって乾燥し、硬くなってしまったパンを食べるための工夫としてフレンチトーストが誕生したとされています。

 乾燥したバゲットに牛乳と卵を合せたものを染み込ませ、ふっくらと柔らかく焼き上げる事で失われたパンを復活させるのですが、甘いお菓子のように仕上げるのは当時としては贅沢な事であり、それがカスドースの作り方に反映された事と思えます。

 村の共同の窯でパンを焼いていた頃、数日分をまとめて焼く事になりますが、最後の方ではパンが硬くなってしまう事は避けられず、今日でも硬くなったパンを使うスープメニューを見掛ける事があります。

 パンペルデュもそうした工夫から生まれた事とは思えますが、失われたパンという名前が何ともユニークに思え、冷えて硬くなったご飯をお茶漬けにする事で柔らかくする事を失われたご飯と呼んでしまいそうになります。


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第2849回 喪失復活?(1)



 子供の頃、たまに母親が作ってくれた事を思い出し、久々にフレンチトーストを焼いてみる事にしました。ネット上で仕入れたレシピを参考にしたのですが、思いの外、できが良く、それ以来、ゆったりとした週末の朝食メニューの一つとなっています。

 牛乳と卵を合せた調味液を多めに用意し、厚めに切られたパンを浸して一晩寝かせるのですが、翌朝にはほとんどの調味液がパンに染み込み、わずかに残ったものも全体に絡ませるようにしてフライパンに溶かしたバターで時間を掛けて弱火でじっくり焼き上げていきます。

 フレンチトーストという呼び名は、1724年にニューヨークで酒屋を営んでいたジョーゼフ・フレンチが名付けたとされますが、フレンチトースト自体の歴史は非常に古いとされ、最古の記録は4世紀の終わりから5世紀の初め頃にかけて編纂された料理書、「アピキウス」にはもう一つの甘い料理という意味を持つ「アリテル・ドゥルキア」の名前で登場しています。

 アリテル・ドゥルキアは牛乳に浸したパンを焼き上げる事で作られていて、今日のように卵を使っていたのかについては言及がないため不明となっていますが、乾燥して硬くなったパンを美味しく食べるための工夫は古くから行われていた事と想像する事ができます。

 日本ではほとんどの場合、フレンチトーストを焼く際は身近な食パンが使われ、牛乳と卵を混ぜ合せて砂糖を加えた甘い調味液を染み込ませてから焼き上げていますが、製品化されたフレンチトーストは日持ちの事を考慮するために表面だけに味付けが行われていて、フレンチトースト風といった雰囲気に仕上げられています。

 フレンチトーストは世界中に似たようなレシピが存在し、香港では「西多士(サイトーシー)」と呼ばれて喫茶店の軽食メニューとして定番化しています。溶き卵に浸したパンを油で揚げ焼きにし、バターを乗せて供されます。味付けはシロップや蜂蜜が添えられる事が多く、中には二枚のパンを使ってピーナツバターを挟み込んだものも見られています。

 台湾では鉄板焼きの伝統があるため、「法國土司(フォーグオトゥースー)」と呼ばれる朝食メニューは甘い味付けをした溶き卵に浸した食パンを鉄板で焼いて仕上げられています。甘くないものとしては、二枚のパンの間にツナを挟み込んだ塩味のものも見られ、気軽な軽食として食べられています。

 二枚のパンを使って間に具材を挟み込むという手法は各地で採用されているらしく、イタリアの「モッツァレッラ・イン・カロッツァ(馬車に乗ったモッツァレッラ)」は二枚のパンで薄切りにしたモッツァレッラチーズを挟み、溶き卵を付けて焼き上げています。

 牛乳と卵を合せず別々に使う例もあり、スペインのお菓子、トリハスでは砂糖で味を着けた牛乳をパンに染み込ませ、溶き卵を全体に絡ませてからオリーブ油で揚げるという手法が採られています。揚げた後、シナモンシュガーがふられる事が多く、菓子パンのような雰囲気を感じる事ができます。

 辛味を利かせるものも存在し、インドのベンガル地方ではみじん切りにしたタマネギと青唐辛子を溶き卵に加え、パンに絡ませてからマスタード油で焼き、軽く塩をふって仕上げられています。

 長い歴史と広い地域、多くのバリエーションを持つフレンチトーストですが、当面は今のお気に入りのレシピが続きそうだと思ってしまいます。



第2848回 触らぬ...



 殺人タコといわれると、ファンタジー小説に出てきそうな帆船を海中に引き込む事ができそうな巨大なタコを思い浮かべるのですが、最近、地球温暖化の影響で北上が懸念されるヒョウモンダコは体長10cm程度と小さく、可愛らしい姿をしています。

 タコというとどこかユーモラスで、瞬時に体の色を変化させて隠れたり、黒々とした墨を吐いて逃げる姿が思い出され、あまり危険という認識はないのですが、ヒョウモンダコはフグの毒として知られたテトロドトキシンを唾液中に持っていて、噛まれる事による死亡例も報告されています。

 体は小さく泳ぐ事が苦手で、吸盤の力も弱く、墨を蓄える墨汁嚢も退化してしまっていて、海底を這うようにして移動する事から、あまり生存能力に長けているようには思えないのですが、強力な毒を得た事で他のタコのような力が必要なくなった故とも考えられます。

 普段は周囲の岩や海藻などの色に合せたカムフラージュをしているのですが、一旦、刺激を受けると明るい黄色に体の色が変化して、鮮やかな青い輪の模様が浮き上がって自らが毒を持つ危険な生物である事を知らせてきます。輪になった模様が大型ネコ科動物の豹を連想させる事からヒョウモンダコの名前が付けられていて、他のタコとの明確な違いとなっています。

 タコは危険な生物という認識が薄く、磯などで見掛けるとつい手を伸ばしてしまいそうになるのですが、外敵に対しては噛み付いて攻撃してくる事から、思わぬ危険を被る事となります。運良く噛まれずに捕獲したとしても、小さなイイダコなどと勘違いして料理してしまうと、テトロドトキシンは300度の熱でも分解されない事から、経口摂取による中毒を起こす可能性があります。

 元々は温暖な海に棲息していたそうですが、近年、日本海側でも目撃例や捕獲が相次いでおり、生息域が北へと広がっている事や越冬できる環境が整ってきている事が考えられています。

 かつては千葉県以南の太平洋側の暖かい海や沖縄でしか姿が見られなかった事から、あまりヒョウモンダコについての知識も普及しておらず、漁師でさえもイイダコと見間違えてしまう事もあるとされ、今後、注意が必要な海の生物となっています。浜辺で小さなタコを見掛けると、つい可愛いと思ってしまうのですが、命に関わる事にも発展しかねないので、触らぬタコに祟りなしなのかもしれません。


第2847回 昆布違い?



 最近、海外のセレブや日本でも有名モデルの間で人気として、「コンブチャ」の名前を聞くようになってきました。最初にその名を聞いた際は海外でも昆布の利用が広がってきている事から、「昆布茶」の事と思ってしまい、ダイエットやデトックス、体質改善に有効という効能には昆布もずいぶんと高評価されたものだと思ってしまいました。

 その後、利用方法やビン入りで売られている製品の存在など、どこかよく知る昆布茶との違和感を感じて詳しく調べてみると、コンブチャと昆布茶は全くの別物である事を知り、コンブチャはかつて大流行した「紅茶キノコ」である事が判りました。

 紅茶キノコのルーツは東モンゴルにあるとされ、シベリアに伝えられてよく飲まれるようになったとされます。砂糖を加えた紅茶を培地として使い、産膜性の酢酸菌を培養する事で得られる発酵飲料で、培養した酢酸菌のコロニーが作るセルロースのゲルがキノコのように見える事から紅茶キノコの名で呼ばれるようになっています。

 キノコと呼ばれてはいても真菌が作り出す子実体ではない事から厳密にはキノコではなく、層状になるセルロースの膜が英語圏に紹介された際、昆布と誤認された事が欧米におけるコンブチャの名前の由来とされています。

 日本では1975年頃に大変なブームとなったそうですが、その後は急速に廃れてしまい、日本における健康食品の歴史の中で大ブームを巻き起こしたものとしてその名を聞くだけとなっています。

 流行は一定の周期で繰り返されるものとはいわれますが、紅茶キノコがコンブチャとして再流行しようとしている背景には、欧米で評価が高まってきている発酵食品のブームがあるとされます。

 1975年当時は紅茶キノコの主要な菌は産膜性酢酸菌と酵母とされ、病原性はなく安全とされながらもあまり有効性も評価されなかった事がブームに水を注す事となりましたが、今回は共生する大量の乳酸菌の存在や産生される酵素、アミノ酸やポリフェノール、各種ビタミン類などが多くの効能に繋がる事もいわれるようになってきています。

 シベリアで長寿で知られる村では各家庭で手作りされているそうで、日常的に飲用していると良い効果がありそうに思えます。昆布とは関係ないコンブチャとしての再登場ですが、今度は急速に盛り上がり、廃れてしまうといった事がない事を願ってしまいます。


第2846回 糸としらたき



 好きな食材の一つにコンニャクがあり、普通のコンニャクから刺身、麺類、ゼリー、変わったところではレバ刺しの代替品といったものまで幅広く食べています。子供の頃は食感が面白くて食べていた感じなのですが、大人になってからは滋味溢れる風味もお気に入りとなっています。

 コンニャクはミャンマーやマレーシア、タイなどの東南アジアが原産地とされ、根菜類の農耕文化が北方へと伝播する過程で縄文時代の日本にも伝えられたと考えられています。

 コンニャクを食用とする記録は紀元前700年頃の唐代の中国に残されていて、コンニャク芋を灰汁で煮て食べたと伝えられています。四川省や湖北省では栽培された記録も残されている事から、今日に繋がるコンニャクの食べ方は中国から伝えられたと思われます。

 仏教の伝来と共に精進料理の食材として伝えられた、遣唐使が持ち帰ったと諸説がありますが、伝来当時のコンニャクは医薬品として珍重されていて、貴族などの一部の人しか接する事ができないものとなっていました。

 日本におけるコンニャクに関する記載で最古のものは平安時代に書かれた「倭名類聚抄」で、コンニャクについて「根は白く、灰汁で煮込むと固まり、酢をつけて食べる」と説明しています。コンニャクを凝固させるために使われる灰汁のアルカリ分が残されている事から、酢にはそれを中和させてマイルドな味にするという生活の知恵も含まれているように思えます。

 現在、コンニャク芋の半数は生芋の状態でコンニャク作りに使われ、残りの半分は乾燥させてコンニャク精粉にされています。コンニャク芋を粉にするという製法は江戸時代の水戸藩において考案されたもので、乾燥させて粉に挽いたものに風を当て、不純物や皮、デンプンなどを除くと白いコンニャクを得る事ができます。

 白く仕上げられるコンニャク精粉を使い、凝固する前にたくさんの小さな穴を開けた竹筒などで押し出すと糸状のコンニャクを作る事ができ、竹筒の先から滝のように下がる白い姿から「しらたき」の名前が生まれています。

 関西では板状のコンニャクから糸にように細く切り出したコンニャクが食べられていて、その形状から糸コンニャクと呼ばれています。よくしらたきは白いコンニャク、糸コンニャクは黒っぽいコンニャクという分け方をしますが、ルーツを辿ると両者は作り方の異なる別物となっています。

 昔の感覚で灰色のコンニャクは生芋を使ったコンニャク。白いコンニャクはコンニャク精粉を使っていると考えてしまうのですが、今日、灰色のコンニャクはそれらしく見せるために海藻が加えられているものも多く、野趣溢れるコンニャクは小規模な生産の手作りのものが主流となってきています。

 かなりの種類のコンニャクを食べてきたと自負していますが、コンニャクを凍らせた「凍みコンニャク」は未経験で、単純に凍らせて解凍し、料理に使うだけで驚くほど食感が変化するとの事なので、近いうちに試してみなければと思っています。


第2845回 特権的飲料(3)



 最近のお気に入りが近所のコンビニの生乳にこだわったというカフェラテという事もあり、生乳という言葉をよく聞くようになったと感じています。生乳とは文字通り搾ったままの生の乳で、牛乳本来の味わいを持つものと思える反面、普段接している牛乳や成分無調整乳などとの違いが気になったりもします。

 生乳と牛乳の違いは加熱の有無で、乳牛から搾り、不純物を除いた乳が生乳、加熱殺菌を行ったものが牛乳となります。実際には口当たりを良くするために乳タンパクの粒子を整えるホモジナイズ加工などの多くの工程を経て牛乳は作られていて、無脂乳固形分や乳脂肪分、細菌数などの基準が定められています。

 成分無調整牛乳は生乳から牛乳へ加工する際、何も足したり除いたりせず加熱殺菌を行ったのみの牛乳で、多くの場合、通常の牛乳よりも乳脂肪分が多く、濃厚な味わいが特徴となっています。

 通常の牛乳と成分無調整牛乳の乳脂肪分の違いは2.0~2.5%程度となる事が多く、通常の牛乳ではわずかに乳脂肪分を除いた分、すっきりとした味わいになるとされ、好みが分かれるところとなっています。

 成分的に大きな違いがない生乳と成分無調整牛乳ですが、最大の違いは殺菌加工を施す事によって細菌の繁殖による健康リスクを大幅に低減させている事で、牛乳を利用する食文化を通して培われてきた技術の賜物という事ができます。ところが最近になって生乳を飲用するメリットがいわれるようになってきています。

 生乳は加熱加工が施されていないために含まれている酵素が失活しておらず、その酵素の働きが健康増進に役立つ。熱によってさまざまなタンパク質が変質していない事や、繁殖している細菌の中にも善玉菌がいて、それらがアレルギーの治療に有効な因子となる。余分な加工を施していない事から、牛乳本来の美味しさがあるといった事がいわれていますが、安全を確保するために行われる加工をしない事による安全性への懸念と比較してどのくらいのメリットがあるのかと考えてしまいます。

 米国のCDC(疾病対策予防センター)によると、生乳が原因で健康を害してしまう可能性は低温殺菌を施した牛乳と比べて150倍になると試算されていて、メリットよりもリスクが勝るようにも思えます。新鮮なものは生でという日本人気質もあるのですが、やはり生乳ではなく牛乳をと思ってしまいます。


第2844回 特権的飲物(2)



 牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を分解できるかどうかは別として、牛乳はスーパーやコンビニ、自動販売機でも気軽に購入する事ができ、安全で健康的な飲物として接する事ができます。体内にラクトースを分解できる酵素、ラクターゼを持つ乳児や約25%の大人は牛乳を何事もなく飲用し、その栄養価に与る事ができる特権を持っているという事ができますが、牛乳の歴史を見ると今日のように何のリスクも負う事なく牛乳に接する事ができるという事も特権的な事のように思えてきます。

 18世紀から19世紀にかけて牛乳は決して安全な飲物という事ができず、食中毒による死亡例も見られていました。「奴隷解放の父」として知られ、最も偉大な大統領の一人にも数えられるエイブラハム・リンカーンの母、ナンシー・ハンクスも牛乳による食中毒が死因とされ、当時の牛乳の安全性の低さを覗う事ができます。

 北アメリカ大陸を原産地としたマルバフジバカマは広葉樹林帯の森林や牧草地、荒地などに広く繁茂していて、広大な牧場で自由に牧草を食んでいた乳牛が食べてしまうという事も日常的に行われていました。

 マルバフジバカマにはトリメトルという神経性の有毒成分が含まれていて、乳牛がマルバフジバカマを食べると肉や牛乳に毒素が混入してしまいます。マルバフジバカマを食べた乳牛の肉や牛乳を摂取すると人も有毒成分にさらされる事になり、中毒症状を引き起こしてしまいます。

 19世紀の初頭、ヨーロッパからアメリカ中西部に多くの人が入植し、牛の放牧を開始すると牛たちはその地に自生するマルバフジバカマを食べ、その牛乳を飲んだ人が食中毒を起こす事から「ミルク病」と呼ばれる症状が蔓延する事となります。

 ミルク病の原因がマルバフジバカマに含まれる毒素によるものと判明するには数十年を要し、その間に何百人もの人がミルク病で命を落とし、リンカーンの母親もその犠牲者の一人とされています。

 マルバフジバカマによるミルク病に限らず、糖質やタンパク質を豊富に含んだ牛乳はさまざまな細菌の温床となり、中には大腸菌やリステア菌、サルモネラ菌や腸チフスといった危険な菌が繁殖するという危険も衛生管理がしっかりしていなかった時代には見られていました。

 問題の解決に繋がったのは細菌学者のルイ・パスツールがワインの腐敗防止のために考案した「低温殺菌法(パスチャライゼーション)」で、加熱によって有害な微生物を殺菌するという手法が牛乳にも応用できると考えられ、以降、牛乳の安全性を大きく高める事となります。

 日本では超高温瞬間殺菌が主流となっていますが、欧米では低温殺菌が行われていて、飼育方法の工夫や殺菌技術の発達、流通の整備など、多くの技術革新が牛乳を安全で健康的な飲物に変えてくれたという事ができ、現代に生きる私達の特権という事ができると思えます。


第2843回 特権的飲料(1)



 俳優のアーノルド・シュワルツェネッガ―の一言、「牛乳なんて赤ん坊の飲物。大人になったらビールを飲むものだ」には納得させられるものがあります。大人になったからビールを飲もうというのではなく、牛乳を飲む事は赤ん坊の特権だと思えるからです。

 多くの大人は成長の過程において牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を分解するための酵素、ラクターゼを失ってしまい、乳児期を過ぎると乳糖を消化する事ができなくなってしまいます。世界の成人の約75%が牛乳を消化できない状態にあるとされ、牛乳を飲んで消化できるのは乳児期の子供に与えられた特権という事ができます。

 人は生まれてから乳を栄養源として成長を始めますが、よちよち歩きをし始める頃には徐々に乳を卒業し、次の食事へと内容が変化していきます。その頃から体内でラクターゼが作られる量が減少を始め、少しずつ乳糖が消化できない体へと変化していきます。

 人の進化の過程を考えてみると、牛や羊などの家畜を飼育し始めたのはごく最近の事という事ができ、身近に存在する乳といえば母乳が中心であった事が考えられます。

 乳児にとって母乳は容易に手に入れる事ができ、安全性や栄養価が高い優れた栄養源である事から、母乳を主食とし続ける事に問題はないように思えます。しかし、子供が食事を母乳に依存し続ける事は母親の庇護下に置かれ続ける事を意味し、次世代を担い、子孫を繁殖させるという生物としての目的に反する事になります。

 また、母乳を与え続ける事は母体の負担ともなりえる事から、ラクターゼが減少して乳を消化できない体となっていく事は、強制的な親離れを体が促しているようにも思え、大人になって牛乳を飲み、お腹がゴロゴロしてくるというのは食の逆行に対する罰を体が与えているようにも思えてきます。

 幸運にも75%の大人にならなかった人や牛乳を飲む頻度が高く、また体がラクターゼを作ってくれるようになった人も牛乳の美味しさと栄養を享受できる特権を得ているという事ができ、大いにその恩恵に与るべきと思ってしまいます。


 

第2842回 薄毛デマ?



 最近、食品に含まれるコレステロールと血液中のコレステロール値が無関係であるという認識が広まってきていて、以前のように卵が悪者視されなくなった事を喜んでいます。栄養価が高く、料理のバリエーションが豊富で、しかも美味しいという優れた食材でもある事から、健康のために卵を食べないという事はもったいないと思っていました。

 そんな中、卵ファンの増加に大きく貢献したと思える卵かけご飯について、おかしな迷信が広まっている事を知りました。シンプルで奥深く、バリエーションの多さから飽きのこない卵かけご飯ですが、食べ過ぎると薄毛になるといわれています。

 おそらくネタ元となったのは、半世紀近く前に行われたマウスに大量の生の卵白を与え続けた実験で、卵白に含まれているアビジンという物質がビタミンBの一種であるビオチンと強力に結合して消化吸収を妨げる事から、ビオチン不足を起こして皮膚の炎症や脱毛が起こるといった事が関連していると思えます。

 アビジンは低分子のタンパク質の一種で、アビジン分子一つは四つの手でビオチンと結合する事から、一つのアビジンは四つのビオチンの吸収を阻害する事となってしまいます。

 そのため再び卵の危険性を訴えるといった意見も見られていますが、ビオチン不足によって健康を害するにはかなりの生の卵白が必要となり、現実的にはありえない事や卵かけご飯ファンの中には濃厚な味を求めて卵黄だけを使う人がいる事を考えると、根拠の薄さを感じてしまいます。

 ビオチンは豆類やレバーなどに多く含まれ、腸内細菌によっても作り出されている事から、何事もバランスが大事といつもの結論に達してしまうように思えてきます。


 

第2841回 仮想の水



 コンピューターグラフィックスの発達もあり、仮想現実を表す「バーチャル」という言葉も身近なものとなって、日常的に聞くものとなってきました。そんなバーチャルを冠した言葉の一つとして、「バーチャルウォーター」という考え方があります。

 「仮想水」とも呼ばれるバーチャルウォーターは、ある食品について「作るためにどれだけの新鮮な水が必要となるのか」を表す概念とされます。

 一説には世界の水の消費量のうち70%は農業用水として使われているそうで、人口の増加もあり新鮮な水の需要は年に1兆リットルの割合で増え続けているともいわれます。

 普段、あまり意識する事のない考え方ですが、身近な卵一つにしても鶏が産卵できるように毎日食べる飼料に使う小麦やトウモロコシ、大豆などの穀物を生産するために使われる農業用水、鶏の飲み水や洗卵に使われる水などを合計していくと、卵を一つ得るためには200リットルもの水が使われている事になるといいます。

 あまり水分を含んでいない印象があるパンも原材料となる小麦の栽培に多くの水を使う事から、1トン近い水が使われているとされ、世界の農業用水の15%は小麦を作るために使われているという事にも驚かされてしまいます。

 思想家のレスター・ブラウンが予言した「21世紀は新鮮な水を石油に代わる戦略物資として奪い合う世紀になるだろう」という言葉が現実味を帯びてきたように感じられながら、食べ物を巡るさまざまな考え方をしっかり理解して接していかなければと思っています。


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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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