第2872回 抗生剤の役目



 抗生物質は細菌に対抗する薬剤であり、感染症の中で細菌性の疾患に対して使用するものとなっています。風邪をひいてしまった場合、風邪には細菌性とウィルス性があり、細菌性の風邪の場合、抗生物質を処方する事は適切かもしれませんが、インフルエンザなどのウィルス性の風邪の場合、抗生物質の投与は無意味で適切な処方とはいえなくなります。

 場合によっては腸内細菌が抗生物質の影響を受けてしまい、免疫力が低下してしまう事もあるので、インフルエンザに対して抗生物質を処方する医師は、多くの患者が風邪という事で抗生物質を欲しがる事から、抗生物質と細菌、ウィルスの関係を説明するのが面倒で処方しているのだろうかと疑ってみたりもするのですが、最近では少々事情が変わってきています。

 インフルエンザに感染した場合、2、3日の潜伏期間の後、急激に高熱や咳、関節痛などの症状が生じます。細菌性の風邪よりも症状が重篤になりやすく、急激に発生する事は体内でのウィルスの増殖力の高さに由来するといわれます。

 そんなインフルエンザウィルスに対抗するのが抗ウィルス薬で、抗生物質のように感染の原因となっている細菌を殺すのではなく、ウィルスが増殖する力を抑え込んで、症状の発生を防ぎ、自然治癒に繋げていく働きを持っています。そのため抗ウィルス薬の使用は時間との闘いとなっていて、感染後48時間以内に服用しないとウィルスが増殖してしまい、インフルエンザの症状に悩まされる事となってしまいます。

 インフルエンザウィルスに感染した後、適切な時期に抗ウィルス薬が投与されると、ウィルスが分裂する際に必要となる酵素の働きが阻害され、ウィルスは増殖する事ができなくなり、インフルエンザの発症を防ぐ事ができます。重篤化する事もある不快な症状を未然に防ぐ事ができた事から、抗ウィルス薬の恩恵は大きいと思えるのですが、抗ウィルス薬の使用によってある困った減少が見られるようになってきました。

 人はウィルスに感染し、症状が治癒する過程で体内の免疫システムに抗体としてウィルスの情報が蓄えられ、それ以降、同じウィルスが体内に入り込んでも免疫によって感染しないように守られるようになります。しかし、抗ウィルス薬を使用する事で体内でウィルスの増殖が抑え込まれてしまうためにウィルスの数が少なく、感染から充分な情報が得られないために、作る事ができる抗体の数の不足によって同じウィルスに何度も感染し、インフルエンザを再発してしまうといった現象が見られています。

 そのため最近、抗ウィルス薬に抗生物質のクラリスを併せて処方する例が見られるようになってきています。クラリスはマクロライド系の抗生物質で、喉や気管支、肺などの感染症を治療するための薬剤となっていて、ウィルスに対しては効力を持っていないのですが、免疫力を向上させる働きがある事が判ってきています。

 インフルエンザのウィルスは気道で増殖しますが、クラリスを投与する事で粘膜の免疫力を強化し、ウィルスの排除を促進する事ができます。抗ウィルス薬で体内のウィルスの増殖を抑え、それによって充分な抗体ができない事を粘膜の免疫力を高める事で再度の感染を防ぐ。症状の発生と再感染を防ぐという二段構えの意味から、一見ウィルス感染に無意味と思える抗生物質の処方が行われています。


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第2871回 膜への思い



 相変わらずスポーツ観戦とは無縁な日常を送っているのですが、好きな選手がいる関係でバイクレースの世界選手権だけは観ています。そんなバイクレースの最高峰クラスの有望な選手の間で、ある時期を境に「腕上がり」という症状がいわれるようになり、選手たちを悩ませるようになっていました。

 腕上がりとは正式には「慢性筋区画症候群」と呼ばれ、筋肉とそれをとり巻く筋膜が関わる慢性疾患とされます。バイクレースはバイクという乗り物を走らせてその速さを競う事から、それほど体力は必要ではない感じがしてしまうのですが、実際には大きな出力を持つバイクを制御するための大きな体力が要求され、レース中には大きな負荷が選手たちの筋肉には掛かっています。

 大きな負荷が掛かり続ける筋肉には血流が増大し、平常時の20%ほども筋肉の太さが増すといわれます。筋肉を覆う筋膜にはほとんど伸縮性がない事から、膨れ上がった筋肉は筋膜に圧迫される形となり、血流が阻害されたり、しびれや痛みを生じる事で選手のアスリートとしてのパフォーマンスを大きく低下させる事となります。

 あくまでもトップクラスのアスリートの世界の事であり、日常的に一般人が筋肉と筋膜について意識する事はないと思っていたのですが、最近になって一般人の間でも筋膜の状態について意識しなければならないような事がいわれるようになってきています。

 筋膜は皮膚の下、全身の筋肉をボディスーツのように覆っているのですが、日常の生活や動きの癖などによってよじれや歪みが生じていて、それが慢性的な肩凝りや腰痛の原因になっているとされ、よじれや歪みを解放する筋膜リリースが話題となってきています。

 筋膜の歪みを把握した上でその歪みを補正するためのストレッチを行ったり、歪みを軽減する方向へのマッサージを行う事で慢性的な肩凝りや腰痛を軽減する事ができるとされますが、筋膜リリースの効果はそれだけに留まらず、糖尿病にも良い影響を与えるといわれます。

 糖尿病の患者の筋膜では糖化が起こって筋肉や関節が動き辛い状態になっているとされ、筋膜リリースによって筋膜の状態を修正する事で筋肉や関節が動きやすい状態を回復し、筋肉がよく動く事で血液中の糖分がエネルギーとして消費される事が血糖値の低下、糖尿病の症状の改善に関わっていると考えられています。

 実際に糖尿病の診断基準に使われる指標、「HbA1c」の数値の低下も観察されている事から、今後、健康管理という点からも筋膜リリースは重要な要素となってくるのかもしれません。


第2870回 硝酸性窒素(3)



 緑内障は、かつては眼圧が高まり、圧迫された視神経が死滅して視力を失っていく疾患とされていましたが、正常眼圧の範囲内でも視神経の障害が起こる「正常眼圧緑内障」の存在が知られるようになると、緑内障は視神経の障害を引き起こす疾患と解釈され、眼圧はその障害が起こる原因の一つと考えられるようになっています。

 現在でも視神経に障害が起こると回復は不可能とされる事から、緑内障は予防と早期発見、早期治療が大切な疾患とされていますが、初期の段階では視野の一部に黒点などの欠けが見られるだけという事もあり、ある程度症状が進まないと気付きにくいという困った疾患ともなっています。

 日々、多くの情報を取り入れる視力に関わる事であり、失われた視野は回復しないとなると、できるだけ無縁であってほしいと思ってしまうのですが、日本では40歳以上の成人の罹患率は5%とされ、20人に1人は緑内障を発症しているとされます。

 そのため日常の生活を通した予防こそが最重要と思えるのですが、そんな緑内障の予防に野菜に含まれるある成分が注目を集めています。野菜に含まれる緑内障を予防してくれる成分とは、肥料の使用によって土壌や野菜の中に多く含まれ、地下水を汚染するとされた硝酸性窒素で、さまざまな健康への懸念が指摘されていただけに、少々意外な感じがしてしまいます。

 ニトログリセリンが狭心症の症状を緩和させる事が知られながら、その詳細なメカニズムは不明という状態が続き、有名なバイアグラの開発において一酸化窒素の働きが解明されて、血液中の一酸化窒素が血管を拡張する事が今日知られるようになっていますが、一酸化窒素の働きは血管の拡張だけでなく、神経の伝達物質として働く事も知られるようになってきています。

 一酸化窒素による神経の伝達が円滑に行われない事で眼球内の房水の調節がうまく行われなくなり、それが緑内障を引き起こしている事が示唆され、食材に含まれる成分の中で一酸化窒素の材料となる硝酸性窒素が着目され、硝酸性窒素を多く含む葉物野菜を日常的に食べる事で緑内障の予防ができる可能性が出てきています。

 実際に葉物野菜を日常的に食べているグループとたまにしか食べないグループの間では、有意に緑内障の発症率の違いが観察されており、硝酸性窒素の摂取が緑内障の予防に繋がっている事が覗えます。

 硝酸性窒素というと体内で発ガン物質を作り出してしまうとされる事が気になりますが、葉物野菜には発ガンを抑制するビタミン類やカロテン、食物繊維、ポリフェノール類も多く、健康効果の方が優れているとされます。そこへ新たな効能も加わり、硝酸性窒素の評価も変わってくるのではと思えています。


第2869回 硝酸性窒素(2)



 硝酸性窒素の危険性がいわれる際、化学肥料を使って近代的な手法で栽培したために野菜の中に多くの硝酸性窒素が含まれ、昔ながらの有機栽培をしたものには含まれている量が少なく安全であるとした意見を聞かされる事があります。

 しかし、植物の栽培を行う事はその土地の土壌中に含まれる栄養素を植物の中に取り込ませ、それを収穫して持ち去ってしまう事から、肥料という形で栄養素を補給しなければ継続的な畑の使用が困難となるため、何らかの肥料を散布する必要が生じます。その肥料に欠かせないのが窒素であり、土壌中の窒素は硝酸性窒素へと変化してしまいます。

 また、土壌中の硝酸菌も硝酸性窒素を作り出す事から、堆肥などの昔ながらの肥料を用いても土壌中の窒素が硝酸性窒素となる事は避けられず、有機栽培の作物であっても硝酸性窒素を含み、有機栽培だから安全とはいえない事が判ります。

 発ガン性についても硝酸態窒素が還元されて亜硝酸態窒素となると発ガン性を持つニトロソ化合物を増やすとされ、特に肉や魚に含まれるアミンと結合したニトロソアミンには強力な発ガン性があるとされるのですが、硝酸態窒素がどの程度の亜硝酸態窒素に還元されるのかは明確にされておらず、硝酸性窒素の摂取による発ガンの決め手となる研究成果は得られていないとされます。

 その反面、野菜にはビタミンやミネラル類、食物繊維やポリフェノールなどのガンの予防効果を持つ成分も豊富に含まれており、それらの働きでガンを抑制する効果の方が大きいという意見もあり、WHO(世界保健機構)も野菜に含まれている硝酸性窒素は大人には健康被害を与えないという立場を採っています。

 1950年代のアメリカで赤ん坊の離乳食として裏ごししたホウレン草を与えたところ、赤ん坊の顔色が真っ青になり、死に至るという痛ましい事件が起こりました。278名の赤ん坊が同様の中毒症状を起こし、39名が亡くなったとされ、ブルーベイビー症候群と呼ばれた症状はホウレン草に含まれていた硝酸態窒素が体内で還元されて亜硝酸態窒素に変化し、ヘモグロビンをメトヘモグロビンに変化させた事で起こったと考えられていました。

 その後、50年近くが経過した1998年になってブルベイビー症候群の原因はホウレン草に含まれていた硝酸態窒素ではなく、飲み水などの生活用水として使用していた地下水に含まれていた硝酸菌によって作り出された大量の亜硝酸が原因であり、地下水の汚染が引き起こしていたと結論付けられていて、野菜の硝酸性窒素ではなく細菌汚染による食中毒であった事が判ります。

 硝酸性窒素による健康リスクとそうではないという反証。安全なのか危険なのか、困惑してしまいそうな感じがするのですが、硝酸性窒素は多くの誤解を受けている、そのような印象を強く持ってしまいます。


第2868回 硝酸性窒素(1)



 以前、中華料理をいただいていて、餃子の餡の断面部分が赤みを帯びている事に気が付きました。充分に中まで火が通っていない感じだったのでその事を店員さんに告げると、丁寧に謝罪をされた後、「すぐに代わりをお持ちします」と皿を下げ、しばらくして新たに焼かれたものが届けられました。

 先程の事があるので注意しながら半分に切って断面を見ると、また挽き肉を練った餡は赤みを帯びていました。皮の感じから先程のものより時間を掛けて焼かれている事が判り、加熱が充分ではない事を告げた後だけにそれなりの注意をされていたはずなのですが、同じような状態という事を不思議に感じながら完全に火が通っていない肉類が苦手な事を告げ、餃子の注文をキャンセルさせていただくという事がありました。

 「気を付けてはいるのですが、年に1、2回はこんな事があるのです」と申し訳なさそうに謝罪される店員さんに、私も生肉が苦手で神経質過ぎる事をお詫びして店を出ました。

 帰り道、車を運転しながらふと、餡として挽き肉に練り込まれた野菜類の中に肥料として与えられた窒素から生じた硝酸が多く含まれていて、それが食材や調味料に含まれるナトリウムなどと結合して肉を赤く発色させていたのではないかと考えてしまいました。

 硝酸ナトリウムはハムやソーセージを赤みを帯びた色に発色させたり、肉の結着性を高めて弾力のある食感を作り出したり、肉同士のまとまりを良くしてくれるだけでなく、食中毒を引き起こすボツリヌス菌の繁殖を防ぐ働きがあり、一般的なハムやソーセージに使われているのを多く見掛ける事ができます。

 窒素は肥料として野菜の育成に欠かせない要素として使われる事から、野菜、特に葉物野菜に硝酸イオンのような酸化された窒素として多く含まれているとされ、餃子の餡に使われたキャベツや白菜、ニラなどに含まれていたものが挽き肉を赤く発色させていたのかもしれません。

 肥料として散布された窒素は酸化されて硝酸態窒素となり、亜硝酸態窒素も含めて硝酸性窒素と呼ばれて野菜の中に含まれるとされます。また、水に溶けやすい事から土壌を通過して地下水に入り込み、井戸水などにも含まれているともいわれます。

 一説には田畑がある平野の下を通過した地下水には硝酸性窒素が含まれているともいわれ、以前、何かの番組で熊本県知事が寛いだ雰囲気のインタビューを受けていて、これから取り組むべき問題として地下水の硝酸性窒素汚染を口にする場面を見掛けた事があり、水処として知られた熊本も無縁ではない事と思えます。

 硝酸性窒素が問題視される際、必ずいわれる事が、これまでにかなりの量の化学肥料が使用された結果、土壌中に相当量の硝酸性窒素が拡散されており、それらは徐々に浸透して地下水を汚染する。体内に入った硝酸性窒素は肉や魚に含まれるアミノ酸のアミンと結合してニトロソアミンという強力な発ガン物質となる。乳児が硝酸性窒素を摂取した場合、血液中のヘモグロビンが酸化されてメトヘモグロビンとなり、酸欠症状を起こして最悪の場合、乳児の突然死を引き起こす事もあるといった事がいわれ、かなり危険なものという感じがしてしまいます。

 健康を考えてサラダや野菜ジュースなどを摂取する人が見落としがちな野菜に隠れたリスクのようにもいわれ、栽培方法から注意しておかなければ野菜を多く摂る事が不健康に繋がるような印象も受けてしまいます。

 すでに散布された化学肥料の事を考えると、避けられないリスクのようにも思え、避けられない危険という感じもしてくるのですが、本当にそこまでの危険が身近な野菜に潜んでいるのか、そんな疑問も浮かんできます。


 

第2867回 水素の250年



 250年というと、かなり長い時間という感じがしてくるのですが、人と水素が出会って今年で250年になります。よく生誕○○年といった事がいわれますが、宇宙が誕生してから38万年後に水素は生まれたとされるので、生誕でいえば138億年という事になります。

 水素と人との出会いは1766年、貴族出身の科学者、ヘンリー・キャベンディッシュの手によって金属と酸を反応させる事で気体としての分離が行われ、実現する事となりました。

 キャベンディッシュによる水素の発見は、金属と強酸を反応させる事で生じた気体を電気火花を使って酸素と反応させて水が生じる事の確認に繋がり、水が化合物である事を示す事にも繋がっています。

 キャベンディッシュによって発見された気体は、酸素と反応する事で水を生み出すと解釈された事から、1783年にはラヴォアジエによってラテン語で水を意味する「ヒュドール」と生むという意味の「ゲネン」を組み合わせた「ハイドロジェン」という名前が与えられ、日本でも水の素として水素と呼ばれるようになっています。

 水素は宇宙で最も豊富に存在する元素とされ、解明が進められているダークマターやダークエネルギーを除いた全宇宙の質量の4分の3を占めるとされ、全原子の90%以上が水素である事から、宇宙でも非常に重要な元素である事が判ります。

 地球上にも豊富にあるのですが、そのほとんどは水素原子が2個結合した水素分子の状態ではなく、水素原子2個に酸素が一つ結合した水の状態にあり、海水として地球の表面を覆っています。

 出会いから250年後の現在、水素は燃料電池や水素燃料として注目を集めるようになっています。普段、あまり意識する事はありませんが、私達を構成する細胞も水素イオンのやり取りという水素エネルギーで動いています。宇宙の根源であり、将来的に超電導素材の主役にもなるといわれる水素に、これからもよろしくと伝えたくなってしまいます。


第2866回 AIという未来(2)



 これまで幾度かAI(人工知能)が話題となり、ブームとして取り上げられた事があるのですが、その後、ブームは一過性のものとして過ぎ去ってしまっていました。しかし、昨今のコンピューターの進化は、AIの発展をよりリアルなものとしていて、先日も今後のAIの発達によって多くの仕事が機械に取って代わられるといったショッキングな予想がされていました。

 感性が問われる部分ではAIは人間に取って代わる事はできないという意見もありますが、コンピューター音楽の世界では早くから予めコード進行を決めておけば、コード進行によって曲調を判断し、そのコードの中で使用できる音階を使って自動で作曲を行うといったソフトが存在していて、感性もアルゴリズムに置き換える事が可能と思えてきます。

 そんな中、料理人はAIで代用する事はできないという意見があり、興味深く思ってしまいました。料理はレシピが存在するように、数値化して再現する事が可能な最たるものともいえます。しかし、微妙なさじ加減が最終的な完成度を大きく左右し、長年修業を積んだ職人の技が活きる分野でもあります。

 基本的なレシピは固定的であっても個体差がある素材の持ち味やその日の気温、湿度といった多くの不確定な部分が微妙なさじ加減を要求し、鋭敏な感性で料理をまとめ上げるのが職人の技となるのですが、各種のセンサーによって細かく情報を把握し、職人の思考を学習してパターンごとにどのような微妙な変化を固定的なレシピに持たせるかという判断ができるようになればAIでも完成度が高い料理を作る事が可能となると思えます。

 技術的に完成された料理を作る事は可能であってもAIが料理人に代われない最大の理由として、AIが作った料理に人が価値を見いだせるかといった事がいわれています。格式の高い名店で修業し、高い格付けを得たカリスマシェフの店だからこそ、取れない予約を何とか取って高い料金を支払って食べるのであって、機械がデータを元に作った料理ではそこまでの付加価値が感じられないという訳ですが、もし、料理を作るロボットのプログラマーもシェフの一環という認識が定着し、世界的な格付けを得るようになると五つ星を獲得したカリスマプログラミングシェフの店にはそれなりの評価がなされると考えてしまいます。

 評判の名店を訪れ、コース料理を注文すると、先付けとして小鉢の料理とお茶が出され、それをいただきながら料理を待っていると知らないうちに脳がスキャンされていて、お茶や小鉢の料理に含まれたアミノ酸や脂肪酸、ミネラル類などへの反応がデータ化され、その人が最も美味しいと感じる味付けが施された料理が出てくる。そんな未来では料理人ではなくAIが美味しい料理を提供してくれるのかもしれません。


第2865回 AIという未来(1)



 先日、AI(人工知能)が囲碁の対戦で人間を破ったとして大きな話題となっていました。すでに1997年にはチェスのチャンピオンがコンピューターに負かされており、より戦局が変化に富んで戦略性が高い囲碁で人間に勝つのは難しいとされながら、ついにその時が来たのかと感慨深いものを感じてしまいました。

 チェスの対戦の際は数手先を数億というパターンに渡って分析するといった手法が採られたそうですが、今回の囲碁においてはディープラーニングと呼ばれるより人間の脳に近い階層構造の情報処理と学習機能が勝因となったといわれ、その応用によって今後AIは大幅に進歩するのではとも考えられています。

 間近な事として期待されているのは、日常的なインターネットの利用で蓄えられる膨大なビッグデータとの連携で、検索や閲覧履歴を元に利用者の嗜好を推測して必要な情報を提供したり、より適切な商品の案内を行うといった事が可能となるといわれています。

 つい先日もインターネット経由で格安航空券を購入したのですが、航空券や時刻表の閲覧履歴から判断されたのか、それ以降、閲覧するページの片隅の広告枠の部分には格安航空券やホテルの情報ばかりが表示されるようになっています。

 検索したキーワードや閲覧したページの履歴を元に、関連性のある広告を表示するというリマーケティング広告という手法は、より関心の高いユーザーに的確な広告を表示する事で購入率を高めるという効果があるそうですが、旅行は趣味ではなく、必要に迫られて航空券を購入したにすぎない私の場合、最も購入意欲のないユーザーに広告を表示しているようにも思えます。

 AIとの連携によって購入頻度が低い航空券を購入した場合、再度の購入は先の事と判断し、何らかの旅行に行く事は確実で、しかもあまり旅慣れていない事を推測して、本人も考えが及ばなかった便利グッズなどの広告を表示するといった事が可能となると考えられます。

 最新テクノロジーの粋となるAIですが、意外と求められるには「おもてなしの心」なのかもしれないと思えてきます。


 

第2864回 しびれの秘密



 最近の斎場では椅子が設置されていて、読経や親族の焼香の後に自分の番となり、慌てて立ち上がって長時間の正座による足のしびれでうまく歩けないといった事態に直面する事がなくなったのですが、きちんと正座をする事が多かった頃は、長時間正座していても大してしびれを生じない事は羨ましがられたりもしていました。

 正座していると膝の関節部分や重なる太股や脛の内側などが圧迫されて血流が滞り、それがしびれを生じさせると考えられてきました。しびれの感覚から血流が滞っていた毛細血管に一気に血液が流れ込み、急激に血管が拡張される事がしびれの正体のような感じもしていたのですが、この度、その詳細なメカニズムが解明されていました。

 手で血管を押さえるなどして血流が滞った状態を作り出し、手を離して血流を再開させると血液中に活性酸素が生じる事が知られていましたが、正座の後の足のしびれにはその活性酸素が深く関わっていたといいます。

 血流を滞らせ、その後、開放するとしびれと同じ感覚低下が起こって正座の後の足のしびれを再現できるのですが、京都大学薬学研究科で行われた研究では痛みを引き起こす感覚神経のタンパク質である「TRPA1」を欠損させると、しびれが生じない事が確認されています。

 TRPA1は活性酸素によって活動が活発化される事から、足の血流が正座によって停滞し、その後、立ち上がる事で一気に解放されると血液中に活性酸素が発生し、それがTRPA1を活性化させてしびれを発生させていた事になります。

 今回の研究は長時間の正座の後に生じるしびれのメカニズムを解き明かしただけでなく、糖尿病などの長い時間を経ても収まらないしびれの研究にも繋がるものとされ、普段、不快ではあってもあまりまともに考えないしびれの世界の奥深さを感じさせてくれます。

 何かにつけ影響を及ぼしてくる活性酸素ですが、葬儀の際の珍事にも関わっていた事になります。


第2863回 新療法?



 2012年の国民健康・栄養調査で日本国内の糖尿病患者は約950万人と推定され、そのうちの65%の人が何らかの治療を受けているとされます。残りの35%の人は自覚していながら治療を受けていないか、発病してしまっている事を自覚していない状態にあると考えられ、糖尿病の問題を深刻化する一因ともいえます。

 糖尿病は膵臓のランゲルハンス島にあるインシュリンを分泌するβ細胞が損傷してしまってインシュリンが分泌できなくなった1型と、生活習慣の悪化によってインシュリンへの反応が低下し、β細胞に負担をかけ続けた末に発病する2型が存在し、日本では95%の患者が2型の糖尿病であるとされます。

 糖分の摂り過ぎや暴飲暴食、運動不足、肥満など現代の生活は糖尿病の罹患へと繋がる要因も多い事から、効果的な予防、治療法の確立が急務という事もできます。そんな糖尿病の治療として新たな取り組みが行われ、完治した事例も見られる事から今後の普及が期待されます。

 完治した事例もあるという糖尿病の新たな治療法とはインシュリンを用いたもので、インシュリンを用いた療法というと従来通りで何も目新しいものではないように思えてきます。体内で合成できなくなった血糖値を下げるホルモンであるインシュリンを外部から取り込み、血糖値を一定に保つという事は以前から行われています。

 それに対し新たな療法ではインシュリンを使用はするのですが、使用するタイミングに大きな違いがあり、β細胞がインシュリンを分泌できなくなってからそれを補うために投与するのではなく、β細胞に負担が掛かって弱りはじめた早い段階で投与する事によって、β細胞の負担を軽減して休ませる事でβ細胞の損傷を抑える事が目的となっています。

 インシュリンを投与する事で分泌する必要を減らし、β細胞に回復する機会を与えるため、早期発見、早期治療を心掛ける事がより効果的という事ができ、普段から注意しておくことが大切といえます。

 膵臓は肝臓と並んで疾患に対する自覚症状に乏しい「沈黙の臓器」といわれ、気が付くと病状が進行しているという事もあります。糖尿病は予備軍の存在がかなりの数に上るともいわれるので、治療法の存在の認識と自己の状態の把握がその後を大きく分ける事になるという事ができ、日頃の心掛けという生活習慣病の基本に立ち返る必要を感じてしまいます。


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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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