第2872回 抗生剤の役目
抗生物質は細菌に対抗する薬剤であり、感染症の中で細菌性の疾患に対して使用するものとなっています。風邪をひいてしまった場合、風邪には細菌性とウィルス性があり、細菌性の風邪の場合、抗生物質を処方する事は適切かもしれませんが、インフルエンザなどのウィルス性の風邪の場合、抗生物質の投与は無意味で適切な処方とはいえなくなります。
場合によっては腸内細菌が抗生物質の影響を受けてしまい、免疫力が低下してしまう事もあるので、インフルエンザに対して抗生物質を処方する医師は、多くの患者が風邪という事で抗生物質を欲しがる事から、抗生物質と細菌、ウィルスの関係を説明するのが面倒で処方しているのだろうかと疑ってみたりもするのですが、最近では少々事情が変わってきています。
インフルエンザに感染した場合、2、3日の潜伏期間の後、急激に高熱や咳、関節痛などの症状が生じます。細菌性の風邪よりも症状が重篤になりやすく、急激に発生する事は体内でのウィルスの増殖力の高さに由来するといわれます。
そんなインフルエンザウィルスに対抗するのが抗ウィルス薬で、抗生物質のように感染の原因となっている細菌を殺すのではなく、ウィルスが増殖する力を抑え込んで、症状の発生を防ぎ、自然治癒に繋げていく働きを持っています。そのため抗ウィルス薬の使用は時間との闘いとなっていて、感染後48時間以内に服用しないとウィルスが増殖してしまい、インフルエンザの症状に悩まされる事となってしまいます。
インフルエンザウィルスに感染した後、適切な時期に抗ウィルス薬が投与されると、ウィルスが分裂する際に必要となる酵素の働きが阻害され、ウィルスは増殖する事ができなくなり、インフルエンザの発症を防ぐ事ができます。重篤化する事もある不快な症状を未然に防ぐ事ができた事から、抗ウィルス薬の恩恵は大きいと思えるのですが、抗ウィルス薬の使用によってある困った減少が見られるようになってきました。
人はウィルスに感染し、症状が治癒する過程で体内の免疫システムに抗体としてウィルスの情報が蓄えられ、それ以降、同じウィルスが体内に入り込んでも免疫によって感染しないように守られるようになります。しかし、抗ウィルス薬を使用する事で体内でウィルスの増殖が抑え込まれてしまうためにウィルスの数が少なく、感染から充分な情報が得られないために、作る事ができる抗体の数の不足によって同じウィルスに何度も感染し、インフルエンザを再発してしまうといった現象が見られています。
そのため最近、抗ウィルス薬に抗生物質のクラリスを併せて処方する例が見られるようになってきています。クラリスはマクロライド系の抗生物質で、喉や気管支、肺などの感染症を治療するための薬剤となっていて、ウィルスに対しては効力を持っていないのですが、免疫力を向上させる働きがある事が判ってきています。
インフルエンザのウィルスは気道で増殖しますが、クラリスを投与する事で粘膜の免疫力を強化し、ウィルスの排除を促進する事ができます。抗ウィルス薬で体内のウィルスの増殖を抑え、それによって充分な抗体ができない事を粘膜の免疫力を高める事で再度の感染を防ぐ。症状の発生と再感染を防ぐという二段構えの意味から、一見ウィルス感染に無意味と思える抗生物質の処方が行われています。
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