第2943回 文豪のお気に入り(2)



 広く知られている事として、かつては羊羹はお菓子ではなく、料理の一つであったといわれます。羊羹の「羹」は「あつもの」を指していて、羊の肉を煮たスープのような煮込み料理が羊羹であったとされます。

 宋書に南北朝時代に北魏の捕虜となった東晋の武人、毛脩之が羊羹を作ったところ、太武帝が大いに喜んだ様子が記されていますが、その際の羊羹は羊肉のスープであったと考えられています。

 羊の肉を時間を掛けて煮込んでいくと、肉に含まれていたゼラチンがスープに溶け出してきて、冷える事でゼリー状に固まってしまいます。そうしてできる煮凝りが羊羹として鎌倉時代から室町時代にかけての日本へと禅僧によって伝えられ、日本の禅宗では戒律によって肉食が禁止されていた事から羊肉が小豆に置き換えられ、羊肉とは無関係な羊羹が誕生したと考えられます。

 日本の文献に羊羹が最初に登場するのは、室町時代に書かれた「庭訓往来」とされ、その当時の羊羹は羊肉を用いない事から固まるためのゼラチンが欠如してしまうため、葛粉や小麦粉を混ぜて作られており、その製法から蒸し羊羹であった事が判ります。

 砂糖は輸入に頼っていたために非常に高価なものとなっていた事から、味付けには甘葛が使われていて、あえて高級品の砂糖を使った羊羹は「砂糖羊羹」と呼ばれて区別されていました。

 17世紀になり琉球王国や奄美群島などでサトウキビが栽培され、黒砂糖が生産されるようになって薩摩藩によって日本本土持ち込まれるようになると、砂糖の価格が下がりはじめ、羊羹の味付けも砂糖が一般化して甘葛を使った羊羹は次第に見られなくなっていきます。

 江戸時代、天正17年(1589年)に大阪の駿河屋岡本善右衛門によって煉羊羹が開発され、慶長4年(1599年)には五代目の善右衛門によって寒天の材料となるテングサ、砂糖、小豆餡を炊き上げて作る煉羊羹が作られ、改良を重ねた後、万治元年(1658年)に市販化されています。

 その後、煉羊羹は全盛期を迎え、かつての蒸し羊羹は安価な物という現在にも通じる位置付けが生じ、羊羹といえば砂糖で味付けした煉羊羹という事になります。

 煉羊羹から派生したものとして、水分を多くした「水羊羹」も作られるようになるのですが、今日、冷たい夏の和スイーツというイメージが強い水羊羹は、当初は御節料理の一環として冬場に食べるものとされていました。

 最近ではフルーツを使ったものや、洋菓子の手法が取り入れられたものなど、多様化する羊羹ですが、羊からは随分と離れてしまったものだと思えてしまいます。


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第2942回 文豪のお気に入り(1)

 「余は凡ての菓子のうちで尤も羊羹が好きだ。あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。ことに青味を帯びた煉上げ方は、玉と蝋石の雑種の様で、甚だ見て気持ちがいい。のみならず青磁の皿に盛られた青い煉羊羹は、青磁のなかから今生まれ出た様につやつやして、思わず手を出して撫でて見たくなる...」

 小説、「草枕」に出てくる一節で、これほどまでに羊羹を賛美した文章は他にはないと思えて、文豪、夏目漱石がどれほど羊羹を愛していたのかを覗わせるものとなっています。

 古来より名品と謳われて珍重されてきた青磁の器にもひけを取らず、まるでその名器から生まれ出たような美しさを持つと評される姿は、単に美味しいだけでなく和菓子としての完成度の高さが評価されている事も感じさせられます。

 漱石の妻、鏡子の口述による「漱石の思ひ出」では、漱石が羊羹を非常に好んだ様子が語られていて、ある日、普段から胃が弱い漱石の食べ過ぎを気にして羊羹を隠したところ、漱石はいつも羊羹が保管されている戸棚を必死になって探し始め、その様子を見かねた幼い娘が羊羹の在り処を教えると、漱石は娘を大いに褒めて上機嫌で羊羹を頬張った事が記されています。

 最新スイーツの情報が飛び交い、多種多様化したお菓子が溢れる現代では、漱石ほどの羊羹ファンに出会う事自体が難しくなっているようにも思えますが、糖度が高いために保存性があり、固める際にケーシングに入れて真空状態にできる事から、手軽に活動に必要なエネルギーを確保できるものとして非常食としても注目されてきています。

 自分用に購入する機会が随分と減った事を改めて思い出しながら、たまには高級な羊羹を高価な器に盛り付けて文豪のように眺めてみると、少しは良い文章が浮かんでくるのではと思ってしまいます。


 

第2941回 酒粕から



 第二次世界大戦後の混沌とした時代をカストリ時代と呼ぶ事があります。町が破壊され、物資が不足している中、日本酒を製造した後の酒粕を使って作られる粗悪な密造焼酎、「粕取り焼酎」が語源となっているとの事で、いつかその時代を舞台にした小説を書いてみたいとも思っています。

 何もかもが破壊されてしまった中、酒を飲むしかないとして粗悪な密造酒が横行し、中には飲用に適さないメチルアルコールさえも酔うために飲まれていて、粗悪品とはいえ粕取り焼酎は良い部類の酒となっていたのではとも想像しています。

 酒粕を使って焼酎を作るという事は、酒粕の中に絞り切れずに残されたアルコール分を蒸留して取り出す事と容易に想像する事ができ、二番出汁や二番絞りと同じような存在のように思えます。

 酒粕から作られる焼酎はカストリだけではなく、酒粕に麹と水を加えて醪(もろみ)を作り、発酵させた後に蒸留して作られる「酒粕焼酎」と呼ばれるものが存在し、カストリとは異なる高級酒となっています。

 同じカストリでも酒粕に籾殻を加えて加熱し、酒粕に残されたアルコールなどの揮発成分と共に籾殻の香り成分も取り出し、香り付けをした一手間加えたカストリも作られていました。

 最近になって栄養豊富な酒粕の健康効果が注目されるようになってきていますが、酒粕の利用法の一環としてカストリは復活するのだろうかと考えてみたりもします。


 

第2940回 摂る価値あり



 タンパク質の最小構成単位はアミノ酸で、摂取されたタンパク質はアミノ酸の状態にまで分解されて吸収されます。そのため、せっかくタンパク質の一種であるコラーゲンを摂取してもアミノ酸にまで分解されてしまうので、コラーゲンを摂る事にはあまり意味がありませんという話しを聞かされる事があります。

 逆にコラーゲンがたっぷり含まれたもつ鍋を食べると、次の日の肌の調子が全然違うという話も聞かされ、両極端な意見の存在にコラーゲンを摂取する事の意味について考えてしまいます。

 肌の状態が良くなったり、関節の痛みが和らいだりといったコラーゲンの効果を謳う健康食品が多数存在し、それなりの売上を誇っていて多数のリピーターもいる事を考えると、何らかの体感できる効果が存在するのかと思えるのですが、学術的な根拠となるものは少ないともいわれていました。

 ところが最近になってコラーゲンを摂取する事は肌に良い影響を与えている可能性を示唆する研究報告が相次いでいて、これまでいわれてきたように肌の状態を良くして美容に役立つだけでなく、傷の治りを早くするという事もいわれるようになってきています。

 コラーゲンはタンパク質の一種として人の体のタンパク質の3分の1を占めるともいわれ、日常的に接する魚や肉などの食材にも広く含まれています。

 食を通して摂取されたコラーゲンは消化によって吸収されるためのアミノ酸にまで分解されるのですが、消化吸収にはもう少し大きいアミノ酸が幾つか結合したペプチドの状態でも可能であり、多くのタンパク質がペプチドの状態で吸収されています。

 コラーゲンを分解して得られるコラーゲンペプチド摂取してもらい、3時間後に血液を採取して検査を行うと、全てのペプチドが分解されてアミノ酸になってしまう訳ではなく、多くのペプチドが残されている事が判っています。

 ペプチドの状態で血液によって運ばれているという事は再度コラーゲンに合成される可能性が高く、コラーゲンの摂取が肌のコラーゲンの合成を容易にし、肌の状態を良くしている事が考えられます。

 コラーゲンは免疫の司令官ともいえるマクロファージの大好物で、与える事で働きが飛躍的に向上するとされる事から努めてコラーゲンを摂るようにしていたのですが、単なるアミノ酸の補給ではなく、しっかりと肌や関節のケアに役立っていたという事は、多くのユーザーに朗報となるのではとも思っています。


第2939回 意外な弱点



 アフリカ大陸に棲む動物で、年間に最も多くの人を殺しているのはカバと聞かされた際、その温厚なイメージとはかけ離れた実情に大きな衝撃を覚えたのですが、世界規模となるとカバをはるかに凌いで蚊が最も多くの人を殺している動物という事にも驚かされてしまいます。

 蚊が人を殺すといっても、直接血を吸う事で死に到らしめている訳ではなく、蚊が媒介するマラリアが多くの犠牲者を生んでいるので、マラリア原虫が最大の殺戮者とも思えてくるのですが、デング熱やジカ熱など、蚊が媒介する病気は他にも存在する事から、できるだけ蚊とは距離を置いておきたいとも思えます。

 そんな蚊の被害が深刻となっている途上国で、日本ではお馴染みの「蚊帳」が蚊を避け、マラリアの発生を防ぐものとして大きな効果を上げていました。

 住宅の気密性が向上し、網戸の普及率も高い日本では、蚊帳は少々レトロな感じがしてしまうのですが、通気性を確保しながら蚊を防ぎ、電力も動力も必要としない極めて有効なマラリア対策ともいえ、蚊帳の配布によってマラリアの発生は60%減少したともいわれます。

 現在でもワクチンが存在しないマラリアに対し、蚊帳は非常に有効な対策となる事が考えられるのですが、その効果を更に向上させるものが発見されていました。

 蚊は熱や二酸化炭素を元にさまざまな動物に近付き、血を吸おうとするのですが、鶏には近付こうとせず、むしろ避けようとするとされます。蚊が鶏を捕食動物と捉えているためといわれ、鶏の臭いを蚊は本能的に避けるといわれます。

 実際にエチオピア西部の三つの村で行われた実験では、鶏を入れた籠を家の中に吊るし、蚊が家の中に侵入してくる様子が観察され、鶏の籠を吊るした家の中では蚊が見られず、吊るしていない家の中では蚊の侵入が観察されています。

 鶏を家の中に設置すると生活に支障が生じる事から、鶏が体から発するさまざまな成分が分析され、鶏が蚊を遠ざけているエキス分の特定が行われています。鶏のエキスは完全な天然物である事から、繰り返し使用しても蚊に耐性が生じる事はほとんどないと考えられ、人にも安全な忌避剤となる事が期待されています。

 日本の蚊取り線香にも鶏をモチーフにしたメーカーがあり、先見の明かと思ってしまうのですが、安全で効果が高い忌避剤の登場はマラリアの発生を大きく減少させてくれる事と思えます。やがて蚊がカバに王座を譲る日が来るのかと、密かに想像してしまいます。


第2938回 大事な時間の秘密



 坊ちゃんの日常を見ていると、最大の時間を費やしているのは「寝子(ねこ)」の名前が示す通り睡眠時間だと思えます。それ以外の時間となると、家の中をパトロールしていたり、毎日の日課となっているブラッシングなども思い浮かんでくるのですが、毛繕いをしている時間もかなり大きいと思えてきます。

 以前、見掛けた猫の行動に時関するレポートでは、猫が一日に費やす時間では睡眠が最も長く、続いて毛繕いとなっていて、食料を確保するための狩りよりも多くの時間が費やされているとされていました。

 猫がそれだけたくさんの時間を使って熱心に毛繕いを行う理由について、「猫は優れた狩人であり、自身の臭いを消すため」と聞かされていたのですが、それでは満足した食事の直後に行うのは逆効果のように思えて、何か別な意味があるように思えます。

 別な説では、毛繕いによってリラックス効果が得られるためというものもあり、それであれば食後の毛繕いも納得できる事と思えてきます。何かに驚いた後にも毛繕いをする事から、リラックス効果を求めている事は確実な感じがします。

 生まれて間もない子猫は、まだ充分に自らの体温を確保できない事から、母猫に寄り添い、母猫は子猫を舐めてやる事で全身の血行を促して体温を均等に全身に行き渡らせ、成長を促進しているともいわれ、リラックス効果の根源はそこにあるようにも考えられます。

 坊ちゃんにシャワーを浴びさせた後に使ったタオルを洗濯機の中に置き忘れ、次の日に独特な臭いが生じている事に気付いた事があります。その際に感じた事は、猫は毛繕いをする事で唾液やその中に含まれる食事などの成分を毛に棲んでいる微生物に栄養として供給し、同時に微生物が生成した栄養成分を摂取しているのではないかという事でした。

 実際、猫は日光浴をしたりする事で毛に生じたビタミン類を摂取しているともいわれ、単なるリラックス効果以上に健康管理に欠かせない事をしているともいえ、毛繕いの最大の理由のようにも思えます。

 猫が人間に撫でられるのを好むのは、母猫に舐められる事の疑似体験ともいわれ、子猫の頃の大きさと母猫の舌の大きさの対比がちょうど成長した自分と人の手と同じとなるとされます。

 ビタミン補給とリラックス効果となると、起きている時間の半数以上ともいわれる時間を費やす事にも納得でき、その根源となる母猫との時間の疑似体験となると、これからもたくさん撫でてあげなければと思えてきます。


第2937回 みりんの違い(2)



 みりんのルーツには諸説があり、有力なところでは古くから飲まれていた練酒や白酒などの甘味のある酒に、腐敗防止の目的でアルコール度数が高い焼酎を加える事で誕生したとする日本発祥説と、中国で作られていた甘味が強い「蜜酒(ミイリン)」が伝えられてみりんとなったとする中国渡来説の二つがみりんの由来とされています。

 いずれにしてもみりんが登場するのは戦国時代の事とされ、江戸時代には女性でも愉しむ事ができる甘い高級酒として飲まれています。当時のみりんは、米に含まれるデンプンを糖に変える麹を作る技術が充分に発達していなかった事から、現在のものよりも甘味も味わいも薄いものであったと考えられています。

 砂糖が貴重だった事もあり、身近な甘味料でもあるみりんは甘味や旨味を加える調味料としても使われるようになり、甘味や旨味といったエキス分をより多く含む製法が発展する事となります。今日のような濃厚なみりんが作られるようになるのは、大正時代の末期から昭和の初期とされていて、飲料としてよりも調味料としての色合いを濃くしていきます。

 蕎麦のつゆや蒲焼きのタレ、割烹料理などには早くから使われていたみりんですが、一般家庭に普及するのは第二次世界大戦以降の事となっていて、普及に伴う様々な事情に翻弄される事となってしまいます。

 戦中、戦後の米不足に見舞われた日本で、米を原料とするみりんは贅沢な酒とみなされて酒税の対象品となり、課税が行われる事となってしまいました。何とか高額な酒税を逃れるために考案されたのが米ではない雑穀を原料とした「新みりん」と、塩水の中でアルコール発酵をさせた後に甘味を加える「塩みりん」で、酒税の対象とならないみりんとして販売が開始されました。

 そうした製造側の努力もあり、昭和30年代には料亭やうなぎ屋での使用に留まっていたみりんが一般家庭にも普及し始める事となります。一般家庭という新たなニーズが生まれたみりんですが、酒類の販売免許のないスーパーでは本みりんを販売する事ができず、販売の主力は新みりんや塩みりんが多くなっていきます。

 昭和50年に公正取引委員会によってみりんとは内容が異なる商品として、本みりん以外の商品を「みりん風調味料」に統一され、売り場では本みりんとみりん風調味料の二種類の調味料を見掛ける事となります。

 アルコールを含まないみりん風調味料の中で、塩みりんはアルコールを含んでいる事や塩味がある事から、区別する意味からみりんタイプ調味料という名称を使う事が多くなってきていて、現在では本みりん以外にみりん風調味料、みりんタイプ調味料と、少々難解なネーミングが存在する事となっています。

 平成8年には販売に関する免許の要件が緩和されて「みりん小売業免許」が新設され、ビールやウイスキーなどの酒類の取り扱いがないスーパーでも免許を取得する事で本みりんの販売が可能となっています。10年後の平成18年には一般酒類小売業免許に統合されるかたちでみりん小売業免許は廃止されてしまいますが、酒類販売業免許の申請要件が大幅に緩和された事から、かつてのような販売の難しさもなくなってきています。

 ペットボトル入りのものを気軽に購入して使っていますが、高級飲料から庶民の調味料、販売のための工夫など、時代に合せてみりんも頑張ってきたのだと改めて思ってしまいます。


第2936回 みりんの違い(1)



 料理の基本は「さしすせそ」といわれ、素材に味が染み込みにくい甘味の素の砂糖を最初に、塩、酢と続き、煮立たせると風味が失われてしまう味噌が最後になる事が伝えられていて、それぞれの調味料の特徴を活かした味付けのし方となっています。

 砂糖、塩、酢までは良いのですが、「せ」は「せいゆ」でしょうゆの事、「そ」は味噌と少々強引なものを感じながら、和食には欠かせないみりんが含まれていない事に疑問を感じてしまいます。

 根菜類の煮物を多く食べる事から、我家はみりんのヘビーユーザーだと思えるのですが、改めて考えてみるとみりんの使い方を間違ってしまっていた事に気付いてしまいます。

 スーパーの調味料売り場へ行くと、みりんが並べられている棚では「本みりん」と「みりん風調味料」の2種類の表記を見掛ける事ができます。本みりんといわれると、古式に則った製法で作られる本物のみりんという感じがして、実際にも本みりんの方が割高である事からそうしたイメージがより強くなってしまいます。

 古式製法の本醸造による本みりんと工業的手法による大量生産品のみりん風調味料という感じがしてしまうのですが、両者の最大の違いはアルコールの含有量にあり、本みりんには8~14%とビールや缶チュウハイよりも多くのアルコールが含まれていて、みりん風調味料には1%未満とほとんどアルコールは含まれていません。

 アルコールを含んでいる本みりんは酒税法の対象品となっていて、販売価格には酒税も含まれてしまいます。そのため同じ原価で製造できたとしても本みりんは税金の分、みりん風調味料と比べて割高となり、販売に際しては酒販の免許が必要となります。

 課税を回避し、酒販免許も持たないスーパーでも気軽に販売できるものとしてみりん風調味料は誕生したのですが、アルコールを含んでいない事がみりんとしての使い方に大きな違いを生んでいます。

 料理にみりんを加える意味として甘味を加えるだけでなく、素材の煮崩れを防ぐというものがあります。この煮崩れ防止には糖分やアミノ酸以上にアルコールが深く関わっていて、みりん風調味料では煮崩れ防止効果は本みりんには及ばないものとなってしまいます。

 逆に本みりんにはアルコールが含まれているために、料理に加えた際、一度沸騰させるなどの熱を加えてアルコールを煮切る必要があり、おひたしなどの熱を加えない料理に甘味や旨味を加えるためにみりんを加えるには、アルコールを含んでいないみりん風調味料の方が向いている事になります。

 どうしても割安感からみりん風調味料を購入してしまい、煮物にも使ってしまいそうになるのですが、本来の意味を考えると煮物には本みりん、おひたしにはみりん風調味料と特徴に応じた上手な使い分けが必要と思えて、和食の奥深さを改めて考えてしまいます。


第2935回 ベストパートナーの理由



 以前、お世話になった漢方医から、天ぷらを食べに行くと天つゆに大根とショウガをおろしたものが薬味として添えられてくるけど、それでは「うちの天ぷらは油が古くて胃もたれしますよ」と宣言されているようで滑稽に見えると聞かされた事があり、何も考えずに食べてはいましたが、確かにそうともいえなくもないと思った事があります。

 同様の事はトンカツについてもいう事ができ、トンカツに添えられて出てくる山盛りのキャベツは、ボリューム満点のトンカツの食べ過ぎや胃もたれを防いでくれるベストパートナーとなっています。

 大根に含まれる消化酵素としてジアスターゼが知られ、胃もたれや胸やけを防ぐ成分とされます。キャベツには大根よりも多くのジアスターゼが含まれていて、大根と同じように消化を助けてくれる成分を含んでいる事となります。

 また、胃や十二指腸の状態を改善するビタミンUも多く含まれていて、キャベツ由来のビタミンUを主成分とした胃薬がキャベツが語源となっている事が明らかな製品名で売られている事も、キャベツの健胃作用を覗わせてくれます。

 キャベツに豊富に含まれている食物繊維も油分の排出を促す働きがあり、消化を促してくれる事が考えられます。そんなキャベツの食物繊維をしっかりとさせたシャキッとした食感はキャベツを千切りにした後、冷水にさらす事で得る事ができます。

 キャベツの細胞膜に含まれるペクチンが冷水によって硬化するためですが、キャベツをシャキッとさせるために冷水にさらしてしまうと水溶性のジアスターゼやビタミンUは水に流出してしまい、キャベツの健胃効果は低下してしまう事となります。

 経験的に導き出されたパートナーシップだとは思うのですが、漢方医的視点で見ると科学的に裏付けられたもののようにも思えて、付け合わせや薬味についても興味深いものを感じてしまいます。


第2934回 塩の代わり



 高校がミッション系だったという事もあり、聖書はある程度読んだ経験があります。キリスト教徒ではなく、ほとんど教会へも行った経験がないためか、そんな聖書の中の言葉にいまだに意味が解らないものがあり、「地の塩」もその一つとなっていて、今でもどのように解釈するのかと気になっています。

 地の塩は山上の垂訓の一つとされ、マタイの福音書5章13節から16節にかけて記述されており、マルコの福音書の9章48節から50節、ルカの福音書の14章34節から35節にも同様の記述を見る事ができます。

 全体的な言葉の意味は解らなくても、途中の部分、「もし塩の利き目がなくなったら、何によってその味が取り戻せようか」という部分は非常に納得できて、塩味の素となる塩化ナトリウムが唯一無二の存在と思えてきます。

 甘味を感じる有機物は複数存在し、砂糖の代わりに使う代替甘味料は日常的に見掛ける事ができます。多くの場合、砂糖由来のカロリーを制限する目的で代替甘味料は使われ、カロリーはそれほど変わらなくても砂糖に対して何倍もの甘さを持つ物を少量使用してカロリーを抑える物か、口に入れると甘さを感じるが体内で消化吸収されない物のどちらかが使用され、消化吸収はされなくても腸内細菌のエサとなる物には健康効果があるともいわれています。

 それに対し塩味はナトリウムイオンに由来する事から、代替塩味料を見掛ける事は皆無となっています。代替塩味料を使用する最大の目的は、摂り過ぎが健康に悪影響をもたらすとされるナトリウムの摂取量を減らす事にあります。減らすべきナトリウムに塩味は基いている事から、代替塩味料は製造自体が非常に困難ともいえます。

 塩化ナトリウムと同じように塩味を感じる物質として塩化カリウムがあり、食塩に塩化カリウムを加える事でナトリウムの摂取量を減らす事を意図した商品も見られますが、塩化カリウムには苦味があり、完全に塩化ナトリウムの代わりに使う事はできず、その意味では代替塩味料とはなりえないものとなっています。

 ナトリウムに性質が近い物質としてリチウムがありますが、リチウムには毒性がある事から食塩として使う事ができず、ルビジウムやセシウムもナトリウムに近い存在となっていますが、放射性同位体を多く含む事から健康上のリスクが考えられ、代替塩味料として使用する事はできなくなっています。

 そうした事情から代替塩味料を見掛けない事となっていて、聖書の時代から随分と時が経つ今日でも味が失われた塩に塩味を付ける事ができないままとなっています。日常生活で塩分の摂取を控えるように指導される中、唯一塩分を摂るように薦められる季節を迎え、塩について改めて考えてしまいます。



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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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