第3051回 世界を変えるもの
日本人が発明し、ノーベル賞の有力候補となっているといわれながら、実用化では欧米に先行されてしまっているもの、「PCP(多孔性金属錯体)」は未来を変えてしまう可能性を秘めた素材といわれています。
PCPは多孔性材料の一つで、1997年に京都大学の北川進特別教授によって発表されています。北川教授にやや遅れてアメリカの研究チームも同じような多孔性材料を発表しており、その際、名付けられた「MOF(無機・有機骨格体」と呼ばれる事もあります。
多孔性材料は身近なところでは活性炭やゼオライトが知られており、文字通りに無数の小さな穴が開いた材料全般を指しています。活性炭やゼオライトはその無数の穴でにおいの素となる分子を捕まえる事で消臭効果を発揮したり、排ガスの分離を行ったりといった働きをしています。
PCPは金属イオンや有機体から作られており、公園で見掛ける遊具のジャングルジムのようなイメージの構造体で、無数に張り巡らされた骨組みの中に気体などの分子を取り込む事ができます。活性炭やゼオライトよりも多様な形に設計する事ができ、すでに2万3千種ものPCPの構造が知られていて、取り込む分子や目的に応じた設計が行われています。
実用化されているPCPの用途としては、野菜や果物を腐敗させてしまう植物のホルモンであるエチレンの働きを阻害する分子を取り込ませ、食材の近くに置く事で飛躍的に野菜や果物の鮮度を保持するとされます。
気体のエチレン阻害物質はそのままでは扱いに手間が掛かってしまうのですが、PCPを使う事によってシリカゲルや消石灰の乾燥材のように小さなパックとして食材に添える事ができ、数か月に渡って野菜や果物の鮮度を保持し、安全性も高い事からアメリカではFDA(食品医薬品局)の承認も取得しています。
応用の範囲は非常に幅広いとされ、ガンの分野でも危険なイメージが強い一酸化炭素や一酸化窒素といった気体を直接臓器に送り届けるという事も可能な事から、新たな治療法の確立に繋がるとされます。
やがては世界の産業構造を変える存在ともいわれ、京都大学ではアップルやグーグルのように世界を一変させ、多くの人が恩恵を得られるようにしたいと意気込み、研究が進められているといいます。
長期に渡って野菜や果物の鮮度を保持してくれるだけでとてもありがたい存在なのですが、これからどのように世界を変えてくれるのか、期待が膨らんでしまいます。
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