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第3083回 時を巡る旅(2)



 タイムトラベルについて回る難しい問題、「親殺しのパラドックス」は無視したとして、時を超えるという事は技術的に可能なのだろうかと根本的な部分が疑問になってしまいます。時とは一つの方向へと向けて進み続ける流れで、決して止まる事も遡る事もない圧倒的な流れと思えるからです。

 相対性理論を記したアインシュタインは、3次元は時間と繋がり、時間が4次元として機能していると考えました。そうした考えを元にアインシュタインは時空連続体という構造を考え出し、今日の宇宙のモデルとされています。

 アインシュタインは時空連続体は折り曲げる事が可能で、遠く離れた2つの地点に近道を作る事ができると考えていました。ワームホールと呼ばれるこの現象は、時空連続体の2か所に開口部があるトンネルとして描かれていて、宇宙には実在する可能性が考えられており、電波望遠鏡を使った観測が行われています。

 どこか遠い存在のように思えるワームホールですが、最も近いものは地球から数光年先にある可能性があるとされます。将来的にはワームホールを作り出せるようになるとも考えられていますが、その方法については今のところ見当も付いていないとされます。

 いずれ近くて行く事ができる距離にあるワームホール発見される、もしくは人為的にワームホールを発生させる事が実現できる日がくる。そう思えるのですが、そうなったとして難しい問題がそこにある事に気付いてしまいます。ワームホールの入り口はブラックホールと呼ばれる超重力が存在する場所で、中に入ったものを圧し潰し、引き裂いてしまいます。

 ワームホールまで速やかに移動する速度を持ち、ブラックホールにも潰されない堅牢さを兼ね備える屈強な宇宙船の開発が不可欠となるのですが、仮に開発に成功したとしても更に大変な問題が残されています。ワームホールを抜けた時空を超える旅、その先が定かではないという問題です。

 タイムマシンを使った時間旅行は、どの時代のどの場所へと指定してから旅が始まります。自然に存在するワームホールは入り口は判っても、繋がっている先は判っておらず、行った先が希望していた世界なのか、そこから元の世界へと戻れるのかは不明となっていて、今日の旅行会社が扱うようなツアーとしては成り立たないと思えてきます。

 時を超えて謎となったままの歴史的な事件の真相を知りたいとは思いますが、その後、坊ちゃんが待つ我家へ帰る事ができないのならば、今のまま、どこへも行かなくて良いと思えてきて、それがタイムトラベルの妨げとなっているのかもとも考えてしまいます。


 
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第3082回 時を巡る旅(1)



 小学三年生の春、H・G・ウェルズの小説、「タイムトラベル」と出会って衝撃を受けました。時を超える旅というのが斬新で、その先にある世界観に驚かされたのですが、年を取って俗人化が進んだ今、時を超えられたら大航海時代のヨーロッパへ行ってコショウの販売を行って大儲けをしたり、本能寺の変を知らせるために織田信長の下へ向かったりという事を考えてしまいます。

 タイムトラベルに関してはとても難しいパラドックスが残されており、私が過去に戻って私の両親を殺害すると私の存在は消えてしまい、両親を殺害する私はいなくなり、殺されなかった両親は私を生み、育てる事となってしまいます。その私が成長して両親を殺害しに行くと、私が生まれないという無限ループの「親殺しのパラドックス」に陥ってしまうのですが、このパラドックスの存在によってタイムトラベルは不可能なもののように考えられています。

 パラドックスの解決にはいくつかの仮説が存在し、過去は変えられないとする「首尾一貫の原則」では、過去へとタイムトラベルした私の両親殺害計画は絶対に成功しないとされます。似たようなものとしては、過去の事象は未来の結果を盛り込み済みという考え方もあり、殺害計画を逃れるうちに両親に愛情が芽生え、乗り切った末に二人は結婚して私が生まれる事になるという考え方もあります。

 「並行宇宙」と呼ばれる仮説では、時はいくつにも分岐していて、私が両親を殺害しに行かないタイムラインに殺害に成功するタイムライン、失敗するタイムラインと、多くの可能性に合わせた分岐が起こって複数の並行した世界が存在し、タイムトラベルで行けるのはその中の一つの世界とされます。

 量子力学の理論では、確率がゼロではないすべての無作為な量子事象はそれぞれ異なる世界で実際に起きており、歴史となるタイムラインは常にさまざまな世界に分岐しているとされ、過去に遡るタイムトラベルが可能だとしたら、旅行者が遡った先は出発点とは異なる歴史の枝の一つと主張されています。

 並行宇宙という考え方はパラドックスを解決する近道のように思えますが、遡って戻った先は別の世界で、そこから戻る現代も分岐した幾つかの世界の一つとなると、時間旅行ではなく異世界旅行のように思えてきて、本当にその旅を時間旅行と呼んで良いものかと思えてきます。


 

第3081回 寿命をめぐる謎



 生活水準の向上や医療技術の発達、良好な栄養状態など、さまざまな健康関連の状況の変化によって毎年平均寿命は伸び続け、長寿社会の到来を感じる事ができます。単に長く生きる高齢者が増えたというだけでなく、高齢にも関わらず若々しく、元気な方も多く見られていて、昔とは時間軸が違うのではと思ったりもします。

 元気な高齢者が増えた半面、長寿の上限はそれほど伸びていないとされ、オランダのティルブルフ大学が死亡時の正確な年齢の記録が残っている約7万5千人分のデータを分析したところ、ある程度の上限値が判ってきたといわれます。

 研究チームが過去30年に及ぶデータから抽出されたサンプルを調べた結果、女性の寿命の最高値は115.7歳、男性だともう少し短く、114.1歳付近が上限値であるという結論が得られていました。研究にあたったアインマール教授は、「平均すると人はより長生きになっているが、最年長のグループについては、この30年間でその年齢がさらに延びている訳ではない」と語り、95歳に達する人の数がほぼ3倍になっている事に触れながら、最高齢の上限値には変化がない事を指摘しています。

 寿命に関する話をする際、決まって登場するフランス人女性、ジャンヌ・カルマンさんは122歳と164日という公式記録としては唯一の120歳を超える時間を生きました。彼女の存在は例外的なものとしても、120歳を超えた人が彼女以外にいない事を考えると、120歳あたりに上限値があるようにも思えます。

 しかし、最近発表された論文によると人の寿命は想定よりも延びた可能性があり、今後も時間と共に延びていく事が指摘されていました。イタリアの高齢者3800人以上を対象にしたデータに基くと、高齢になるにつれて死亡リスクは上昇していきますが、105歳を過ぎると上昇率が緩まり、頭打ちになる事が確認されています。

 論文の共同著者であるカリフォルニア大学バークレー校のワクター教授によると、年を取るにつれ人の健康と死亡リスクは加速度的に悪化する。しかし、かなりの高齢となるとその悪化が止まると述べ、「良くはならないが悪化が止まり、横ばいとなる」としています。

 1896年から1910年の間に生まれた人々を対象とした研究では、誕生年ごとの死亡率を比較したところ、時間の経過と共に死亡率がわずかに下降している事が明らかにされており、時間の経過に伴う緩慢ではあっても明確な向上は、現状では寿命の固定的な限界は見られない事を示唆しているとされ、今後のさまざまな要因次第では更に寿命が延びる事が考えられます。やがてジャンヌ・カルマンさんを超える人が登場する可能性があり、その瞬間を見るためにも長生きしなければと思えてきます。


 

第3080回 廻る水の再利用



 SF小説に登場する未来像の一つとして、水が枯渇した世界というのが登場します。水は生命の維持に欠かせないので、僅かな水を争って命のやり取りが行われたり、水源を支配する者が王者のように君臨したりといった世界観が展開されています。

 小説の中という事でどこか遠く、現実味の薄い世界と思ってしまうのですが、「20世紀は石油を争い、21世紀は水を争う」という言葉や世界各地の干ばつに関するニュースを聞かされると、それほど遠くない将来、如何に水を確保するかが問われる社会情勢になってしまうのかとも思えてきます。

 普段、水を使うというと直接飲用する事や調理、入浴、洗濯、トイレなどの生活を通して接する水の事だけを思ってしまい、それだけでも多くの量を日々使っていると思えてくるのですが、身近な製品が製造される際に使っている水の事を考えると、日常生活は膨大な量の水を使っている事に気付かされてしまいます。

 暑い夏が来ると消費量が急増するビール。ビールを生産するには1リットルあたり162リットルもの水が必要になるとされ、あまり環境には優しくない飲料という感じがしてきます。そんなビールの環境負荷を減らしてサステナビリティ(持続可能性)を高めるための実験的試みとして、スウェーデンのビール製造会社ニーヤ・カーネギーブリゲリエットとスウェーデン環境研究所、カールスバーグ・スウェーデンが共同で浄化された下水で作られたビール、「PU:REST」を開発、発売しています。

 PU:RESTのコンセプトはスウェーデン環境研究所の上級プロジェクト開発員のスタファン・フィリプソンによって生み出され、約50年に渡って取り組んできた下水処理技術開発の一環として、安全で綺麗な水の価値についての意識を向上させ、下水も飲み水になりえる事を示すための創造的な方法として提案されています。

 高度に浄化された下水を食品製造に使うアイデアは思い付いたものの、アイデアを実現する企業と巡り合うのは困難が予想されていました。フィリプソンは過去にも環境に優しい素材で製品作りを行った実績のあるビールメーカー、ニーヤ・カーネギーブリゲリエットに白羽の矢を立て、連絡を取りました。

 カールスバーグ・スウェーデンがアメリカのビール醸造企業、ブルックリン・ブルワリーと共同で設立していたニーヤ社では、環境に配慮した製品作りの実績はあっても下水を使うという事には懐疑的な反応を示します。フィリプソンはスウェーデン環境研究所がどのような技術を使って下水を水道水と同じ飲用に適した綺麗な水に変えるかを説明し、衛生面での懸念がない事を理解してもらい、プロジェクトはスタートしています。

 下水の処理は、まず含まれている有機物を分解する事から始められます。バクテリアやマイクロプラスティック、寄生虫などを除去するため、従来の排水処理に使われている生物学的処理に加えて膜分離活性汚泥法という処理も行われ、その後、逆浸透膜を使って濾過される事から化学物質はほぼ100%除去されます。

 さらに活性炭の濾過機を使って医薬品の成分やパーフルオロアルキルスルホン酸などの化学物質を除き、最終的には紫外線を照射して徹底的に浄化する事でスウェーデンの飲料水基準を充分に満たしたリサイクル水は作られています。高度に浄化されているため、飲料水として美味しさを感じるにはミネラル分を加えた方が良いといわれるほどで、ビールの製造用水としても遜色のない仕上がりとなっていました。

 リサイクル水を使って作られるPU:RESTはピルスナータイプのビールで、有機栽培のピルスナーモルトとシュパルターホップ、ブルックリンハウスラガーの酵母が使われ、非常にクリーンですっきりとした味に仕上げられています。一回限りの実験的販売でしたが大きな反響を呼び、その関心の高さから追加生産も検討されているといいます。

 非常に高い関心の下に市場に受け入れられたリサイクル水のビールですが、安全で綺麗な水の価値についての人々の意識を向上させ、下水も飲み水となる事を示すという目的も達成できたという事ができ、追加生産が繰り返されるうちにやがて特別な存在ではなくなっていく事に期待してしまいます。


 

第3079回 炒パン?



 かつてヨーロッパでは村の共同の窯を使って、まとめてパンを焼くという事が行われていました。数日分を焼いておく事から初日は良いのですが、日、一日とパンは乾燥して硬くなってしまい、そのままでは食べられない食感へと変化してしまいます。

 湿度が高い日本と違い乾燥したヨーロッパでは、パンはカビる事なく乾燥する事で保存する事ができていました。そのため、乾燥して硬くなったパンを少しでも美味しく食べるための工夫が根付いていて、多くのレシピが伝えられています。そんな中にあって、さすがに存在しないだろうと思っていたパンの炒め物が「ミガス」で、時間が経って硬くなったパンを炒めるという炒飯ならぬ炒パンともいえる料理となっています。

 ミガスとはスペイン語で「パン屑」を意味する言葉で、硬くなってしまったパンを削り、にんにくやオリーブ油などの家庭に常備している素材で作る事ができる伝統的な家庭料理とされます。スペインでは国民的な人気料理となっていても観光客の目に触れる機会が少なく、世界的にはあまり知られていない存在ともいわれます。

 ミガスは別名、「羊飼いのパン屑」と呼ばれる事もあり、羊飼いとの深い関りを感じさせてくれます。スペインではメリノ種の羊が多く飼育されていて、羊毛の輸出は重要な産業ともなっていました。羊を育てる羊飼いは羊たちを北から南へと季節に合わせ、荒涼とした土地を相棒の犬と一緒に移動させていました。

 そんな羊飼いがいつも持ち歩いていたのが小さなフライパンと豚の腸詰め、にんにく、そして村のパンと呼ばれるずっしりとした重量のある素朴なパンでした。それらの素材を使い、好んで調理していたのがミガスであったとされます。

 硬くなったパンをナイフで削り、水でふやかして腸詰めや野菜と炒めて調理するのですが、炒飯と同じくパラっと仕上げるのが大切とされ、そのためにミガスの調理には何より忍耐が重要とされます。何度も根気強くかき混ぜてパラパラになるまで炒め続けるのですが、中途半端な炒め加減で止めてしまうと不味くなるといわれるため、生半可な気持ちでは作るべきではないともいわれます。

 そのために最近では、家庭で作られる機会が減ってきたとされます。それでも食べたい人はレストランへ行くそうで、地方によっては毎週木曜日はミガスの日と決められている土地もあるとされ、ミガスが伝統に根付いた料理である事が窺えます。

 現地ではスペインを代表する料理といえばパエリアよりもミガスという意見もあるとされ、隠れた国民食といわれると大いに興味をそそられてしまいます。年配の方では子供の頃、母親の手伝いでひたすら硬くなったパンを削っていたという思い出を持つという人も多いとされ、古くなったパンの再利用レシピを超えた温かなものを感じられるそんな料理という事が感じられます。


 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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