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第3084回 時を巡る旅(3)



 時を超えるというテーマの物語には、大きく分けると二つのタイプがあるように思えます。一つは偶然に生じた時空の裂け目に迷い込み、時を超えた世界へと行ってしまうというもの。もう一つは明らかな意図をもって時空を超える旅に出るというもので、そのための装置としてタイムマシンが登場します。

 タイムマシンは登場する物語によって形状や動作原理が異なり、これといった定番の形というのはないのですが、意外にもタイムマシンという概念が登場し、時間旅行を行うという発想が一般化するのはH・G・ウェルズの「タイムマシン」が発表された1895年以降の事となっています。

 時を超える物語自体は古くから存在していて、ヒンドゥー教の神話「マハーバーラタ」や仏教の経典「パーリ仏典」には時の流れが遅い天上界へ行ってしまったために、地上へ戻るととてつもない時間が経過しているという話が登場します。

 同様の話は日本でも浦島太郎の物語として知られ、「日本書紀」にも記載されている事から早くから存在していた事が覗えます。中国では昔話の「爛柯(らんか)」、アイルランドでは神話の「ティル・ナ・ノーグ」、イスラム教では聖典「クルアーン」の「洞窟の章」に同じような話が登場していて、世界的に古くから語られていた事が判ります。

 それに対し過去への旅となると、最も古いものでも1838年に匿名の作家によって発表された「神隠しの馬車・時代を超えた男」という短編小説が最初とされ、突然、1000年前の世界へ送り込まれた語り手が8世紀の修道院で聖職者のベーダ・ヴェネラビリスに未来の世界を皮肉交じりに説明するというものとなっていて、語り手は突然元の1837年8月に戻されるという展開となっています。

 未来への旅の物語が紀元前から存在していた事に対し、過去への旅が登場するのは19世紀と両者の間にはかなりの時間的隔たりがあると思えてきます。「神隠しの馬車」以降、幾つかの時間を超える旅が描かれる中、1887年には最初のタイムマシンと見られている「時間遡行機」が同名の小説の中にスペインの作家、エンリケ・ガスパール・イ・リンバウによって描かれています。

 「時間遡行機」から8年後の1895年、H・G・ウェルズによって「タイムマシン」が発表され、その後のさまざまな作品に影響を与える事となります。過去へも未来へも行く事ができるが、場所を移動する事はできないというタイムマシンはその後のスタンダードの一つとなるのですが、実はH・G・ウェルズがタイムマシンを描くのはそれが最初ではなく、アマチュア時代の1888年に書いた「時の冒険家たち」という作品の中でも時を超える機械を登場させています。

 そうした19世紀に相次いで時間旅行の概念が確立されていった背景には、印刷技術の発達によって過去が詳細に保存されるようになった事。産業革命によって目まぐるしく世の中が変化するようになり、未来が現在の延長ではないと感じられるようになった事。通信技術の発達によって時差という事なる時間で日常生活が行われている地域の存在が認識されるようになった事などが考えられます。

 小説にタイムマシンが登場してからすでに100年以上が経過していますが、いまだに理論的な確立もできていない状況となっています。本当に未来において可能となるのか、タイムマシンがあったら見に行ってみたいと思えるところにもタイムマシンのロマンがあるのかもしれません。


 
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