第3092回 危険な人格
ニッコロ・マキャベリというとルネッサンス期のフィレンツェの外交官で、1513~14年に有名な「君主論」を書いた人として知られています。「君主論」を読んでみると、同じ時代を生き、イタリアの統一を目指した軍人で政治家のチェーザレ・ボルジアをマキャベリが如何に敬愛し、理想の君主と思っていたかを感じる事ができ、チェーザレ・ボルジアのファンとしては良い印象を持っています。
しかし、世間ではマキャベリが語源となった「マキャベリスト」は、「サイコパシー」「ナルシズム」と並ぶ邪悪な人格特性の一つとされています。理由としては、マキャベリの思想、「政治は道徳や宗教から切り離して行うべき」という現実主義的な政治理論を提唱した事で、目的のためなら手段を選ばない人を指してマキャベリストと呼ぶようになっています。
自らの目的を達成するためには、躊躇う事なく他人を利用できる人とされるマキャベリストは、そうでない人と比べて何が違うのか、マキャベリストの脳の中では何が起こっているのか、そんな興味深い研究がハンガリーのベーチ大学において行われていました。
実験は被験者に簡単なゲームをしてもらい、マキャベリスト指数を測る事から始められ、まず被験者には500円相当の通貨が渡され、被験者はパートナーにいくら投資するかを決定します。被験者が投資を行うと、投資額はパートナーによって必ず3倍に増えるのですが、その後にパートナーによって被験者にいくら返却するかが決定されます。
被験者にはパートナーは人だと思わせていますが、実はパートナーは人ではなくプログラムで、返却額は正当な金額(投資額の1割増し)から投資額の3分の1といった不当な金額とランダムに変化します。
投資から返却までのプロセスが完了すると1ターンが終了し、次のターンでは被験者がパートナーからの投資を受け取り、返却額を決める事になります。その際、パートナーを裏切って不当な返却額にして自らの利益を最大化したり、1ターン目での不当な返却に対する復讐を行う事も自由とされています。
ゲームの結果、協調的なパートナーに出会ったマキャベリスト的被験者の脳は一気に活性化する傾向が見られ、他人を利用できる状況においては、脳の興奮を抑える働きがある背外側前頭前野の働きが活発になる事が判りました。背外側前頭前野が活性化される事で、パートナーに対する社会的感情反応が抑制されて、相手に損をさせても自分の利益を確保したいと思ってはいても、実際には道徳心や利他心が働いてできるだけ利益を公平に分配しようとする考えが抑制されている事が判ります。
目的のためにはどんな手段を採ってもそれを正当化し、人に先んじるためには多少のごまかしもやむをえないと考えるのがマキャベリストの特徴とされますが、人は何故賢くなれたのかという謎を検証する人類学者、進化論の研究者、認知科学者たちの多くに支持されている「マキャベリ的知性仮説」では、人は相手を欺き、騙し、出し抜く事によって知性を進化させたと考えられています。
知性発達の根幹部分に関わる事かもしれなせんが、やはり人を騙す、利用するといった事とは距離をおきたいものだと思ってしまいます。
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