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第3097回 熟成の魚



 以前は実家の牛深で早朝に水揚げされた魚をさばいて刺身にし、その日の夕方に宅配便で送られてくるという事がありました。たくさん食べてもらおうという気持ちが溢れたような量が届くので、頑張って食べようと思うのですが食べきれず、次の日に持ち越すというのが毎回の事となっていました。

 次の日も刺身でいただくのですが、やはり食べてしまえず、三日目に持ち越す事となります。刺身で大丈夫だろうかと不安になりながらいただくのですが、新鮮だった初日よりも遥かに美味しく、こんな事ならもっと残しておけばよかったと思ってしまう事があり、やみくもに新鮮でも美味しくはない事に気付かされてしまいます。

 刺身に限らず肉や魚は時間の経過と共に含まれているタンパク質の分解が進み、アミノ酸へと変化してしまい、その中には旨味に関わるものが多く含まれる事から、鮮度と引き換えに旨味が増してくるという事があります。その事を裏付けるものとして肉に冷風を当てながら熟成させる「熟成肉」が人気となっていて、鮮度が美味しさにとって最重要課題ではない事が判ります。

 熟成によって旨味が増すのは肉に限った事ではなく、魚も熟成させる事で美味しさをさらに引き出す事ができるとされ、最近では「熟成魚」も見られるようになってきています。鮮度が良い魚を良い状態を保ちながら、一番美味しくなる状態まで寝かせる。一番美味しいタイミングで食べるには熟成しないと出てこない旨味があるともいわれ、肉よりもタンパク質の分解が進みやすい魚ならより旨味が引き出せそうな気がします。

 魚の熟成は素材ごとに最適な熟成方法が異なっていて、分解が進みやすいサバなどは冷凍してゆっくり熟成、サンマなどの冷蔵で熟成するものは体液と同じ塩分濃度の0.9%の塩水に漬けた状態で熟成されます。

 かつては新鮮ではない魚しか手に入らなかった事もあり、鮮度が良いという事は美味しさに直結する事でしたが、流通、保存が発達した現在では鮮度が良い状態で入手した魚をより美味しく食べるために熟成するという選択肢も得られたという事ができます。

 今のところ熟成魚は一部の料亭や寿司屋でしか出会う事はできませんが、先日、肉を熟成させるために使われるエイジングシートを魚にも使う事ができるという事が発表されていて、手軽に熟成魚を味わう事ができるようになる可能性が出てきています。

 エイジングシートは肉を熟成させて熟成肉を手軽に作り出せるように開発されたもので、熟成を促進する有用菌を付着させてあり、シートで肉を包んで冷蔵庫で保管するだけで熟成肉を得る事ができます。

 今回、その技術が魚にも応用できる事が明らかになったもので、保管場所が通常の冷蔵庫でも良い事から、家庭でも手軽に魚を熟成させる事ができるようになり、魚の熟成に必要とされていた特別なノウハウや設備が不要になるとされます。

 今後、さらに家庭での活用を視野に入れた研究が進められるそうで、いずれは新鮮な魚を買い求め、冷蔵庫で寝かせてから食べるという事が一般化する事にも期待してしまいます。三日目の刺身の美味しさに気付いて以降、漁船の上で釣り上げられた直後にその場で調理された魚を食べて、これ以上の美味しさはないというグルメレポーターのコメントを嘘臭く見ていたのですが、それが一般的にも認識される日が来る事が楽しみに思えてしまいます。


 
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第3096回 緑か紅か



 巷にマスクをしている人が増えたり、周りに急な発熱の話を聞かされたりすると、そろそろインフルエンザの流行が本格化してきた事を感じます。できる事なら辛い発熱や節々の痛み、激しい咳などには悩まされたくないので、良い予防法を講じなければと考えてしまいます。意外にも季節が冬へと移った事で水分補給を水から緑茶へ変えていた事が、インフルエンザの予防にも効果を上げてくれそうといわれています。

 緑茶に含まれる成分としてはカテキンの風邪予防効果は広く知られていて、外から帰宅したらお茶でうがい、水分補給にこまめにお茶を飲むという事はカテキンの効果を期待した冬場の健康管理として聞かされます。

 カテキン以外にもお茶に含まれる成分として、「テアニン」もカテキンと同じような抗ウィルス作用がある事が判ってきています。テアニンというとお茶の旨味にも関係した成分で、お茶の美味しさを決めるアミノ酸の半分以上を占めるとされ、お茶のほんのりとした苦味の中に感じる旨味と甘味はテアニンによるものとされます。

 最近では、テアニンは旨味、甘味を左右するだけでなく、お茶を飲んだ際に感じる安心感にも関与している事が知られるようになり、リラックス効果を生むアミノ酸としてサプリメント化も進められ、眠りの質を良くするものとしても知られるようになってきています。インフルエンザ予防にも効果があるとなると、ますますテアニンの人気は高まっていくと思えます。

 カテキンやテアニンだけでなく、お茶に含まれる成分でインフルエンザを予防してくれるものとしては「エピガロカテキンガレート」が広く知られていて、その働きは抗ウィルス薬の「アマンタジン」よりも高い効果を持つとされます。

 また、最近報告されたところでは、お茶に含まれる抗アレルギー成分である「ストリクチニン」にはエピガロカテキンガレートを上回る感染抑止力を持つ事が確認されたそうで、お茶のインフルエンザ予防効果をさらに高めてくれている事が判ります。

 緑茶と同じ「チャノキ」から収穫され、製法によって別物となってしまう紅茶にもインフルエンザ予防効果がある事が判ってきていて、その効果は緑茶にも引けを取らないともいわれます。

 茶葉が酸化発酵する過程で茶葉に多く含まれていたカテキン同士が結合し合い、新たなポリフェノールである「テアフラビン」となります。テアフラビンは強力な抗ウィルス作用を持つだけでなく、発酵の過程で分子構造が変化し、より強力な抗ウィルス作用を持つ事になるとされます。

 そうした一連の成分による抗ウィルス作用は、「スパイク」と呼ばれるウィルスが正常細胞に取り付く際に使う突起を捕らえて感染力を奪う事で作用している事から、免疫のように未知のウィルスには対抗できないという事がなく、新型にも対応できるようになっています。

 緑茶と紅茶、さまざまな働きがインフルエンザから守ってくれる事が考えられるのですが、紅茶にミルクを加えてしまうと、ミルクに含まれているタンパク質と抗ウィルス成分が反応して有効性が下がってしまうため、大好きなミルクティーはインフルエンザの季節には封印しなければと思えてきます。美味しいだけでなく、怖いインフルエンザからも守ってくれるというのは、お茶とは如何に良いものかと思えます。



 

第3095回 ギラギラの光



 以前、視野に突然ギラギラと光るものが現れ、片目で見ても、両目で見ても見え方が変わらない事から、脳に出血などの急な病変が生じたのではないかと心配になった事があります。脳溢血などであれば動けるうちに身の回りを整理したり、異常を誰かに伝えなければとも思えたのですが、視野の多くの部分をギラギラの光が占めている事から思うように動けず、途方に暮れてしまうという事がありました。

 それから何度か同じ事を経験したのですが、最初の時ほどには心配にはならず、「あの時も何ともなかったのだから」と考えながら、車の運転中などではなかった事に感謝したりもしながら、自然と収まるまで20~30分程度の時間を動かずに過ごしていました。

 その後、突然目の中に現れるギラギラした光は、「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれるものであり、偏頭痛の予兆の一つとしてよく見られるものである事を知りました。閃輝暗点は偏頭痛の15%で見られるとされ、頭痛持ちで知られた芥川龍之介も度々経験していて、遺作となった「歯車」は閃輝暗点のギラギラの様子を表しているといわれます。

 偏頭痛は原因が判らないものも多く、閃輝暗点も原因不明とされますが、脳内の血管が収縮し、その後、弛緩した際に起こるともいわれます。閃輝暗点が起こった30分ほど後に偏頭痛が訪れる事が多いとされますが、私の場合は毎回ギラギラした光を見るだけで偏頭痛には悩まされていません。

 一部の記事では閃輝暗点の後の偏頭痛は、年齢を重ねると起こらなくなる傾向があるとされ、私の場合、若くなかった事が幸いしたのかと偏頭痛に悩まされなかった事を微妙な思いで見てしまいます。

 症状の感じからストレスとの関連を考えてしまうのですが、ストレスにさらされている状況下では発生せず、ストレスから開放された際に発生する事が多いとされ、仕事の締め切りを終えた次の日の休日に発生したという話も聞かされます。

 中にはヨガを実践している際に起こったという報告もあり、ストレスによって血管が収縮し、その後のリラックスによって収縮した血管が弛緩した際に発生しているのだと考えられ、思えば私も一人で寛いでいた時だったと思い出してしまいます。

 父親が酷い偏頭痛持ちで、子供の頃、苦しんでいる姿が理解できなかったのですが、閃輝暗点はそんな父親の体質を受け継いでしまったもので、さすがに偏頭痛の痛みまで継がせてはと思った父親が光だけに留めてくれたのかと、偏頭痛を伴わない事に感謝しながら、次はどのような場面で見る事になるのかとギラギラの光について考えてしまいます。


第3094回 地下深い多様な世界



 子供の頃、深海の生き物を描いた図鑑を見るのが大好きでした。普段、見掛ける海の生き物とは明らかに違う形態をしたグロテスクな深海魚に大いに興味を惹かれ、実際の海の中ではどのように動いているのだろうと尽きない想像を掻き立てられていました。

 図鑑には所狭しと深海の生き物が描かれていたのですが、実際はそこまで過密に棲息している事はないにしても深海は豊かな生命の宝庫だともいわれます。

 かつて深海は大きな水圧と低い水温、光さえも届かない過酷な環境である事から、生命は存在しないと考えられていました。その後、探査技術の発達によって深海の様子が知られるようになると、深海はそれまで考えられていたような何もない場所ではなく、豊かな生命に溢れた環境である事が知られるようになってきています。

 漁業の発達や漁具、冷凍や運搬技術の進化も深海を身近なものとしてくれていて、サクラエビや甘エビ、ズワイガニやタラ、キンメダイ、白身魚のフライでお馴染みとなっているメルルーサなども深海魚の仲間であり、日々の生活の中でも深海との関わりを感じてしまいます。

 そんな深海のさらに下、海底を2500メートルも深く掘り下げた地下に、数十万年から数百万年にわたって存在し続けてきた広大な「生命体の森」がある事が米国地球物理学連合の会議で報告されていました。

 地底の極端な高温高圧に関わらず豊富に存在している生命体は、これまでその存在が知られておらず、地下深いところで何も摂取する事なく岩から放出されるエネルギーを取り入れるだけで生命を維持し、緩やかな動きをしながら存在していたと考えられています。

 「ディープライフ(深部地下生物)」とも呼ばれた生命体の中には、海底の熱水噴出孔の中で発見された121度もの高温の環境下でも増殖する事が可能な「超好熱菌」の一種である可能性があるものも含まれ、地底深くに広がる生命の森は地表よりも多様な遺伝子に満ちている可能性も示唆されています。

 地底深くの多様な世界といわれると大いに興味を引かれてしまいますが、簡単に見に行くという訳にもいかず、未知の生命体となると新たな脅威を秘めている可能性もあり、当分は研究レポートを眺めるだけとなるのかなと思ったりしています。

 

第3093回 毒と無毒



 暖冬といわれながらも寒さが本格化してくると、店先に並ぶ食材が鍋物に適したものに変わってくるように思えます。そんな事を考えながら鮮魚店に並ぶ魚介類を眺めて楽しんでいたのですが、その中に気になる存在、フグが並んでいるのを発見しました。

 敷き詰められた氷の上に寝かされた1尾丸ごとのフグ。アジやタイならともかく、フグを自宅で調理というのは問題があるように思えてきます。フグの調理は条例が制定されていて、フグ調理の免許取得者、もしくは免許保持者の監督の下に行う必要があり、毒を含んだ内臓は施錠できる専用の箱に保管し、専門業者に引き渡して処理してもらう必要があります。

 そのため素人の私がフグを購入して持ち帰り、家で調理するのは法律違反に問われないかという感じがするのですが、フグの調理に免許が必要なのは人に提供する場合の事で、購入して食べるのが自分だけである場合は必要ないとされます。

 磯釣りなどでフグが釣れてしまい、それを持ち帰って調理して食べても法的には問題ないのですが、年間数件は中毒が確認されている事を考えると怖い事とも思え、フグが持つ毒、テトロドトキシンは経口摂取した場合、青酸カリの850倍の毒性を持つ事や、300度という高温で調理しても変化しない事を考えると、素人が手を出してはいけない魚とも思えてきます。

 フグの毒として知られたテトロドトキシンはフグだけに限らず、アカハライモリやヒョウモンダコ、ツムギハゼ、名前がユニークなスベスベマンジュウガニなどの生物も持っています。その毒性の強さばかりが目立ちますが、鎮痛薬としても使われていて、習慣性がない事から医療現場では活躍しているともいわれます。

 テトロドトキシンはもともとフグによって生成されたものではなく、細菌によって作り出されたものが環境の中で生体濃縮され、フグの餌となるヒトデや貝類を通じてフグの体内に入り、蓄積されています。そうしたメカニズムを逆手に取り、フグを毒のない環境で養殖する事によって無毒のフグも販売されるようになってきています。

 完全養殖の無毒フグが主流となると、いずれフグ=毒というイメージも薄れ、魚屋で気軽に買える魚となるのではと思える反面、フグの毒に関しては困った問題が起こってきているともいわれます。

 近年の温暖化を受けてフグの生息域が変化し、種類の異なるフグが交配した雑種のフグが増えてきているといいます。フグは種類によって毒の在り処が異なるため、皮と筋肉に毒を持つショウサイフグと皮に毒を持つゴマフグが交配した場合、雑種のフグではどの部分に毒が含まれるのか不明となるとされます。

 現在、雑種のフグは水揚げ量の2割程度にまで増えてきているとされ、今後もその比率は増え続けると考えられています。今でこそ「天然のフグ」といわれると高級品という感じがしますが、やがては天然=危険、養殖=安全となってしまうのかと、フグをめぐる問題の深刻さを考えてしまいます。

 
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にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

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