第3122回 古くから繰り返す流行
今年は流行の始まりが早いという事で、インフルエンザの大規模な広がりを警戒していたのですが、新型コロナウィルスによる肺炎の話題にかき消されてしまった感じで、ほとんどインフルエンザに関する情報が得られなくなっています。
すでに日本語として定着しているような感じがするインフルエンザですが、語源は片仮名からイメージしてしまう英語ではなくイタリア語となっています。そのため正確な読みはインフルエンザではなく「インフルエンツァ」らしいのですが、18世紀にイギリスを経由して言葉として広まった事から英語読みのインフルエンザが一般化しています。
16世紀のイタリアで何らかの原因で汚れた空気「瘴気」が発生し、それに触れた人が急な発熱を伴う体調不良を患うと考えられ、毎年のように冬になると流行し、春になる頃には収まる事から天体の運行や寒気の発生に影響されると考えた占星術師によって「影響」を意味する「インフルエンツァ」の名前が当てられました。
当時は感染症に関する概念が確立されておらず、インフルエンザが伝染性の病原体によって起こる事など想像もできるはずもなく、占星術師の登場となったのですが、当時の名称が今日もそのまま使われている事にはインフルエンザが毎年、繰り返し流行し続けてきた事を感じます。
1889年にインフルエンザが大流行した際、ドイツの元軍医でコッホの衛生研究所に所属していたリヒャルト・プファイファーが患者からグラム陰性細菌を分離する事に成功し、1892年に「インフルエンザ菌」と命名した上でインフルエンザを引き起こしていた病原体として発表しています。その後、インフルエンザの病原体を巡っては論争が繰り広げられ、1933年になってようやく決着をみています。
いつから人はインフルエンザと関わっているのかというと、人となる遥か以前からと思えてくるのですが、動物の間で感染していたウィルスが変異する事によって動物から人へと感染して、人から人への感染が確認されると新型インフルエンザと呼ばれる事を考えると、人が誕生した年の最初の冬であったと思えてきます。
文献上、最も古いインフルエンザの様子を記したものは紀元前412年にヒポクラテスの手によるとされ、インフルエンザが急速に流行し、やがて収束していく様子が記録されています。
日本でも平安時代に近畿地方で流行した記録が残されているのですが、質の悪い風邪の一種と考えられていたようで、その後、幾度も風邪の名前で流行し、被害が出た事が残されています。
長い歴史を持つ古い付き合いのインフルエンザですが、幾度も感染の大流行を繰り返しながら人がインフルエンザを克服できなかった理由は、ウィルスが常に変化を続けてきたからといえます。進化論の提唱者、ダーウィンの名言、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残る事ができるのは、変化できる者である」を思いながら、この冬も無縁であってほしいと願ってしまいます。
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