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第1802回 臭い知恵



 発酵食品の人気の高まりやバラエティ番組の影響もあって、北欧の「シュールストレミング」や韓国の「ホンオフェ」の存在は広く知られたものとなってきましたが、世界三大臭食品の一角を担うもう一つ食品、「キビヤック」は今一つ影が薄いように思えます。

 シュールストレミングは主にスウェーデンで食べられているニシンを塩漬けにした缶詰で、通常の缶詰とは異なり密閉した後、加熱殺菌しないで乳酸菌の活動が続く状態にしているため、缶詰後も発酵を続ける事から内部の圧力が上り、缶が内側から盛り上がるという特殊な外観が特徴となっています。

 春先の産卵期という最も良い状態のニシンを使い、樽の中にニシンと塩を交互に重ねて数ヶ月漬け込んだ後、発酵中のニシンをそのまま缶に詰めるため、発酵によって生じる二酸化炭素が缶の中に溜まって高圧となる事から、多くの航空会社で飛行中の気圧低下によって缶が破裂して周囲の荷物に悪臭が染み付く事を怖れ、航空機内への持ち込みを禁止しています。

 そのため、日本へは気圧変化がない船便で運ばれ、輸入食品店などで見かける事ができます。製品によって切り身だけを使った物や頭やワタを含む物、卵であるカズノコも一緒に入れた物などがあり、それぞれ味や香りに違いがある事から、試食した人による印象が異なるものとなっています。

 そんなシュールストレミングに勝るとも劣らないとされる悪臭食品が「ホンオフェ」で、ガンギエイを壷などで発酵させて作られています。以前、製法のレポートを見た事があるのですが、獲れたてのエイをぬめりを取るために村中を引きずって歩き、壷に入れて汲み取り式のトイレの中に入れて発酵させていました。

 その後、文献などで正式な作り方を確認したところ、瓶の底に石を敷き、その上に藁や松葉などを広げて堆肥を作り、堆肥の発酵熱を使ってエイの切り身の発酵を促進させるというもので、エイのぬめりについても、ぬめりの中に発酵バクテリアが棲息しているとの事なので、最初に見た製法は大げさに演出されたものだったのかと思っています。

 10日ほどの発酵期間を経てホンオフェは仕上がられますが、その間にエイの身に豊富に含まれる尿素が加水分解されて多量のアンモニアが生成され、ホンオフェ特有の風味の素となっています。

 臭味を数値化する「アラバスター単位」によって測定すると、シュールストレミングに対してホンオフェは4分の3程度の臭味となり、シュールストレミングに軍配が上ります。キビヤックの臭味はシュールストレミングの6分の1、ホンオフェの4分の1程度なのでそれほどでもないようにも思えるのですが、作り方や食べ方という点では両者をはるかに凌ぐインパクトがあります。

 キビヤックは、グリーンランドのカラーリット族やカナダのイヌイット族、アラスカのエスキモーによって伝統的に作られてきた発酵食品で、北極圏の短い夏の間に飛来する現地でアバリアスと呼ぶヒメウミスズメを網で捕らえ、日の当たらない涼しい場所に一晩寝かせて冷し、腹を割いて皮下脂肪のみを残して内蔵と肉を全て除いたアザラシの体内に詰め込み、アザラシの腹を縫い合わせて地中に埋め、発酵させて作られます。

 熟成期間は短い物では2ヶ月から中には数年に及ぶ物まであり、一匹のアザラシの中には700羽ほどのアバリアスが詰め込まれます。アザラシの腹の縫い合わせた部分にハエが卵を産み付けないように干したアザラシの脂肪を塗り付けたり、空気穴から漏れる臭いでキツネに掘り返したりされないように、上に石を乗せておくなどの工夫の末、出来上がったキビヤックは誕生日などの祝いの日や重要な来客が訪問した際に出されます。

 キビヤックの食べ方は、アザラシを掘り返して腹を開け、羽が付いたままのアバリアスを取り出して羽を全部引き抜き、アバリアスの肛門に口を付けて発酵して液状になったアバリアスの内臓を啜ります。その際、内臓の発酵液が漏れて手などに付くと、数日間は臭いが取れないともいわれ、臭いの強烈さを伺う事ができます。

 作り方、食べ方、臭いと強烈なインパクトを持つキビヤックですが、味は乳酸発酵ゆえのチーズのような美味とされ、発酵によって作り出された豊富なビタミンやミネラルを含んでいるとされます。厳しい北極圏という環境下、決定的に不足する野菜などから得られる栄養素を補い、健康を維持するために発酵という微生物の力を利用するという知恵の結晶ともいえるのですが、世界三大臭食品の中で、最も試食したくない物となっています。


 
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