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第2787回 予防事情



 今年も本格的な寒さを前に、インフルエンザの予防接種に関する話題を聞くようになってきました。接種を希望する人が多くなる事からワクチンが不足しがちになり、価格も高騰するのではというありがたくない話も聞かされているので、変な騒動にならなければ良いと思っています。

 予防接種は毒性を弱めた状態の病原体や病原性を不活性化、もしくは死んだ状態の病原体、タンパク質の精製物質などを投与する事で事前に免疫を得ておき、伝染病への感染を抑止するもので、最も効果的で安価な感染拡大予防ともいわれています。

 ウィルスや細菌などの病原体を培養したり、無毒化したりして体内に送り込み、免疫系のシステムを活用して病気に備えるというと最新鋭の科学のように思えますが、予防接種の歴史は意外なほど古く、紀元前1000年頃のインドでは既に行われていました。

 感染力が強く、感染してしまうと治りにくいだけでなく40%近くにもなるとされる高い致死率を持つ天然痘に対して、天然痘に感染した患者の体中にできた膿疱から採取した膿を健康な人に摂取させる事で軽度の症状を発症させ、その後、天然痘に感染しなくなるという人痘法が経験的に行われていました。

 人痘法はトルコでも行われていて、症状が軽い天然痘から採取した液体を接種させる事で感染を防ぐという習慣は、1718年、オスマントルコ駐在大使の妻として現地に滞在したメアリー・ワートリー・モンターギュによってイギリスに紹介され、メアリーは自らの娘に接種させる事で人痘法をイギリスの上流階級に広めています。

 当時の人痘法ではウィルスの弱毒化や不活性化という事が行われていないために、予防接種によって2%程度の死者が出たとされ、天然痘の予防のために天然痘よりもはるかに症状が軽く、治りやすい牛痘のワクチンを使用するようになるには、イギリスの医師、エドワード・ジェンナーの研究を待つ事となります。

 牛の世話や乳搾りなどで日常的に牛に接している人が、本来は牛の病気である牛痘に感染してしまうと、その後、天然痘には罹らないという民間の伝承を元に、牛痘を天然痘のワクチンとして使うという発想に繋がり、ジェンナーは18年に渡って研究を続けて1796年5月14日に使用人の子供、ジェームズ・フィリップスに牛痘の接種を行っています。

 子供の頃に読んだ伝記では、当時の人々は牛痘を接種されると牛になってしまうと怖れたため、ジャンナ―は自らの子供に接種させて効果を実証したと書かれていましたが、実際にはジェンナーが自らの子供に接種させたのは天然痘であり、牛痘接種の7年前の事であったために、免疫を獲得してしまっていたジェンナーの子供は牛痘接種の研究対象にはなれなくなっていました。

 1798年には牛痘を使う種痘法について発表が行われ、ヨーロッパ中に広まっていくのですが、牛になるという怖れは相変わらず根強く、「神が乗った聖なる牛」から得られたものという説明を行い、普及に努めたと伝えられています。

 今日では感染前に免疫を獲得しておいて発症を未然に防ぐ、症状を軽く済ませるという事は普通の事として認識されていますが、免疫系の働きも知られていない頃、経験的に予防接種が行われていたという事には驚かされてしまいます。


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