FC2ブログ

第2844回 特権的飲物(2)



 牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を分解できるかどうかは別として、牛乳はスーパーやコンビニ、自動販売機でも気軽に購入する事ができ、安全で健康的な飲物として接する事ができます。体内にラクトースを分解できる酵素、ラクターゼを持つ乳児や約25%の大人は牛乳を何事もなく飲用し、その栄養価に与る事ができる特権を持っているという事ができますが、牛乳の歴史を見ると今日のように何のリスクも負う事なく牛乳に接する事ができるという事も特権的な事のように思えてきます。

 18世紀から19世紀にかけて牛乳は決して安全な飲物という事ができず、食中毒による死亡例も見られていました。「奴隷解放の父」として知られ、最も偉大な大統領の一人にも数えられるエイブラハム・リンカーンの母、ナンシー・ハンクスも牛乳による食中毒が死因とされ、当時の牛乳の安全性の低さを覗う事ができます。

 北アメリカ大陸を原産地としたマルバフジバカマは広葉樹林帯の森林や牧草地、荒地などに広く繁茂していて、広大な牧場で自由に牧草を食んでいた乳牛が食べてしまうという事も日常的に行われていました。

 マルバフジバカマにはトリメトルという神経性の有毒成分が含まれていて、乳牛がマルバフジバカマを食べると肉や牛乳に毒素が混入してしまいます。マルバフジバカマを食べた乳牛の肉や牛乳を摂取すると人も有毒成分にさらされる事になり、中毒症状を引き起こしてしまいます。

 19世紀の初頭、ヨーロッパからアメリカ中西部に多くの人が入植し、牛の放牧を開始すると牛たちはその地に自生するマルバフジバカマを食べ、その牛乳を飲んだ人が食中毒を起こす事から「ミルク病」と呼ばれる症状が蔓延する事となります。

 ミルク病の原因がマルバフジバカマに含まれる毒素によるものと判明するには数十年を要し、その間に何百人もの人がミルク病で命を落とし、リンカーンの母親もその犠牲者の一人とされています。

 マルバフジバカマによるミルク病に限らず、糖質やタンパク質を豊富に含んだ牛乳はさまざまな細菌の温床となり、中には大腸菌やリステア菌、サルモネラ菌や腸チフスといった危険な菌が繁殖するという危険も衛生管理がしっかりしていなかった時代には見られていました。

 問題の解決に繋がったのは細菌学者のルイ・パスツールがワインの腐敗防止のために考案した「低温殺菌法(パスチャライゼーション)」で、加熱によって有害な微生物を殺菌するという手法が牛乳にも応用できると考えられ、以降、牛乳の安全性を大きく高める事となります。

 日本では超高温瞬間殺菌が主流となっていますが、欧米では低温殺菌が行われていて、飼育方法の工夫や殺菌技術の発達、流通の整備など、多くの技術革新が牛乳を安全で健康的な飲物に変えてくれたという事ができ、現代に生きる私達の特権という事ができると思えます。


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

kcolumnist

Author:kcolumnist
にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR