FC2ブログ

第1817回 荒行の秘密



 当地熊本でも修験道や一部の仏教の修行の一環として行われる「火渡り神事」が行われていて、毎回、ローカルニュースでその様子が報道されています。

 火渡り神事の「火渡り」とは、燃焼している石炭などを敷き詰めた上を素足で歩くというもので、経験のない見るだけの側からは危険極まりない行為のように思えるのですが、実は適切に執り行われる限り、火傷を負う危険はなく、忍耐力などの精神面での強さなども必要ないとされます。

 私の中での火渡りは、どうしても修験道のイメージが強くなってしまうのですが、修験道に限らずイスラム教徒の一部やアメリカの経営セミナー、自己啓発セミナー、ギリシャやブルガリアで信仰されている正教会やアフリカのヒンドゥー教の祝祭の儀式、カラハリ砂漠のブッシュマンのカン部族など、世界中で幅広く行われてきました。

 北米大陸の先住民の間でも行われていた事が、17世紀後半のイエズス会の記録にも残されていて、先住民たちが治療の儀式の一環として火渡りを行い、火傷を負うどころか熱さすら感じていないようだと、驚くべき事実として報告されていて、火渡りが世界的に限定的な地域性を持つ特殊な行事でない事を伺う事ができます。

 古くから行われてきた火渡りですが、現代風に安全性を検証すると、直接触れ合う足の皮膚と石炭との間の熱力学が深く関わってきます。足の皮膚といっても大半を占める主成分は水であり、水と石炭の比熱容量、熱伝導率の違いが火渡りを安全なものにしていると考える事ができます。

 水は非常に比熱容量が高く、温度を1度上げるために多くのエネルギーを必要とし、熱伝導率も高い事から、石炭によって足の皮膚に熱が伝えられると、皮膚の中の水分である毛細血管中の血液がわずかに温度上昇しながら、循環によってその場を離れていきます。

 そのため、絶えず循環し続ける血液によって比熱容量が非常に低い石炭は熱を奪われ続ける事となり、熱伝導率が非常に低い石炭は足の皮膚と接した部分の温度だけが急激に下がり、石炭の内側からの熱の供給を受けにくい事から、表面だけが引火点を下回ってしまい、熱伝導性の乏しい灰となって表面を覆い、まだ燃焼している高温の部分からの熱を遮断する役割を果たします。

 また、石炭の表面が不均一である事から、実際に足の皮膚と触れ合っている面積は非常に小さく、触れ合っている時間も断続的で短いものである事も、石炭からの熱の供給をより小さなものとしています。

 そうした幾つもの要因が相乗的に絡み合って火渡りの安全性を確保しているのですが、それだけに正しく行われない場合はそれなりの危険性が発生する事となります。特に想定していた熱さを感じない事から、その場に立ち止まってしまうと途端に石炭の熱伝導に追い付かれて火傷を負ってしまい、逆に恐怖から駆け抜けようとすると、衝撃でより深く石炭の中へ踏み込む事となり、接触面積が増えて危険性が増す結果になってしまいます。

 石炭に不純物が含まれている場合も危険度が増し、特に熱伝導が高い金属などが含まれていると、一瞬にして火傷を負う怖れがあり、石炭の中にわずかに含まれる水分も石炭の熱伝導を高めてしまう事から、事前に石炭を充分に燃焼させて水分を蒸発させておく必要もあります。

 理論的には安全である事を充分に理解してはいるのですが、参加してみませんかと誘われたら、間違いなく怖いので遠慮させていただく事と思っています。理論よりも火を怖れるという動物としての本能が勝る、それが正しいようにも思え、火渡りは修験者の荒行という事でよいように思えます。


 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

kcolumnist

Author:kcolumnist
にんにく卵黄本舗の健康コラムです。
食と健康をキーワードに最新の医療情報から科学技術、食文化や献立まで毎日更新で幅広くお届けします。是非ご覧ください。

リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR