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第1818回 代官の小粒芋



 料理の名前は多くの場合、素材や調理法がそのままというものが見られますが、中には当地熊本の郷土料理「ひともじのぐるぐる」や沖縄の「にんじんのしりしり」など、一見しただけでは内容が理解しがたいものも存在します。そんな難解な料理名の最たるものの一つが山梨県上野原市に伝わる郷土料理、「せいだのたまじ」ではないかと思います。

 「せいだのたまじ」は、上野原市の北部にある山深い棡原(ゆずりはら)を中心とした地域に伝えられた料理で、棡原は長寿の村として知られ、特に全国的にも珍しい夫婦そろって長寿という特徴を持つ地域となっています。

 山奥の小さな村である棡原には水田がなく、かつてはきびやあわ、そば、麦、芋類が主食とされ、野菜や山菜、川魚がおかずとなる質素な食生活が行われていた事や、村のほとんどが急な傾斜地である事から足腰が日常的に鍛えられる事、畑作業や家事などを家族が全員で協力し合うという結び付きの強さや、精神的な余裕も長寿に繋がっていると分析されています。

 そんな長寿の村、棡原で食べられていた「せいだのたまじ」は、簡単に言ってしまうとジャガイモの味噌煮なのですが、幾つかの点で通常の味噌煮とは異なる料理となっています。

 「せいだのたまじ」には、必ず小粒のジャガイモが使われ、丁寧に洗ったジャガイモは皮を剥かずに少量の油をひいた鍋で炒められます。数分間炒めた後、鍋にひたひたよりも多目の水が注がれ、そこに味噌と砂糖を加えてひたすら煮込んでいきます。

 一見、何の変哲もない煮物のようにも思えるのですが、火加減は終始強火で、一時間も経つと煮汁は泡立ち、最初の量の半分くらいになってしまいます。それをさらに煮詰めて、一日目の作業が終了します。

 翌朝、再び鍋を火にかけて再加熱する事で、煮汁に照りが出て、甘辛くこくがある煮汁がジャガイモにしっかりと絡むようになり、べっ甲のような色と光沢のある濃厚な煮汁に包まれた「せいだのたまじ」が出来上がります。

 「たまじ」とは、現地の言葉で小粒のジャガイモを指します。江戸時代の後期、甲府の代官であった中井清太夫が飢饉対策としてジャガイモに目を付け、九州から種芋を取り寄せて配布し、ジャガイモの栽培を根付かせています。

 ジャガイモを栽培していた事でその後の飢饉を乗り切る事ができ、清太夫に大いに感謝した棡原の人々はジャガイモの事を「清太夫芋」と呼ぶようになり、後に親しみを込めて「せいだ」と呼ぶようになっています。清太夫を「芋大明神」として祀りながら、小粒のジャガイモであっても決して無駄にはしないという思いが、「せいだのたまじ」という料理を生み出す事に繋がっています。

 名前は難解でも日本人らしい感謝の気持ちと、食材を無駄にしないという思いに満ちた料理、それが「せいだのたまじ」なのかもしれないと思えてきます。


 
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