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第3055回 大腸菌に記録



 財宝のありかを示した古地図、資産家の遺産の隠し場所が書かれたメモが隠された置物。小説の中で激しい奪い合いが繰り広げられるアイテムとなる物ですが、それが大腸菌となるとドラマの展開はどのようになるのかと想像してしまいます。

 先日、ハーバード大学で行われた実験では、生きた大腸菌のDNAに動画データを記録し、再生する事に成功しており、生物の遺伝情報の本体であるDNAを自在に改変できるゲノム技術の応用によって、何らかの情報を生物内に保存する事が可能となっている事が示されています。

 DNAはA(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)という4種類の塩基と呼ばれる物質が長く連なっていて、それぞれの塩基は文字のような働きをして生命の設計図とも呼ばれる遺伝情報を表しています。

 今回の実験では人が馬に乗って駆ける様子を縦26、横36の935のマス目に5コマで描く数秒の白黒動画として作成し、デジタルデータとして人工DNAに書き換えるという事が行われています。

 マス目は濃淡の異なる白黒の21種の色によって塗分ける事で動画を表現していて、コンピューターをはじめとする情報機器が使用するデジタルデータと同じく、どのマス目をどのような色にするかという事を0と1の2種類の値からなる電子的な信号の組み合わせで表現しています。

 膨大な数の塩基が連なるDNAの中で、特定の塩基配列を繰り返している「クリスパー」と呼ばれる部分に、はさみのような役割をする酵素の「キャス」で切り込みを入れて任意の人工DNAを挿入するという最新のゲノム編集技術、「クリスパー・キャス」法を用いて大腸菌のDNAに録画ともいえる情報の保存を行いました。

 録画された大腸菌を培養して世代交代を繰り返した後、録画された大腸菌の子孫となる末裔大腸菌からDNAを抽出し、塩基配列を解析したところ、そこからデジタルデータの復元に成功しています。

 復元された動画と元の動画を並べて比較したところ、馬が走る様子がはっきりと判り、生きた細菌の体内から復元されたとは思えないほどの鮮明さで、大腸菌のDNAが記憶媒体として機能している事を示しています。

 元データと数世代経た後のデータでは、並べて再生するとわずかに復元データの動画にはノイズが見られ、大腸菌が世代交代を重ねながらDNAを複製する際に一部でエラーが生じていたためとされ、現在のところ再生の精度は90%程度とみられています。

 財宝の在り処が記録されたDNAを持つ大腸菌が封入されたカプセルを奪い合い、最終的な争いに勝利した主人公がDNA抽出して解析したところ、長い冒険の間に大腸菌は世代が重なり、複製のエラーのために肝心の隠し場所が判らず、新たな冒険が始まる。小説のネタとしては良い展開のようにも思えます。


 
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