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第3091回 存在の是非(2)



 かつては「痕跡の臓器」とも呼ばれ、退化した果てに何の役にも立っていない臓器とされていた虫垂は炎症を起こしやすく、虫垂炎となると処置の遅れによる重症化が起こると死に至る事もあり、予防のために異常がなくても切除するという事もありました。

 その後、虫垂はリンパ組織の一つとして胃腸の免疫機能に大きく関与している事が示唆され、免疫グロブリン(Ig)Aの産生に関わっている事なども判ってきている事から、異常がなければ温存し、虫垂炎を起こしても炎症が軽度であれば抗生物質などの投与で保存的治療で完了する事が増えてきています。

 その反面、虫垂を切除した後、潰瘍性大腸炎が改善したという報告もあり、虫垂は潰瘍性大腸炎の元凶という見方もあり、虫垂では悪玉菌が育つ可能性や炎症を悪化させるリンパ球が多く存在するともいわれます。

 草食動物にとって虫垂は、生命の維持に欠かせない器官となっています。植物に含まれる繊維質を構成するセルロースを分解するためにはバクテリアの存在が不可欠で、虫垂はその棲息場所となっていて、食物の分解、栄養の吸収のためには欠かせない働きを担っています。

 人においても虫垂は善玉菌の備蓄という機能を果たしているとされ、腸内細菌叢のバランスの維持に働きかけているともいわれますが、食糧事情が大幅に改善された昨今、善玉菌は日常の食を通して摂取しやすくなった事から、善玉菌の供給機能は重要性が下がってきているともいわれます。

 健康を陰で支える重要な臓器、将来的な疾患リスクを高める存在、どちらともいえないまま虫垂の評価が分かれています。そんな中、虫垂の予防的切除は早めに行っておいた方が良いかもしれないという論文が発表されています。

 先日、アメリカで行われた研究では、スウェーデンとアメリカの患者データベースを調査し、その結果として成人になって早期に虫垂を切除した人は、切除していない人に比べて19%もパーキンソン病を発症するリスクが低い事が判っています。

 スウェーデンの農村部ではその効果がさらに顕著に観察され、リスクは25%も低くなるという結果が得られていました。農村部ではパーキンソン病発症の誘因の一つとして考えられている農薬への暴露量が多いと考えられ、顕著な予防効果が得られていた事が覗えます。

 今回の論文の共著者の一人であるビビアン・ラブリー博士によると、パーキンソン病を発症した人では、虫垂を切除した事によって発症した年齢が3.6年も遅れたとされ、虫垂がパーキンソン病の初期症状、もしくは発症に影響を及ぼす組織部位の一つであると考える事ができます。

 虫垂にはパーキンソン病に関連する主要なタンパク質、「αシヌクレイン」が蓄積するとされ、それを切除する事でパーキンソン病の発症リスクを下げているのか、虫垂そのものが原因となっているのか、今後の研究が気になってしまいます。

 ドイツの病理学者、ハイコ・ブラークによると、パーキンソン病はαシヌクレインの蓄積が嗅球、延髄から始まり、徐々に上昇して中脳に至り、最終的には大脳皮質に達するとされます。虫垂はそれが始まる場所なのか、それともパーキンソン病は脳ではなく腸の病気なのか、結論次第では虫垂の評価が大きく変わってしまいます。家族で唯一の虫垂保持者というのは吉と出るのか、凶と出るのかと考えてしまいます。


 
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