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第1835回 薬の味?



 子供の頃、カップ麺を食べようとして、かなり真剣に説明書きを読んでいた事があります。今から思うと、何もそこまで真剣に読まなくても、蓋を開けて粉末スープの素を入れ、お湯を注げばよいだけの事なのですが、説明書きの中にあった「かやくを入れる」という一文がどこか奇妙な感じがしていた事が思い出されます。

 その頃、かやくというときれいな花火の中身が知りたくて、全体を包んでいる紙を解していって、中から出てきた「火薬」しか連想できず、粉末のスープの素が火薬に似ているためだろうかなどと勝手な解釈をしていました。

 かやくとは正式には「加薬」と書き、ラーメンやうどんなどに加える香辛料や具の事を指し、一般的にはひらがなで記載される事が多いとされます。カップ麺に添付された粉末スープの素も香辛料やフリーズドライの具材を含む事から、かやくである事が判ります。

 加薬とは薬味を加えるという意味から来ていて、薬味とは本来漢方医学の用語となっています。漢方では、薬には酸味、塩味、甘味、苦味、辛味という五味が存在するという考え方があり、そうした考え方は中国最古の薬に関する書物である「神農本草経」にも記されています。

 すでに1世紀頃には、薬の味である薬味をうまく利用するという考え方が定着し、宋代に入って医療が庶民の生活に密着したものとなってくると、薬草などの一般家庭で調達可能な素材は医者や薬屋から購入するのではなく、自ら調達したり、配合したりという事が行われるようになります。

 宋の医学が日本へ伝えられると、日本の一般的な家庭にある漢方素材として生姜が使われるようになり、薬味の代表格となります。その後、生姜の事を指して「薬味」「加薬味」や「加薬味」の略語である「加薬」という言葉が使われるようになり、江戸時代に入ると生姜以外にもネギや山椒といった香辛料が加薬と呼ばれる物に加わっていきます。

 江戸時代に書かれた料理書「素人包丁」には、かやくの事を「加益(かやく)」とする記載が見られ、薬という分野から離れた料理に美味しさという益をもたらす物という考え方が生じていた事を伺う事ができ、鯛めしに関して記した項に「加益はおろした大根、ネギ、海苔、唐辛子」と書かれている事から、香辛料全般が加薬となっていたと考える事ができます。

 また、江戸時代には秋に収穫された米に、同じく秋に旬を迎える多くの食材を炊き込んで作る「加薬ご飯」が作られるようになり、加薬は香辛料だけでなく、さまざまな具材を指す言葉としても使われるようになっています。

 今日、かやくという言葉の利用例を見ていると、香辛料や具材が合わさった物に使われているように思えます。香辛料だけの場合は「添付の香辛料」、具材の場合は「別袋の具」、ネギや唐辛子、生姜などの場合は「薬味」と記されている事が多く、単体をかやくと呼ぶ例はあまり見られません。

 香辛料とあまり存在感がない具材という明確ではない範囲に使われるかやくですが、中国には同じような言葉の発展は見られていない事から、日本独自のものとなっています。これも一つの日本の文化なのかもしれません。


 
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