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第3112回 不味い理由



 以前、「最高の人生とは、アメリカ人の給料をもらい、イギリス人の家に住み、日本人の嫁をもらい、中国人のコックを雇う事。最悪の人生とは中国人の給料をもらい、日本人の家に住み、アメリカ人の嫁をもらい、イギリス人のコックを雇う事」という言葉を聞かされ、イギリスの食事が美味しくないという事を意識させられた事があります。

 著名な作家によってイギリスの代表的な朝食メニューであるオートミールについて、「最も良い食べ方は、そのままトイレに流す事」という発言が聞かされたり、「朝食は忍耐を教えるためにある」といった言葉には、美味しさとは遥かに次元の違う世界観を感じたりもします。

 一説にはイギリス人はビーフイーターと呼ばれるほど牛肉を好み、倹約志向から一点豪華主義で主菜の牛肉以外を蔑ろにしてしまう事がイギリス料理の評価を下げてしまっているともいわれ、サラダやスープ、デザートの不在に味気無さに通じるものがあるのかとも思えます。

 イギリスの映像を見ていると、いつも雨や霧のためか路面が濡れている印象があり、あまり晴天に恵まれている感じがしません。そうした気候のためかイギリスでは手に入る野菜の種類が少ないともいわれます。流通が発達した現代では解消されていますが、野菜不足の伝統が料理の発展を阻害していたとも考えられます。

 かつて世界中に植民地を有していたイギリスでは、特に有名な東インド会社と西インド会社から大量のお茶と砂糖がもたらされており、その二つが合わさって砂糖を大量消費していたとされます。その量は当時のフランス人の7倍以上ともいわれ、甘味への傾倒が味覚の発達を妨げたとも思えます。

 16世紀に起こった宗教改革による修道院の解体とクロムウェルによるピューリタン革命によって新興貴族が社会を支配するようになると、服装やマナー、住居、飲食などのライフスタイルがジェントルマンのものとして定義されるようになり、特に飲食に関しては「ジェントルマンは暴飲暴食はせず、常に質素な食事をするべき」と考えられた事が後のイギリス料理に大いに影響したともいわれます。

 海を越えた隣国となるフランスでは料理が発展していた事から、独自の料理を発展させる必要性が低かった事や、ナポレオン戦争などによってライバル関係となるとフランスの文化が駆逐される事となり、食事と会話を愉しむフランスのマナーの正反対が採られ、食事中の会話は少なければ少ない方が良いと考えられた事も食事の味気無さを助長しています。

 イギリスでは伝統的に若者が住み込みで働く「サーヴァント」と呼ばれる制度があり、多くの若者が14歳前後で親許を離れて他の家庭に住み込み、各種の労働に携わっていました。

 サーヴァントを通して社会人となるさまざまな訓練を受け、サーヴァントを卒業して一人前と認められていくのですが、人生経験が少ない若者が料理に携わる事から必然的に料理の質が低下してしまう事や、14歳前後で親許を離れてしまう事から母親の味の継承が妨げられてしまい、「おふくろの味」といった食文化の断絶が料理の発展を妨げたともいえます。

 18世紀から始まった産業革命もイギリス料理の不味さを決定的にしたともいわれ、産業革命以降、人口が都市部に集中する事になってしまい、多くの人が農村を離れた事で食材の自給自足が困難となり、野菜や乳製品が手に入りにくくなったために、普段食べるものといえばパンとオートミール、たまにハムやベーコン、チーズというライフスタイルが定着し、手っ取り早くエネルギーを摂るために砂糖をたっぷりと入れた紅茶が頻繁に飲まれるようになっています。

 さまざまな要因が絡み合って結果に結び付いているように思いながら、最大の要因は食事の捉え方にあったように思え、食事は活動に必要となるエネルギーを摂取するためだけのものと考えられた事が味気無さに繋がったように思えますが、その合理性の高い気質が産業革命を成功させたのかとも思えてきて、一つの生き方のようにも思えてしまいます。


 
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