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第3114回 危惧種を食べる



 南阿蘇という環境に暮らしていると、車は欠かせない存在となってきます。近くのコンビニへ行くにも車を出す必要があり、熊本市内へ出掛けるという日常を繰り返していると、月に2000キロほどを走っている事が普通の事になります。

 そのため2000キロという距離はそれほどでもないように思えてしまうのですが、実際にはかなりの距離となっていて、日本からだとマリアナ諸島の西方あたりに相当します。そのマリアナ諸島西方を大切な場所としているのが、今や絶滅危惧種となってしまったウナギで、東アジア全体に分布する二ホンウナギは遠く離れたこの一ヶ所に集まって産卵を行っています。

 ウナギというと高価な天然ウナギと比較的安価な養殖ウナギを見掛ける事ができますが、どちらも自然界に由来していて、マリアナ諸島西方の産卵場で孵化した稚魚のシラスウナギが自然の環境下で成長すると天然ウナギ、人に捕らえられて養殖場で育てられると養殖ウナギとなるため、どちらも天然の資源には変わらないものとなっています。

 そんなウナギが絶滅危惧種に指定され、数を減らしながらやがては絶滅が危惧されるという危機的状況と、スーパーの安売りの目玉品としてチラシの日替わりコーナーを飾るという実情にはあまりにも乖離したものがあり、ウナギというものとどのように接していけばよいのかと難しいものを感じてしまいます。

 ウナギが絶滅へと向かう背景には、ウナギが自然に増えていく再生産速度と人がウナギを食べる消費速度のバランスが崩れてしまっている事が考えられ、ウナギを食べる量を減らす事と、ウナギが育ちやすい環境を整える事の必要性を感じます。

 天然資源であるウナギを守るため、東アジアの4か国ではシラスウナギの漁獲量の上限を78.8トンと定めています。しかし、毎年の漁獲高は40トンほどに留まっていて、そもそも78.8トンという上限値が実態にそぐわない過剰な設定となっていて、実質的には捕り放題という状態となる事がウナギを絶滅へと向かわせているともいえます。

 また、ウナギの保護を難しくしている理由の一つにウナギを取り巻く世界が高度にビジネス化されていて、密漁、密売、密輸が横行し、日本国内でも養殖ウナギの7割近くが違法に流通した可能性のあるシラスウナギに由来するともいわれます。

 安価に売られていたので、違法行為に由来したウナギである。老舗の高級専門店なので合法的なウナギであると断定できない事が、消費者の立場からウナギを保護する事の難しさに繋がっているようにも思えます。

 ウナギの仕入れに関しては、ウナギ料理を提供している料理店では供給業者が納入したものを使うしかなく、どれだけ権威のある高級専門店でもウナギを選ぶ事はできないとされます。そうした特殊な習慣もウナギを取り囲む世界を複雑化させているようにも思え、一通りの保護活動では減り続けるウナギを守る事はできないようにも思えてきます。

 子供の頃、釣りが趣味だった父親に連れられて、海に張り出した埋め立て地に張り巡らされた用水路にウナギを釣りに行った事があります。石組みの用水路の壁に無数に開いている石の隙間に、細い独特な形状の釣竿を差し込んでウナギを釣る父親の姿を眺めていたのですが、コンクリートの擁壁が当たり前となった昨今、久しくあのような景色を見ていないように思えてきて、その事もウナギが繁殖できる場所が少なくなった事の現れともいえます。

 危険なレベルといわれる暑さが続く夏、ウナギの需要は大いに高まり、スーパーには大量にパック詰めされたかば焼きが並べられますが、身近に思える存在のウナギが絶滅の危機に瀕している事、そして私たちは絶滅を回避するための手立てを確立できていない事を改めて考えなければと思ってしまいます。


 
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