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第1840回 青の効用



 「ブリリアントブルーFCF」というより「青色1号」といった方が馴染みがあるかもしれません。ごく普通に食品や化粧品などに使用されている青い色の合成着色料で、青い色に限らず黄色系の色素と合わせる事で緑色を発色する事にも使われています。

 どうしても合成着色料というと、あまり良い印象は得られないのですが、最近、そんな青色1号に新たな利用法が確立される可能性が出てきています。神経の炎症を引き起こしてしまう主要なプロセスを遮断するための研究の中で、実験室で合成された化合物の組成が驚くほど青色1号に酷似している事が判り、神経の治療に青色1号が使える事が明らかになってきています。

 自動車やバイク、自転車などの事故や落下事故などで不幸にして脊髄に損傷を負ってしまった際、脊髄周辺に生じる腫れによって血管が圧迫され、血液の供給が阻害されてしまう事でさらに神経細胞の死滅を招き、脊髄の損傷を悪化させてしまう事があります。

 これまでは損傷を受けた直後に炎症を抑える目的でステロイドを注入するという対処法が行われていましたが、効果が得られる個人差が大きく、充分な効果が得られる患者は少数で、大多数は二次的な炎症のせいで症状が悪化し続けていました。

 2004年に行われた研究で、脊髄周辺の腫れはATP(アデノシン三リン酸)の急速な放出によって引き起こされる事が突き止められています。ATPは通常、三つのリンのうちの一つを放してADP(アデノシン二リン酸)となる事で細胞にエネルギーを供給しているのですが、過剰になると神経細胞に過度の刺激を与えてしまい、代謝ストレスによって細胞を死に至らせてしまいます。

 その後の研究で「P2X7」と呼ばれるATP受容体を遮断する事で、脊髄を損傷した事によって起こる炎症を大きく抑えられる事が判っていましたが、P2X7を有効に遮断できる薬品については特定する事ができていませんでした。

 P2X7によく似た構造の化学物質を見付ける事ができれば、P2X7を有効に遮断できる可能性がある事から、さまざまな観点から化学物質の構造が研究され、その中で青色1号の構造がP2X7によく似ている事が発見されています。

 青色1号は毒性試験において短期毒性、長期毒性、発ガン性が確認されないとして安全性が確認されているだけでなく、脳や脊髄などの中枢神経系への化学物質の侵入を制限する「脳関門」を通過する事ができます。そのため、脊柱に直接薬剤を注入しなくても、血液を介して患部に青色1号を送り込む事ができるというメリットがあります。

 脊髄に損傷を受けてしまってから4時間以内に青色1号の投与を行えば、二次障害の炎症を抑える事ができ、後遺症として起こる永久的な麻痺を回避できるとされ、患者にとって計り知れないメリットがあるものといえます。

 今のところ確認されている副作用は、元々が着色料である事や血液を介して投与される事から、皮膚や目が青くなってしまう事で、それも時間の経過によって通常の色に戻るとされています。直接の作用部である脊髄には、その後も長く青い色が残ってしまうとされますが、人に見られる部分ではない事や麻痺と引き換えなら容易に受け入れる事ができます。

 脊髄に損傷を受けるような事故後の入院期間を思うと、退院する際は体の色が元に戻っている事は充分に考えられます。それ以外の副作用はなく、安全で非常に安価となると、とても優れた薬剤であるように思えてくるのですが、非常に安価という優れた特徴が青色1号の実用化へ向けた研究の足を引いてしまっています。

 青色1号は優れた効果を発揮する新顔の薬剤といえますが、新開発されて特許が取得できる新薬ではありません。しかも非常に安価である事から、販売利益も望む事ができない事が容易に想像できます。研究チームは高額な費用を要する臨床試験を支援する製薬メーカーを探していますが、興味を示す製薬メーカーを見付ける事は難しいと考えられます。医療は算術ではなく仁術というのであれば、青色1号の実用化を実現してほしいものだと思ってしまいます。


 
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