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第1913回 湯治という文化



 湯治というと伝統的な民間療法で、温泉に浸かる事で傷や疾患が癒されるという大変ありがたいものに思えます。火山を多く持つ日本では各地に自噴する温泉が点在し、古くから温泉の利用が行われ、経験的に温泉の効能も知られていた事が考えられます。

 仏教が伝来すると教えの中で「病を退け、福を招来するもの」として入浴を奨励していた事や、「仏説温室洗浴衆僧経」と呼ばれる経典の存在、僧侶が施しの一環として施浴を行った事なども湯治の普及に繋がっています。

 しかし古い時代、湯治を行うのは権力者などの一部の人に限られていたとされます。湯治は温泉地に長期間滞在してゆっくりと傷や病を癒すものである事から、それだけの期間、何らかの生産行為を行わずに生活の糧を確保する事が難しかったため、一般庶民には湯治がとても贅沢なものとなっていたと考える事ができます。

 鎌倉時代の中期には大分県の別府にある浜脇温泉に大友頼康によって温泉奉行が置かれ、楠温泉と共に元寇の役において負傷した戦傷者の保養が行われ、湯治が一部の権力者以外にも行われるようになっています。

 庶民の間でも湯治が盛んに行われるようになるのは江戸時代以降の事とされ、最大の理由として街道が整備された事によって遠方への往来が容易になった事が上げられます。また、平和な時代が訪れた事で、合戦に労働力を取られる事がなくなり、生産性が向上した事や農閑期という時間が生じた事も、蓄積した疲労や慢性的な疾患を癒す湯治の普及に繋がっています。

 湯治を目的とした温泉地は「湯治場」と呼ばれ、観光による短期滞在を前提としていないため、娯楽施設が併設されておらず山間僻地の質素な温泉地という独特の雰囲気を持つものが多くなっています。

 多くの場合、湯治場では自炊が前提とされ、宿泊者自らが食事を用意する事となっています。長期滞在者の金銭的負担を軽減するためともいわれますが、湯治客のほとんどが療養のために訪れている事から、症状に応じたさまざまな食事制限が存在し、症状改善のために重点的に摂るべき栄養素を含む食材も異なってくる事や、同じ宿に長期連泊する事で栄養の偏りが生じる事を防いだり、普段と変わらない食事を行う事で心身共に落ち着かせる効果もあるとされます。

 源泉温度が高い湯治場では、宿泊者向けの共同炊事施設に蒸気を使って調理する「地獄釜」が設けられている事があり、朝市や行商などで得られる新鮮な食材を、ヘルシーな調理法として最近人気が高まっている蒸し料理にする事ができ、食の面でも療養を行う事ができるようになっています。

 明治時代以降、近代医学が普及、発達しても江戸時代に根付いた湯治文化が廃れず残されている背景には、温泉という大地の恵みによって自らの治癒力を高めて傷や疾患の療養に当たるという古くからの知恵の活用という事があり、現代の医学でも治療が困難とされた病の治癒を期待して湯治を行う人の多さがそれを証明してくれているように思えます。


 
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