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第1917回 燃料の未来



 急にお菓子作りを思い立ち、不可欠な材料なのに「無塩バター」がないという事があります。冷蔵庫を見回してみると、かろうじて「有塩バター」なら充分な量があるという場合、水の中にバターを入れてもみ洗いをすると、水に溶けない乳脂肪分のバターはそのまま残るのですが、水に溶ける塩分は抜けてやがて有塩バターは無塩バターとなります。

 ちょっとした生活の知恵のようなものですが、似たような原理の作業を意外な所で見た事があります。その場所とはBDF(バイオディーゼル燃料)の製造所で、油を水で洗う事で溶け込んだ塩分を取り除くという事が行われていました。

 BDFはその名の通りディーゼルエンジン用の燃料で、バイオと付くだけあって生物由来の燃料となっています。諸外国において生物由来のディーゼル燃料として規格化されているのは「脂肪酸メチルエステル」のみとされますが、厳密な化学的定義はない事から、ディーゼルエンジンを問題なく稼動させる生物由来の燃料であればBDFと呼ぶ事ができます。

 エンジンを稼動させる燃料が石油由来の物ではないという事、ディーゼルエンジン用の燃料として馴染み深い軽油以外で稼動させるという事には違和感を感じてしまいますが、元来、ディーゼルエンジンは軽油を燃料とする事を念頭には開発されていません。

 ディーゼルエンジンはドイツの技術者ルドルフ・ディーゼルによって1892年に発明されています。軽油に限らずさまざまな液体燃料を使用する事ができ、エンジンとしてのバリエーションも得やすいという汎用性の高さが特徴となっていますが、開発当初、燃料とされていたのは「ピーナツ油」でした。

 シリンダーの中で一気に空気を圧縮すると、圧縮熱によって高温高圧の状態が作り出されます。その中へ引火性の低い燃料を噴射すると、高い温度と圧力によって燃料は自己発火して爆発的に膨張しながらピストンを押し下げる事で、ディーゼルエンジンは出力を得ています。

 引火性の低い燃料という事でピーナツ油を念頭に発明されたディーゼルエンジンですが、ピーナツ油は天候に左右されて価格や流通量が減少する事や、近隣のルーマニアで油田が発見された事もあって、安価で入手しやすい軽油や重油へとディーゼルエンジンの燃料は変遷し、今日では鉱物油ではない事に違和感を感じるほどになっています。

 そのためBDFの使用は特殊な事というより、原点に帰ったという事ができます。日頃から接しているサラダ油やオリーブ油、ラードや使用済みの天ぷら油でも燃料とする事ができるのですが、そのまま使用してしまうと粘度が高いために燃料ポンプを傷めてしまう可能性がある事から、原料となる油脂類にメチルエステル化と呼ばれる化学処理を施してグリセリンを取り除き、軽油に近い状態にして使用されます。

 BDFの製造自体はそれほど難しくなく、原料の油脂類にメタノールかエタノール、触媒としてのアルカリ剤を加えて反応させ、反応が終わったらアルカリ性を中和するために塩酸を加えて中和します。その段階で脂肪酸エステルとグリセリンに分かれているので、ドロドロしたグリセリンを取り除き、アルカリと塩酸が中和した事によって生じた塩分不純物を水で洗う事によって除去します。

 脂肪酸エステルは油なので、どれだけ撹拌しても水と混ざる事はないのですが、塩分は水に溶けて取り出されていきます。洗浄を終えたBDFや洗浄水を蒸留すると触媒として働いていたメタノールやエタノールを回収する事ができるので、それでBDF作りの作業は完了します。

 以前、BDFを充填した車を運転してみた事があるのですが、これといって走りに違いは感じられず、排気ガスの臭いが揚げ物屋の廃棄ダクトから出てくる煙の臭いのようだったという強烈な印象だけが残されています。

 大豆油やコーン油、菜種油でも作る事ができるのですが、最近では成長が早くて二酸化炭素をたくさん吸収してくれ、油脂がたくさん採れて食料と競合しない作物の研究が進められています。触媒となるアルコールもメタノールではなく、植物由来のエタノールの使用がよりエコとされていますが、その素材となるものには食料と競合しない物を使うようにしないと、かつての穀物相場のように異常な高騰を招く事が考えられます。

 化石燃料に依存した時代が続き、その中で確立されたライフスタイルを植物由来のものに置き換える事で維持するというのは、一つの未来の姿だと思います。それだけにそれを口実にした食料価格の操作だけは、あってはならない事だと思えます。たくさん作る事で二酸化炭素を吸収して温暖化という問題を解決し、燃料としての価格も下がる、BDFはそんな未来に繋がるものであってほしいと願っています。


 
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