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第1934回 生のまま



 新鮮な素材は生のまま持ち味を存分に楽しんで。四方を海に囲まれた日本は、「刺身」という生食の文化が発達した国でもあります。身近な海で獲られた新鮮な魚介類は季節ごとの美味しさを食卓に届けてくれ、四季を持つ風土ならではの食の愉しみを教えてくれます。

 そんな日本において肉食の定着や流通の発展によって新鮮な獣肉が入手できるようになった事から、獣肉の生食が見られるようになったのは当然の成り行きのようにも思えます。当地熊本の名物でもある馬刺しをはじめ牛刺しやレバ刺し、韓国料理のユッケや洋食のタルタルステーキなど生食のメニューは広く定着しているという事もできます。

 しかし、以前、このコラムでも取り上げた事があるのですが、流通している生肉の多くが生食用として使用する肉の出荷が認可されていない工場で生産されていて、生食用の肉の生産に関する認可を受けてはいても馬肉のみの認可であったり、生食用の内臓を出荷する認可を受けていない工場も多く、生肉に関する安全性が懸念されていました。

 獣肉とは切り離す事のできない物として、血液の存在を上げる事ができます。血液は体の隅々にまでさまざまな成分を運搬する物である事から、非常に栄養に富んでいて食中毒菌をはじめとする細菌達にとって繁殖に適した物という事ができます。

 生きている状態だと免疫機能によって守られている事から、血液中で細菌類が増殖するという事はないのですが、肉として加工されると免疫機能は働かず無防備な状態となってしまうので、生肉にはそうした潜在的なリスクが考えられていました。

 昨今、そうした懸念が具現化したように生肉による食中毒が見られ、生肉に対する法規制が強化されてきています。新たな基準では牛刺しや牛タタキ、ユッケなどに使用する生肉を出荷する工場には専用の加工設備を設置する事が義務付けられ、食中毒菌は外部から侵入してくる事から、表面を深さ1cm以上の部分を60度以上で2分間加熱殺菌する事も義務付けされています。

 馬刺しや牛刺し、牛タタキ、ユッケやタルタルステーキなどの場合、食中毒菌は表面で増殖していて内部にまで侵入する事がないため、表面の加熱殺菌を行って火が通った部分を除去すれば内部の生肉の安全性を確保する事ができるのですが、血管が多く内部にまで食中毒菌が入り込む事が可能な肝臓の場合、表面の殺菌だけでは充分ではないという事もできます。

 実際、肝臓の内部から重い食中毒を引き起こす「O157」などの腸管出血性大腸菌が検出されており、内部までの殺菌が困難とされる事から肝臓に関しては生で供する事を禁じるという法規制が行われる事となっています。

 法が施行されると飲食店でレバ刺しを食べる事は不可能となってしまうのですが、内部まで有効に殺菌する方法が見付かれば法規制は撤回されるとされています。

 現在、検討されているのは「次亜塩素酸ソーダ」などの塩素系消毒薬を使って殺菌するという方法で、熱を使わずに生の状態を保ちながら殺菌できるというメリットを持っています。実験の結果、表面の殺菌には成功しており、内部までの殺菌が可能か確認が進められています。

 塩素系消毒薬の利用は水道水などで馴染み深いものとなっていますが、実験で有効性が認められた塩素濃度は400ppmと通常用いられる濃度の約2.7倍となっており、殺菌できたとしても美味しく食べる事ができるのかという疑問は残っています。

 また、別な殺菌方法として貝殻カルシウムを使った殺菌も検討されています。貝殻カルシウムによる殺菌はO157や黄色ブドウ球菌に対して有効である事が確認されていて、塩素系消毒薬にような不快な臭いがない事から、有効な対策のように思えてきます。

 しかし、貝殻カルシウムはpH12を超えるアルカリ性を生じて殺菌を行っている事から、タンパク質の塊である肝臓を貝殻カルシウムの水溶液で処理する事は、タンパク質に対しアルカリ処理を行う事となり、食感が変化してしまう事が考えられます。

 なかなか良策が見付けられないように思えてきますが、「安全性を確保できる新たな知見が得られた場合、手続きの途中でも改めて審議を行う」という事が付記されている事から、何とか良い知恵が見付かればと思います。

 重篤な食中毒を引き起こす食中毒菌は、これまでは充分な加熱処理でしか殺菌する事ができないと考えられていただけに、生の食感と風味を残しながら充分に殺菌が可能な手法が見付かれば他の食品にも応用する事ができ、すべての食の安全性を考える上でも有効な技術となると考える事ができます。レバ刺しのためだけでなく、食の安心安全のためにも期待したいと思っています。


 
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