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第2021回 小麦の熟成



 新麦性、聞き慣れない言葉だと思います。文字からは麦の新しさを示す言葉にように思えるのですが、普段使う言葉ではない事や、同じ穀物である米に対して新米性という言葉を使わない事からも、何を示す言葉なのかと考えてしまいます。

 米は新しい物が美味しいとされ、実りの秋に出回る新米の味わいは格別のものとされますが、小麦に関しては新しい物はそれほど美味しくないとされ、特に加工された小麦粉は熟成期間のあり方によって味や加工の結果に影響が出るとされていて、熟成期間が必要とされます。

 収穫直後の小麦の粒の中では、まだ充分に細胞組織が生きており、さまざまな小麦の成分を分解する酵素や小麦の生地を柔らかくしてしまう還元性物質が多く含まれ、不安定な状態となっています。そのような状態の小麦を粉に挽き、パンやケーキを作っても良質の生地は得られず、思うように膨らます事も難しくなってしまいます。

 収穫後、徐々に酵素の活性が失われたり、内容成分の酸化が進んだりする事で少しずつ小麦は安定した状態になってくるので、それを待って粉に挽く事となります。粉に挽かれた小麦は空気との接触する表面積が大きくなる事や、製粉や運搬の過程で大量の空気に触れる事から一気に酸化が進み、小麦粉は安定度を増してパンやケーキなどに加工する事に適した状態となります。そうした状態変化を「熟成」「エージング」と呼び、微妙な品質変化を見極める事も美味しい小麦粉作りには不可欠な要素となっています。

 収穫されたままの小麦の状態では、熟成はゆっくりと進む事から、日本で主力となっているアメリカやカナダ、オーストラリア産の小麦の場合、収穫後、集荷やタンカーによる海上運搬など時間を掛けて移動が行われ、その時間は収穫から数ヶ月とされる事から、すでにある程度の熟成が行われ、安定した状態で届けられているという事ができます。

 それに対し国産の小麦は収穫後、製粉工場に届けられるまでの機関は数日と短いため、製粉工場内のサイロなどで熟成期間を置く事となるのですが、国産小麦粉の主要な用途は熟成がそれほど必要とされない麺が中心となっている事から、小麦の熟成がそれほど重要視されない事も小麦には熟成が必要という事が知られない理由の一つとなっているとも思えてきます。

 すでに熟成が進んだ状態で届けられる輸入小麦ですが、育成された年の気象条件などによって含まれている酵素の活性が特に高い状態が続いたり、還元性物質の含有量が多いという事があり、一定の熟成期間を経ても安定が低かったり、安定させるための熟成機関を長めにする必要がある場合が存在します。。そのような小麦を新しい小麦に近い状態にある事から「新麦性が高い」「新麦性が強い」と表現し、熟成に時間を掛けるよう心がけたり、加工する際に技術的配慮を行う事となります。

 小麦の熟成期間について、どのくらいの時間が適切なのかについては、研究者によっても大きく意見が分かれていて、製粉後7~11日ほどまで激しい変化が継続するというものから、製粉後24時間は酸化剤を添加したほど激しい変化が起こるが、それ以降はほとんど変わらないとするもの、製粉後は大きな変化はないとするものなど、意見は別れ、生育の際の気象条件や産地などによっても内容が変化してしまう事から一定条件を設定する事は困難とされています。

 今日、小麦粉は単純に小麦を粉に挽いただけでなく、粉の粒度をふるいに掛けて調整したり、異なる産地や品種の物をブレンドしたり、熟成期間を調整したりして作られています。そうした小麦粉を作る技術において日本は最高レベルにあるとされ、自他共に認めるパン好きの私としては、美味しい小麦粉がある国に生まれた事を感謝しなければと思ってしまいます。


 
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