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第2078回 白い謎(2)



 シチューの語源は英語にあり、最初は弱火で時間を掛けて煮込んだ料理を指す名詞として使われ、1400年頃からは食材を弱火で煮込む事を指す動詞としても使われるようになり、「シチューイング」といった使い方も見られるようになっています。

 英語のシチューの語源はフランスの古語で「煮込む」「蒸す」といった意味を持つ「エステュベール」にあるとされます。フランスでは今日でもその名残として、煮たり蒸したりする調理器具の名前に「エテュベ」があります。しかし、フランスにおけるエテュベは「水分をほとんど加えずにふたをして蒸し煮にする」という意味がある事や、フランスでシチューに当たる物としては「ラグー」の存在がある事からも、シチューの歴史の複雑さが感じられてきます。

 日本のクリームシチューを定義してみると、使われる肉類は鶏肉か豚肉の事が多く、タマネギやジャガイモ、ニンジンといった3種の根菜類が定番の具材となっています。小麦粉に由来した濃厚なとろみがあり、牛乳か生クリームなどの乳製品を使って煮込まれています。

 そうした観点から見てみると、明治5年(1872年)に仮名垣魯文によって書かれた「西洋料理通」にはビーフシチューをはじめ豚肉を使ったシチューやトマトのシチューなども登場しますが、クリームシチューの要件を満たすような料理は登場していません。

 クリームシチューによく似た具材を使う物としてカレーの存在を上げる事ができますが、カレーにおいて3種の根菜類が使われるようになったのは明治時代の後期とされる事から、クリームシチューの成立もそれ以降の事ではないかと考える事ができます。

 明治39年(1906年)の「家庭西洋料理と支那料理」には「鶏肉のスチユー」、明治40年(1907年)の「和陽惣菜見立」には「シチウチキン」として鶏肉を使ったシチューが登場し、特に「鶏肉のスチユー」は鶏肉やジャガイモ、ニンジン、香味野菜をバターで炒め、小麦粉でとろみを付けて煮込んではいますが、牛乳や生クリームなどの乳製品が登場しない事からクリームシチューとは別な料理であると思えてきます。

 明治36年(1903年)の村井玄斎の「食道楽」にはいくつかの牛乳を使った料理が登場する事から、料理に牛乳を使うという発想がなかった訳ではない事が伺えるのですが、シチューと牛乳が結び付く様子はその当時の日本には見出す事ができません。

 時代が大正に移り、大正14年(1924年)の「滋味に富める家庭向西洋料理」には「鶏肉のスチウ ダンプリング」なる料理が登場し、鶏肉をバター炒めて小麦粉とタマネギを加えてさらに炒め、お湯を入れて煮込み、牛乳を加えて最後にダンプリングと呼ばれる小麦粉に牛乳や卵を加えて練った物を入れて仕上げるという作り方はクリームシチューの原型と見る事ができます。

 大正時代はミルクホールやカフェの流行によって庶民の間に牛乳が広がり、それまで日本人の中にあった牛乳への抵抗が失われた時期と見る事もできます。そうした時代背景が牛乳とシチューを結び付け、クリームシチューが成立していったようにも思えてきます。

 クリームシチューが本格的に登場するのは第二次世界大戦後、食糧不足の時代だったとされ、昭和22年(1947年)に開始された学校給食が元になっているとされます。食糧難の当時、給食は重要な栄養補給の機会であり、米国から支援物資として届けられる小麦粉と脱脂粉乳を使って、美味しくて栄養のあるメニューを開発する事が求められていました。小麦粉と脱脂粉乳を使った「白シチュー」は、そうした要請に応えるものであり、給食だけでなく料理書や料理番組でも取り上げられて広まっていきました。

 給食で出される白シチューは生徒たちの間では人気となっていましたが、広く家庭で作られる料理とはなっていませんでした。クリームシチューが一般家庭でも作られる料理となるのは、昭和41年(1966年)、大手食品メーカーから粉末のルウである「クリームシチューミックス」が発売された事がきっかけとなっています。

 発売から約1年でクリームシチューミックスは大ヒット商品となり、クリームシチューという名前と共に一気に家庭に浸透していく事となります。給食のメニュー開発の際、アイリッシュシチューや鶏肉のスチウが原型とされたのかについては謎となっていますが、日本発の温かい煮込み料理、それがクリームシチューであり、日本の代表的なシチューとなっている。そのように思えてきて、またシチューを作ろうかと思ってしまいます。


 
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