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第1754回 原子爆弾と台所



 得意料理は?と聞かれると、いろいろと考えた末に、こだわりも含めて、「オムライス」と答えてしまいます。本当にそうなのかと自問自答してみると、愛用のフッ素樹脂加工のフライパンではなく、鉄やアルミのフライパンを使った場合はいつものように上手に卵を焼けない事を思い、便利さに慣れ過ぎてしまった事を反省してしまいます。

 フッ素樹脂加工は特許を持つ米国、デュポン社の商標から「テフロン」とも呼ばれ、1938年にデュポン社の研究員であるロイ・ブランケットによって発見されています。

 今日、テフロンというとデュポン社の製品に限らず、フッ素樹脂加工された多くの製品の事を指しますが、厳密にはテフロンはクロロフルオロカーボン類の研究中に発見されたテトラフルオロエチレンのボンベ内に固着していた樹脂であるポリテトラフルオロエチレンの事を指します。

 化学的に安定性が高く、耐熱性、耐薬品性にも優れたテフロンが最初に注目されたのは、世界に先駆けて核兵器の保有国となるために米国が国家的プロジェクトとして取り組んだ「マンハッタン計画」の際で、核燃料を製造する際に使用される設備のパッキンやライニングの素材として使われました。

 核燃料の製造過程で使用される六フッ化ウランは、非常に強力な腐食性があり、取り扱いには大変な危険が伴っていたのですが、安定性が高く、腐食に強いテフロンを使用する事によって安全に六フッ化ウランを取り扱う事が可能となり、原子爆弾の開発に大きな役割を果たしたとされます。

 その後、安定性の高さだけでなく摩擦が小さい事や、絶縁性が高い事もあって、さまざまな化学的、機械的用途に応用されていき、やがて日用品にも応用範囲が広がり、フライパンをはじめとした調理器具の表面加工に使われ、革命的な使い勝手の良さをもたらしてくれます。

 最初の頃のテフロンは非常にデリケートで、使用に際して注意が必要でした。ポリプロピレンなどの耐熱性のある軟らかい樹脂製のヘラでしか調理する事ができず、簡単に傷が付いて、そこから表面のコートがはがれてしまうという事も珍しくはなく、私も最初のテフロン加工のフライパンを、砕かずに入れてしまったコンソメのキューブを砕こうとしてヘラでコンソメのキューブを叩いた際、コンソメの角で傷を入れてしまい、そこからテフロンが剥離してダメにしてしまった事があります。

 最近では、そうしたテフロン加工の弱さは随分と改善され、先端が鋭くなければ金属製の器具も使う事が可能となっています。それでもテフロン加工を傷めてしまう理由の多くは、ヘラなどの器具や洗い方などではなく、火力と料理を入れたまま放置してしまう事にあるとされます。

 テフロン加工の調理器具の多くには、火力を「中火以下で」と指定してあります。テフロンは耐熱性があるとはいっても350度以上になると分解してしてしまい、260度あたりから劣化が始まるとされます。

 強火による調理や空焚きは、テフロンを傷める最大の要因とされます。また、テフロン加工の表面には目に見えない小さな穴が無数にあり、料理を入れたまま放置すると水分がその穴の中に入り込み、温め直しなどで加熱した際、内部で膨張してテフロンを剥がして表面の滑らかさを奪ってしまいます。

 火力を中火以下で調理するようにして空焚きをしない、料理は入れたままにしない、急激な温度変化を避けるために、調理終了直後の熱い状態で水洗いをしないなどに気を付けておくと、比較的長くテフロン加工のフライパンを使う事ができます。

 気を付けて優しく接していても、やがてテフロンの性能が落ちてきて寿命を迎えます。油をほとんど使わなくても焦げ付かせずに調理できる、テフロン加工は調理の手軽さに革命的な変化をもたらしましたが、同時にそれまでの鉄や銅、アルミといった素材の調理器具とは比較にならないほどの短い期間での交換が必要となるという、新たな概念をもたらしたともいえるのかもしれません。


 
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