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第2270回 転写の秘密



 テレビのサイエンス番組で細胞分裂と老化に関する話題を取り上げていて、とても興味深く見ていた事があります。細胞分裂の際、遺伝情報が記入されているDNAは複製されるのですが、その際に僅かな転写ミスによるエラーの蓄積、積み重ねが老化の正体とされる事があり、ガンも転写のエラーによる細胞の突然変異によって生じると考えられる事があるため、DNAの複製時はエラーが頻繁に起こっているいい加減なものといった印象を受けてしまいます。

 しかし、実際は極めて精度の高い転写が行われていて、そのエラー発生率の低さは驚異的なものであるとされていて、その事を示すために高性能のコピー機に写真を細胞分裂が行われる回数分、コピーを繰り返させると、エラーの積み重ねで最終的には写真は何が写っているのかも判らない状態になっていました。

 正確な転写が行われるDNAには、体の各部位ごとの個別な情報が書き込まれているのではなく、全身の全ての部分に関する情報が書き込まれていて、必要に応じた部分だけが働いて必要な情報を提供しています。

 全身の設計図ともいうべきDNAなので、それぞれの部位に応じた部分が読み取られて使われる事は普通の事のように思える反面、どこからどこまでが必要な部分であるのかを判断するという方法については、とても不思議な事のように思えてきます。

 体中のさまざまな器官は複数の種類の細胞で構成され、同じような場所にあってもまるで異なる姿と機能を持つ細胞となっています。皮膚細胞と筋肉細胞は同じような場所にありながら姿や機能が全く異なり、そのような違いを決めているのは「転写因子」と呼ばれる特殊なタンパク質とされています。

 転写因子は特定の部位で転写を制限したり、遺伝子に結合する事でその遺伝子のスイッチを切り替える働きをしていると考えられています。この転写因子が細胞の種類ごとに決められた遺伝子と結合し、遺伝子のスイッチを制御する事で使われる設計図に違いが生じ、異なる細胞が生み出されているとされます。

 転写因子が遺伝子の特定の部位と結合して制御する事で必要な設計図の部分だけが活性化するという事は、とてもよくできたシステムのように思えるのですが、細胞は常に分裂を繰り返しているために、転写因子は細胞分裂の準備段階でDNAを複製する際や、細胞が分裂した直後などにせっかく結合した遺伝子から離れる必要が生じてしまいます。

 染色体は引き伸ばすと2メートルにも達する長大なものであるため、極めて小さな転写因子は一度離れてしまうと同じ場所へ戻る事は不可能といえる大きさと思えてきます。もし、帰るべき場所を間違えて結合してしまうと、全く異なる細胞が作られてしまう可能性もあります。

 最近判ってきたところでは、「コヒーシン」と呼ばれる特殊な環状のタンパク質が転写因子が結合していた場所付近に留まる事で、結合を解除した転写因子の帰るべき場所を知らせてくれているとされます。

 細胞分裂のたびに膨大な遺伝情報の中に放り出される転写因子ですが、帰るべき場所を示す目印が残されているとなると、安心して結合を解除して次の仕事の準備をする事ができるのかと考えてしまいます。


 
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