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第1762回 進化のジレンマ



 最近、とても興味深い話を聞きました。生物には病原菌をはじめとする外来の異物に対し、免疫力を働かせる事で健康な状態を保っています。また、一定の遺伝子上に作用するウィルスによる全滅を防ぐために雌雄による遺伝情報の交配を行い、遺伝的な多様性を持たせるという工夫を行っています。

 母親の胎内に生じた新たな生命、胎児は母親由来の遺伝情報を有してはいますが、半分の情報は父親からの情報であり、それは母親の免疫系から見れば異物以外の何物でもなく、免疫系の攻撃対象となってしまいます。

 胎児が自らの遺伝情報を継承しながら、他の遺伝情報を併せ持って遺伝的多様性を持つ事で、より安定的に自らの遺伝情報を残そうという相反する策略を実現するというものですが、他から得た遺伝情報が外来からの異物として免疫系に判断されないように独自の仕組が用意されていた事が最近の研究で判ってきています。

 胎児の成長にとって重要な役割を果たす「胎盤」は、「HLA-G」と呼ばれる遺伝子を調整する事によって、免疫を司るナチュラルキラー細胞やT細胞などの免疫細胞からの攻撃を回避し、異物として排除されないようにしています。

 また、臓器移植を行った際、生命の維持に欠かせない移植臓器であっても、体にとっては自らの本来の臓器ではないため異物と判断されてしまい、免疫系による攻撃を受けて拒絶反応となってしまいますが、稀に全く拒絶反応が見られない事があります。その際、移植臓器の細胞内ではHLA-Gが活性化していて、免疫系の攻撃を回避しているとされます。

 そうしたHLA-Gによる免疫系からの攻撃回避を利用しているのは胎盤や移植臓器だけでなく、卵巣ガンや悪性黒色腫、乳ガンなどの腫瘍細胞もHLA-Gを活性化させて免疫系による排除を免れるという仕組を利用しています。

 生物の究極の目的はより多くの子孫を残す事といえ、その目的の達成をより確実なものとするために複雑な進化を遂げてきています。その進化の中で獲得した子孫の生存率を高める工夫が「胎生」で、他者の遺伝情報を持つ異物を体内に宿して守り育てる事でより効率的に子孫の生存率を高めています。

 胎生によって子孫を守るためにHLA-Gを活性化させるという仕組が出来上がったのですが、同時に悪性腫瘍による疾患に罹患してしまう可能性も生じてしまいました。

 生命を維持していく上での大きなセキュリティホールともいえる危険性を併せ持つ胎生は、子孫を守り育てる最良の方法とはいいがたい部分があり、同じ種であっても進化の過程において胎生と卵生を行き来している形跡を見る事ができ、次世代をより確実に残す事と悪性腫瘍のリスク排除との間のジレンマのようなものを感じる事ができます。

 次世代を大切に守り育てようとする母心ともいえる仕組を悪用する悪性腫瘍、そう考えるとかなりの悪者のように思えてきます。


 
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