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第2438回 撲滅と対処



 1980年、天然痘の撲滅宣言が行われ、一部の研究用サンプルを残して天然痘は地球上から姿を消しました。天然痘の撲滅は人類史上の輝かしい功績とも思えるのですが、残念な事に天然痘以降、細菌やウィルスなどによる感染症の撲滅例は見られていません。

 日本では外国を旅行中に感染し、死亡した例を除けば1956年に人が、1957年には猫が発症したのを最後に狂犬病は発生しておらず、日本国内においては狂犬病は撲滅できているようにも思えるのですが、狂犬病の撲滅は事実上不可能といわれています。

 狂犬病は発症した際の特異な症状から、非常に古くからその存在が知られ、狼男や悪魔憑きなどの超自然的な言い伝えの中には、少なからず狂犬病の影響が見られるともいわれます。

 紀元前3500年頃にはすでに知られていたとされる狂犬病ですが、それほど古くから知られていながら同じウィルス感染症である天然痘のように撲滅に至らず、むしろ撲滅は不可能とされる最大の理由は狂犬病が人獣共通感染症であるという点にあるとされます。

 天然痘の原因となる天然痘ウィルスは人にしか感染せず、天然痘は人獣共通感染症ではないために、エドワード・ジェンナーの手によって開発された天然痘ワクチンの種痘を普及させる事によってウィルスの伝播や拡散を防ぎ、ウィルスを孤立させていく事で根絶が図られています。

 それに対し狂犬病は人獣共通感染症であり、人以外の動物にも狂犬病ウィルスは感染する事ができるため、ワクチンによる封じ込めが有効に作用しないという事が考えられます。感染はすべての哺乳類に及ぶ事から、地球上のすべての哺乳類にワクチンを摂取させる事が困難であり、ネズミなども感染対象に含まれている事から、予期せぬところにウィルスは隠れていて感染拡大の時を覗っているという事ができます。

 狂犬病は感染している動物から噛まれるなどして感染してから、ウィルスは脳内へと移動して増殖し、症状が発症するまでに時間が掛かる事から、感染した段階で免疫血清とワクチンを投与する事で発症を未然に防ぐ事ができ、それが唯一の治療法とされてきました。

 脳内でウィルスが増殖し、症状が発症した場合はほぼ100%死亡するとされていて、発症後の治療も不可能と考えられてきましたが、2004年に発症後、生還するという奇跡的な治療例が報告され、少しずつ怖ろしい狂犬病の克服へと向けた動きが始まっているように思えます。

 全身の疲労感や嘔吐、視野狭窄、精神錯乱、運動失調といった脳の感染症が疑われる少女が病院を訪れ、症状は急激に悪化して唾液過多や左手のけいれんといった症状まで見られていました。両親の話では、ミサの最中に教会内に迷い込んできたコウモリを保護して外に逃がしてやろうとした際、混乱したコウモリに指を噛まれてしまったそうで、検査の結果、血液と髄液に狂犬病ウィルスの陽性反応が出ていました。

 すでに発症している事から治療法は存在しないと思われるのですが、担当した医師は狂犬病のウィルスが脳細胞を破壊したり、脳に炎症を起こさせたりするのではなく、脳からの指令を阻害する事で結果的に心臓や呼吸を止めてしまい死に至る事に着目し、狂犬病ウィルスから神経細胞を守る事を中心にした治療の展開を考えます。

 さまざまな文献を調べ、麻酔薬のケタミンに狂犬病ウィルスの阻止効果があるという動物実験の報告を発見し、患者にケタミンを投与して昏睡状態とした上で治療が行われました。抗ウィルス薬や鎮痛剤を使った結果、狂犬病からの生還という偉業に成功する事となっています。

 その後、6例の成功例が報告され、ミルウォーキー・プロトコルとして知られるようになりますが、医学論文としては報告されておらず、狂犬病治療のための最善の方法であるのかについての検証が行われているとされます。

 撲滅は不可能であっても、確たる治療法が確立されれば恐怖は半減されると思えます。狂牛病や鳥インフルエンザなど、何かと人獣共通感染症が話題になる事が多い昨今、一つでも多くの病気の脅威が取り除かれればと願ってしまいます。


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